お茶会 ラウンド2

行動:藤花

藤花
1d12 シーン表 (1D12) > 3
GM
3 万屋。日用品や雑貨、食料、服など。店主が熱いまなざしでこちらを見ている。
GM
戻ってる。
GM
振り直しても大丈夫です。
GM
振らないで指定してもいいし
藤花
じゃあちょっと振りなおします
藤花
1d12 シーン表 (1D12) > 6
GM
6 廃教会。今は誰にも使われておらず、何が信仰されていたのかは分からない。
藤花
シェリは正気に立ち戻ったとはいえ、毒の霧をまともに吸ったのだ。
藤花
身を焦がすような熱の感覚も、まだ体の底から消えてはいない。
藤花
とりあえずの休息を取るべき そう判断し、屋根のある場所を探す。
藤花
たどり着いた先は、教会だった。朽ちていて、屋外よりはマシと言った程度。
宮城ユウキ
堕落の国の建物なんて概ねそんなものだ。
宮城ユウキ
この辺鄙な村にしては上々といったところ。
宮城ユウキ
アリス信仰は堕落の国の片隅にさえ、
シェリ
黴のにおいと、うっすらと差し込む光。
宮城ユウキ
いや、片隅だからこそ強く根付いている。
GM
床には埃が積もっている。
宮城ユウキ
救世主を求める哀れな末裔たちの信仰の導に。
宮城ユウキ
今は駆け出しの救世主が身を寄せ合っている。
藤花
「……この国ではうちらも神様扱い、っちゅうわけか。」
藤花
朽ちた像を眺めて、つぶやく。
宮城ユウキ
「ぞっとしない話だね」
藤花
「ほんまに。」
シェリ
「………」
藤花
「生贄やろ、こんなもん」
宮城ユウキ
「実際この前生贄に捧げたからね」
宮城ユウキ
「まあ、悪いのは信仰よりも」
宮城ユウキ
「この国の仕組みそのものって思うけど」
シェリ
「そうだねえ」
シェリ
ひと月ごとに死を求められるそのさまを、贄と呼ばずしてなんと呼ぶのか。
宮城ユウキ
望みもせず与えられた力の代償にはとても釣り合わない。
宮城ユウキ
この国へ捧ぐ献身を、自分はいまだ持ち合わせていない。
宮城ユウキ
さりとて死んでやるつもりもまだないので、こうして生存競争に身を投じてはいるが。
藤花
仕組みに求められ、仕組みに使い潰される。前の世界でも覚えのある話。
藤花
結局やっていることは変わらない。
藤花
「身ィ捧げる相手も選べんっていうのは、嫌な話やなあ」
宮城ユウキ
「…………」
藤花
軽い口調で、冗談のように。実際はただの自虐なのだけれど。
宮城ユウキ
「この国でも、身を捧げる相手を選ぶ手段はあるよ」
シェリ
「あるの?」
藤花
ユウキがこの話題に乗ると思っていなかったので、少し驚いている。
宮城ユウキ
「うん」
宮城ユウキ
「この人と選んだ相手に懇願して、殺してもらうことだ」
シェリ
「―――」
宮城ユウキ
「そうすることでその命はその人のために消費される」
宮城ユウキ
「好いた相手の30日になれる」
宮城ユウキ
「最終手段ではあるけど」
宮城ユウキ
「でも」
宮城ユウキ
「死んでしまえば、もう終わりだから」
宮城ユウキ
「裏切ることだって絶対になくなる」
宮城ユウキ
「俺は」
宮城ユウキ
「それが悪いことだとは思わない」
藤花
「……」
藤花
「……まるで」
藤花
いや、これは余計なことだ。
宮城ユウキ
「まるで?」
藤花
言わなくていい。言わなくていいこと、なのだけれど。
宮城ユウキ
あなたの尻尾を少年が捕らえる。
藤花
「自分に心当たりあるような、口ぶりやね。」
宮城ユウキ
「…………」
藤花
情による死を、献身を、肯定する。
藤花
少年のそれは、我が身に起こったことを語るそれだ。
藤花
されたことか、もしくは、できなかったことか。
宮城ユウキ
「まあ、そうだね」
宮城ユウキ
「堕落の国のことではないし」
宮城ユウキ
「それによって、30日の猶予が発生することもありはしなかったけど」
藤花
「……化け物狩り、しとったんやったね。」
宮城ユウキ
「うん」
藤花
少年の前の世界の話。初めて救世主を殺してみせた日の夜。少年が語っていたことを聞いていた。
宮城ユウキ
今とさして変わらない、淡々と事実を語るだけの声音で。
宮城ユウキ
まるで隠すことも恥じることもないとでも言うように。
宮城ユウキ
化け物殺しと人殺しの過去を騙ってみせた少年。
藤花
まだ幼さの残る少年が、そのように生きてきたことを、不条理に感じれど否定はしなかった。同情もしなかった。
宮城ユウキ
同情を求める色はない。
藤花
きっと自分が選んだ生き方だから。それを否定されることは、少年の全てを否定することと同義だ。
宮城ユウキ
自分を憐れむ気配すらない。
宮城ユウキ
酷く乾き切った声音のさま。
シェリ
藤花がここまで踏み込むという行為に、感じるところがないではない。余計な水を差さぬようにベンチに腰掛けてただ聴いている。
藤花
彼の生き方は否定しない。生きる様を否定しない。
藤花
「あんた……死にたかったん?」
藤花
ただ
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
あなたを見る。
藤花
献身による死を肯定する様にまで、そうはいかなかった。
藤花
もしも、この少年が死に引きずられているのならば。焦がれているのならば。
藤花
「……もし、死ねんかったこと、後悔しとる言うんなら。」
藤花
「……わからんでも、ないけど。」
藤花
「……死なれたら、困るさかい」
藤花
余計なお世話だと思う。酷く言葉を選んでいる。
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
少年の赤い瞳はまっすぐにあなたを居抜き、
宮城ユウキ
その逡巡の様すら見通すようで。
宮城ユウキ
それが伏せられたのは果たして優しさか、
宮城ユウキ
或いは。
宮城ユウキ
「死にたかったわけじゃないよ」
宮城ユウキ
「ただ、死ぬべき機を逃したと思ってるだけだ」
宮城ユウキ
「俺はあそこで死ぬのが正しかった」
宮城ユウキ
「だからこそ」
宮城ユウキ
「あそこで死ななかった以上は」
宮城ユウキ
「今死ぬべきでも、もちろんない」
宮城ユウキ
「そう考えてるだけだ」
宮城ユウキ
「……だから」
宮城ユウキ
「死なれたら困るというカバーストーリーに対しては」
宮城ユウキ
「『死んだりしないよ』って、返してあげられる」
藤花
「死ぬんが正しかった」
藤花
「そしたら」
藤花
「今生きとるのは、間違いみたいな言い方やね」
宮城ユウキ
「そうだね」
宮城ユウキ
「だって」
宮城ユウキ
「もう生きる理由、ないし」
宮城ユウキ
軽い口振りで言う。
宮城ユウキ
「死んだ方がいい理由なら、正直あるんだけど」
宮城ユウキ
「なんもかも今更だからさ」
宮城ユウキ
「まあ、別にいいか、って」
シェリ
「………」
藤花
心当たりがある。痛いほどに。
藤花
生きる理由がない。死んだ方がいい理由はたくさんある。
藤花
あの時、死んでおくべきだった。
藤花
全部全部心当たりがある。否定ができない。
宮城ユウキ
「なに」
宮城ユウキ
「藤花さん」
宮城ユウキ
「……いや」
宮城ユウキ
「あー」
宮城ユウキ
「流石に意地悪か、これ」
宮城ユウキ
何がしか言いかけた言葉を、半ばで呑み込んでみせる。
藤花
「何、坊主。」
藤花
促す。
宮城ユウキ
「『俺に生きる理由があったらいいと思ってる?』」
藤花
「理由なんか、なくたって人は生きていける。」
藤花
「けど」
宮城ユウキ
「けど」
藤花
「そうやって生き続けるんは、苦しい。」
宮城ユウキ
「うん」
宮城ユウキ
「そうだね」
藤花
「だから」
藤花
「理由なんて、いくらでも後付けで探せばええ。」
宮城ユウキ
「そうだね」
宮城ユウキ
「でもさ」
宮城ユウキ
「探したくないんだ」
シェリ
使命、家族、恋人――人は、生きるのにとかく理由をつけたがる。
シェリ
その受け皿になっていた記憶もある。ぼくには理解ができなかったもの。
シェリ
だから、ぼくが立ち入るべきではない。これは、この対話は、2人のためのもの。
藤花
「裏切りたくないもんがあるんか」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「うん」
宮城ユウキ
「俺は」
宮城ユウキ
「俺の人生を、使い潰されたかった」
宮城ユウキ
「選ばれたくなかった。特別じゃなくてよかった。唯一になんてなれなくてよかった」
宮城ユウキ
「俺が勝手に見出した運命だ」
宮城ユウキ
「俺の片想いで良かったし、俺なんてただの通過点で終わるはずだった」
宮城ユウキ
「疵なんて残せなくてよかった」
宮城ユウキ
「でも」
宮城ユウキ
「そうならなかったから」
宮城ユウキ
半吸血鬼。人でないもの。
俺を拾って俺が見出した運命。
あんたに身を捧げるために生きたのに。
宮城ユウキ
あんたの唯一になんかならなくてよかったのに。
宮城ユウキ
どうして俺にあんたを殺させた。
宮城ユウキ
