エピローグ
GM
ラビング・ラビットは倒れ、それが撒き散らしていた恋の毒は失われた。
GM
ふと周囲に目を向ければ、あるいは耳をすませば
GM
まだ何やら村人たちの様子がおかしいことに気がつくでしょう。
GM
あるいは、自分の胸に手を当ててみてもいいかもしれませんね。
GM
恋の毒はきれいさっぱりなくなりましたが、芽生えた恋心はそうではありません。
GM
それはこれからも続いていくかもしれないし、ある日ふっと冷めるものかもしれません。
宮城ユウキ
同時に引き切らぬ心の挙措を悟り、理解する。
宮城ユウキ
自分の選び定めたそれが、これからも侵されゆく未来を知る。
宮城ユウキ
違う。揺れているのは意識だけではない。
藤花
あなたの近く、恋する相手のみを見つめていた瞳がパッと上がり、あなただけを捉える。
宮城ユウキ
浅い呼吸に投げ出された手が、血に濡れている。
宮城ユウキ
辛うじての浅い呼吸に、低い体温。
一方で白い肌を血混じりに伝い落ちる汗。
宮城ユウキ
それは恋という毒でなく、
絶望という毒でもなく、
藤花
血に濡れた手をとって、脈を測る。多少の医学の心得が、少年の体が亡者と己の毒で限界を迎えつつあることを悟る。
藤花
結局こうなの?結局殺してしまうの?こうならないようにと思って、結局この終わりにしかたどり着けないの?
宮城ユウキ
どれほど呼びかけたとて、少年からのいらえはない。
宮城ユウキ
今なお血の気の失せゆくさまが明らかに。
宮城ユウキ
裁判で冴え渡ったあなたの才覚は、それを正しく読み取ってしまう。
藤花
……やれるかもしれないことが、ある。あるけれど、それはひどく怖くて。
藤花
少しだけひんやりとした体温。清浄で、私の好きな温度。
藤花
「でも、そしたら血が足らんくなるし、新しく入ってしまう分があるし」
藤花
これだってかなり危うい選択なのだけれど、とても怖いのだけれど
藤花
シェリだって、限界に近い。全回復なんてできようはずもなく。
藤花
「だから、そっちの分、シェリが補って浄化してくれたら、多分いける」
藤花
私の粘膜が直接注ぎ込んだ毒よりも、吸い出す毒の方が多分少なくて済む。そして私の毒は、私に即効性はない。
藤花
でも、それは本当に怖いことで。死なせたくない人を、2人も、自分から毒に触れさせるなんて。
シェリ
ぼくも、本当のことを言うと限界が近いのだけれど…
シェリ
この子がはじめてぼくを頼ってくれたのだから。
シェリ
今のユーキを助けられるのはぼくだけなのだから。
藤花
この少年にとっては救われることも血を吸われることも残酷なことだけれど。
シェリ
藤花をあやすように、慈しむように。撫でてやる。
藤花
添われる体温に、慈しみの手のひらに、心臓がキュッと音を立てる。
藤花
もう時間がない。脈を測るため手首を握る手はそのままに
藤花
穴を開け、血を吸う。先ほどとは違い、なるべく毒を送り込まないように。
藤花
私が汚してしまったものを、できるだけ取り除くように。
藤花
人を殺す化け物の女が、化け物の力を、生かすために振るう。
藤花
少年の身を起こすように支えながら、自身は崩れ落ちる。
宮城ユウキ
その肉は力ないまま、人でなきものに預けられる。
藤花
あらゆる感情で揺れる瞳が、人でないあなたを見つめている。
シェリ
手を翳して、癒しを与えようとして―水を操る力すら残っていないことに気付く。
宮城ユウキ
反応もない。
交接はあなたの意のままに為される。
シェリ
体液を介して、愛を。癒しを。その身に満たす。
藤花
心の疵にまつわる権能を搾り尽くした女は、もはや言葉を発することはない。ただ揺れる瞳で、その様を見ている。
宮城ユウキ
冷え切った唇、毒に因る唾液の過剰分泌。
宮城ユウキ
力なく伸びた舌が口腔内に触れ合わされる。
宮城ユウキ
生々しい肉の接触に反して発揮される清ら癒しの力。
シェリ
こんな世界でも、絶望にその身を灼かれていても。
