◇◆◇ お茶会 ラウンド2 ◇◆◇

行動:陽向 レンジ

GM
せり出したステージを、亡者たちが見上げている。
GM
ファンのようにサイリウムを振りながら、そのパフォーマンスに注目している。
ヨロトル
すげー光景!
陽向 レンジ
いつ破られるか分からない領域。
放っておけばおくほど、その寿命は短くなる。
GM
みな一様に首がねじれ、赤く染まった顔をしている。見た顔、会話を交わした顔の面影もある。
ヨロトル
あいつ後でまた踊り教えてくれっつってたやつかな?
陽向 レンジ
なのかな……
ヨロトル
流石に約束果たしてはやれねえなあ。
ヨロトル
申し訳ないぜ。
GM
その上にたち上る赤い煙。あれが辛味というものだろうか。しかしレンジの異能ゆえか、その煙はステージまで上ってくることはない。
陽向 レンジ
「サヨ、オレと一緒にきてくれる? ……一番危ない、ステージの中央になるけど……」
宮鳴 サヨ
「仰せつかります」
陽向 レンジ
何かあったら、オレが庇う。いつもの裁判通りに。
宮鳴 サヨ
躊躇することもなく、レンジとともにステージへと。
ヨロトル
「危ないの一番好んでるとこあるもんな、サヨ」
宮鳴 サヨ
仲間を信じてのことか、危険を顧みないだけか。
ショチ
舞台袖へと下がり、末裔たちを見下ろして。
陽向 レンジ
観客席から見下ろす亡者は大人しく。
ここから一方的に、叩きのめすこともできるように見える。
ヨロトル
俺も下がるか~。
ショチ
そしてステージの中央を見る。
宮鳴 サヨ
「リスクを恐れる意味はありませんから」
ヨロトル
ポジティブ!
陽向 レンジ
けど、レンジはそうしない。
あくまで境界を順守している。
陽向 レンジ
「……歌を歌ってほしいんだ。リードボーカルのほう」
陽向 レンジ
「実はオレ、歌はあんまり上手じゃないんだ。
 訓練はしてるんだけど」
陽向 レンジ
「なんていうのかな……声質のウケが悪い」
陽向 レンジ
伸びやかさに欠けるが情熱的な性質は、複数人いるアイドルの一人としてはバランスがよい。
陽向 レンジ
けれど、一人で食べていくには心もとなく。
ゆえに、この舞台を長引かせるには、もう一人必要だった。
宮鳴 サヨ
「いいでしょう。それがボクの役目とあらば」
陽向 レンジ
「ヨロトルとのダンスと歌、最高だった」
陽向 レンジ
「披露するのが、今度は亡者になっちゃうけど」
宮鳴 サヨ
機械は主体性を持たない。こうして役割を割り振られるのが最も楽だ。
宮鳴 サヨ
「まあ、機械も亡者もさほど変わるものでもありませんよ」
陽向 レンジ
「心がない?」
宮鳴 サヨ
「そうですね」
宮鳴 サヨ
「ないと言い切っていいものかはわかりませんが……」
宮鳴 サヨ
「生者とは決定的に違うのは、確かでしょう」
陽向 レンジ
「オレも、サヨの心のことを考えるとけっこう混乱する」
陽向 レンジ
「一般的には、まあ、機械に心はなくって」
陽向 レンジ
「計算の結果を人が勝手に解釈して見出すカンジで……鏡みたいなもん? と思うんだけど」
陽向 レンジ
「堕落の国のルールに従うと、あるらしいんだよな」
宮鳴 サヨ
「逆説的に、人の心というものは不確かであるということを示しているのかも知れません」
宮鳴 サヨ
「目の前にいるあなただって……」
宮鳴 サヨ
「心を持っているかどうかは、ボクには判別はつきません」
陽向 レンジ
「そうかも。ってか、みんなそうだな」
陽向 レンジ
「ただ人の形をしてるだけで、誰も心なんて持ってないかも」
宮鳴 サヨ
「確かにあるものだと信じて、そう扱うときに、人の心というのは生まれるのではないでしょうか」
宮鳴 サヨ
「ボクはそう考えています」
陽向 レンジ
「まさにそれ。オレが結論付けたのも」
陽向 レンジ
「オレはサヨに、心があると思う。勝手に思ってる」
宮鳴 サヨ
「不合理な考えですが」
宮鳴 サヨ
「不合理な概念は、不合理な考えでしか説明できないものです……」
陽向 レンジ
「ほんとね。不合理ってやつだけど、それを信じて、救いを見出さずにはいられない」
陽向 レンジ
それが堕落の国で度々言われてる愛の領分なのかもしれない。
宮鳴 サヨ
この言葉も鏡でしかないのかも知れない。
宮鳴 サヨ
あなたのサヨという解釈を、再生しているに過ぎないのかも知れない。
陽向 レンジ
けれど、それによって心に光を宿して、立っているというなら。
陽向 レンジ
鏡を見るというのは、けして無駄なことではない。
宮鳴 サヨ
「……あなたは……」
宮鳴 サヨ
「ボクに心があることを望むのですか?」
宮鳴 サヨ
「それが救いだと思っている?」
陽向 レンジ
「心があると嬉しいと思う。けど、真実のところはどっちでもいい」
陽向 レンジ
「自由にするサヨに、オレが何かを感じる」
陽向 レンジ
「その感じた内容が『心がある』『オレを信頼してくれる』『仲間だと思ってくれる』……だったらいいと思うけど」
陽向 レンジ
「それって強要するものじゃあないよね」
宮鳴 サヨ
「ええ。それはただの結果にすぎません」
宮鳴 サヨ
「ボクは破壊」
宮鳴 サヨ
「ボクは苦痛、ボクは喪失、ボクは絶望」
宮鳴 サヨ
「ボクはただ、それを歌うだけです」
陽向 レンジ
「……いいよ」
陽向 レンジ
破壊も、苦痛も、喪失も、絶望も。
陽向 レンジ
サヨがすること、歌うもの、そのすべて受け入れよう。
陽向 レンジ
そうして、堕落の国が『ある』と決めた、きみの心と向き合おう。
陽向 レンジ
「さあ、歌ってくれるかい」
宮鳴 サヨ
「ええ。仰せのままに」
陽向 レンジ
『悲鳴のシンフォニー』を舐めます。合わせてクエスト1に挑戦。
陽向 レンジ
ティーセットを使用。
[ 陽向 レンジ ] ティーセット : 1 → 0
陽向 レンジ
2d+3+2>=7 (2D6+3+2>=7) > 9[6,3]+3+2 > 14 > 成功
陽向 レンジ
そして、伴奏が流れ出す。
陽向 レンジ
ステージから観客席へとまたぐことは許されない。
ゆえに、ここに暴力はない。
陽向 レンジ
けれど、流れるメロディは観客を威圧するかのようなロック・ミュージック。
宮鳴 サヨ
マイクを握る。
ゴーストペッパー
ビリビリと響く重低音。
ゴーストペッパー
亡者たちから感情は読み取れない。
陽向 レンジ
彼らもまた、鏡のようなものだ。
宮鳴 サヨ
す、と息を吸い込む仕草。
宮鳴 サヨ
「────!」
宮鳴 サヨ
そして、歌い始める。
陽向 レンジ
サイリウムの涼やかな青が。
陽向 レンジ
一転して、赤に染まる。
宮鳴 サヨ
細い手足を伸ばし、短い髪を振り乱して。
宮鳴 サヨ
金属の声帯で歌を奏でる。
陽向 レンジ
その声に声を重ね、跳ぶ。
宮鳴 サヨ
死して墓に埋められた男の歌。
宮鳴 サヨ
絞り出すような声。
宮鳴 サヨ
苦痛に喘ぐように、身体を震わせる。
陽向 レンジ
アイドルには似つかわしくない、墓土の死者の踊り。
宮鳴 サヨ
聴衆への敵意すら感じる叫び。
ゴーストペッパー
伸びる機械の音。弾けるようなパフォーマンス。
ゴーストペッパー
一様に笑顔の張り付いた亡者は、しかしその音へと身を震わせる。
宮鳴 サヨ
腕を突き上げる。
宮鳴 サヨ
墓の土の下から、空へ手を伸ばすように。
陽向 レンジ
赤いサイリウムが振動する。
宮鳴 サヨ
喪失は、必ずしも終幕を意味しないことを歌った。
宮鳴 サヨ
腐り落ちたぼろぼろの腕。
宮鳴 サヨ
崩れ爛れる脚。
宮鳴 サヨ
それは死の苦しみか! 亡き者へ課せられた罰なのか!
宮鳴 サヨ
いいやそれは生まれ落ちた苦しみだ!
宮鳴 サヨ
この世界で、自分自身の存在に気づいてしまったものの上げる、悲鳴なのだ!
陽向 レンジ
ゆらゆらと身体を揺らして。
陽向 レンジ
それから、共に叫ぶ。
陽向 レンジ
ふたつの悲鳴がステージに響き渡る。
陽向 レンジ
苦痛を覗いた気がした。喪失を覗いた気がした。
絶望を覗いた気がした。
陽向 レンジ
そしてやはり、彼女は心を持ち、傷ついてきた一人の女の子なのだと、信じた。
ゴーストペッパー
耳の見えない聴衆たちが悲鳴を聴く。
ゴーストペッパー
ステージの中央へと、くぎ付けになっている。
陽向 レンジ
「―――……」
陽向 レンジ
歌が終わる。
陽向 レンジ
表をあげて観客席を見れば、亡者は止まったまま。
宮鳴 サヨ
ぴたりと、動きを止める。立ちながら死体のように身体を折った。
陽向 レンジ
最後にポーズを決めて、
陽向 レンジ
少女の死体を攫うかのようにかき抱き、ステージを退場する。
[ 宮鳴 サヨ ] 悲鳴のシンフォニー : 0 → 1
ヨロトル
拍手とともに二人を出迎える。
陽向 レンジ
舞台袖へ。
ショチ
「完璧じゃねえか!」
陽向 レンジ
「亡者、怖っっっ!!!」
ヨロトル
「あはははは」
陽向 レンジ
「こっわ!!滅茶苦茶見てるけど!?」
ショチ
「っはははは!」
ヨロトル
「楽しんでくれてたみたいに見えたけどな~?」
ヨロトル
ちょっと身を乗り出して客席の方を見ます。
陽向 レンジ
あ、サヨは降ろしています。そっと。
ゴーストペッパー
ヨロトルが姿を現すと、皆いっせいにそちらを向いた。
ヨロトル
わー。
陽向 レンジ
見てるんだよ~~
ヨロトル
期待されてる~。
ヨロトル
手だけ振って下がります。
宮鳴 サヨ
「大人しく歌と踊りを見てくれるだけなら、いいんですけどね」
ショチ
「まあさっきよりはマシだ。このステージのおかげでだいぶマイルドな雰囲気になった」
ヨロトル
「流石に扉バンバン叩かれてるのよかなあ」
陽向 レンジ
「よかった……大半はサヨのおかげだけど」
宮鳴 サヨ
「おかげさまで。自由にやらせていただきました」
ヨロトル
「いい歌だったぜ!」
ヨロトル
「本領発揮って感じだった」
ショチ
「おう、合格って事にしといてやる!」
陽向 レンジ
「合わせやすかったな」
宮鳴 サヨ
「ネガティブ。なぜショチに太鼓判を押されなければならないのです……」
ヨロトル
「レンジのエスコートの手柄でもあるだろうしな~」
ショチ
「生意気なことを言うやつだ!喜べ!」
ヨロトル
俺はサヨを巻き込んだけど、レンジは背中を押した。
陽向 レンジ
「ああ、導くのとヨイショするのは任せろ!」
宮鳴 サヨ
あれだけの歌の後とは思えないほどに、常通りの冷淡な振る舞いだ。
ヨロトル
レンジの天然の人心掌握にゃあ流石に勝てねえな。
陽向 レンジ
その冷淡な振る舞いのおかげで、今、普段通りに笑っていられているのかもしれない。
陽向 レンジ
まだ、心臓が高鳴っている。
宮鳴 サヨ
「レンジのサポートが大きな成果を導いたことは、否定できませんね」
陽向 レンジ
昼の部で話した時、オレは『サヨは自分を破壊したい』のだと思った。
実際は違っていたのだけど。
陽向 レンジ
オレのほうなんだろうな。
陽向 レンジ
オレのほうが、破壊されたいのだろうな。
陽向 レンジ
歌を通して、鏡を覗き込んで、そう思った。
[ 宮鳴 サヨ ] 貢献度 : 19 → 33
陽向 レンジ
*サヨと同伴したので、二人に貢献度+14
[ 陽向 レンジ ] 貢献度 : 21 → 35
[ 陽向 レンジ ] HP : 23 → 24

行動:宮鳴 サヨ

宮鳴 サヨ
というわけでショーの合間に、ヨロトルと目配せしてショチを詰めにいきたいなと思っています。
ヨロトル
元気にやってこ~!