どうして俺をあんたの側に立たせてくれなかった。
宮城ユウキ
一言あんたが望めば俺は、あんたの味方になれたのに。
宮城ユウキ
あんたと同じ化け物の側に立てたのに。
宮城ユウキ
俺は今も悲しいほどに人間で、食餌としての役目を失ったまま。
宮城ユウキ
月の見られぬ国に生きている。
宮城ユウキ
夢さえも最早見られぬまま。
藤花
「……生きる理由探すんが、裏切りになるんか?」
藤花
「殉じて死ぬんが高潔か?」
宮城ユウキ
「あの人に対する裏切りにはならないね」
宮城ユウキ
「あの人は俺にそんなことを望んでなかった」
宮城ユウキ
「俺が裏切りたくないのは、他ならぬ俺自身だ」
宮城ユウキ
「あの日に決めた俺自身の生き方を」
宮城ユウキ
「俺が、裏切りたくないと思っている」
宮城ユウキ
「……でも、そうだね。馬鹿らしいことをしている自覚はあるよ」
宮城ユウキ
「だって」
宮城ユウキ
「もう、裏切りは済んでるんだから」
シェリ
彼を遺した者の気持ちが、少しだけわかる気がする。人ならぬものとして。
シェリ
彼の在り方は―どうしようもなく、人間のそれだ。
藤花
ああだめだ。余計なことを言うな。情をかけるな。
藤花
いいことはない。人の心になんか触れたっていいことがない。
藤花
「いくらでも裏切ったらええやろ。」
藤花
「生きとったら変わる。忘れたくないもんも忘れてしまう。一生だと思った気持ちでさえ薄れてしまう。」
藤花
「これしかないと思ったもん無くしても呼吸は止まらん。」
宮城ユウキ
「そうだね」
宮城ユウキ
「だから」
宮城ユウキ
「それがたまらなく嫌だ」
宮城ユウキ
「俺は、俺の運命を失って」
宮城ユウキ
「呼吸ができている自分が嫌だった」
宮城ユウキ
「生きていられる自分が嫌だった」
宮城ユウキ
「食欲が湧く自分が嫌で、生きるために行動できる自分が嫌だ」
宮城ユウキ
「変わりたくないと思いながら」
宮城ユウキ
「変わりゆく自分を看過している今が」
宮城ユウキ
「たまらなく嫌なんだよ」
宮城ユウキ
「……でも」
宮城ユウキ
「藤花さん、シェリ」
宮城ユウキ
二人に視線をくれる。
シェリ
「なあに、ユーキ」
藤花
「……」
シェリ
割れた窓から、視線を移す。
宮城ユウキ
「今は二人と行動して」
宮城ユウキ
「二人を生かすために生きてる」
宮城ユウキ
「変化を認めながら変化を拒むと言い張り、変化から目を逸らすのは筋が通らない」
宮城ユウキ
「いいよ、藤花さん」
宮城ユウキ
「あんたのその必死に免じて訊いてやる」
宮城ユウキ
「あんたは俺にどうなってほしいんだ?」
藤花
余計なことを言っている。余計なことをしている。
藤花
自分の心を裏切りたくないと、その思想は否定できるものではない。他人の心の在り方に口を出していいことなんてない。
藤花
「裏切れ。いくらでも。」
藤花
「いくらでも裏切って歩いて行き。」
藤花
「そんで、新しい何か見つけた時」
藤花
「生きる理由にしていい思えるもん見つけた時」
藤花
「裏切りたくないものを理由にしないで。」
藤花
「いいよ、裏切り上等。大切なものを失っても生きていけるから何よ。」
藤花
「変わってしまうから何よ。薄れてしまうから何よ。それでも生きていけるのなら、生きているんだから。」
藤花
「裏切って、裏切って、裏切り慣れて、それで新しいものを見つけたときにまた裏切って。それでいいじゃない。」
藤花
「……まだ、愛せる身体なんだから。」
藤花
「17年ぽっちで……悟ったような口、聞いてるんじゃないわよ。」
藤花
わかっている。自分を裏切って生きることの苦しさを、わかっている。年齢が経験の全てではないことをわかっている。
藤花
わかっている。他人の想いを否定していいものではないことをわかっている。
藤花
わかっているけど。悲しいじゃないか。
藤花
まだ人を愛せるのに。まだ17年なのに。まだ、彼には未来があるのに。
藤花
そんなのは、あまりにも。
藤花
*ユウキの心の疵『食餌』を舐めます。もう嫌…
藤花
*ティーセットも使います
ラビング・ラビット
*横槍してほしいですか?
藤花
※しないで… 許して…
ラビング・ラビット
*じゃあ帰ります ズンズン……
藤花
*すみません ティーセット無しにしてもいいですか
ラビング・ラビット
*大丈夫です!
藤花
2d6+3=>7 判定(+才覚) (2D6+3>=7) > 3[1,2]+3 > 6 > 失敗
ラビング・ラビット
*このままだと失敗ですが……
藤花
*シェリの寵愛を使わせて…
GM
はい。では+1で成功ですね。
シェリ
にっこり。
[ 藤花 ] シェリの寵愛 : 1 → 0
[ 宮城ユウキ ] 食餌 : 0 → 1
宮城ユウキ
必死に言い募るあなたを、本音を吐き切って肩で息をするあなたを。
宮城ユウキ
少年の赤い瞳が見ている。
藤花
余計なことを言っているとその才覚で理解しながら、元来の情深さを止められることはなく。
藤花
面越しには、女の表情はわからない。
藤花
ただ、唇を強く噛み締めていることが、わかる。
藤花
愛に酔うものを見た。溺れるものを見た。縋るものを見た。支えにするものを見た。
藤花
失うものを見た。得るものを見た。そうして、死んでいくものを見た。
藤花
そうなってほしくはないと、思った。
宮城ユウキ
愛に酔い、愛に溺れ、愛に縋り、愛を支えとし、愛を喪った少年の姿。
宮城ユウキ
その瞳がゆっくりと伏せられる。
宮城ユウキ
「そう」
宮城ユウキ
「じゃあ」
宮城ユウキ
「少し、試してみようか」
藤花
「……試す?」
藤花
静かに聞き返す。
宮城ユウキ
「出ようか、藤花さん」
宮城ユウキ
「シェリはここで待ってて」
宮城ユウキ
藤花の腕を掴み、少年は廃教会の外を目指す。
シェリ
「…?うん、わかった」
シェリ
「いってらっしゃい」
宮城ユウキ
「うん」
シェリ
連れ立つ人の子の背中を見送る。
宮城ユウキ
「行ってきます」
藤花
存外に強く掴まれた腕に驚き、半ば引きずられている。
藤花
この少年は、意図的に自分に触れてこなかったはずだ。
宮城ユウキ
男が女の腕を引き、建物を出る。
宮城ユウキ
曇天の下。廃教会の裏。
人目につかぬ場所へと彼女を引きずって。
宮城ユウキ
腕力でもって地に放る。
藤花
「っ、い」
宮城ユウキ
「ごめんね」
宮城ユウキ
「手荒くするのが、したいことってわけじゃないんだけど」
宮城ユウキ
「俺がさ」
宮城ユウキ
「あの人の餌だったって話は、前したと思うけど」
宮城ユウキ
「俺は、結構それが嬉しかった」
宮城ユウキ
「それに満たされてた」
宮城ユウキ
「女のことは取っ替え引っ替えするけど」
宮城ユウキ
「俺のことは食餌として」
宮城ユウキ
「継続して”使って”くれてたから」
藤花
「っー」
藤花
息を呑む。
宮城ユウキ
ゆっくりと膝をつく。あなたの傍らに。
宮城ユウキ
「俺が喪った役目」
宮城ユウキ
「俺がしたかったこと」
宮城ユウキ
「してやりたかったこと」
宮城ユウキ
「できなくなったこと」
宮城ユウキ
語りながら自らの指に犬歯を掛け、その皮膚を裂く。
宮城ユウキ
血が伝う。それを差し出す。
宮城ユウキ
あなたの口元へ。
藤花
あなたを見上げている。普段はあなたを見下ろす体躯が、今は小さく。
宮城ユウキ
「ゲテモノ食いのあんたのことだ」
宮城ユウキ
「丁度いいんじゃないか?」
藤花
「……だめ。だめよ坊主。」
藤花
「それは、駄目。」
宮城ユウキ
「あんたは俺に、俺を裏切れと言う」
宮城ユウキ
「俺に裏切りを強いておいて」
宮城ユウキ
「あんたは自分を裏切れないと?」
藤花
「裏切るとか裏切らんとか以前の話や!」
藤花
「うちは」
藤花
「うちは、あんたのこと殺したない」
宮城ユウキ
「言うて救世主同士のことでしょ」
宮城ユウキ
「シェリもいてくれてる」
藤花
「駄目なんよ。……駄目なの。」
藤花
「死んでしまう。あんたが。」
宮城ユウキ
「…………」
藤花
「この国に来て、さらに強くなってる。きっと死なせてしまう。」
宮城ユウキ
少年の手からは今も血が滴り落ちている。
宮城ユウキ
傷をつけられた皮膚。露出した肉。
宮城ユウキ
粘膜と粘膜の接触。
藤花
「苦痛にのたうって、血反吐を吐いて、そんなのが長引いて長引いて、死んでしまう」
藤花
「そんなふうになるようにしたの。そんなふうな身体なの。」
藤花
「だから、駄目。駄目なの。」
宮城ユウキ
「あんたは」
宮城ユウキ
「自分を裏切るくらいなら死にたかったと言う俺に」
宮城ユウキ
「自分を裏切れと語ったんだ」
宮城ユウキ
「俺はあんたの強訴を聞き入れてこうしている」
宮城ユウキ
「別に死ぬつもりはないけれど」
宮城ユウキ
「死のリスクで脅かして退くわけがないことくらい、わかってるだろ?」
藤花
「……うちはあんたに生きてほしいって言ってるの。なんでそれで死にに行こうとされなあかんの。」
宮城ユウキ