シェリ
伸ばされた舌を絡め取って―己に残ったすべてを注ぎ込む。
宮城ユウキ
父が、母が、腕の一振りで殺されるのを見た。
宮城ユウキ
指を喰まされ、肉をこじ開けられ、玩弄されるさまを。
宮城ユウキ
割られた窓から中天に、赤い赤い月が浮かんでいて
宮城砦
『俺は君のこと引き取って面倒見てやることもできるけど』
宮城砦
『多分そうすると君はある程度吸血鬼に狙われると思うんだよねえ』
宮城砦
『俺は君を引き取っても、吸血鬼を殺すことはやめない』
宮城砦
『それで俺の周囲が狙われることが分かってても』
宮城砦
『結局奴らは生きて存在し続ける限り誰かを狙うから、むしろ俺の近くでそれが起きるんなら、感知しやすくて助かるとすら思う』
宮城ユウキ
その光が、月が綺麗で、柔らかそうな髪をべったりと濡らす血の赤ささえ輝きを映え立たせて。
宮城ユウキ
家族を愛していた。家族に愛されていた。幸せな家庭に生まれ育ったと思う。恵まれていたと思う。妹を守りたかった。妹を守らなければならないと思っていた。
宮城ユウキ
塗り潰したこの男を、選ぶしかなかった。
宮城ユウキ
それが運命で、どうしようもなくて、抗えなくて、自分という人間を決定的に破壊し尽くす、
宮城ユウキ
唯一無二でなければどのように、自分は彼らに顔向けできよう!
宮城ユウキ
あなたたちの死を悼めなかった。
あなたたちの生に報いることができなくなった。
宮城ユウキ
全部全部、どうでもよくなってしまった。
宮城ユウキ
憤怒と絶望を塗り潰したそれが、運命でなければ許されないと、
宮城ユウキ
それに耐えられない。
あれが一度きりの運命でないならば。
ありきたりな恋と同列に貶められるものであるならば。
宮城ユウキ
あの夜の絶望と憤怒を、手放したとでも、言うのですか。
宮城ユウキ
それでは誰も救われない。
そうでなくとも誰も救われない。
GM
ラビング・ラビットが退治され、亡者の毒は消え。
GM
村人たちの様子もおかしいままということです。
GM
あれから大変な様子の救世主たちに、様子のおかしい村人の何人かが寄ってきて
GM
「救世主様!」「どうぞうちでお休みください!」「いやうちで!」
GM
そういう小競り合いがあったりもしたらしいです。ユウキがぶっ倒れている裏で。
GM
そういうなんやかんやがあり、あなた達はどこかの部屋を借りて休ませてもらうことができました。
藤花
そんな言葉で体よく村人を家から追い出し、こんな村ではそこそこマシな屋根の下を手に入れる。
シェリ
ひとまず たてつけの悪い扉を閉じて、溜息。
宮城ユウキ
一つしかないベッドに寝かされ、ユウキは昏々と眠っている。
宮城ユウキ
裁判閉廷後、倒れた直後よりは随分とましな顔色になった。
宮城ユウキ
それでも毒に冒された身体に鞭打った代償か、その眠りは深く、そして長かった。
宮城ユウキ
少年はゆっくりと瞼を上げて、周囲を見回した。
宮城ユウキ
重い背を起こす。
処置がなされていること、喉に巻き直された古びた包帯を確認する。
シェリ
力をすっかり使い果たした精霊は、部屋の隅で蛹のように漂っている。
藤花
ひりついた殺気を浴びて、なんでもないように笑っている。
宮城ユウキ
「俺は結構、調子良かったと思ったけど」
宮城ユウキ
終幕スペシャルで6点回復して亡者のHP消し飛ばして終幕-2の効果で無罪潰せるくらいには。
藤花
「今の今までぶっ倒れとったもんが何言うてんの」
宮城ユウキ
「あんたの毒を受けたのも、同じく俺の責任」
宮城ユウキ
「特別に負荷を強いられたとは思わない」
藤花
「その役割分担の上で、あの子は回復、あんたは前線」
宮城ユウキ
「その程度で無理させたとか言われると」
宮城ユウキ
「どんだけ弱く見られてんだって話になんだけど」
藤花
と言うより起こしてしまった?と、視線を向ける。
宮城ユウキ
「俺は、俺が殺したくてあの亡者を殺した」