ショチ
陽向 レンジ
お、オレはどうなる!?水分補給とかしてんの?楽屋で
ヨロトル
見ててもいいんじゃないか?
宮鳴 サヨ
サヨ的には同席してほしくないけど……
ヨロトル
じゃあ楽屋行ってもらうか!
宮鳴 サヨ
ほしくないけど不合理なので、同席していいよ
宮鳴 サヨ
しなくてもいい
陽向 レンジ
なんでオレ一人やねんっていう理由があれば……ああ、場を維持する負担が大きいからとかね
ヨロトル
あとサヨちゃんより水分補給要りそうだしな
宮鳴 サヨ
休んでもいいんじゃないかな❤
陽向 レンジ
分かりました…………
宮鳴 サヨ
そのアイコン似合うね
ヨロトル
いい顔してるぜ!
陽向 レンジ
今まさにの顔
ヨロトル
「消耗激しいだろ、レンジ」
陽向 レンジ
「ああ……」
ヨロトル
「ちょっと休んでろよ。適当に繋いどくから」
陽向 レンジ
さっきのステージで、心にまで響くものがあり。
陽向 レンジ
「センター任されるべきリーダーなのにごめん、しばらく頼んだ……」
ヨロトル
「この空間自体お前の功績だからな!」
ショチ
「しょーがねーなあ」
ヨロトル
「しっかり休んでこいよ、レンジ。なるべく長持ちさせてくれ」
宮鳴 サヨ
「適度な休息は合理的判断と言えます」
陽向 レンジ
「了解……」
ふらふら~っと舞台袖にいきます。いきたくねー!
ヨロトル
掌を振ってレンジを見送り。
ヨロトル
目論見通り、結構奥の、自分たちが目に入らないとこまで消えたのを確認します。
ヨロトル
女性の姿そのものが疵に触れるレンジのこと。
ヨロトル
休息の重要性を強調して送り出せば、そうしてくれるだろうとは思っていた。
ヨロトル
「さて」
ヨロトル
「サヨ」
宮鳴 サヨ
「はい」
ヨロトル
「そろそろ痺れを切らす頃か?」
宮鳴 サヨ
「猶予もできましたしね」
ショチ
「……」
宮鳴 サヨ
つかつかとショチの方へ歩く。
ヨロトル
「いやあ」
ヨロトル
それを止めない。
ヨロトル
「俺もな、誤魔化せる範囲までは付き合ってやろうと思ってたんだけど」
ヨロトル
「まあそろそろキツいだろ。流石に」
宮鳴 サヨ
「そろそろ洗いざらい語ってくれても、いいのではないですか?」
宮鳴 サヨ
ショチに昏い瞳を向ける。
ヨロトル
笑っています。
ショチ
「……何のことだかな。それよりせっかくステージに居るんだ。踊れよ、早く」
ヨロトル
「踊ってくれるだろ」
ヨロトル
「今から、ショチが」
宮鳴 サヨ
「ええ」
ショチ
「ああ?」
宮鳴 サヨ
腕を突き出す。
宮鳴 サヨ
ショチの顔面スレスレに。
ショチ
風が顔に触れる。前髪が舞う。
ヨロトル
見ています。
宮鳴 サヨ
威嚇するように脚で踏み鳴らす。
ヨロトル
ステージの揺れを感じている。
ショチ
怯えたように小さく跳ねる。
宮鳴 サヨ
「ほら、踊りましょうよ」
ショチ
「ど、どういうつもりだよ……?」
ヨロトル
「しらばっくれるのもそろそろ限界ってことだよ」
ヨロトル
「ショチ、ボロ出しすぎ」
宮鳴 サヨ
突き出される腕が再びショチを掠め、小屋の支柱を抉る。
ヨロトル
「俺相手にはいいけど、二人にはちゃんと隠してくれねえと」
ヨロトル
「俺も流石に庇いきれん!」
ショチ
「ひっ」
宮鳴 サヨ
「あなたは自分の行いの意味を理解していないのですか?」
ショチ
「お、オレはいいから、先に二人で踊れば……」
ヨロトル
「サヨのリクエストだぜ」
ヨロトル
「応えてやれよ、ショチ」
ヨロトル
「TPO。弁えてんだろ?」
ヨロトル
「求められて応えないのはねえよなあ?」
ショチ
「いや……やっぱ……な。本命は最後にやる方が盛り上がるじゃねーか」
ショチ
「焦らしだよ。ずっと踊らねえって言ってるわけじゃねえんだ、少し待てるだろ?」
宮鳴 サヨ
「亡者の群れの只中に閉じ込められた状況で、これ以上何を待つというのですか?」
ヨロトル
「ほらほら」
ヨロトル
「サヨには誤魔化しきかねえぞー」
ショチ
「そりゃ……パーティーの終わりをさ。あともう少しだからよ……」
宮鳴 サヨ
「不確定要素を、放置しておくのは非常に非合理的と言えます」
宮鳴 サヨ
伸ばした手が、ショチの首根を掴む。
ヨロトル
ひゅう、と口笛。
ショチ
「っ…………!」
宮鳴 サヨ
「このままゴーストペッパーの群れに放り込んで差し上げましょうか」
宮鳴 サヨ
「さぞかし、楽しく踊れるでしょう」
ショチ
「う、ぐえっ……」
ヨロトル
「レンジ今いないし、ちょっとくらいは超えられるかあ?」
ショチ
「や、やめろ……」
宮鳴 サヨ
「あるいは、ボクが間違っていたのかも知れません」
宮鳴 サヨ
「あの時、見捨てるのではなく……」
宮鳴 サヨ
「確実に始末しておくべきだったのかも知れない。あなたを」
ショチ
「お、おい……っ!」
ヨロトル
あ、やっぱり見捨ててたんだ。
ヨロトル
もうちょっとどうしようもない状況かと思ったけど、全然判断の猶予あったんだな~。この口ぶり。
ショチ
震える手を伸ばし、手を払おうとするが。
ショチ
できない。それも、ショチの中では暴力だ。
宮鳴 サヨ
「…………」
宮鳴 サヨ
抗弁すら出来ない状態であることを見て、ぱっとショチの首から手を離す。
ショチ
「がはっ」
ショチ
「げほっ、げほっ。はあっ……はあっ……」
ヨロトル
見ている。
宮鳴 サヨ
「中途半端は、何事も災いを招く」
宮鳴 サヨ
「殺すか救うか。ゼロか1か……どちらも選ばなかったのは、ボクの不合理でした」
ヨロトル
「まあ、適切とか適量とか、そういう言葉もあるけどな」
宮鳴 サヨ
「ヨロトル」
ショチ
「クソ……!」
宮鳴 サヨ
「あなたが協力的で助かります」
ヨロトル
「いやー」
ヨロトル
「こうでもしないと俺の知らんとこでショチを壊されかねん」
ヨロトル
「俺としてはサヨがショチを壊しちまう前に、ショチが吐いてくれるのが一番だから」
ショチ
「!……」
ヨロトル
「ショチにはそうしてもらいたいとこなんだけど」
宮鳴 サヨ
振り返らぬままに。
宮鳴 サヨ
「それがあなたの、ショチへの愛というわけですか」
ヨロトル
「…………」
ヨロトル
「サヨのことも愛してるし、レンジのことも愛してるぜ」
ヨロトル
「あいつの望み通り」
ヨロトル
「前みたいに四人で旅を続けられるなら、それがいいとも思ってる」
ショチ
「クソどもが……!」
ショチ
体も、声も、震えている。
宮鳴 サヨ
「最大公約数的な幸福をお望みだと」
宮鳴 サヨ
呼吸に乱れがない。
宮鳴 サヨ
体温の変化もない。
ヨロトル
あのステージで、サヨと踊った時と同じ。
ヨロトル
あのステージで、ショチと踊ったときと同じ。
ヨロトル
太陽のような笑みを浮かべている。
ヨロトル
「まあ、なるべく全員にとっていいようになってほしいとは思ってる」
ヨロトル
「そのためにできることはしてるつもりだ」
宮鳴 サヨ
「実に合理的ですね。ポジティブです」
ヨロトル
「ここでショチをなあなあに見逃し続けるのは」
ヨロトル
「サヨにとってはもう、無理だろ?」
ヨロトル
「したらレンジにも累が及ぶよな」
ヨロトル
「それは避けたいと思ってる」
ヨロトル
「から、ショチ」
ヨロトル
「そろそろ吐けねえか?」
ヨロトル
「自覚してんだろ? 自分が下手打ってること」
ショチ
「……は、ははは」
宮鳴 サヨ
「不自然ですね」
宮鳴 サヨ
「臆病なあなたが、ここまで真実を口にすることを渋る理由が思いつきません」
ショチ
「全員にとっていい道ね」
ショチ
「んなもん、あるわけねえ。ねえんだよ」
ヨロトル
「ふうん?」
ショチ
「……」
ショチ
「ヨロトル。お前はやっぱりオレの事を知らねえ」
ヨロトル
「…………」
ショチ
「オレも……お前の事を知らねえ」
ショチ
「お前が……どっちを選ぶか、オレには分からねえ」
ヨロトル
「知らねえから、知らせてほしいっつってんだけど」
ヨロトル
「それも難しいか?」
ヨロトル
「言わなきゃ分かんねえだろ。なんだってさ」
ショチ
「っせーな……。何も知らねー人間の方が操りやすいんだよ」
宮鳴 サヨ
この臆病な女がパーティに及ぼしていた悪影響。これから齎すであろう災いの可能性。
ヨロトル
「操れなくなってきてるんだよな!」
ショチ
「ぐっ……!」
ヨロトル
「それともこれもお前に操られた結果か?」
宮鳴 サヨ
それを計算に入れて、サヨは一度ショチを見捨てた。
ヨロトル
「レンジのいないところでサヨと俺に詰められて、強引に吐かされたかったか?」
宮鳴 サヨ
その判断が正しかったのか間違っていたのか、わからない。不合理にも迷い続けている。
ヨロトル
「偽悪で自分と仲間を誤魔化して」
宮鳴 サヨ
しかしこの男は。
ヨロトル
「隠し事をしながら強がり続ける自分に」
宮鳴 サヨ
迷わないのだろうなと感じる。
ヨロトル
「そろそろ耐えられなくなってきた頃か?」
ショチ
「……………………」
宮鳴 サヨ
自分よりもよほど合理的で……
宮鳴 サヨ
機械らしい。
ヨロトル
愛している。
ヨロトル
ステージの上でショチにそう叫んだ。
ヨロトル
その男が、今、この新たなステージの上で。
ヨロトル
同じ口でショチの心を踏み躙り弄ぶ。
ショチ
覚悟はしていた。
ショチ
けれど実際には、これほど痛くて怖くて心細い。
宮鳴 サヨ
「…………」
宮鳴 サヨ
なにか言うべきだと思った。
宮鳴 サヨ
しかし、それはできない。
宮鳴 サヨ
不合理だから。
宮鳴 サヨ
ただ、二人に視線を向けるだけ。
宮鳴 サヨ
*ヨロトルの博愛を抉り、クエスト2に挑戦します。
陽向 レンジ
不合理を叫び、庇いに出るはずの男は、今ここにはいない。が。
陽向 レンジ
「…………」
胸騒ぎを覚え、立ち上がる。
陽向 レンジ
横槍します!!!!!