「死ぬつもりはないって言ってるだろ」
宮城ユウキ
「ビビんなよ。誇り高き妓女様が」
宮城ユウキ
「口先一つで滅ぼした男がどれほどいる?」
藤花
「自殺と同じや!うちの体液粘膜触れたもんはみんな死ぬんやから!」
藤花
「誇り?んなもん……あるわけ、ないやろ……!」
藤花
「うちは、うちのこと慰み者にした男、うちを利用する男、みんなみんな殺すって決めた」
藤花
「殺すために、こうなった!!!」
宮城ユウキ
「じゃあ」
宮城ユウキ
「俺もその一人だね」
宮城ユウキ
「あんたを利用して生き延びている」
宮城ユウキ
「あんたを利用して、自分を裏切ろうとしている」
宮城ユウキ
「殺せば?」
藤花
「そう言うことないやろ、このアホ」
藤花
手を伸ばす。手に触れる。
宮城ユウキ
血が伝っている。
藤花
少年の血が滴る指を、震える手が握る。
藤花
「……あんたが」
藤花
「もうどうしようもなくて、苦しくて、耐えられなくて、前にも後ろにも進めなくて」
藤花
「本当に、本当に、どうしようもなくなったら……うちが、殺してあげる。」
藤花
「前に、言ったでしょう。」
藤花
「だから」
宮城ユウキ
「うん」
宮城ユウキ
「俺はずっとそうだよ」
宮城ユウキ
「どうしようもない」
宮城ユウキ
「でも、あんたに頼むつもりがないだけだ」
藤花
「でも、生きているじゃない。」
藤花
「……生きられて、いるじゃない。」
宮城ユウキ
「それが嫌で……」
宮城ユウキ
「それに抗うために、こうしてる」
宮城ユウキ
「自らの裏切りに絶望し、死に後ろ髪を引かれながら惰性で生きる俺に」
宮城ユウキ
「俺自身の意思で」
宮城ユウキ
「積極的に」
宮城ユウキ
「意図的に」
宮城ユウキ
「裏切りを重ねさせることの意味」
宮城ユウキ
「情で目が濁ったあんたには、正しく読み取れなかったか?」
宮城ユウキ
「……たく」
宮城ユウキ
「面倒くさいな」
宮城ユウキ
自分は死なない可能性に賭けてこうしていると主張するが、彼女はそれに納得しない。
宮城ユウキ
こればかりは彼女の経験則から来る信条。
自分が引き下がらなかった理由と同じ。
藤花
事実、彼女を抱いたものは全員死んでいるのだから。
宮城ユウキ
情に揺れ、才覚を濁らせた今の女であれば、心を砕いて聞き入れさせることも可能に思うが。
藤花
存在自体が猛毒。それは揺るぎない事実であり、女の疵。
宮城ユウキ
そうすることに益はない。
宮城ユウキ
「いいよ。じゃあ」
宮城ユウキ
「なってあげる」
宮城ユウキ
「あんたが死んでもいいって思えるような男に」
宮城ユウキ
手を伸ばす。
宮城ユウキ
血に濡れた手を。
藤花
咄嗟に身を引く。後ずさる。
宮城ユウキ
男の手があなたの肩を掴み、引き寄せる。
宮城ユウキ
男の腕力。男の獣欲。
宮城ユウキ
あなたのよく知るそれがあなたを捕らえる。
藤花
「待って!本当に、なあ!死んでまう!あんたが!!」
藤花
激しく身を捩って抵抗する。
宮城ユウキ
その抵抗は容易く封じられ。
藤花
「ええ加減にし!うちの毒に耐えられるわけない!!」
藤花
「うちでさえ、もう限界やのに!!」
宮城ユウキ
「懇願するなら」
宮城ユウキ
「ツラ見せてからにしなよ」
宮城ユウキ
「誠意だろ? 高級妓女さまの」
宮城ユウキ
血に濡れた手が、女の面を剥ぎ取った。
藤花
面が、剥ぎ取られて。
藤花
女の顔が顕になる。
藤花
整ったかんばせ。長いまつ毛。赤い唇。そして。
宮城ユウキ
「…………」
藤花
顔の半分を、毒々しい色の痣が覆っている。
宮城ユウキ
女の素顔を男が見下ろす。
藤花
顔を、瞳の色すら蝕んで。
宮城ユウキ
客でもなく、主人でもなく、ただの旅の連れ合いに過ぎない男が。
宮城ユウキ
「……やばいな」
宮城ユウキ
ぼそりと言葉を漏らす。
藤花
女の毒の証。全身を苛み、今も広がり続ける痛みの象徴。
宮城ユウキ
「殺したくなってきた」
宮城ユウキ
「あんたのこと」
宮城ユウキ
「大丈夫。……大丈夫」
宮城ユウキ
「耐えるよ」
宮城ユウキ
「毒にも」
宮城ユウキ
「これにも」
宮城ユウキ
「だから、なあ」
宮城ユウキ
「やろうか」
藤花
「……死なんとってよ、お願いだから。」
藤花
「お願いだから……私に、殺されないで……」
宮城ユウキ
「うん」
宮城ユウキ
「努力する」
宮城ユウキ
血が落ちる。
宮城ユウキ
皮膚が重なり、血が伝い、粘膜が触れ合い。
宮城ユウキ
あなたの上で、男の身体がくるしみに跳ねる。
宮城ユウキ
乱れる呼気。震える身体。異常を示し滴る汗。
宮城ユウキ
その全てを甘受して、総身を波打たせながら、
宮城ユウキ
あなたという女を犯し慰み物とした、凡百の男になり下がる。
藤花
女の目から溢れる涙は、自らを暴かれる痛みではなく。
藤花
自らを暴く男が、苦痛に喘ぐこと。
藤花
自らの毒が、情をかけた相手を犯し苦しめること。
藤花
そのために、流れていた。
宮城ユウキ
「……っは」
宮城ユウキ
「はは、……っ」
宮城ユウキ
か細い呼気の中に、笑い声が立つ。
宮城ユウキ
「ま、いっ……た」
宮城ユウキ
「な」
宮城ユウキ
「わるく、ない」
宮城ユウキ
「気分だ」
宮城ユウキ
「…………な、あ」
宮城ユウキ
「藤花さん」
宮城ユウキ
絶え絶えの呼吸であなたを呼ぶ。
藤花
「……なに」
宮城ユウキ
「わ、がまま」
宮城ユウキ
「いいか?」
宮城ユウキ
「ほんと、は」
宮城ユウキ
「さあ」
宮城ユウキ
首の包帯に手をかけて、
宮城ユウキ
それを下ろす。
宮城ユウキ
震える手は強張って、その包帯を投げ捨てることもできず、まるで大切なものであるかのように握りしめている。
宮城ユウキ
「こっ、ちが、いいんだよ」
宮城ユウキ
「指より」
宮城ユウキ
「これ、が」
宮城ユウキ
「これが、ほん、……っ」
宮城ユウキ
「ほんと、で」
宮城ユウキ
「いちばん」
宮城ユウキ
「いちばん、に」
宮城ユウキ
「うらぎれる――」
宮城ユウキ
あなたに覆い被さる。
宮城ユウキ
あなたの唇に首を押し付けるような形で。
宮城ユウキ
心の疵の反映か、傷痕からはひとりでに血が溢れる。
宮城ユウキ
直接触れ合った粘膜の毒に、ひときわ苦しげな喘鳴を漏らし、それを必死に飲み込もうとしながら。
宮城ユウキ
あなたを離すことはしない。
藤花
「……ほんと、馬鹿。馬鹿な子。」
藤花
「こんな、毒塗れになって。毒塗れの女に。」
藤花
「……本当に。」
宮城ユウキ
猛毒が全身を巡っている。
宮城ユウキ
肺腑が歪んで、呼吸すら正しくはかなわない。
そもそも全身に酸素を運ぶ機能が阻害されている可能性すらある。
宮城ユウキ
朦朧とした意識の中に、女の言葉の意味を正しく了承できているかすら怪しい。
藤花
紫に染まった片手が、あなたの頭を撫で
藤花
同じく毒々しい痣に呑まれた顔で、唇で、傷口を舐めあげた。
宮城ユウキ
「――ぁ」
宮城ユウキ
「あ…………ッ」
宮城ユウキ
狂いに狂った触覚が、けれどその事実を認識する。
宮城ユウキ
同時に。
宮城ユウキ
どうしようもなく、どうしようもなく、
宮城ユウキ
苦しくなる。
宮城ユウキ
もうどうしようもなくて、苦しくて、耐えられなくて、前にも後ろにも進めなくて、
宮城ユウキ
本当に、本当に、どうしようもない。
宮城ユウキ
充足がある。絶望がある。
宮城ユウキ
ここで死んでしまいたいと思う。殺してもらいたいと思う。
あの時そうできなかったから。
宮城ユウキ
女の首を刎ねたいと思う。そうしなければならないと思う。
あの時そうできてしまったから。
宮城ユウキ
のたうち回りたくなるような苦しみの渦中に、
宮城ユウキ
掠れゆく赤い月を、
宮城ユウキ
かつて自分が信じた運命が毀損される様を、見つめていた。
GM
*ユウキに『藤花への恋心』が付与されました。

割り込み:ラビング・ラビット 2

宮城ユウキ
血が滴る。
宮城ユウキ
堕落の国の片隅、見窄らしい村、荒れ果てた廃教会の陰に、
宮城ユウキ
血と精と汚濁と毒の混じり合った饐えたにおい。
宮城ユウキ
力を失った男の身体が、女の上に投げ出されている。
藤花
「ーーー」
宮城ユウキ
血に濡れた手は力なく。
宮城ユウキ
もはやあなたを捕らえるだけの余力もない。
宮城ユウキ
あなたが望めば望むままに。
宮城ユウキ
この少年は命を落とすだろう。
藤花
あなたの血を舐め、血に濡れた唇が。
藤花
小さく震えている。
宮城ユウキ
或いは、手ずから殺してやることも容易い。
少年の得物。手斧が手の届く場所に放られている。
藤花
震えたまま、ぐったりとした少年ごと体を起こす。
宮城ユウキ
あなたが死んでもいいと思えるような男になると言った。
宮城ユウキ
そのための行為を敢行し、奥底の欲を満たし、乾いた絶望に新鮮な熱を注がせた少年の身体が。
宮城ユウキ
今のあなたにはひどく重い。
藤花
脈は浅く、肌は青白く、明確に死に呑み込まれていく様。
宮城ユウキ