宮城ユウキ
「あんたのために無理した、みたいに表現されると、気分を害さざるを得ない」
宮城ユウキ
藤花に言い放ってから、改めてシェリを向く。
シェリ
…そう言葉を返したものの、自分の行為に後ろめたいところがないではなく。
シェリ
やや強引に視線を切って、二人の周りをくるくると周る。
宮城ユウキ
首を揺らしたり肩を回したりをしてから、降ります。
藤花
「流石にバッチリとはいかんけど、痛いところ特にないなあ」
宮城ユウキ
寝台を降りて立ち上がると、自然、寝台に身を預けた女を見下ろす形になる。
宮城ユウキ
立っている意味もないと改めて寝台に腰を下ろしながら、
宮城ユウキ
それでも時折、抑え切れぬ殺気が顔を覗かせる瞬間がある。
藤花
言われるだけの事実と、言われるだけの責任が間違いなく自分自身にある。
藤花
殺意も怒りも当然だと思っている。受け入れた上で、殺されてあげるわけにはいかないが。
藤花
「じゃあ、うちからはお礼。トドメ、譲ってくれてありがとう。」
藤花
少年の「感謝してよね」と言う言葉を思い返している。言われるまでもなく、感謝をしている。
宮城ユウキ
名前を口に出そうとして、殺意が別の方向に膨れ上がりそうなので、避けている。
宮城ユウキ
ラビング・ラビットを殺してもこの恋の呪縛が解かれぬ以上、
宮城ユウキ
あの場で藤花だけを殺して一人離脱するのが、自分の”運命”を最大限守るためには適切だったようにも思わないでもないが。
宮城ユウキ
こうしたことを、間違いではないと思う。思いたいと思っている。
藤花
毒の霧が消えてもなお、女の体には恋の毒が取り込まれ、心臓を軋ませ締め上げている。
藤花
「うちは、別にうちのために頑張ったとかではなく、うちと同じ場で動いてくれて結果利になったもんには礼すんの」
藤花
「おんなじとこで働いとるもんに礼尽くすんが、うちのやり方。だから、あんたのやってくれたことが偶然でも外的要因でも、うちは感謝しとんの。」
藤花
「いつか礼でもするから、欲しいもんでも考えといてや」
藤花
そう言って笑う。先ほどまで瞳に翳っていた恋は、外からはもう見えない。
宮城ユウキ
「その調子で言葉を尽くしてくれると助かる」
宮城ユウキ
「正直、納得はそんなに行ってないけど」
宮城ユウキ
「要求に応えてくれてることが伝われば、溜飲は下がるし」
宮城ユウキ
この衝動のままに藤花を殺してしまえば。
宮城ユウキ
それこそがあの夜に対する最大の裏切りだ。
宮城ユウキ
あの人を殺したのだから、藤花を殺してはならない。
宮城ユウキ
最後に唯一、縋ることを許された寄す処になる。
藤花
「そうね……頑張らせてもらうわ、殺されないように。」
宮城ユウキ
「……そもそも耐えるべきは俺の方だから」
宮城ユウキ
「あんたに責任おっ被せてもらんないんだけど……」
宮城ユウキ
努めていくけど……保証ができなくて……
藤花
「ユウキ、あんたはんの日常に居れるように。」
藤花
一番苦しい、裏切りの生の中に、自分が存在し続けるように。
藤花
たとえ毒を撒き散らすだけの身だとしても、線のあちらとこちらを分けないように。存在を、し続けるように。
宮城ユウキ
この国にはいくらでも転がっているそれらと、付き合っていかねばならない。
生きていくのならば。
宮城ユウキ
「多分、色々、してもらっちゃうと思うけど」
シェリ
この先、いつまでこうしていられるかなんて分からないけれど。それでも繋いでいけるように。
宮城ユウキ
「もう遅いし、そろそろ休んでいいんじゃないかな」
宮城ユウキ
二つしかない寝台の一つに腰を下ろしたまま、ゆっくりと腕を広げてみせた。
シェリ
視線が泳ぎに泳いで、縋るように藤花を見る。
宮城ユウキ
「体験してみるのも悪くないと思うけど」
藤花
「ええんとちゃう?いつもの寝方より疲れ取れるかもよ?」
宮城ユウキ
「これだけ広くベッド使わせてもらえるのも、まあ珍しいよ」