陽向 レンジ
choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
陽向 レンジ
2d+1>=7 (2D6+1>=7) > 9[4,5]+1 > 10 > 成功
陽向 レンジ
1d 効果量 (1D6) > 2
宮鳴 サヨ
*使います ティーセットを
[ 宮鳴 サヨ ] ティーセット : 1 → 0
[ 陽向 レンジ ] HP : 24 → 23
宮鳴 サヨ
2d6+3-2+2=>7 判定(+猟奇) (2D6+3-2+2>=7) > 7[1,6]+3-2+2 > 10 > 成功
GM
舞台袖から出たレンジの目に入るのは、二人の救世主がショチを囲む光景。
ショチ
ショチは一人、膝をついて、俯いている。
陽向 レンジ
異能を行使した影響か、身体が重い。
陽向 レンジ
ひきずるようにして迫り、声をかけようとした。
陽向 レンジ
けど、遅かったのだ。
ヨロトル
男が女を見下ろしている。
ヨロトル
「いいぜ、ショチ」
ヨロトル
「俺はお前を愛してる」
宮鳴 サヨ
彫像のように立っている。
ヨロトル
「お前がどんな真実を隠してようが、それによって何が起ころうが」
ヨロトル
「俺はお前を許してやれる」
ヨロトル
「だから安心しろよ」
ヨロトル
「洗いざらい、全部吐いちまえ」
宮鳴 サヨ
「……ヨロトル」
ショチ
「……」
宮鳴 サヨ
「やめましょう」
ヨロトル
「今まで『ゴーストペッパー』討伐にあたった救世主たち」
ショチ
ぴくり、と動く。
宮鳴 サヨ
「これ以上の尋問は、不合理です」
ヨロトル
サヨの制止に首を振る。
ヨロトル
「そいつらは踊りの最中に、仲間割れで殺し合った」
ショチ
「……………………」
ヨロトル
「踊りに夢中な救世主たちが、踊りに非協力的な救世主を取り囲んで殺したって話もある」
ショチ
「お前…………!」
宮鳴 サヨ
「…………」
ヨロトル
「その理由だって、お前は知ってるんじゃないか?」
ヨロトル
「流石にこれに関しては程々で話してくれると思って待ってたけどよ」
ヨロトル
「先にサヨが痺れを切らしちまった」
ヨロトル
「信じて待つってのは、なかなかうまくいかねえもんだなあ!」
ショチ
「…………」
ショチ
頭を押さえる。
ショチ
「…………現在の、時刻は…………」
ショチ
「パーティーの終了までは……ああ…………」
ヨロトル
「?」
ヨロトル
「そろそろ何か、取り返しがつかなくなる頃か?」
ショチ
「……っ、ハア~~~~……」
ショチ
大きく息を吐く。
ショチ
「……くくっ。ふふふ……」
ショチ
振り向く。
ショチ
「あっははは!あァ……なんだ。レンジまで来てるんじゃねえか」
ヨロトル
「おっと」
ヨロトル
「マジだ」
陽向 レンジ
「…………」
ヨロトル
ショチの視線の先を辿って、レンジに気づく。
陽向 レンジ
声が出ない。
ヨロトル
「十分休めたか? レンジ」
宮鳴 サヨ
「…………」
陽向 レンジ
何を言ってるんだ。みんな。
陽向 レンジ
「どう……いう……」
ショチ
「あー。今ちょうどこいつらに質問されててなァ。ええと、なんだっけ?」
ヨロトル
「『ゴーストペッパー』討伐にあたった救世主たちが、仲間割れで殺し合ったって話か?」
ショチ
「あー。それそれ。それがどういう事か知りてえって?」
ヨロトル
「そうそう」
ヨロトル
「聞かせてくれよ、ショチ」
ショチ
ステージを見る。
ショチ
「こういう風に……」
ショチ
「一区画まるごとを自分の領域にするタイプの救世主って、居るよな」
ヨロトル
「まさに今、レンジがそれをやってるなあ」
陽向 レンジ
弱みは致命的で、けれども強力な領域を展開する。
ショチ
「オレはレンジみてえに、一瞬でステージを作ったりは出来ねえけどよ……」
ショチ
「かわりに準備時間をタップリかけりゃあ、この集落丸ごとを領域にする事ができる」
陽向 レンジ
恥いるべき、臆病者の異能。
陽向 レンジ
そうだ。ショチにだって、可能性はあったんだ。
宮鳴 サヨ
「まさか……」
ヨロトル
「そういうとこも似た者だったわけだ」
ショチ
「オメーら、気にしてたよな」
ショチ
「オレはどうやって生き延びてきたのかって。救世主を殺さなきゃ、救世主は生き残れないのに」
ヨロトル
「ああ。心配してたんだぜ、ショチ」
ショチ
「……罠を張ってよ。呪い殺したんだよ」
ショチ
「町中をこんなゴテゴテに彩って。ろうそく点けて、踊りのステージまで設営。ただの趣味で、ここまですると思うのか?ええ?」
ショチ
「こんな田舎でも、救世主が通りがかる事はある。そいつをダンスのパーティーに誘うのさ」
ショチ
「ちゃあんと踊れたヤツには褒美をやる。踊れねえやつは……もう仕方ねえ」
ショチ
「そういうウスノロには……消えてもらうんだよ」
ショチ
「町に仕込んだ呪いだ。ヤツらの目の前では、オレはただ踊ってるだけ。誰もオレが仕向けた事とは気づかねえ」
ショチ
「新たに現れた亡者を倒すために、みんなで協力して、無事に使命達成。オレのために、ご苦労様な事だよな」
ショチ
声が震える。嗚咽が混じる。
陽向 レンジ
「ッ……」
陽向 レンジ
「そ、れで、いままで……」
ショチ
「マヌケどもめ。お前らはまんまと罠にハマったんだ。オレに一杯食わされたんだよ!」
ヨロトル
「はー」
ヨロトル
「大した生存戦略だ」
ショチ
「オレは、今日で30日目だ。もう後がない。死体が欲しいんだ。救世主なら誰でもいい」
陽向 レンジ
今まで。そして、今。
ショチ
「だから運よく次の生贄が来ることに賭けて、儀式の準備を始めた……」
ショチ
「……まあ、その獲物がお前らだとは思わなかったが……」
ショチ
「ふふ……ふ……」
ヨロトル
「だからあんな顔してたわけかあ」
ヨロトル
再会の時の、ショチの表情。
ヨロトル
そう、まさに、よりにもよって、というような。
ヨロトル
それを思い出している。
ショチ
「……」
ショチ
「今日、この四人のうち、誰かが必ず死ぬ」

『ダンツァ・デ・ラ・ムエルテ(死の舞踏)』

マリーゴールドとパペルピカドで彩られた半径200mの区画を死の空間へと変える呪いの儀式です。
発動から期日までの間、区画内に一度でも立ち入った救世主は、この儀式に参加したものと見なされます。
“最も儀式へと貢献した者”へは報酬を、“最も儀式へと貢献しなかった者”へは制裁を与えます。
儀式を中断することはできず、呪いから逃れる術もありません。
お茶会フェイズ終了時点で最も貢献度の低い救世主1名は死亡し、亡者化します。

裁判MOD「PC亡者化」

お茶会終了時点でPCが亡者化していた場合、裁判直前のタイミングで、下記の手順(今回省略・後々詳細を記載する)でキャラクターシートを変更し、他PCすべてに敵対します。
亡者化したPCは「逆転」「切り札」を使用できず、「裁判中のスペシャルとファンブル」の効果を受けません。
裁判終了後、亡者化したキャラクターはロストします。
陽向 レンジ
必ず、死ぬ?