呼吸が止まっている。
宮城ユウキ
心拍は辛うじて動いているが、それもどれほど保つことやら。
藤花
その身体を抱きしめて、震えている。
宮城ユウキ
皮膚が重なっている。粘膜が触れている。体液が混ざり合っている。
宮城ユウキ
今なお続くその致命にすら頭が回らず。
宮城ユウキ
堕落の国の片隅に震えるただの女。
藤花
「……死ぬって、言ったのに。」
藤花
「……こうなるって。言ったのに。」
藤花
「ころし、ちゃった。」
宮城ユウキ
いらえはない。
宮城ユウキ
呼気の音すらない。
宮城ユウキ
あえかな拍動の気配のみが触れ合った肌越しに伝わる。
藤花
男の体を抱きしめながら、啜り泣いている。消えゆく拍動を感じて震えている。
宮城ユウキ
その、
宮城ユウキ
指先が、ひくりと動いた。
宮城ユウキ
「…………っ」
宮城ユウキ
ひしゃげた肺腑のふるえる音。
藤花
「……!」
宮城ユウキ
気道を通り抜ける空気の立てる虚しい音。
宮城ユウキ
ゆっくりと
宮城ユウキ
少年の頭が起こされる。
藤花
生きてる 生きてる
藤花
今にも死にそうだけど、まだ生きている。
宮城ユウキ
けれどそれがすぐに背を丸めて、
宮城ユウキ
「ぅ」
宮城ユウキ
口元を押さえる、その手が間に合わない。
宮城ユウキ
血混じりの吐瀉物を唇から溢れさせながら、
宮城ユウキ
痙攣に似た咳を繰り返す。
宮城ユウキ
繰り返し。
宮城ユウキ
ながら。
宮城ユウキ
「…………っ、で」
宮城ユウキ
「どう」
宮城ユウキ
「だ」
宮城ユウキ
至近距離。
呼吸すらまともに遂げられぬままに、か細く掠れた声があなたに問う。
藤花
切れ切れの言葉は、意味のある単語として認識できない。
藤花
それでも女の頭を幾分か冷静にする。濁り切った才覚の曇りをわずかにはらす。
宮城ユウキ
呼吸ができない。
毒に侵され、脳に酸素が行き渡らず、
頭もろくに回っていないはずなのに、こうして声を出していられる。
宮城ユウキ
なるほど救世主というのは大した化け物だ。
宮城ユウキ
「しん、だ」
宮城ユウキ
「ほうが」
宮城ユウキ
「いいのか」
宮城ユウキ
「おれ」
宮城ユウキ
「は」
藤花
「うっさい馬鹿!!」
藤花
「死にかけが喋んな!!そこで大人しくしとき!!」
宮城ユウキ
「………………」
宮城ユウキ
シェリを呼ぶ頭すら回らなかったくせに、よく言うよ。
宮城ユウキ
憎まれ口を叩く余裕は流石にない。
藤花
涙を拭って、男を引き剥がして立ち上がる。
宮城ユウキ
剥がされるままに地に転がる。
藤花
吐瀉物が詰まらないよう、横向きに男を寝かせて。
藤花
「あんた死なせるために口出したんじゃない」
藤花
「生かすためにやったの!!」
宮城ユウキ
いらえはない。
藤花
「死んだ方がいいとか言うな馬鹿!!」
宮城ユウキ
力を振り絞って声を出したのか、瞼はきつく伏せられている。
藤花
2回目の馬鹿呼ばわり。稚拙な罵倒を叩きつけて、走る。
藤花
そうだ、生かしたくてやった。余計なことをしたのも、言ったのも、全部全部生かしたかったから。
藤花
こんなところで死なれてたまるか。私を使って自殺なんかされてたまるか。
藤花
シェリに助けを求めるべく教会へ向かう。今ならまだ間に合うかもしれない…!
ラビング・ラビット
そうして藤花がその場を離れて、戻るまでの隙をついて。
ラビング・ラビット
桃色の霧が、横たえられた男に忍び寄る。
ラビング・ラビット
毒に侵された身体に、更に深く。
ラビング・ラビット
か細い呼吸に乗って、ラビング・ラビットの毒が侵入していく。
宮城ユウキ
それを拒むことさえ、今はできない。
ラビング・ラビット
暗い視界に赤い光が差す。
ラビング・ラビット
月が昇っている。
ラビング・ラビット
堕落の国では見られない、赤く丸い月。
宮城ユウキ
「!」
宮城ユウキ
闇を晴らす赤い光。
宮城ユウキ
自分はそれをよく知っている。
宮城ユウキ
同時に寸前までの状況を思い出す。
視線を巡らす。自分のみがここに立っていることを確認する。
宮城ユウキ
舌打ち。
宮城ユウキ
「なるほど」
宮城ユウキ
「シェリはこれをやられたわけか」
宮城ユウキ
流石に天国とは思わない。自分には不似合いの場所だから。
さりとて地獄とも思わない。自分にとっては好ましすぎる光景だから。
宮城ユウキ
――それでも。
宮城ユウキ
自ら毀損したばかりのそれを真似ばれたことに、並々ならぬ不快感は抱くが。
ラビング・ラビット
これは、”あの夜”の月。
ラビング・ラビット
だけど、あなたの手はまだ血に塗れていない。
ラビング・ラビット
あなたはまだ、運命を失っていない。
宮城ユウキ
指先に得物の重みが馴染む。
宮城ユウキ
馬鹿げた手口だ。
宮城ユウキ
どこの世界でも、化け物のやり口は共通するのか。
宮城ユウキ
それともあのラビング・ラビットとかいう亡者が、
宮城ユウキ
恋に酔うた色欲の性質を帯びているから?
宮城ユウキ
……どちらにせよ。
宮城ユウキ
自分はこの手の誘惑には慣れている。
宮城ユウキ
今更心揺らされることもない。
宮城ユウキ
死は覆らない。
宮城ユウキ
定まった運命を変えることなど叶いやしない。
宮城ユウキ
理解している。
宮城ユウキ
理解しているのだと。
宮城ユウキ
そう思っている。
宮城ユウキ
対処できると。
宮城ユウキ
そう信じている。
宮城ユウキ
経験則。狩人としての。やってきた。やっていける。
宮城ユウキ
あなたを失ってさえ。
宮城ユウキ
俺はあなたの生き方をなぞってきたのだから。
宮城ユウキ
――それは、
宮城ユウキ
その生き方は、
宮城ユウキ
その生き方が、
宮城ユウキ
救世主としての今に、どれだけそぐうものであるか。
宮城砦
視界に影が差す。
宮城砦
吸血鬼が、
宮城砦
あなたの運命が、あなたの目の前に降り立つ。
宮城ユウキ
「――――」
宮城ユウキ
呼吸が。
宮城ユウキ
止まる。
宮城砦
かつて、あなたを置いていった彼。
宮城ユウキ
藤花の毒の作用によるものとは比ぶるべくもない。
宮城ユウキ
その佇まい。その瞳。
宮城ユウキ
視線ひとつだけで。
宮城ユウキ
自分の人生を攫った男の姿を見る。
宮城ユウキ
心の奥に疼くものを知る。
宮城ユウキ
背を駆け登る禁じられた望みとは違う。
宮城ユウキ
心の奥底に深く深く刻みつけられた、
宮城ユウキ
どうしようもない『心の疵』の疼きを知る!
宮城砦
あなたの心に深く疵をつけた男。
宮城砦
あなたが殺したはずの男。
宮城ユウキ
自分を望まなかった男。
宮城ユウキ
人殺しの化け物になった男。
宮城ユウキ
人殺しの化け物になどなりたくもないはずだった男。
宮城砦
だけど、あなたを人間の側に留め置いた男。
宮城ユウキ
でも。
宮城ユウキ
今は自分さえ堕落の国に、
宮城ユウキ
化け物に相応しい在り方で、
宮城ユウキ
違う。
宮城ユウキ
違う。そんなことは問題じゃない。
宮城ユウキ
ずっと思っていた。
宮城ユウキ
この堕落の国であれば、人間か化け物かなど大した問題にはならない。
宮城ユウキ
救世主であろうと末裔であろうと、この世界では化け物との境界は曖昧だ。
宮城ユウキ
だから。
宮城ユウキ
「……あんた、の」
宮城ユウキ
「あんたに似合う世界を、見つけたんだよ」
宮城砦
「へぇ?」
宮城ユウキ
馬鹿げた文句が唇を滑り落ちる。
宮城ユウキ
「……多分」
宮城ユウキ
「今いる世界より、ずっと」
宮城ユウキ
「あんたには、暮らしやすい」
宮城砦
「なんだ」
宮城砦
「俺は」
宮城砦
「お前が俺についてきてくれるものかと思ったんだけどな」
宮城砦
男が笑う。
宮城砦
あなたの知る男は、こんなことは言わなかった。
宮城ユウキ
「――は?」
宮城ユウキ
喉が鳴る。
宮城ユウキ
一瞬の思考停止。
宮城ユウキ
間を置かず、、
宮城ユウキ
地を蹴った。
宮城ユウキ
斧を振り上げ、目の前の男へと打ち掛かる。
宮城砦
振るわれた武器を受け止める。
宮城ユウキ
「――死ね」
宮城砦
「なんだよ急に」
宮城砦
「反抗期か?」
宮城ユウキ
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、ッ」
宮城ユウキ
「死ね!!」
宮城ユウキ
叫ぶ。斧を握る手に力を込める。
宮城ユウキ
化け物の膂力との鍔迫り合い。
今この空間において、自分に救世主としての猟奇性はない。
宮城ユウキ
「お前は」
宮城ユウキ
「お前が、砦なら!」
宮城ユウキ
「そんなことを言うはずがない!」
宮城ユウキ
「言わなかった! 砦は!」
宮城ユウキ
「勝手に女のために人を殺して、勝手にあっち側に立って」
宮城ユウキ
「俺には目もくれなかったのが砦だろう!!」
宮城砦
だけど、ここは夢の中。
宮城ユウキ
望んでいない。
宮城ユウキ
望んでいない!!
宮城ユウキ
夢の中とて望んでいない、
宮城ユウキ
自分が、
宮城ユウキ
自分が、砦という存在を歪めるようなことを!