宮城ユウキ
村人追い出してるのかもな……とは思うけど……
藤花
にこりと笑って援護。動揺する子、かいらしねえ。
宮城ユウキ
まあ……あの亡者倒させられた代価と思えば微々たるもんでしょ……
シェリ
知識はある。あった。だからこそ、感情の灯った今のぼくは―
宮城ユウキ
宙空のシェリの手首を掴んで引き寄せた。
藤花
シェリの心がユウキによって定義され、揺れるのを、好ましいと思っている。そんなあなたを好きになったのだから。
シェリ
「…………わかった!寝るから!いっしょに!」
藤花
少しばかり痛むものも、ないではないのだけれど。
宮城ユウキ
性格的に俺が起きるまで一睡もしてない気配あるし。
シェリ
この恋を伝えるつもりはない。心を分けてもらったあの瞬間に、ユーキの中にあるものを見たから。
シェリ
でもまあ、今のは。ユーキがいいって言ったし。言ったんだし。
藤花
寝ていないと言うより、寝られなかったのだ。不安や、哀しみや、あらゆる感情が渦巻いて。
シェリ
「ぼくと一緒にいてくれてありがとう。………大好き、だよ」
宮城ユウキ
シェリを捕まえたままに、ベッドに転がる。
シェリ
このぐらいなら、まあ、いいのかな、なんて。
宮城ユウキ
精霊の歓喜に触れる。
揺れ動く感情のさまを理解している。
宮城ユウキ
自分には――自分たちには変化が必要だ。
宮城ユウキ
だから触れている。だからこうしている。
宮城ユウキ
何を笑う。何が楽しい。なぜ生きている。
お前が見捨てたものはもう笑わない。
お前が選び定めた運命は最早亡い。
宮城ユウキ
お前が努め積み重ねる全てに意味はない。
変化はそのまま運命への裏切りに繋がり、
その裏切りは、いつか来る今更の死を遠ざけるための時間稼ぎに過ぎないというのに。
宮城ユウキ
生きているのが苦しい。生きる理由がない。
生きていたくなんてとうにない。
それでも寄り添って生きている。
宮城ユウキ
それが一欠片でも、何かをもたらすことができたなら。
藤花
ふたりが素直な言葉を交わし合う、その様に一瞬だけ、誰にも気づかれないように表情を崩して。
藤花
触れるのが怖い。それはまだいい。でも、もっともっと好きになって、もっともっと欲深くなって
藤花
触れて欲しいと、思ってしまったら?もっと求めて、もっと繋がりたいと思ってしまったら?
藤花
怖いからと、触れてはいけないからと線を引く段階は過ぎてしまった。それが当たり前だからと最初から勘定に入れていなかった私を、変えていかなければいけない。
藤花
どうか、私に好きになられないでね。これ以上、私を惚れさせないでね。
藤花
私の恋が、同じだけの見返りを求めないものであり続けられますように。
シェリ
失くしたものと、まだ無くなっていないもの。その両方が、手の中にある。
藤花
毒の色、花の色、夜の色をした瞳を、瞼に隠して。
藤花
眠る二人の下、寝台のへりに頭と体を預けて、力を抜いた。
シェリ
”ぼく”の在り方を変えたからこそ。変えることを選んだからこそ、分かる。失くしてしまうことはひどく悲しくて苦しい。
シェリ
だから―今度は、きっと間違えないように。愛は受け取るだけのものではなく、愛されるための手段でもなく。
シェリ
大切なものを失くさないために、自分から与えられるように。
シェリ
器が変わったからこそ、ぼくも変わっていかなければ。手の中から零れ落ちていかないように。
シェリ
失くしたものは失くしたままで、それでもぼくに力をくれる。今あるものを手放すなと。
シェリ
いつか来る最期に、少しでも悔いのないように。
シェリ
今のぼくにできる精一杯を、恋しい愛しいこの子たちに捧げたいと願って。
GM
外では未だ、村人たちの乱痴気騒ぎが続いています。
GM
この村が元の静かな村に戻るまで、まだもう少し時間がかかりそうです。
GM
……それはもしかしたら、全然静まってなどくれないのかもしれませんが。