ショチ
「四人が揃う事なんて、もうねえんだよ」
ヨロトル
「そうなっちまうなあ……」
宮鳴 サヨ
「不合理ですね」
ショチ
「祭りに参加しなくても死ぬ。ここから逃げ出しても死ぬ。パーティーを中断すれば全員死ぬ」
宮鳴 サヨ
「何がそんなに悲しいのですか?」
宮鳴 サヨ
冷たく鞭打つような声。
陽向 レンジ
旅を続けてほしいと、願った。
陽向 レンジ
いいのか?と問われた意味を、今理解する。
ショチ
「は?悲しいわけねえだろ。全部うまくいって、心底ほくそ笑んでるよ」
ヨロトル
「…………」
宮鳴 サヨ
「救世主が集って、誰かが死なないほうが、おかしいのです」
ショチ
「…………」
陽向 レンジ
「オレは……」
陽向 レンジ
「オレは悲しいよ」
陽向 レンジ
信じていたからじゃない。
陽向 レンジ
ただ、そういう現実があったことに。
陽向 レンジ
4人で旅を続けられる可能性がないことに、悲しみがある。
ショチ
「甘い事言ってんじゃねーよ」
ショチ
この呪いは本人をも巻き込んで、必ず最低でも一人を殺すように出来ている。
ショチ
それが中断できないように作られている理由は、ショチがショチだからだ。中断できては、意味がないからだ。
ショチ
最後まで、人を殺す気力を持ち続ける事ができないからだ。
ショチ
だから、取り返しがつかないように出来ている。
陽向 レンジ
自分で制御できない機能は。
陽向 レンジ
臆病者にうってつけだ。
陽向 レンジ
オレだって、そうしただろう。
宮鳴 サヨ
「カンビュセスの籤ですね。この状況は」
ヨロトル
「……まあ、ぶっちゃけ」
ヨロトル
「ショチが何らかの罠を仕組んでること」
宮鳴 サヨ
全員が生きるために誰かを殺すための籤。
ヨロトル
「それに多分俺らが巻き込まれてること」
ヨロトル
「その結果、何か取り返しのつかないものが失われる結末になり得ること」
ヨロトル
「に関しては、正直理解してたけど……」
ヨロトル
「いやあ、ショチ」
ヨロトル
「思ったよりバッチリやってきてんじゃん」
ショチ
「…………っ」
ヨロトル
「それで、ショチよ」
ヨロトル
「今この状況だと……」
ヨロトル
「その呪いに引っかかるのって、多分俺だよな?」
ショチ
「……」
ショチ
「そうだ」
ヨロトル
「ステージに上った回数も少なくて、しかも周囲は全員この手の本職!」
ヨロトル
「ショチとは回数が同じだけど、流石に俺のパフォーマンスでお前に勝ててるとは思わねえ」
ヨロトル
「で、ショチ」
ヨロトル
「あんま冷静に分析しろってのも難しいかもしれねえけど……」
ヨロトル
「この呪いを受けた俺を殺すことに」
ヨロトル
「お前の心は耐えられそうか?」
ショチ
「…………っ…………!」
ヨロトル
ショチを問い詰めながら。
ショチ
「当たり、前だ……」
ヨロトル
頭は冷静に状況を把握する。
ショチ
「1ミリも心なんて動くわけねえ……!」
宮鳴 サヨ
「ヨロトル……」
宮鳴 サヨ
名前を呼ぶだけで、それ以上のことを何も言うことは出来ない。
ヨロトル
死にたくないとは思わない。この女のために死んでやることも一興とは思う。
ヨロトル
ただ、問題はその後だ。
ヨロトル
ショチのために自分が死んでも、その後のショチが保たないのなら。
ヨロトル
それはレンジとサヨに対する不利益になる。
ヨロトル
サヨの表現。最大公約数的幸福には反している。
ヨロトル
そのように判断できる。
宮鳴 サヨ
ヨロトルの振る舞いは正しい。
宮鳴 サヨ
目的を正しく認識し、それに直進している。
ヨロトル
同時に。
ヨロトル
この思考がひどくいびつであることも理解している。
宮鳴 サヨ
この女を生かす選択は、誰にとっても利益をもたらさない。
ヨロトル
愛する女が死にたくないと言うのなら、そのために殉じてやるべきだ。
宮鳴 サヨ
「ヨロトルは」
宮鳴 サヨ
「それで構わないんですか?」
ヨロトル
「…………」
ヨロトル
「俺は正直、十分長く生きてきたと思ってる」
ヨロトル
「生きていたくないとは思わないが、死にたくないともあまり思わない」
ヨロトル
「だから」
ヨロトル
「俺が死ぬことが、お前らにとって有益な結末に繋がるのなら」
ヨロトル
「そうすることに抵抗はない」
ヨロトル
遠い昔。五百年ほど前。
ヨロトル
故郷でも同じようにした。
ヨロトル
自分が生贄に捧げられて死ぬことで、部族の皆が生き永らえるのならば。
ヨロトル
それでも構わないと、心底そう思って自ら願い出たのだ。
ヨロトル
だが。
ヨロトル
現実はどうだったか。
ヨロトル
ゆえも分からず、部族の皆は死に絶えた。
ヨロトル
心臓を抜き取られた自分一人だけが、今もこうして永らえている。
ヨロトル
「レンジ」
ヨロトル
「サヨ」
ヨロトル
「ショチ」
ヨロトル
「俺はお前らを愛してる」
ヨロトル
「俺が死ぬことで、お前たちが生き永らえるのなら、それでいいと思う」
ショチ
「……」
ヨロトル
「だが――」
ヨロトル
「ここで問題になるのは、ショチの精神状態だ」
ヨロトル
「なあ、ショチ」
ヨロトル
「正味な話」
ショチ
「…………んだよ……」
ヨロトル
「お前、俺がショチの代わりに死んだら、もう終わりだろ」
ショチ
「……誰が……そんなワケ……」
ショチ
「うるせー男が……っ、いなくなって、せいせい、する、だけ、だ……」
ヨロトル
「俺の見立てでは、俺だけじゃない」
ヨロトル
「他の誰がここで死んだところで、ショチ」
ヨロトル
「お前はもう耐えられない」
ヨロトル
「救世主としては、もう終わりだ」
ショチ
「勝手に……決めつけやがって……」
ヨロトル
「その事実を踏まえた上で結論を出すなら――」
ヨロトル
「ここでショチを弔ってやるのが」
ヨロトル
「最大公約数的幸福に、もっとも近い」
ヨロトル
「俺は」
ヨロトル
「そのように判断する」
[ ヨロトル ] 博愛 : 0 → -1
ショチ
「…………」
ヨロトル
愛している。
ヨロトル
ショチという女を、心の底から好ましいと思っている。
ヨロトル
その感情には、嘘偽りのないつもりでいる。
ヨロトル
でも、同じくらい。
ヨロトル
同じくらいに、レンジとサヨのことも愛していて。
ヨロトル
他の生きとし生けるもののことも、愛おしいと思っていて。
ヨロトル
だから俺は、
ヨロトル
この結論を恥ずかしげもなく口に出せる。
ショチ
自分には、ヨロトルがわからなかった。この事実すべてを伝えたとき、彼がどちらの死を選ぶか、わからなかった。
ヨロトル
――そんなものは。
ヨロトル
そんなものが、愛であるはずがない、と。
ショチ
「……そうか、お前は、そっちか……」
ヨロトル
そのように否定されることを。
ヨロトル
自分はもはや、拒めないことも、知っている。
ヨロトル
「難しいところなんだが……」
ヨロトル
「お前がもうちょっとしっかりしてたらなあ」
宮鳴 サヨ
仲間や自分に自分の死に運命が近づいた時の態度として。
ショチ
「ふん」
ヨロトル
「まあ、でも」
ヨロトル
「あくまで俺の結論だぜ」
宮鳴 サヨ
ショチとヨロトル、どちらが正しいのか。
宮鳴 サヨ
そんなものはわかるはずもなかった。
ヨロトル
「ショチがそれでも、って言うんなら」
ヨロトル
「……ショチだけじゃねえな」
ヨロトル
「レンジとサヨもだ」
ヨロトル
「三人がそれでも、ショチが生きていける方に賭けたい、つーんなら」
ヨロトル
「俺はそっちでも構わねえよ」
ショチ
元より、自分の発言に意味などない。
ヨロトル
「死にたくない奴の方にこそ、生きててほしいからな!」
陽向 レンジ
「……なんだよ、それ……」
ショチ
偽悪に包まれた発言は嘘にまみれていて、ショチは自身の真意を正しく伝える術を持たない。
陽向 レンジ
「そんな、考え方……」
ヨロトル
レンジを見る。
宮鳴 サヨ
人は悲しい時、恐ろしい時泣くものだと教わった。
陽向 レンジ
「まるで自分を、道具か何かみたいにさ」
宮鳴 サヨ
悲しんだり恐れたりと言った機能は、自分には存在しないのでわからないが。
陽向 レンジ
自分だけじゃない。仲間の、ショチの命さえも。
ヨロトル
「尊いものだとは思ってるよ。命を」
陽向 レンジ
オレたちの命だって。
宮鳴 サヨ
ヨロトルはどうなのだろう。
ヨロトル
「でも、この世界」
ヨロトル
「ただ命を尊ぶだけじゃあ誰も生き残れないだろ?」
ヨロトル
「取捨選択を敷いられている事実を前に、泣き喚いていても仕方ない」
ヨロトル
「いや、そうするのもまた自由だが……」
ヨロトル
「俺の役割はそこにはない」
ヨロトル
「俺の役割は、出来る限りお前らを死から遠ざけることだ」
ヨロトル
「そう思って、今まで動いてきたつもりだが」
ヨロトル
「……まあ」
陽向 レンジ
盤上の遊戯のように、有利不利を判断して、選んで、捨てる。
どうしてそんなことができるんだ?
ヨロトル
「この状況でそれを発揮するってのは」
ヨロトル
「まさしく人の心がないってやつなのかもしれねえな」
ショチ
「…………」
ショチ
「客が、待ちくたびれてる」
ショチ
「もう、さっさと踊っちまえばいいだろ、ヨロトルさんよ」
ヨロトル
「どうだろうなあ」
ヨロトル
「ショチが生きる方がいいなら、俺、踊らない方がよくね?」
ヨロトル
「さっきのって結局俺の結論で」
ヨロトル
「レンジとサヨとショチの意見を加味してねえんだもん」
ヨロトル
「そこを断行するほどには」
ヨロトル
「俺も自分の価値に自信が持てんとこだ」
ショチ
「……サヨはオレを始末しとけばよかったって言ってた気がするなあ?」
宮鳴 サヨ
「ええ」
宮鳴 サヨ
「今でもその意見は変わりませんよ」
ショチ
「いいんじゃないの、合理的で」
宮鳴 サヨ
「ですが」
宮鳴 サヨ
「それにあなたが唯々諾々と従うのは、不合理です」
ショチ
「オレに戦う術はないからな」
ショチ
「モメても、意味がない」
ヨロトル
「代わりのこの儀式だろ?」
ヨロトル
「うまくやってんじゃねえか」
ショチ
「当たり前だ。ショチさまは救世主だからな」
ショチ
「それで?」くるり、振り向く。
ショチ
「レンジは、誰に死んでほしい?」
陽向 レンジ
「………」
陽向 レンジ
「オレが、それを言えって?」
ショチ
「いいや?」
ショチ
「黙って、意見を放棄することもできる」
ショチ
「そしたら多数決でオレが処理される形になるかな」
陽向 レンジ
「オレは誰にも死んでほしくないよ」
ヨロトル
俺は議論の結果次第では結論を翻しても構わないんだが……
陽向 レンジ
「誰にも死んでほしくない」
陽向 レンジ
「踊らなければ死ぬっていうんなら、踊ってくれよ」
陽向 レンジ
「死にたくないって、思ってほしいよ……」
ヨロトル
「踊っても、誰かは死ぬぜ」
ヨロトル
「それはもう不可避だ。この状況」
陽向 レンジ
「オレはもう踊らない」
ヨロトル
「そうだな」
ヨロトル
「だが、お前は少しばかり、盛り上げすぎた」
陽向 レンジ
そう、まるで掌の上にあるかのように。
ヨロトル
「ここからお前が生贄に選ばれる可能性は……もう、ないだろうな」
ヨロトル
「なるほど、ショチは」
ヨロトル
「レンジにだけはなにがなんでも絶対、死んでもらいたくなかったってワケだ」
ショチ
ショチ
「……」
陽向 レンジ
オレを最初に踊らせたのは。
陽向 レンジ
オレが一番、その選択をとると思ったから?