宮城砦
男はあなたの斧をあっさりと取り上げる。
宮城ユウキ
彼の生き様を歪めるようなことを、自分なんかが望んでいいはずがない!
宮城ユウキ
「…………っ」
宮城砦
「俺と行きたくないのか?」
宮城ユウキ
たたらを踏む。
宮城ユウキ
距離を取る。化け物への警戒の距離。
宮城ユウキ
自分の愛したものでない相手への。
宮城ユウキ
それが。
宮城ユウキ
でも。
宮城ユウキ
同じ姿、同じ声、同じ牙、同じひかり、
宮城砦
開けられた距離を、詰めるまでもないと言うようにそのまま佇んでいる。
宮城ユウキ
人を小馬鹿にしたような笑い。性格最悪酷薄無責任。他人を使い捨てることに躊躇いがない。養子だって自分一人きりじゃなくて、今まで何人も作っては死なれたり逃げられたり繰り返し繰り返し繰り返し。
宮城ユウキ
自分は彼にとってなんら特別な存在じゃない。
宮城ユウキ
だから、
宮城ユウキ
自分が望んで、自分から望んで、彼を追わなければ。
宮城ユウキ
伴われることなどあるはずがなかったのに。
宮城砦
「お前が嫌なら、別にいいけど」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「殺す……」
宮城ユウキ
反駁の声がか細い。
宮城ユウキ
腹の奥底に煮え滾る殺意が。
宮城砦
笑う。
宮城砦
「できるのかよ、お前」
宮城ユウキ
それより眩しい光に覆い隠されるのを感じている。
宮城ユウキ
「ッ」
宮城ユウキ
「でき、た」
宮城ユウキ
「できたんだよ!!」
宮城ユウキ
叫ぶ。
宮城ユウキ
「俺は」
宮城ユウキ
「お前を殺した!」
宮城ユウキ
「殺したんだよ!」
宮城ユウキ
「それなのに生きてる!」
宮城砦
首を傾げる。
宮城ユウキ
「お前が俺に死ねって言わなかったから!」
宮城砦
「生きてるよ」
宮城ユウキ
「俺を殺そうとしたくせに!」
宮城ユウキ
「俺に死ねともついてこいとも言わなかったから!」
宮城ユウキ
目の前のまばゆい満月の瞳と。
宮城ユウキ
かつてその首を刎ねた記憶と事実と手応えが混濁して、
宮城ユウキ
褪せゆく運命のさまを見ている。
宮城ユウキ
言葉を重ねれば重ねるほどに。
宮城ユウキ
自分の中に抱いた尊いそれが損なわれているのを自覚する。
宮城ユウキ
こうなってしまえば、全てが手遅れ。
宮城ユウキ
そも自分は彼への裏切りを”試した”後で。
宮城砦
毒があなたの疵を暴き、抉り、汚す。
宮城ユウキ
その末に重ねられた血の交錯が、
宮城砦
今なら、もう一度やり直せると
宮城ユウキ
おぞましく
宮城砦
あなたの望むままにできると、囁く。
宮城ユウキ
まがまがしく
宮城砦
「お前は、俺にどうされたい?」
宮城ユウキ
何もかもが取り返しのつかないことを、突き付ける。
宮城砦
あなたを見据え、問いかける。
宮城ユウキ
やり直してももう遅い。
宮城ユウキ
何を望んでも果たされない。
宮城ユウキ
あなただけが良かった。あなただけを全てとしたかった。
宮城ユウキ
その望みを自ら投げ捨て、犯し、踏み躙った。
宮城ユウキ
その末に快を得た。
宮城ユウキ
俺はあなたの、
宮城ユウキ
あなたに捧げるはずだった糧を、既に他の女に捧げた後なのです!
宮城ユウキ
それを彼が歯牙にもかけないことも分かっている。
宮城ユウキ
だから告解すら叶わない。
宮城ユウキ
だから望みも告げられない。
宮城ユウキ
ただ一人の愚かな人間で、
宮城ユウキ
食餌でありたかったはずの少年が、赤い月の下に立ち尽くす。
宮城砦
「ユウキ?」
宮城砦
「聞いてるか?」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
はくはくと口を閉じ、開き。
宮城砦
男との距離は縮まらない。
宮城砦
あなたから歩み寄らない限り。
宮城ユウキ
応えたい。応えたくない。
応えたとて何一つ叶わない。
宮城ユウキ
でも、
宮城ユウキ
でも、
宮城ユウキ
そこに
宮城ユウキ
いるのが。
宮城ユウキ
偽物だ。
宮城ユウキ
存在そのものが彼の生を凌辱し尽くす、俺の願望の浅ましい具現が。
宮城ユウキ
そこにいるのが、そういう存在であると、痛いほど分かっていて。
宮城ユウキ
亡者の拙いやり方は、俺の正気を奪い去ることすら成し遂げられず、
宮城ユウキ
ただのたうつ心の疵の痛みだけが毒よりも鮮烈に全身を巡っている。
宮城ユウキ
一歩が。
宮城ユウキ
こんなにも、重く、遠い。
宮城砦
返事がないのを見て、やがてしびれを切らしたように息をつく。
宮城ユウキ
息を呑む。
宮城ユウキ
その一挙一動に身を震わす。
宮城砦
「暇なわけじゃないんだよな、俺」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「……じゃ」
宮城ユウキ
「じゃ、あ」
宮城ユウキ
ひどく。
宮城ユウキ
ひどく喉が渇いている。
宮城ユウキ
思考がまともに働いていないのを自覚する。
毒に侵された先ですらもう少し論理的な思考が成り立っていたはずだ。
宮城ユウキ
だから、
宮城ユウキ
「殺してけよ……」
宮城ユウキ
こんな、なんの順接にもならない懇願を吐く。
宮城砦
月の色の瞳があなたを見据える。
宮城ユウキ
「俺は、お前を殺したから」
宮城ユウキ
「今度は」
宮城ユウキ
「お前が、俺を殺してけよ」
宮城ユウキ
「それで」
宮城ユウキ
「それで、いいだろ……」
宮城ユウキ
あなたの食餌にはもうなれない。
宮城ユウキ
あなたの側に立つこともできない。
宮城ユウキ
あなたについていくことも叶わないのならば。
宮城ユウキ
人間を殺す化け物と成り果てたあなたに、
宮城ユウキ
今、ここで殺してほしい。
宮城砦
「わかった」
宮城砦
「そうしてやるよ」
宮城ユウキ
「――――」
宮城ユウキ
その返答で。
宮城ユウキ
あなたがあなたでないことを知る。
宮城ユウキ
けれど、望みを受け入れられたことが、今はこんなにも嬉しくて。
宮城ユウキ
心の疵の抉れる音を聞く。
宮城砦
男が、一歩を踏み出す。
宮城砦
かつてはあなたを顧みず、一人で行ってしまった男が。
宮城砦
今は、あなたの望みを受け入れてあなたの側に歩み寄る。
宮城ユウキ
頭を垂れて、男へと差し出す。
宮城ユウキ
その顔ももはやまともには見られない。
宮城砦
衣擦れ。
宮城砦
男が腕を振り上げたのが分かる。
宮城ユウキ
瞼を伏せた。
ラビング・ラビット
*ユウキの『人間』を愛で抉ります。
シェリ
*横槍を入れます!
ラビング・ラビット
choiceをどうぞ!
シェリ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 才覚
シェリ
*ティーセットを使います。
ラビング・ラビット
*+2でどうぞ!
シェリ
2d6+0+2=>7 判定(+才覚) (2D6+0+2>=7) > 9[4,5]+0+2 > 11 > 成功
ラビング・ラビット
アアー!
