エピローグ
イーデン
精霊を従えるなどといった、仰々しく素晴らしい奇跡の力はイーデン・クロフツにはない。
イーデン
猟奇型救世主によく見られる、自らの武器を出現させる、というような能力もない。
イーデン
たったひとつ、くだらない、何の役にも立たない奇跡。
イーデン
目の前の存在の落命を、過つことなく感じ取るだけの力。
セシリア
耐えきれず、「そう」なる時が来るまでの。
イーデン
彼には彼なりの義があり、彼なりのささやかな願いとして、平和な日々を望んでいた。
イーデン
四年もの間それを維持し続けた功績は、讃えられてもよいものだろう。
イーデン
その亡骸に構わず、男は無言に立ち上がる。
イーデン
自分には成し遂げられやしない街の平和の真ん中で。
イーデン
ただ自分に従うだけの女へと、声をかける。
イーデン
「補給だけは済ませよう。水の精霊にでも声をかけろ」
セラ
「待ってください。 コインを……パンディオンが街の維持のために溜め込んでいるコインがあります」
イーデン
「奪われてるんだろう。そうなるのが正しい」
セラ
亡骸の上着から、コインを取り出す。
それをイーデンへ。
セシリア
いやでもこれは 分かりますか? 私が彼を推している理由が……(後方腕組面) ってなってもしょうがなくないですか?
セシリア
分かりますか? 私が彼を推している理由が……ってなってます
セシリア
受け取って、視線はまた一度亡骸へ向けられる。
イーデン
汚れた手拭いでナイフの血を拭いながら、パンディオンの亡骸とセラに背を向ける。
セシリア
もう少し歪む前、精霊たちが耐えきれなくなる前。
セシリア
彼を本当の意味で助けるものがいたなら、こんなことにはならなかったかもしれない、と思う。
セシリア
パンディオン程度の救世主の力でこれなら。
セシリア
もし、もっと裁判を積極的に行い、もっと強力で、もっと害意のある救世主。
セシリア
そういう救世主が、人の心を操る疵の力を持っていたなら、
セシリア
果たして、自分たちは抗えるのだろうか──
セシリア
考えても仕方のない思考をかぶりを振って追い払い、イーデンの後に続く。
イーデン
困ってはなくない? 困りすぎて意味もなく困ったねが口をついてでるようになってしまった
セシリア
ぜつもりに向かうならこの引きしないといけないからな。
セシリア
またなんか豊かできれいな場所に行くらしい我々。
セラ
パンディオンの亡骸に視線を落としていたが、顔を上げる。
イーデン
紫煙を燻らせながら、億劫そうにセラを振り返る。
イーデン
「さっさと言え。聞くかは内容で判断する」
セラ
「協力した精霊たちは、誰一人としてパンディオンの死を望んでいなかったはずです。 ……僕を除いて」
セラ
「隣の街に行くまででいい、次の期限のための保険でいい。 少しの間、同行させてもらえませんか?」
イーデン
だがその迷う間に、セシリアを向くことは一度もなかった。
イーデン
煙草を指に挟んで口から離し、セラを見下ろす。
イーデン
「……俺は才覚型の救世主があまり好きじゃない」
GM
きらびやかで賑やかな街は、しんと静まり返っている。
GM
精霊たちは誰一人としてパンディオンが死ぬことを望んでいなかった。
GM
しかし、救世主たちに好意を寄せたものは多かった。
GM
コインは平等に分配され、精霊たちは奴隷から、個の救世主となる。
GM
誰かがうまくまとめ上げるかもしれない。 大規模な裁判になるかもしれない。
GM
どちらにしても、それは、一人ひとりが選んだこと。
GM
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DEAD OR ALICE
『奴隷精霊の街』
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