ショチ
死を選びそうな人物だと思った。
ショチ
死ぬべきではない人物だとも思った。
ショチ
彼はこのパーティーを照らす光のような存在で。
ショチ
彼には自分と同じ事ができて。
ショチ
彼のおかげで、自分が居なくても成り立つのだ。
陽向 レンジ
それなら、「オレかショチか」だったんじゃないか。
陽向 レンジ
「ショチ……」
陽向 レンジ
「ずるいよ……」
ショチ
「……ふん」
ショチ
「よかったじゃねえか、人望があって」
ショチ
「おかげで旅も続けられる」
陽向 レンジ
「……」
ヨロトル
正直、ここで誰かを切り捨てる結論を選ばなきゃならないレンジの今後も危険には思うが……
ヨロトル
ショチよりは大丈夫だと思うしな……
陽向 レンジ
「最大公約数の最大幸福……なんて、知らない」
陽向 レンジ
「なあ」
陽向 レンジ
「踊ってくれよ」
陽向 レンジ
観客席のサイリウムが光る。
宮鳴 サヨ
「……踊ってください。ショチ」
陽向 レンジ
ステージが命じる。
宮鳴 サヨ
「……だってあなたは、まだ生きている」
ショチ
「……サヨまで、何を言ってる?」
陽向 レンジ
踊れと。生きろと。
ショチ
「…………っ!?」
ヨロトル
「おー」
ショチ
足が勝手に、前へと進む。
ヨロトル
「領域型の本領発揮って感じだ」
ヨロトル
「魅せてこいよ、ショチ」
陽向 レンジ
「話し合いなんかで決めるより」
ショチ
「お、おい!?」
陽向 レンジ
「踊って争ったほうがマシだろ!」
ヨロトル
「はっはっはっは」
陽向 レンジ
「目論見通りにさあ!」
ヨロトル
「まあ、その方が後腐れはねえか!」
ショチ
「……っ……」
ショチ
「しょーが、ねーなぁ……!」
ショチ
ステージの中央へと立つ。
ヨロトル
「ショチー! 恨みっこなしだからなー!」
ショチ
別に、マリオネットのように操られているわけではない。
ショチ
ただ、雰囲気に流されているだけだ。異能の伴う雰囲気に。
陽向 レンジ
強制力はない。
陽向 レンジ
ただ、レンジがそう願っているだけ。
ショチ
そうして流されてしまう程度には。
ショチ
死への恐怖と生への執着があるということを意味している。
ヨロトル
そういう女のためならば、別に死んでもいいと思う。
ヨロトル
そうなったらその時と。
ショチ
「……しょーがねえ!ラスト2曲だ!」
ヨロトル
自分はとうに割り切っている。
陽向 レンジ
息を吐く。そして、
ショチ
「ヨロトル!てめーがこの後、キチンと全力で踊るってんなら」
ショチ
「後々、多少は前向きに生きることも検討してやる!」
陽向 レンジ
「ダサいダンス見せんなよ!」
宮鳴 サヨ
生きている理由など。
ヨロトル
「しゃーねえなあ」
宮鳴 サヨ
本来で言えば自分にだってすでにない。
ヨロトル
「素人踊りには荷が重いが」
宮鳴 サヨ
だが、生きている。自分が存在することに気がついてしまった。
ヨロトル
「出来る限りは努めさせていただきますよ!」
宮鳴 サヨ
……だから、生きなければならないのだ。
陽向 レンジ
みんなに生きてほしい。みんなで旅が続けたい。
陽向 レンジ
それがかなわないというのなら、せめてあの夜と同じように。
陽向 レンジ
賑やかな勝負で決めたかった。
GM
──命運を分ける前奏が、流れ始める。

行動:ショチ

ショチ
*レンジの疵「色欲の罪」を舐め クエスト1にソロで挑戦
[ ショチ ] ティーセット : 2 → 1
ショチ
2d6+3=>7 判定(+愛) (2D6+3>=7) > 9[4,5]+3 > 12 > 成功
[ ショチ ] 貢献度 : 24 → 36
[ ショチ ] HP : 22 → 19
[ ショチ ] HP : 19 → 20
ショチ
観客へとポーズを取り、パフォーマンスが始まる。
陽向 レンジ
舞台袖で、それを眺める。
ゴーストペッパー
昼とはうって変わって静まり返った客席。しかしサイリウムの動きだけは楽し気に揺れ続ける。
ヨロトル
見守っている。自分が愛を叫んだ女を。
ショチ
それは昼のダンスよりも大人しく、テンポもゆったり。
ショチ
どこか民族音楽のような趣もある。ヨロトルの雰囲気に近いもので。
ヨロトル
懐かしさを感じるその雰囲気に笑っている。
ショチ
ショチが纏うのは、色鮮やかな服。
ショチ
赤をメインとしつつも、全身は色とりどり。紫の首飾りと腕飾り、そして腰回りの羽飾りはケツァールの羽によく似ている。
ショチ
頭と腰にはマリーゴールドの花飾り。
陽向 レンジ
美しい、とおもう。
宮鳴 サヨ
静かに観察する。
ショチ
情熱的なダンス用の衣装のようでもあるが、
陽向 レンジ
情熱的な赤は、ショチによく似合う。
ショチ
こうして舞う姿は、神職のそれのようでもある。
宮鳴 サヨ
先程まであんな醜態を見せていたというのに、踊りは精彩を欠いていない。
ヨロトル
それらの意味を、自分はよく知っている。
ショチ
第一の太陽の者たちは、ジャガーによって滅んだ。
ショチ
第二の太陽の者たちは、風によって滅んだ。
ショチ
第三の太陽の者たちは、雨によって滅んだ。
ショチ
第四の太陽の者たちは、水によって滅んだ。
ショチ
第五の太陽の者たちは、空の怪物によって滅んだ。
ショチ
ゆえに、第六の太陽の者たちもまた、神々を恐れ敬った。
GM
一人の奴隷が、人身御供に選ばれた。奴隷は本名を名乗ることは許されず、名をショチと呼ばれた。
GM
奴隷は神に扮して、祭祀場に立たされた。いくつかの演目を終え、これから生皮を剥がれるのだ。
GM
傍らに、刃物を持った神官が立つ。神官にとっても、これが初めての責務だった。神官は震える声で、奴隷へとこう言った。
GM
「めんどくせえ仕事だな。お前、オレのかわりに働け」
GM
神官は、人を傷つけることができなかった。神の命に背けども、それだけは決してできなかった。
GM
それが『臆病』。
GM
「わかんねえのか、ウスノロ。オレとお前で入れ替わろうぜって言ったんだよ」
GM
神官は、奴隷を救いたかった。だから臆病を理由に、自分のためという名目で、奴隷のために命を差し出した。
GM
それが『偽悪』。
GM
神官は神へと扮し、奴隷は神官に扮した。
GM
奴隷は神官へと刃を向けて、こう言った。
GM
「さようなら。ありがとう、『ショチ』──」
GM
刃が振り下ろされ、神官は死んだ。
ショチ
神官は、見知らぬ世界で目を覚ます。
ショチ
いつもそうだ。
ショチ
自分の偽悪は稚拙で安っぽくて、誰一人騙すことなどできやしない。
ショチ
うすっぺらな偽悪。だから。
ショチ
突き放そうとしても、皆が手を取ってくれる。
陽向 レンジ
いつだって手を伸ばす。
陽向 レンジ
だから、今も踊れと言う。
ショチ
結果、それで生き延びたとしたとき。
ショチ
それを前向きに受け取るのは難しいが、後ろ向きに受け取るのも難しい。
ショチ
ここまでの事をして、今この状況を招いてなお。
ショチ
何故だかどうやら、自分はここに居てもいいらしい。
ショチ
静かに、艶やかに舞う。
陽向 レンジ
オレは、自分が嵌められて、堕落した時。
女の子らの熱意によって、脱退を免れた。
陽向 レンジ
生き延びたがしかし、前向きに受け取ることも、後ろ向きに受け取ることも。
陽向 レンジ
オレが今してるのは、同じことなのだろうか。
ショチ
花を喜びを、工芸を、そして女性の性を表現した踊り。
陽向 レンジ
息を呑む。
陽向 レンジ
その色香からも熱意からも、逃れることはできない。
ショチ
力に満ち溢れ、未来を感じさせる踊り。
陽向 レンジ
どうしようもなく、惹かれてしまう。
陽向 レンジ
女の子という生き物に。
ショチ
亡者たちだけではない。この踊りを救世主たちにも捧げている。
ショチ
自分は、もう踊れないかもしれない。
ショチ
いや、自分じゃないとしても。
ショチ
もう踊りを見てもらえるのは最後となる人間が、誰か一人。
陽向 レンジ
誰かは必ず、ここで死ぬ。
陽向 レンジ
オレであればと思った。
陽向 レンジ
けど、今はその願いとは遠いところにいる。
ショチ
皮肉な話だが、こうなる気はしていた。
ショチ
死の押し付け合いを想定した、この儀式。
ショチ
仲間同士で行えば、生の押し付け合いになる可能性もあると。
陽向 レンジ
だって、この先生き延びたとして。
陽向 レンジ
大切な仲間を死に誘った舞踏を、誰に披露するというのか。
ショチ
生き残れば、自分は舞い続けるだろう。
ショチ
踊りは自分の一部だ。この踊りが、この型が、一つ一つが自分の生き方だ。
陽向 レンジ
オレは、分からない。
陽向 レンジ
踊れないかもしれない、けれど、
できなければこの異能を使いこなすことも不可能だろう。
ショチ
人と触れ合い、人に活力を与えるのが生きがいだった。人を癒し、人を救うことに喜びを見出していた。
ショチ
そのための儀式。そのための踊り。
ショチ
自分にとっての死は、そう遠い存在ではなかった。
ショチ
故郷では、死者を偲ぶとき、町を飾り盛大に楽しむ催しがあった。
ショチ
そんな祭りでの自分の役目は、死者と生者の橋渡し。
ショチ
死者の魂を少しの間、招くために、道しるべを作ること。生と死の境界を曖昧にすること。
ショチ
……それをまさか、殺意を以て悪用する日が来るとは思わなかったが。
ショチ
本来は、楽しいもの。人を笑顔にするもの。死の恐怖から、悲しみから、和らげるもの。
ショチ
だからこそ、人が死んでも踊るのだ。
ショチ
その日を摘めと心に刻んで生きてきた。人はいつか死ぬ。だからこそ日々を楽しみ続けろと。
ショチ
後ろ向きになりそうな心を、前へと向けて。
ショチ
生き続けること。
ショチ
やり方は、分かる。
ショチ
できるかは、わからない。
ショチ
……ダンスの勝負だ。完全な運頼みではない。
ショチ
自分の得意分野だ。
ショチ
たぶん、生き残ってしまうのだ。
陽向 レンジ
生き残ってしまう。
陽向 レンジ
取柄だったからこそ。
ショチ
くるりと回る、その一瞬、レンジと目が合う。
陽向 レンジ
「……!」
ショチ
自分が踊って生き残るということは、誰かがそのかわりに死ぬということ。
ショチ
踊りを提案したのは、レンジ。
ショチ
彼はそれに耐えられるのだろうか。
陽向 レンジ
有利不利のあるルールを、押し通した。
陽向 レンジ
……生き残ったとしても、トラウマのひとつとして刻まれることは避けられないだろう。
宮鳴 サヨ
誰かが死ぬ。
ヨロトル
この中の、誰か一人が。
陽向 レンジ
死は、強く心に刻まれる。
宮鳴 サヨ
レンジを見て、それからヨロトルのほうを見る。
ヨロトル
こんな状況の中にも、ショチの踊りに時折笑みを浮かべてみせる。
ヨロトル
昼時のような歓声を上げはしないが。
ヨロトル
女の美しい舞踊を、心の底から楽しんでいる。
陽向 レンジ
だけど、やると決めた。
陽向 レンジ
オレが決めたのだから、耐えるべきだろう?