ラビング・ラビット
1d6を……
シェリ
1d6 (1D6) > 2
シェリ
*ヤリイカも使います。
ラビング・ラビット
はい。
ラビング・ラビット
2d6+3-2-2=>7 判定(+愛) (2D6+3-2-2>=7) > 5[1,4]+3-2-2 > 4 > 失敗
ラビング・ラビット
*失敗ラビ……
[ シェリ ] HP : 21 → 20
[ シェリ ] ヤリイカ : 1 → 0
ラビング・ラビット
*え~と……じゃあやっていきますので適度に起こしてあげてくださいね
シェリ
*はあい
宮城ユウキ
絶望の中に、胸が高鳴るのを感じていた。
宮城ユウキ
許せない。許したくない。許してはならない。
宮城ユウキ
この砦は偽物だ。
俺が望んだあいつじゃないあいつだ。
宮城ユウキ
なのに。
宮城砦
本当の彼ならば、こんなことをするはずはなかった。
宮城砦
あなたの望むままにする彼ではなかった。
宮城砦
そうであったなら、あなたはこんな疵を抱えてはいない。
宮城ユウキ
それに懇願して、冀うて、自らの欲を果たす浅ましさ。
宮城ユウキ
想いを遂げる空虚。
宮城ユウキ
それも本当の願いではない、
宮城ユウキ
馬鹿らしく、しおらしく、健気を気取ったような、
宮城ユウキ
”殺してほしい”などという代替の願望。
宮城ユウキ
それが満たされることに、愚かしい程に高揚し安堵している。
宮城ユウキ
偽物でいい。本当の願いなど叶わなくてもよい。
宮城ユウキ
軽率に試した裏切りでありもしない本懐を幻視した、
宮城ユウキ
薄情の自分に相応しい末路。
宮城ユウキ
きつく伏せた瞼の下で、ただその安寧を待つ。
宮城砦
せめて、これ以上の裏切りを重ねずに済むように。
宮城砦
あなたの人生を終わらせるはずの一撃は、しかし。
シェリ
「…!………ーキ!」
シェリ
「起きて…起きてよ」
シェリ
「ユーキ!」
宮城ユウキ
「――――っ!!」
シェリ
あなたの額にふれる、ひやりとすべらかな感触。
宮城ユウキ
口をとじ、ひらき。
シェリ
人の肌を模した色が透けて、指先は暗く淀みを宿している。
宮城ユウキ
喉を通り抜ける呼気のぬるさを実感する。
シェリ
「――あ」
シェリ
「おきた…?」
宮城ユウキ
視線を巡らせ、
宮城ユウキ
赤い瞳にシェリと藤花の姿を認めると、
藤花
美しい月の色とは程遠い、藤と翠の瞳があなたを見下ろしている。
シェリ
肩の力がすとんと抜けて、一息。
宮城ユウキ
心の奥底より湧き上がる憤怒と落胆と絶望を自覚する。
宮城ユウキ
それが。
宮城ユウキ
でも。
宮城ユウキ
すぐに焦がれる心に塗り潰されて。
宮城ユウキ
それが誰に向けられたものであるかも理解して。
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
言葉を、失う。
藤花
ゆらりと揺れた瞳は、すぐに閉じられる。
シェリ
「……いろいろ、聞きたいことはあるんだけど」
シェリ
「…じっとしてて。多分まだ、立てないと思う」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
しおらしくシェリの言葉に従う。
宮城ユウキ
頭を垂れて、唇を閉ざし。
宮城ユウキ
けれどそれは毒に起因するものではない。
宮城ユウキ
……いや。
宮城ユウキ
ある意味では、毒に因るものではあろうか。
藤花
「ほんと、愛の救世主様に感謝せなあかんね」
シェリ
あなたも、傍らの女も、身なりはさっぱりと清められている。
シェリ
先ほどまでの行為が嘘であったかのように。
宮城ユウキ
ただ包帯だけが風にでも運ばれたか消え失せている。
宮城ユウキ
首の歯型は、消えない。
宮城ユウキ
それをシェリがどれほど清め、どれほど癒そうとしたところで。
宮城ユウキ
心の疵に起因するそれだけは消え失せることがない。
宮城ユウキ
その疵が。
宮城ユウキ
今もじくじくと疼いているのを感じていた。
シェリ
ややあって、額からぬるくなった掌が離れる。
宮城ユウキ
視線がその手のひらを追う。
宮城ユウキ
反射のように赤い瞳が動いた。
シェリ
「…ふう」
宮城ユウキ
やがてシェリから視線を切って、
シェリ
淀んで透ける手を、袖を握り込んで隠す。
宮城ユウキ
瞼を伏せる。
シェリ
「これで、きっと大丈夫」
藤花
「いやあ、ほんま堪忍な。」
シェリ
ぼくの中で薄まるのを、待つだけ。
藤花
「あんたはんおって助かったわ。」
宮城ユウキ
痛みや倦怠感はまだこの軀に残っているが。
藤花
「助かりついでに、水もろてええか?」
宮城ユウキ
動きに支障を来たすほどのものではなさそうだ。
藤花
シェリに向かい話しかけている。
シェリ
「…心配したよ、さすがに」
シェリ
「もう…」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「ごめん」
シェリ
棚にかろうじて並んでいる欠けた器に、なるべくきれいなところを注いでやる。
シェリ
「はい、トーカ」
藤花
「おおきに」
宮城ユウキ
青い顔で俯いている。
シェリ
「……ユーキも」
シェリ
「見た?」
シェリ
「”悪い夢”」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「下手くそな幻覚だ」
宮城ユウキ
「俺は、慣れてるよ……」
宮城ユウキ
掠れ力ない声。
シェリ
触れない。今のこの手で触れることを、ぼくは望まない。

行動:宮城ユウキ

宮城ユウキ
その手を、
シェリ
「…っ!」
宮城ユウキ
けれど手を伸ばし、掴み寄せた。
シェリ
振り払おうとして、それが叶わないことを知る。
シェリ
「…あのね、ダメだよ。ぼく、いまは」
宮城ユウキ
「俺のを引き受けたんだろ」
宮城ユウキ
「なら、俺が触るぶんには、いいんじゃない」
藤花
ユウキの毒。元はと言えば、自分の毒。
シェリ
「…」
藤花
今、仲間とされる二人を冒し苦しめている。
宮城ユウキ
「大丈夫だよ。さっきあんなんだけど喋れたし、動けたし」
宮城ユウキ
「だいぶ、良くしてもらったから」
藤花
2人のやり取りを耳にしながらそっとその場を離れる。
宮城ユウキ
去る女を引き止める言葉はない。
宮城ユウキ
それを望まない/望んではならないのが自分の性分だ。
宮城ユウキ
望めば、ああなる。
宮城ユウキ
その本質を今はよく理解している。
シェリ
ぼくを呼んだ彼女の表情を思い出して、かけようとした声を押し留める。
宮城ユウキ
「……ごめん」
宮城ユウキ
「面倒かけて」
シェリ
居心地が悪そうにしながら、それでも手を掴まれたままでじっとしている。
宮城ユウキ
「シェリの力だって、無制限じゃあないのに」
シェリ
せめて癒しの力は、十全に働くようにして。
宮城ユウキ
「知ってるのに、あの時は」
シェリ
「………それも、そうなんだけど」
宮城ユウキ
「シェリに頼ればいいって思ってた」
宮城ユウキ
「引き受けさせることを、知っていたのに」
シェリ
「………… ……そう」
宮城ユウキ
手を握っている。
宮城ユウキ
体温が重なっている。
宮城ユウキ
混ざり合う毒がそこにある。
宮城ユウキ
「……あの人を」
宮城ユウキ
「見た」
宮城ユウキ
境界に疵が触れ合っている。
シェリ
「あのひと」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「俺の」
宮城ユウキ
「忘れたく、ない人」
シェリ
透けていた手が、少しずつ色と温度を取り戻すのを眺めながら。ただ聴いている。
シェリ
「そう」
宮城ユウキ
黙り込んでいる。
宮城ユウキ
その間も手は繋がれている。
シェリ
「お話、した?」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
頷く。
シェリ
あの子の面影が。幻影が。離れないでいる。
シェリ
「―それで」
シェリ
「どう、思ったの?ユーキは」
宮城ユウキ
「最悪」
宮城ユウキ
切って捨てるような声音だった。
シェリ
「そっか」
宮城ユウキ
「……シェリはさ」
宮城ユウキ
「”忘れてた”って、言ったよな」
シェリ
「!」
シェリ
「…うん、忘れてた。ずっと。何百年も」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「……どうして」
宮城ユウキ
「耐えられたの?」
シェリ
「… ……ぼくが、人間じゃない、から」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
視線があなたを向く。
シェリ
「忘れたことも、忘れちゃって。…それでもあり続けられるのが、ぼくだったから」
シェリ
本来の、湖と森のこころとしての在り方。
シェリ
薄れることこそあれ、途切れることはなく。人の形を保つことを意義と定めてしまえば、それ以外のものはだんだんと色を失っていった。
シェリ
「ぼくね、何のために生きるとか…きっと、そういうものが本来必要ない」
宮城ユウキ
「…………」
シェリ
森は、湖は、そこに当然としてあるものだから。
シェリ
「それに外から大事なものがくっついたって、ぼくの在り方は…本当のところは、きっと変わってなくて」
シェリ
「だから、じゃないかなあ」
宮城ユウキ
「でも」
宮城ユウキ
「多分」
宮城ユウキ
「堕落の国じゃあ、そうはいかないよ」
シェリ
「…そう、だね」
シェリ
「ぼくも、そう思う」
宮城ユウキ
「……俺はさ」
宮城ユウキ
「あいつのこと忘れるくらいなら、多分」
宮城ユウキ
「ほんとうに死ぬことを選んでしまうと思う」
シェリ
「……そう」
宮城ユウキ
「まあ、忘れたら死ねないけど……」
宮城ユウキ
「忘れてた自分に気付いたら」
宮城ユウキ
「多分」
宮城ユウキ
「その場で自分が許せなくなって、死ぬ」
シェリ
瞬間、わずかに力のこもった彼の手。
宮城ユウキ
救世主同士の心の疵が触れ合っている。
シェリ
それが、彼の在り方が”そう”であることを確信させる。
シェリ
「うん。…うん」
宮城ユウキ
焼け爛れた疵に清涼の水を寄り添わせながら、
宮城ユウキ
その毒が今もあなたを蝕む。
宮城ユウキ
救いを求めるものの気配がある。
シェリ
苛烈なほどの感情。ぼくには、ないものだ。
宮城ユウキ
愛を求めるものの情念がある。
宮城ユウキ
あなたにはないもの。あなたにはなかったもの。
宮城ユウキ
けれど、
宮城ユウキ
あなたに向けられてきたものだ。
宮城ユウキ
「……そうはいかないよ、とは」
宮城ユウキ
「言ったけど」
宮城ユウキ
「でも」
宮城ユウキ
「正直、俺は羨ましいよ」
シェリ
「どうして?」
シェリ
きみのように”人間らしい”こころの子が、何を羨ましがることがあるの?