ショチ
レンジから、そう見えるからこそ。
ショチ
違うと叫びたかった。
ショチ
これは流れの一部なのだ。
ショチ
その前にも、何度も、何度も。
ショチ
自分が仲間たちと共に生きることを諦めそうになると。
ショチ
助けてくれるのだ。
ショチ
たとえ誰かが犠牲になるとしても、自分はその事実に感謝をしている。
陽向 レンジ
仲間を助けずにはいられない。
それは異常性には含まれない、レンジの人柄。
陽向 レンジ
今夜を越えても、共にいる限り手をさしのべるだろう。
ショチ
彼の異常性は、彼自身の節制によって制御されている。
ショチ
共に過ごすようになってから、自分はレンジの異常行動を見たことはない。
陽向 レンジ
普段の姿は、色欲などとは程遠く見える。
ショチ
その片鱗は『女の子に近寄りたいけど近寄れない』などといった、さして珍しくなく、好感の持てる可愛らしい形で出力されるものだから。
ショチ
自分はまだ、彼の本当の恐ろしさを理解しているわけではないのだろう。
陽向 レンジ
隠された惹かれ方こそ、異常性。
ショチ
元より、攻撃的な人間ではない。だから、それでも信頼を置いているのだ。
陽向 レンジ
怖い。可愛い。怖い。可愛い。怖い。怖い。
彼女らに惹かれていて、本当はいっさい逆らえない。
ショチ
むしろ……怖いのは、自分だ。
ショチ
彼が守るべきいくつかの境界は、きわめて強固なようにも見えるし、きわめて儚いものにも見える。
ショチ
崩すべきではない聖域でもある。一方で、崩してしまいたくなる。
陽向 レンジ
一歩踏み込めば容易く崩れ落ちる。
なのに今までやってこれたのは、四人いてこそだったのかもしれない。
ショチ
視線が離れて、すぐに踊りは再開され。
ショチ
その体を、その技を、その心を、客席と救世主へと見せつけた。
ショチ
嘘ばかりを吐き出す口よりも、踊りの方が気持ちを伝えるには良い。
ヨロトル
状況を忘れて見惚れてしまうほどの演舞。
陽向 レンジ
艶やかな姿に、静かに魅入っている。
ショチ
申し訳なく思っている。
ショチ
お前たちが好きだ。
ショチ
自分が受け入れられるべきではないとも思う。
ショチ
けれど、それでも受け入れてくれるのなら──
ショチ
まだ、生き続けようと思う。
陽向 レンジ
情熱的な赤い光が、踊りに合わせてゆらゆらと揺れている。
陽向 レンジ
そのひとつを手元に出して、自分もまた揺らしてみせた。
サインを送るように。
陽向 レンジ
オレだってそうだ。
陽向 レンジ
ショチのことを愛しているよ。
陽向 レンジ
生きつづけてほしいよ。
ショチ
「……」
ショチ
赤い光が目に入る。
ショチ
頬を水滴が伝う。
陽向 レンジ
誰が死ぬかもわからない。けど、今は笑顔を送っている。
ショチ
やがて、ショチの最後の踊りは終わる。
ショチ
「……」
ショチ
余韻に浸る間もなく、まっすぐ客席へと戻り、レンジの前へと立つ。
陽向 レンジ
「お疲れさま」
ヨロトル
少し離れた場所で見守っている。
陽向 レンジ
「正直負けたな、こりゃあ」
ショチ
「……っぱり、よォ……」
宮鳴 サヨ
「大したものです。万全なコンディションではないでしょうに」
ヨロトル
「やー、本職本職」
ヨロトル
「見事なもんだよ」
ヨロトル
拍手!
ショチ
「こっちが有利なんだよな」
陽向 レンジ
「アイドルの集落だったらオレのほうが有利だったんだけどな~」
ショチ
「……なあ、レンジよ」
陽向 レンジ
「何?」
ショチ
自分の口は、人に感謝を述べるにも、人に救いを与えるにも向いていない。
ショチ
「……アイドル、続けろよな。このショチさまのために」
陽向 レンジ
「……!」
ショチ
だから、自分はこうなのだ。
陽向 レンジ
踊れないかもしれない未来を、
陽向 レンジ
視線を交わしたあのときにでも、覗かれたのか。
ショチ
人の疵の形をした、呪いを植え付ける事しかできない。
ショチ
「じゃなきゃ、おっかねえ体験をさせてやる。何としてでもアイドルさせてやるからな」
ショチ
死なないでほしい。前を向いて欲しい。笑って欲しい。輝いて欲しい。歌って踊って欲しい。
ショチ
押しつけであると、自覚している。
陽向 レンジ
アイドルを続けろ。そう言われて。
陽向 レンジ
自分は、否定できない。
陽向 レンジ
「その……」
陽向 レンジ
「……そう、だね」
陽向 レンジ
「ショチが信じてくれるっていうのなら…… 今は、その言葉に縋らせてもらう」
ショチ
「ふん……」
陽向 レンジ
呪いと救いは紙一重だ。
陽向 レンジ
生きろという言葉は、どちらにもなり得る。
オレにとっての『アイドルを続けろ』も。
陽向 レンジ
オレは……救いを見出すことにした。
ショチ
目の前の男は、自分にとっての救いでもある。
ショチ
あるいはそれは、自分だけではないのかもしれないが。
陽向 レンジ
……分かってるよ。
ほんとはもっと、望まれているんだ。
オレがきみに望むのと、同じぐらいに。
ショチ
ファンとそれ以外の境界は、レンジの基準によって、その異能によって明確化されている。
ショチ
だから自分はファンという立ち位置ではないのだろう。偶像と同じステージに立つ立場に当たるのだろう。
陽向 レンジ
仲間だと認識している。
陽向 レンジ
だから、こちら側にいる。
ショチ
でも、お前を目で追って、お前を救いにして、お前にアイドルを続けて欲しい人間だ。
陽向 レンジ
『ファンになってくれるなよ』と、あの時言った。
陽向 レンジ
……けど、それは……お互い様なのかもしれないな。
陽向 レンジ
赤いサイリウムをそっとしまった。
ショチ
その関係を調整していたのは、この薄氷の関係を保ち続けられていたのは……自分たちよりも、むしろ別の者の功績に依るところが大きい。
ショチ
どれか一つが欠けると、グループの形も変わる。
陽向 レンジ
だからこそ、四人にこだわっていた。
ショチ
いびつな形を形成するピースのうちの一つが外れると、何が起こるのだろうか。
ショチ
単純な形に収まるのだろうか。それとも、より歪な形へと変わるのだろうか。あるいは噛み合わなくなってしまうのか。それとも……壊れてしまうのか。
陽向 レンジ
この境界が曖昧になったとき。
あるいは、完膚なきまでに壊されたとき、オレは……
[ 陽向 レンジ ] 色欲の罪 : 0 → 1
ショチ
レンジ以外の二人。
ショチ
そのうちのどちらか。まだ、どちらかは分からないが。
ショチ
今の踊りは、きっと、そのどちらかを殺した。
ショチ
恐ろしくて、顔を直視できない。
陽向 レンジ
「…………」 そのとき、
陽向 レンジ
手を差し出した。
ショチ
「……」
ショチ
「オレ?」
陽向 レンジ
「ほら、疲れだろ」
陽向 レンジ
「戻ろう。次のステージが、一番よく見える場所に」
ショチ
「…………」
ショチ
似たような立場、似たような心境にいるはずだ。
ショチ
その人が、こうして手を差し出してくれている。
ショチ
「……へっ。触るだけで顔赤くするくせに、カッコつけやがって」
ショチ
手を握る。
陽向 レンジ
「か、っこつけるのが、アイドルの仕事だからね」
握った瞬間、一瞬息がつまるのはお約束。
陽向 レンジ
「は~~~、でもやっぱり」
陽向 レンジ
「触れるのも怖いわ~~」
ショチ
「ハハハ!」
ショチ
「ほーれほーれ。腕組むか?」
陽向 レンジ
「やめろやめろ!サービスはここまでだ!」
陽向 レンジ
言いながら握る手は、震えている。
その理由が『女の子だから』だけではないのは、分かりきっていること。
陽向 レンジ
二人の元に戻るまでの間、その手は握られていた。
GM
だからこそショチは、ショチにしては強めに、その手を握った。
GM
自分の手もまた震えていることを、隠すために。

行動:ヨロトル

ヨロトル
サヨとともに、舞台袖で二人を待っていた。
ヨロトル
「よっ、お疲れ」
ヨロトル
いつもの通り。いつもの声。
ヨロトル
こんな状況に見合わない笑顔で、レンジとショチを出迎える。
ショチ
「お~!」
陽向 レンジ
手を離す。
ショチ
逃げられた手を追いかける。捕まえ損ねる。
ショチ
「ちっ」
ヨロトル
捕まえ損ねたショチの手を取り、
陽向 レンジ
「お……」
ヨロトル
強く強く引き寄せる。
ヨロトル
男の腕力。
ショチ
「お」
宮鳴 サヨ
お~
ヨロトル
暴力に似た強さで女を抱き寄せて、
ヨロトル
その頬を上げさせた。
ショチ
「おおっ……」
ヨロトル
「…………」
ショチ
「……ヨロ……トル……」
ヨロトル
至近距離にショチを見下ろす。
ショチ
ごまかしていた視線が、ついに交わる。
陽向 レンジ
「あー……」
ショチ
「……」
宮鳴 サヨ
これ横で見てて大丈夫なやつなんですか?
ヨロトル
先程は容赦なく、を超えるようないっそ悪趣味でもって、ショチを嬲ってみせていた男が。
ヨロトル
今は愛おしむようにその頬を撫でて。
陽向 レンジ
少し悩んで……視線を逸らしておこうかな。
ヨロトル
「ショチ」
ヨロトル
「愛してるぜ」
ショチ
「…………」
ヨロトル
返答を待たず。
ヨロトル
唇を重ねた。
ショチ
「っ…………」
陽向 レンジ
……そうしてよかったのか、それとも制止をかけるべきだったのかは、分からない。
ヨロトル
*ショチの心の疵『臆病』を愛で舐めます。
 ティーセットを使用。
 伴ってクエスト1に挑戦。
宮鳴 サヨ
*横槍します。
[ 宮鳴 サヨ ] HP : 21 → 20
宮鳴 サヨ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
宮鳴 サヨ
2d6+3=>7 判定(+猟奇) (2D6+3>=7) > 3[1,2]+3 > 6 > 失敗
ヨロトル
2d6+0+2=>7 判定(+愛) (2D6+0+2>=7) > 9[4,5]+0+2 > 11 > 成功
ヨロトル
*じゃあ、サヨ。
ヨロトル
*一緒に踊ろうか!
宮鳴 サヨ
*仰せのままに。
[ ヨロトル ] 貢献度 : 22 → 33
[ 宮鳴 サヨ ] 貢献度 : 33 → 44
[ ショチ ] 臆病 : 0 → 1
[ ヨロトル ] HP : 17 → 18
ヨロトル
指先が女の髪を撫ぜる。
ヨロトル
頬を触れていた手が後頭部に回って、
ヨロトル
その唇を逃さない。
ショチ
戸惑い泳いでいた手は、やがて背中へと回る。
ショチ
たどたどしく。遠慮がちに。
ヨロトル
重ね合わされた唇から、舌が割り入る。
ヨロトル
慣れた仕草。
ヨロトル
繰り返した逢瀬と同じ。
ショチ
やがて、愛しさを隠す様子もなく、絡みつくような手つきで。
ヨロトル
なるほどこれと比べれば。
ショチ
逃がすまいと、掌が背を撫で回す。
ヨロトル
昼の舞踊は正しく”子供向け”だ。
ヨロトル
男と女が密着し、絡み合い、求め合う。
ヨロトル
露骨で無遠慮な熱がここにある。
ショチ
思えばとうに気付かれていたのだろう。
ショチ
自分が本気であった事も。依存しつつあった事も。
ショチ
共に居続けるなら、それで問題もなかった。
ショチ
共に歩めないのなら、それは大いに問題だった。
ヨロトル
この男が。
ヨロトル
それを理解していなかったはずもない。
ヨロトル
けれど、今は、その何もかもを忘れて。
ヨロトル
ただの一人の男が。
ヨロトル
ただの一人の女を求め愛すように。
ヨロトル
ひどく情熱的な抱擁と接吻を交わしている。
ヨロトル
粘ついた音が響く。
ヨロトル
吐息の狭間に漏れる声。
ショチ
ただ、この時間だけは。
ショチ
全部だ。全部を忘れて素直になる。
ヨロトル
愛し合う。
ショチ
ショチは、口を塞げば正直者で。
ヨロトル
それをよく知っていたから、少し強引にでも。
ヨロトル
その口を塞ぐことを、よくしていた。
ショチ
素直に求める。
ヨロトル
求めに応じて、女を愛玩する。
ショチ
行かないで欲しいと、寂しがる。
ヨロトル
今だけはそうだと錯覚させる。
ヨロトル
その腰に回った腕は。
ヨロトル
お前を手放すつもりなどないのだと、
ヨロトル
まるでそう保証するかのように。
ショチ
残酷なことだ。
ショチ
嘘だと分かりきっていても、酔わずにはいられない。
ヨロトル
……本当なら。
ヨロトル
こんなことはしない方がいい。
ヨロトル
ショチのステージを一目見て、理解した。
ヨロトル
あれを超えることは、自分にはできないだろう。
ショチ
心に、痕が刻まれていくのを感じる。
ヨロトル
元より策に嵌められたのは自分の方。
ヨロトル
何かがある、罠に違いないとは知りながら、それでもいいと受け入れた。
ヨロトル
その判断が誤りだったとは思わない。ツケを払うことになるのが自分で良かったとも思う。
ヨロトル
だから、ここで自分が終わることに異論はないのだ。
ヨロトル
で、あれば。
ヨロトル
ここでショチを突き放したまま、
ヨロトル
お前の心を嬲って笑う男のままに別れた方が、ずっといい。
ヨロトル
最大公約数の幸福。
ヨロトル
この愛咬は、それに反するいわば不合理だ。
ショチ
結局のところ。
ショチ
自分は奥底までほぼ見抜かれていて、逆に自分は、彼のことをきちんと理解していなかった。
ショチ
それでも、さすがに分かりはする。
ショチ
今しているのは、合理的ではないことだ。
ショチ
理屈に沿った動きではない。
ヨロトル
生きとし生けるものすべてを愛している。
ヨロトル
そのすべてに幸いのあることを願っている。
ヨロトル
レンジは、ヨロトルの振る舞いに境界を乗り越える軽快を見た。
ヨロトル
だがこの男の挙措の本質は、決して揺るがぬ自他境界線の強固さにこそある。
ヨロトル
自分と、それ以外。
ヨロトル
それを強固に隔てることが叶うからこそ、他の何もかもをも乗り越えられる。
ヨロトル
そうなったのは、部族の皆が。
ヨロトル
自分以外の全てが死に絶えたからだ。
ヨロトル
自分が死んで救われるはずだった皆が。
ヨロトル
一人残らず死に絶えて、ただ一人、意味も分からず残された。
ヨロトル
その事実に、この男も人並みに打ち拉がれはした。
ヨロトル
その衝撃に、立ち上がることも叶わぬまま、太陽が何度空を巡ったことか。
ヨロトル
覚えていない。数えてすらいない。
ヨロトル
それでも死なない自分に気付いて、
ヨロトル
自分というものが、分からなくなって。
ヨロトル
だから。
ヨロトル
自分以外の全てを愛すことを決めた。
ヨロトル
元より、他人が好きだ。人の営みが好きだ。人の喜ぶ顔が好きだった。
ヨロトル
だから献身に苦はなく、死のない身体で搾取に怯える必要もなく。
ヨロトル
暴力。搾取。陵辱。焼却。水没。解剖。幽閉。追放。
ヨロトル
その全てを受け入れて、自分という存在に他者に捧げることに、苦はなかったのだ。
ヨロトル
これだって。
ヨロトル
今から起こることも、その一環だろう。
ヨロトル
今度こそ自分は死ぬ。
ヨロトル
この世界に堕ちて。
ヨロトル
心臓を失ったままに限りある生命を得た自分は、少しだけ、生き方を変えた。
ヨロトル
再びの生存競争に放り込まれたことを理由に、他人に暴力を振るうて、生き残ることを良しとした。
ヨロトル
同行する救世主のうち二人。
ヨロトル
レンジとショチが、自分以上にひどく暴力を嫌うことも、それを許した理由の一つだ。
ヨロトル
他人を害し、暴力を振るう、その感触はひどく不快ではあったが。
ヨロトル
それでも存外、生き方を変えることは叶うものだと、思ったのだ。
ヨロトル
だが。
ヨロトル
愛し方は変えられなかった。
ヨロトル
そう、思っていた。
ヨロトル
生きとし生けるもの全てを愛し、出来うる限りの全員の幸福を望む在り方。
ヨロトル
そんなものが夢物語だとは理解していて、
ヨロトル
だからせめて、自分の手の届く範囲にそれを留めていたものだが。
ヨロトル
こんなことをしたら、ショチの心には疵が残るし。
ヨロトル
ショチに心を揺らされるレンジも、そりゃあ後々大変だろうし。
ヨロトル
ショチとレンジに思うところのあるサヨにも、大きな負債を残してしまう。
ヨロトル
立つ鳥跡を濁さずだとか。そういう言葉を知っているが。
ヨロトル
これはその正反対。
ヨロトル
ネガティブ。
ヨロトル
この上ない非合理!
ショチ
ショチには、ヨロトルの境界が見えてはいない。
ショチ
彼の中の法則を、理解できているとは言い難い。
ショチ
だからショチにとっては、高い壁のような見え方に近い。
ショチ
自分が彼に依存しても、逆は有り得ないと。自分が彼を特別視しても、逆は有り得ないと。
ショチ
ヨロトルは理性を崩すことなく、ショチを俯瞰しているのだと。
ショチ
その視線はとても高い場所に位置するものに見えていた。
ショチ
愛されてはいるが、しょせんそれは慈愛のようなもの。万人に振りまくことができるもの。
ショチ
二人の心は、とても離れた場所にあると感じていた。
ショチ
彼が何も感じない、心ない存在の類ではないと信じたくて。自分には、彼の興味を惹きつける何かがあると信じたくて。けれど、確信は持てなくて。
ショチ
二人きりの時間を多く過ごしても、身の上の話を聞いても、その心に至るまでの道をなぞれないショチは、彼の気持ちに寄り添うことができず。
ショチ
理解も、及ばない。他の誰も知らない秘密を多く知っている。体を知っている。癖を知っている。リズムを合わせることができる。けれど、それは本質とは遠いことだ。
ショチ
ショチは彼を強いものと評価していた。心の疵も、その人間離れした性質を示すものだ。
ショチ
だからこれは、ショチが初めて見る一面だ。
ショチ
強い者の行いではない。
ヨロトル
唇が離れる。
ヨロトル
最後に名残を惜しむように、ショチの唇を濡らす唾液を舐め取った。
ヨロトル
ごく近く。吐息のかかるほどの距離で。
ヨロトル
あなたも見たことのない顔で、男が笑う。
ヨロトル
「ショチ」
ショチ
「……んだよ?」
ヨロトル
「愛してるぜ」
ヨロトル
「お前のために死んでやる」
ヨロトル
「だから」
ヨロトル
「俺をお前の、特別にしろ」
ショチ
「………………!」
ショチ
驚きに目を見開いて。
ショチ
離れる体を惜しむように、手は伸びて。
ショチ
止まって。
ショチ
うつむいて。
ヨロトル
あなたの答えを待っている。
ショチ
「……」
ショチ
何と言えばよいか、迷った。
ショチ
思い通りに言葉を紡ぐ事のできない口。
ショチ
思うままに喋れば、すべてがあべこべの嘘になる。
ショチ
取り繕えば、中途半端な言葉となり。
ショチ
ぼかせば、あやふやな言葉となる。
ショチ
「…………」
ショチ
いや、何も考える必要はないのだ。
ショチ
この男は、自分を理解している。
ショチ
ただ、それを信じればいいだけだ。
ショチ
大丈夫だ、ちゃんと伝わる。だから、勇気をもって、口を開く。
ショチ
「お前の事なんて覚えてるわけねーだろ。その他大勢の中の一人だ、しょせん!」
ショチ
「利用するだけ利用して……まあ、オレの替わりに死ぬってとこだけは、ありがたく受け取っておいてやるよ!」
ヨロトル
「ははは」
ヨロトル
「ホント」
ヨロトル
「かわいい女だよ、お前は」
ヨロトル
「そうだな」
ショチ
「はー?バカにしてんのか?」
ヨロトル
「いいや?」
ヨロトル
「お前のことは、本当に、愛おしく思ってるよ」
ヨロトル
「だからお前のために死ぬんだ」
ヨロトル
「なあ」
ヨロトル
「俺が死ぬんだから」
ヨロトル
「これからはもっと、うまくやれるよな?」
ヨロトル
「俺が死んだせいでグループ解散とか、正直勘弁だぜ」
ショチ
「おう。幸せになって長生きしてやるさ。他のいい男とかとくっついてな」
ショチ
「そのへんはまあ、レンジが頑張る」
陽向 レンジ
「…………」
陽向 レンジ
「大丈夫」
ヨロトル
「いい男がすぐ近くにいるんだもんな~」
陽向 レンジ
「解散なんて、しない」
陽向 レンジ
「もとより、解散しないために歩んできた道なんだ」
ヨロトル
「ははは」
ヨロトル
「そうだな」
ヨロトル
「信じてるぜ」
ヨロトル
「…………」
ヨロトル
ふと、抱きしめたままのショチへと目を落とし。
ヨロトル
大口をその肩口に寄せて、
ヨロトル
がり。
ヨロトル
大きな歯型をそこに残す。
ショチ
「っつ!」
ショチ
「あ~~!やりやがったなてめーコラ!」
ヨロトル
「はっはっはっはっは」
ヨロトル
「治すなよ~、それ」
ヨロトル
「できれば痕にしろ」
ショチ
「は?すぐに消してやるわこんなもん!」
ショチ
そう言いながらも、その傷には何もしない。
ヨロトル
「こいつは手厳しい」
ヨロトル
それを理解しているから。
ヨロトル
笑いながら、ゆっくりとその抱擁を緩め。
ヨロトル
ショチから手を離した。
ショチ
「……ったく。趣味わりー置き土産残しやがって」
ショチ
愛し気に、自身に新しく刻まれた凹凸へと指を触れる。
ヨロトル
その様子を眺めて。
ヨロトル
「……やっぱ、そうだな」
ヨロトル
「お前には赤が一番似合うよ」
ヨロトル
そう笑った。
ショチ
「今それ言う!?」
ヨロトル
「はははは」
ヨロトル
「……さて、じゃあ、そろそろか」
ヨロトル
「観客も随分待たせたっぽいしなー」
ショチ
知らない一面。うれしい一面。今知ってしまうのは、あまりにも辛い一面。
宮鳴 サヨ
「サイテ~ですね」
陽向 レンジ
「ん……そうだね」
ヨロトル
ショチの内心など知らず。否。知ってのことか。
宮鳴 サヨ
一人ステップを踏んでいた。
ヨロトル
彼女に背を向けて、観客の方を向いて。
ヨロトル
自分の教えたステップを踏む機械人形を、振り返る。
ヨロトル
「サヨ」
宮鳴 サヨ
踊るどころか、歩くことすら向いていない歪な脚で。
ヨロトル
「流石に俺一人じゃあ荷が重い」
ヨロトル
「頼めるか?」
宮鳴 サヨ
「ボクにも呆れという気持ちが、わかってきたような気がします」
宮鳴 サヨ
「つくづく変わらないのですね、あなたは」
ヨロトル
「そうかあ?」
ヨロトル
「結構変わったと思うんだけどな、俺」
ショチ
聴こえている。
ショチ
そうか。これは変化なのか。
ショチ
だとしたら……自分は、彼を変えたのか。
宮鳴 サヨ
「どうでしょうね。ブレの範疇かもしれませんよ」
ヨロトル
「ブレが偏りきったまま死ぬんなら、変化でいいような気がする」
宮鳴 サヨ
「もう少し長くあなたと過ごせていたら、確信に至れたのかも知れませんけどね」
ヨロトル
「残念だな~」
ヨロトル
「まあ、でも、最期だ」
ヨロトル
「折角だから見極めてくれよ」
ヨロトル
「サヨ」
宮鳴 サヨ
「……」
宮鳴 サヨ
「じゃ、そうですね」
宮鳴 サヨ
「最期は、ボク流のやりかたでもいいですか?」
ヨロトル
「そう来るかあ!」
宮鳴 サヨ
「あなたに手を引かれるのを繰り返して終わるのは、ネガティブですから」
ヨロトル
「ま、昼は俺が付き合わせたんだもんな」
ヨロトル
「確かにその方がポジティブだ」
ヨロトル
「じゃあ、サヨ」
ヨロトル
手を伸ばす。
ヨロトル
「今度はお前が、俺を導いてくれ」
ヨロトル
「死出の旅に相応しい音楽だ」
ヨロトル
「それくらいのリクエストは、聞いてくれるだろう?」
宮鳴 サヨ
それに手を差し伸べて。
宮鳴 サヨ
弾く。
ゴーストペッパー
本日、最期のセッション。
ゴーストペッパー
亡者たちが、ステージを見上げている。
宮鳴 サヨ
「いやで~す」
宮鳴 サヨ
「勝手についてきてください」
陽向 レンジ
ロックだ……
宮鳴 サヨ
タン!