宮城ユウキ
「大切な相手」
宮城ユウキ
「大切にしたいと思った相手」
宮城ユウキ
「それを失った疵を鈍らせながら生きていける」
シェリ
人間のことは、わりあい好きだと思う。楽しくて、愛おしい生き物だとも思う。けれど―ぼくがぼくである以上、決定的に在り方を添わせることはできない。
宮城ユウキ
「愛を注ぎながら、愛を求めながら、その唯一性を信仰せず」
シェリ
誰かのために命を捧げることが。ぼくにはできない。
宮城ユウキ
「誰よりも大切と思った相手の喪失にさえ耐えられる」
シェリ
「ユーキは。…そう、在りたかった?」
宮城ユウキ
「そう在りたかったし」
宮城ユウキ
「そう在ることを、多分、望まれていた」
宮城ユウキ
「あの、酷薄で気ままな在り方を」
宮城ユウキ
「俺は多分、学んでほしいと思われていた」
シェリ
誰になんて―聞くまでもないだろう。”人間らしくない”在り方を求める存在など。
宮城ユウキ
手が重ねられている。
宮城ユウキ
熱と毒があなたの境界を侵す。
シェリ
「……ぼくはね、ユーキ」
シェリ
「きっと、逆で」
宮城ユウキ
「逆」
シェリ
「”忘れていたこと”を思い出したとき、こわかった。―大切なものを忘れても、そのままありつづけられてきたぼくのこと」
宮城ユウキ
「…………」
シェリ
仕方のないこと。無いものねだり。
シェリ
愛は欲しかったけれど、恋は欲しくなかった。誰かのものになるということは、注がれる愛の総量を減らすから。
シェリ
けれど、堕落の国へと呼ばれて。ぼくの力が薄まって、対等な相手と向き合って、わかったこと。
シェリ
この在り方は、ひどく空虚だ。
宮城ユウキ
その空虚に今は疵が触れている。
宮城ユウキ
重なり合う熱がある。
宮城ユウキ
「……それが、逆?」
宮城ユウキ
「何の?」
シェリ
「えと…ぼくは」
宮城ユウキ
見ている。
宮城ユウキ
人の子が人でなしのあなたを。
シェリ
「ぼくの今までの在り方。あんまり、いいものじゃないのかなって…」
シェリ
「おもって、て」
宮城ユウキ
「……うん」
シェリ
「だから。ユーキがそう在りたかったのと、そう在ってほしいって思われてたのと、逆で」
宮城ユウキ
頷き、聞いている。
シェリ
この胸にくすぶる感情は、きっと―。
シェリ
「羨ましい、んだと思う」
宮城ユウキ
「…………」
シェリ
「ユーキたちみたいな、こころが」
宮城ユウキ
「そっか」
宮城ユウキ
「お互い、ないものねだりするね」
シェリ
「…うん」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
繋いだ手を握り直す。
宮城ユウキ
「……試してみる?」
シェリ
「え、っと」
シェリ
「なにを…?」
宮城ユウキ
「シェリの形は、望まれたようにあるんだろ」
シェリ
「…そう、だけど」
宮城ユウキ
「なら」
宮城ユウキ
「俺が望めば、シェリの形も少しは変わるかもしれない」
シェリ
「変わる…かなあ」
シェリ
半信半疑。
宮城ユウキ
「変わらないかもしれないけど」
宮城ユウキ
「変わる可能性も、ゼロじゃない」
シェリ
「…」
シェリ
ゼロじゃ、ないのなら。
宮城ユウキ
シェリの手を引く。
宮城ユウキ
より強く。
宮城ユウキ
そのうつわを抱き寄せるようにして、身を寄せる。
シェリ
すこしだけ身を縮めて、けれどされるがままに。大人しく腕の中に収まる。
宮城ユウキ
皮膚と境界を重ね合わせて、
宮城ユウキ
言葉なきままに、願った。
宮城ユウキ
*シェリの心の疵『底なしの愛され願望』を猟奇で舐めます。
 ティーセットを使用。
ラビング・ラビット
*横槍を封じられたうさぎです どうぞ
宮城ユウキ
2d6+3+2=>7 判定(+猟奇) (2D6+3+2>=7) > 8[2,6]+3+2 > 13 > 成功
GM
*シェリにユウキへの恋心が付与されます。
[ 宮城ユウキ ] ティーセット : 2 → 1
[ シェリ ] 底なしの愛され願望 : 0 → 1
宮城ユウキ
波紋。
宮城ユウキ
人でなきが故に清浄で、人でなきが故に染まりやすい。
宮城ユウキ
あなたの在り方に滴が落ちる。
宮城ユウキ
燃えるように苛烈で、
宮城ユウキ
同時に海溝に似て深い、
宮城ユウキ
裏腹の情愛と絶望がそこにある。
シェリ
揺らいだ境界。
シェリ
そこから、じわりと染み入ってくる激情。
シェリ
あまりにも熱く、重いもの。
宮城ユウキ
少年の心の奥底に突き立つ楔はあなたには熱すぎて、
宮城ユウキ
せせらぎの中に煙が立つ。
シェリ
息が苦しい。
シェリ
知らない何かが、ぼくの中でわだかまっている。
宮城ユウキ
むせ返るような情熱の慕情。
宮城ユウキ
二筋さしたそれは複雑に絡み合い、互いを喰らうて叩きのめし、
宮城ユウキ
それでも少年の奥底にのたうっている。
シェリ
得体の知れないそれらを叩きつけられるまま、形が揺らぐ。……つくりかえられていく。
宮城ユウキ
自分の在り方。
宮城ユウキ
救いようない無為のこの心のさまを、
宮城ユウキ
人でなきこの存在に伝えてしまう、そのリスクは重々承知だが。
シェリ
道理で分からないわけだ。人の心が。
宮城ユウキ
できることがあるならばしたかったし、
シェリ
この激流は、精霊には備えられていないものだから。
宮城ユウキ
叶えられる願いがあるならば、叶えたかった。
宮城ユウキ
自分が今も尚ここに在る意義。
宮城ユウキ
それを自分が見出すことは叶わないけれど、
宮城ユウキ
けれど、あいつは善なる存在を好んでいたから。
宮城ユウキ
その為に尽くせることは喜ばしい。
宮城ユウキ
なんて、
宮城ユウキ
女を我が儘に陵辱した後に思っていいことではないが。
宮城ユウキ
理路があった。筋は通っていた。だから為した。
ああするしかない在り方があった。背くことが叶わぬ心の疵の具現であった。
シェリ
染められるごとに増す苦しさと眩暈に耐えきれなくなって、少年の衣服に縋る。
宮城ユウキ
それでも、
宮城ユウキ
酷いことをした。
宮城ユウキ
自分に縋るものの背に手を回し、それを受け止めながら、
宮城ユウキ
自分の縋った者へと想いを馳せる。
宮城ユウキ
許されたいとは思っていないけれど。
殺してほしいとも、多分、思っちゃいけないし。
宮城ユウキ
謝るくらいなら、するな、って話だし。
宮城ユウキ
後悔はあっても反省はないけど。
宮城ユウキ
水の心に触れて、熱された心を分かち合い、
宮城ユウキ
煮え滾る心の疵の落ち着きを自覚する。
宮城ユウキ
露出した猟奇性がわずかばかり鳴りを収め、
宮城ユウキ
努めて表出させている諦念と穏和を再び得る。
宮城ユウキ
それは宮城ユウキという人間にとっての一時の安寧ではあったが。
宮城ユウキ
――荒れ狂う激情を注ぎ込まれた側は、どうだ?
シェリ
交わって、赤く染まって。
シェリ
やっと息が吐けるようになって。
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「どう?」
シェリ
顔を上げようとして。
宮城ユウキ
背に腕を回したままにあなたに問う。
宮城ユウキ
「ろくでもない、ってことは」
宮城ユウキ
「伝わったと思うけど」
宮城ユウキ
皮肉を吐きながら、あなたの背を撫でている。
シェリ
「…ぅ」
宮城ユウキ
その指先はあなたを労るそれだ。
シェリ
もう何度目かの、困惑。
宮城ユウキ
返答を急かさない。あなたを待つ。
シェリ
ようやく己を抱く熱を感じられるようになって、だからこそ、おそろしくなる。
シェリ
失うこと。
シェリ
いつかは必ず訪れるそれ。―この国であれば、なおのこと。
宮城ユウキ
喪失。別離。背反。堕落。
宮城ユウキ
この国には不可欠の汚濁。
シェリ
目の奥が、溶け落ちるように熱い。
宮城ユウキ
心あるものの醜悪。
宮城ユウキ
その端っこに、あなたの知らなかった恋慕がある。
シェリ
「こんなに」
シェリ
しゃくりあげながら、それでも言葉を零す。
シェリ
「熱くて、怖くて、…痛くて」
宮城ユウキ
「…………」
シェリ
「それでも、捨てられないもの」
シェリ
捨てたくないもの。失いたくないもの。
シェリ
「きみたちは、そんなものと一緒に」
宮城ユウキ
皮膚と境界が今も触れている。
宮城ユウキ
あなたをさざめかせる心の疵がそこに在る。
シェリ
「生きてきたんだ」
宮城ユウキ
「……救世主になると、心の疵ってのが顕在化される」
宮城ユウキ
「そのせいで」
宮城ユウキ
「多少なりとも苛烈にはされてるかもしれないけど」
宮城ユウキ
「……まあ、でも、そうだね」
宮城ユウキ
「シェリにとっては誤差だろう」
宮城ユウキ
「人間なんて、大なり小なりこんなものだ」
宮城ユウキ
だって自分は知っている。
宮城ユウキ
大切なもの、失いたくないものを守るために戦う者の姿を。
宮城ユウキ
化け物に立ち向かう者の姿を。
宮城ユウキ
そういう意味では、
宮城ユウキ
あんたも間違いなく、人間だったと言えるのにな。
シェリ
100年足らずでいなくなる生き物たちの、めまぐるしい感情のさま。
宮城ユウキ
けれどこの世界では、あなたさえ抗わなければ30日で摘まれる命。
宮城ユウキ
だからこそ心の疵がこうして共鳴する。
宮城ユウキ
押し寄せる波の激しさを知る。
シェリ
それが、確かに己に流れ込んだのがわかる。
シェリ
春の嵐のような感情が、ぼくのなかに生まれている。
宮城ユウキ
その激情をあなたに分け与えた少年は今も尚。
宮城ユウキ
穏やかな絶望を胸底に揺蕩わせたまま、あなたを腕に抱いていた。
シェリ
そうして、いつしか呼吸も落ち着いて。
シェリ
少年の背を柔らかく叩く。
シェリ
「ええと、あの」
宮城ユウキ
ゆっくりと瞼を上げる。
宮城ユウキ
「なに?」
シェリ
「も…もう、だいじょうぶ」
シェリ
「ありがとう」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「ん」
宮城ユウキ
腕の力を緩めて、シェリを解放する。
シェリ
ぼくを包んでいたものがなくなって、そうして。
宮城ユウキ
少年があなたの顔を見ている。
宮城ユウキ
なお身体に残る毒に顔色をくすませた少年の姿。
宮城ユウキ
或いは、別の要因もあるか。
心を通じ合わせたあなたにはそれも察せられるだろう。
シェリ
理解とは異なる、内から湧き上がるものがあることに気付く。…気づかされる。
宮城ユウキ
ふとあなたの目の前で、その瞼が伏せられた。
宮城ユウキ
廃教会の壁に背を預ける。
シェリ
足元が揺らぐような感覚。ユウキがどんな顔をしているかなんて、わからない。…そんな余裕が、ない。
宮城ユウキ
ずるずるとそのまましゃがみ込んで、息をついた。
シェリ
ぼくがまだ、失っていないもの。
宮城ユウキ
力の源である、心の疵を働かせたことによる疲弊。
シェリ
失いたくないと、思ってしまっているもの。
宮城ユウキ
毒に侵された身体には少々重い負担であった。
シェリ
「―ぁ」
宮城ユウキ
「?」
宮城ユウキ
漏れた声に、億劫げに瞼を上げる。
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「どうかした」
宮城ユウキ
「シェリ」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「余計だった?」
シェリ
「ちがう、ちがくて、あの、ぼく」
宮城ユウキ
「改めて、願い直した方が」
宮城ユウキ
「?」
シェリ
ユーキにふれて、ユーキの心を知ったからこそ、分かる。
宮城ユウキ
気怠げに首を傾げる。
シェリ
…これは、言うべきことじゃない!