ヨロトル
「そんな~」
ヨロトル
「まあ、しゃあねえか」
ヨロトル
「ご同伴願ったのは俺の方だからな」
宮鳴 サヨ
立ったまま腕を交差させ、脚を交互に突き出す。
ヨロトル
弾かれた手を見下ろして、笑う。
ヨロトル
サヨに追従する形でステージへ。
宮鳴 サヨ
「行きますよ」
ヨロトル
「おう」
宮鳴 サヨ
脚を大きく動かしたかと思えば、威嚇するように拳を突き出す。
宮鳴 サヨ
腰をひねる。
ヨロトル
その激しい動きに合わせて跳ねる。
宮鳴 サヨ
腕と脚を逆さまに。
宮鳴 サヨ
「ボクなりに考えた……」
ヨロトル
ショチのようなリードはなく。
ヨロトル
荒削りなその舞踊を、
宮鳴 サヨ
「踊りへの答えがこれです」
ヨロトル
男の才覚で読み取って。
宮鳴 サヨ
裁判で見せるような、激しい動きの軌跡。
ヨロトル
それをずっと見てきた。
宮鳴 サヨ
片腕で身体を支え、宙を蹴り上げる。
ヨロトル
サヨ。宮鳴サヨ。壊れた機械人形。俺たちのグループの、いわば暴力と破壊担当。
ヨロトル
これから待ち受けるものが亡者との戦いであるならば。
ヨロトル
それに相対すべきは、俺よりもお前の力が相応しい。
宮鳴 サヨ
地面を薙ぐように、ぐるりと一回転。
ヨロトル
それを確信させてくれるダイナミックな動きに。
ヨロトル
自分は辛うじてついてまわる。
宮鳴 サヨ
ひとつひとつが、暴力性と躍動感に溢れている。
宮鳴 サヨ
破壊(break)のダンス。
ヨロトル
その猟奇を持て余しながら、僅かばかり心に宿した愛に惑う。
ヨロトル
それらを制御する才覚を持たぬ存在。
ヨロトル
心がないことを自認しながら、自分よりもよほど目の前の事象に惑い、
ヨロトル
その一つ一つに誠実に向き合ってみせる。
ヨロトル
俺が保証する。
ヨロトル
お前には紛れもなく、生命と心がある。
宮鳴 サヨ
「どうしてでしょうね」
ヨロトル
「?」
宮鳴 サヨ
「ボクの目指す真の音楽には、なぜか近づけない」
宮鳴 サヨ
「そのことを、特にネガティブにも感じていない」
ヨロトル
「へえ」
ヨロトル
「今、ここで」
ヨロトル
「俺を壊したいってんなら」
ヨロトル
「サヨ」
ヨロトル
「俺はそれでも、構わないんだぜ」
宮鳴 サヨ
ほんとうは。
宮鳴 サヨ
そうしようとしていた。
宮鳴 サヨ
「いつでもそうできると思って」
宮鳴 サヨ
「後回しにしていると、どうしてかできなくなる」
宮鳴 サヨ
それの繰り返しだった。
ヨロトル
「最後のチャンスだぜ?」
宮鳴 サヨ
ショチを見捨てた時は言うに及ばず。
宮鳴 サヨ
レンジだってそうだ。
ヨロトル
「亡者になる前に、俺を出来る限り痛めつけておく」
宮鳴 サヨ
救世主が四人揃って。
ヨロトル
「もしかしたら」
ヨロトル
「それも合理なんじゃないか?」
宮鳴 サヨ
殺し合うことのないという奇跡を、ずっと続けてきた。
ヨロトル
その奇跡への終止符を前に。
ヨロトル
目の前の男は笑っている。
ヨロトル
「サヨ」
ヨロトル
「俺はお前を愛してるぜ」
ヨロトル
「だから」
ヨロトル
「お前のためなら、壊されたっていい」
ヨロトル
そのように。
ヨロトル
笑って言葉を紡ぎながら。
ヨロトル
今は、それが、ショチに向ける愛とは。
ヨロトル
本質的に違うことを理解している。
ヨロトル
男の心の疵。
宮鳴 サヨ
「……ああ」
ヨロトル
捻じくれ、変質した博愛。
ヨロトル
それを自覚させたのは、
宮鳴 サヨ
「ボクは、あなたの壊れる音が聴きたい」
ヨロトル
紛れもなく、目の前の歌唱人形だ。
ヨロトル
「なら!」
宮鳴 サヨ
「それは変わらない」
宮鳴 サヨ
「でも……」
宮鳴 サヨ
随分と遠回りをした答え。
宮鳴 サヨ
「壊したくは、ないんだ」
ヨロトル
非合理的だ。
宮鳴 サヨ
タン!
宮鳴 サヨ
高らかに床を脚が踏み鳴らして。
宮鳴 サヨ
それでダンスは終わった。
ヨロトル
最後ばかりは、ヨロトルの慣れた踊りのポーズ。
ヨロトル
ひらりと布を翻して、サヨを振り返る。
ヨロトル
「サヨ」
ヨロトル
「ありがとうな」
宮鳴 サヨ
別に礼を言う必要はありません。不合理です。
宮鳴 サヨ
「こちらこそ」
ヨロトル
「ああ」
ヨロトル
「お前が俺を壊したくないと思ってくれたこと」
ヨロトル
「俺はそれが、めちゃくちゃ嬉しい!」
ヨロトル
これから壊されるはずの男が。
ヨロトル
変わらぬ太陽の笑みで、そう言った。
宮鳴 サヨ
「……ネガティブ」
宮鳴 サヨ
つん、とそっぽを向いた。
ヨロトル
「いいや」
ヨロトル
「これ以上なく、ポジティブだ」
ヨロトル
今度はそれを否定して。
ヨロトル
亡者たちに大きく手を振った。
ゴーストペッパー
亡者たちもそれに応じて光を振る。
ヨロトル
白い光が、祝福のように男を照らす。
ヨロトル
これから亡者となり、仲間に討たれて死ぬつもりの男への。
ヨロトル
それは手向けの花に似ていた。
GM
***
[ ヨロトル ] ティーセット : 1 → 0
ヨロトル
これは減らし忘れ!
ヨロトル
*データだけ先に宣言。
 日刻みの時計とヤリイカをサヨに譲渡します。
[ ヨロトル ] ヤリイカ : 1 → 0
[ 宮鳴 サヨ ] 時計 : 0 → 1
[ 宮鳴 サヨ ] ヤリイカ : 1 → 2
ショチ
*ティーセットをサヨに譲渡します
[ ショチ ] ティーセット : 1 → 0
[ 宮鳴 サヨ ] ティーセット : 0 → 1
宮鳴 サヨ
集まってくる……破壊の力が……
ヨロトル
ちゃんと壊してくれよな!
ショチ
*水パイプ*1をレンジに譲渡
[ ショチ ] 水パイプ : 2 → 1
[ 陽向 レンジ ] 水パイプ : 0 → 1

裁判MOD「PC亡者化」(再掲)

お茶会終了時点でPCが亡者化していた場合、裁判直前のタイミングで、下記の手順でキャラクターシートを変更し、他PCすべてに敵対します。
亡者化したPCは「逆転」「切り札」を使用できず、「裁判中のスペシャルとファンブル」の効果を受けません。
裁判終了後、亡者化したキャラクターはロストします。
他PCのデータを参照した上でシート作成が出来ます。
処理が重いと感じる場合やプレイヤーが不慣れな場合、またはプレイヤーが希望する場合は、こちらのMODは適用せず「PC亡者化(ライト版)」を適用してください。
①PK「亡者」のシートを新規作成します。
②名前、肖像画を自由に変更しても構いません。スートは救世主のものを使用します。
③シナリオ指定の脅威度を記載します。
④能力値は変更しても構いません。
⑤技能を好きなだけ置き換えることができます。「亡者専用」の技能も取得可能です。
⑥任意のイカサマを〔自身を除くPCの人数〕個取得します。脅威度が3、5、7に達するごとに、習得しているイカサマから1つ選んで一段階強化できます。
⑦凶器は亡者の凶器を装備しています。小道具はありません。脅威度4以上の亡者は、新たに三種類の凶器を装備できます。「PK専用」の亡者専用欄を参照し、条件を満たす凶器を1つ選んでください。
⑧PK作成と同様の手順で配下を作成します。
⑨PK強化MODや難易度変更MODなどを採用している場合、それらのPK強化を適用します。
⑩PCと同様に〔15+【猟奇】+(【愛】×2)〕の値を計算します。更にその値を〔自身を除くPCの人数〕倍したものが亡者のHPになります。もしお茶会フェイズでHPが増減している場合は、最後にそれを適用します。