宮城ユウキ
「……シェリ?」
シェリ
「ちょっと…お外!出てくる!」
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
「ん」
宮城ユウキ
「気をつけてね」
シェリ
裸足で教会の床を蹴る。
宮城ユウキ
追わない。追うべきではない。
シェリ
足がもつれて、それでもなお走って。
宮城ユウキ
シェリの態度が、紛れもなく自分を避けるためのそれであることを理解している。
シェリ
教会のがたつく扉を、なんとかすり抜けて。
宮城ユウキ
「…………」
宮城ユウキ
教会の中、力なくずるずると体勢を崩す。
シェリ
勢い、べしゃりと道に座り込む。
宮城ユウキ
ほとんど仰臥に近い有様で。
宮城ユウキ
「……これ」
シェリ
―×××。もしかして、きみも。
宮城ユウキ
「ほんとにあれ殺して、なんとかなるのか……?」
シェリ
こんな嵐の中で生きていたの…?
シェリ
答えはない。
シェリ
心の渦を持て余したまま、時間ばかりが過ぎていく。
[ シェリ ] ティーセット : 1 → 0
GM
*減らし忘れてた分
宮城ユウキ
*シェリにティーセットを譲渡します。
[ 宮城ユウキ ] ティーセット : 1 → 0
藤花
*シェリにティーセットを譲渡します
[ 藤花 ] ティーセット : 1 → 0
[ シェリ ] ティーセット : 0 → 2

行動:シェリ

藤花
さく、さく、と。乾いた土を踏み締める音。
藤花
やがてコツ、コツと、荒れ果てたとはいえ道らしき音に変わって。
藤花
「……」
藤花
うずくまる精霊を見留める。
シェリ
「………」
藤花
「ちょっと。道の真ん中で何しとるん」
藤花
「ほら、立てる?」
シェリ
「…あ」
シェリ
目線を上げて、一瞬。
藤花
あなたに触れることはしない。あなたが立ち上がるのを見届けている。
シェリ
「えと…うん。だいじょうぶ。」
シェリ
瞳に籠る熱も、瞬きに流されていく。
藤花
その瞳の揺らぎを、熱を、色を、見逃す女ではなかった。
シェリ
立ち上がる。泥を払って、女に向き直る。
シェリ
「ね?」
藤花
「随分と、まあ」
藤花
「可愛くなったやないの」
シェリ
「……えっ、と…」
藤花
精霊の姿が、存在が、意義が、一つの形に収められたのを認識している。
藤花
そして、それをよかったことだと認識している。
藤花
「なんや、ええ目にでも合わしてもろたん?」
シェリ
「ち、がう!」
シェリ
「ええっと、ちがくて、あの」
シェリ
先ほどの光景をなぞるような、何の否定にもならない戯言をうにゃうにゃと転がす。
藤花
「どしたんそないにどろどろになって、かいらしなァ」
藤花
血に濡れた面の表情は変わらないが、うちの女はコトコト笑っている。
シェリ
「無理やりとかじゃ全然なくて、あの、ぼくが」
シェリ
何を言っても、伝えられる気がしない――!
シェリ
いや、一周回って伝わっているのかもしれない。この女には。
藤花
「ええんとちゃう?今のあんたはん、前と違って地に足着いとるよ」
藤花
ついた?囚われたというべきか。
シェリ
深呼吸。精霊(ぼく)にも意味があるのかは、分からないけれど。
藤花
どちらだって構いはしないのだ。前のふわふわとしていて、不安定な妖精とは違う。その在り方。
藤花
自分にはできなかった。この妖精のあり方を歪める事をひどく恐れていたから。
藤花
きっと、あの少年が何かしたのだろう。そしてそれは。おそらく心の疵を癒すような、良い作用をしている。
藤花
少なくともこの妖精にとって、その瞳に揺らいでいる恋は、悪いばかりのものではなさそうだ。
シェリ
語る。廃教会で話したことと、起こったことを。
シェリ
在り方を、”そう”定めてもらって、与えてもらったことを。
シェリ
「…そしたら、なんだか」
シェリ
「うう…」
藤花
「うん、ええんとちゃう?」
藤花
「随分優しゅうしてもろたんやねえ」
藤花
カラカラと笑っている。それでいいのだと思っている。
藤花
「なあ、あんたはん。」
シェリ
未だ向こうが透けて―毒で濁る手を、胸元で握りこむ。
シェリ
「…なあに?」
シェリ
半ば怯えるように、女を見上げる。
藤花
「前、うちに向き合えていうたん、覚えとる?」
藤花
「恋されることに、さざめく心に。」
藤花
「ふふ、いま、どおんな気持ち?」
藤花
楽しげに問いかける。
シェリ
言葉に詰まって、視線がさまよう。
藤花
「うちに教えて?あんたはんの気持ち」
藤花
「あんたはんの思い。」
藤花
「そしたら、うちもあんたはんに教えてあげる。」
藤花
「あん時ははぐらかしてしもたからなあ。」
シェリ
「え、と…いいの?そんな、ことで」
藤花
あなたと付かず離れずの距離を空けたまま、語る。
シェリ
目の前の女が、頑なに引いていた一線を知っている。
シェリ
だからこそ、その真意を量りかねている。
藤花
思うところがあった。愛を糧とし、今恋によって定められようとしている生き物に。
藤花
自分には無い生き方。自分には無いあり方。自分には、できないから。
藤花
「こんなことでは無いんやろ?あんたにとっては。」
藤花
「だから、等価交換。」
藤花
「あんたのことを教えてくれたら、うちのことも教えてあげる。」
シェリ
「…わかった」
シェリ
比較的日が差す路地に、打ち捨てられた椅子と荷箱。藤花共々ひとまず腰を落ち着ける。
藤花
堕落の国では比較的マシな方。それでもやっぱり酷い有様だけれど。
シェリ
衣の胸元を握りしめたまま、ぽつぽつと語り出す。
藤花
二人で恋のお話を、しましょう?
藤花
この妖精があり方を定めようと揺れていた時、自分は何も手を伸ばせなかった。
藤花
それを悔いている。仕方ないと思いつつ、
藤花
申し訳なさを抱えている。
藤花
だから、せめてその在り方が定着するように。導こうとしている。
シェリ
「…失いたく、なくなっちゃって」
藤花
「うん」
シェリ
「でも、ぼくとじゃ時間の流れが違う」
藤花
「……うん」
シェリ
「それに、この国だから。…それだけじゃないことだって、きっとあるでしょう」
藤花
「そうねえ、障害は多いかもねえ」
シェリ
「もしかしたら、×××に抱いていた気持ちも、これに近いのかもしれないけど――あの時のぼくは、失うことを知らなかったから」
シェリ
変えられた形で、喪失を知っている。だから今、ぼくは―
シェリ
「…すごく、怖い」
シェリ
独占欲よりも、叶えたいと願う心よりも。
シェリ
大事なものを失くす恐怖が、ぼくの恋を縁取っている。
藤花
随分、人間のようになったなと思う。
藤花
愛を求め恋を知らぬ人外が、今はまるで人間のように心の機微を語る。
藤花
その様はとても透き通って、眩しくて
藤花
自分と、真逆だ。
藤花
「…そ。じゃあ」
藤花
「なるべく無くさへんように」
藤花
「あの坊主、しっかり繋ぎ止めときな」
シェリ
「…うん」
藤花
「うちと違って、あんたはん」
シェリ
「一緒にいられるように、守りたい」
藤花
「好いたもん抱きしめられる腕も、身体も、唇も」
藤花
「全部、持っとるんやから」
シェリ
「…」
藤花
笑っている。あなたを眩しそうに見て。
藤花
面の下の女の顔は透けていないけれど。
シェリ
その言動に、言いたいことがたっぷりある。
シェリ
それはもうたっぷりと。
シェリ
それはそれとして―。
シェリ
「…もう、これでいいでしょ」
シェリ
「つぎ、トーカが話す番だよ」
シェリ
「等価交換」
藤花
「そうやねえ。じゃああんたはんには、とっておき、教えてあげる」
藤花
「うちはね、恋されたくないの。」
シェリ
「………」
藤花
「恋する人って愚かだから。それも本当よ?」
藤花
「でもね、一番は、殺してまうから。」
藤花
「……うちは、うちの悪いところ、ちゃんとわかってるつもり。」
藤花
「情をかけられたら、情を返してしまいたくなる。」
藤花
「でも、うちがもし本気で好きになったら、その人みんな死んじゃうでしょう?」
藤花
「だから嫌なの。うちは望んでこうなったけど、余計な人まで死なせちゃうのは望んどらんわけ。」
藤花
あなたの紡いだ言葉に答えて、自らの脆さを曝け出す。
藤花
つい、さっき。情をかけた男をまた一人、殺しかけてしまった。
シェリ
藤花の情は、けして長くないみちゆきの中でも感じていた。
藤花
だから、これは自戒。もうあんなことをしないように。
シェリ
それから、さっきの。毒に犯されたユウキを救ってやってほしいと縋られたときにも。わかりやすいほどに。
藤花
「うちはね、好いとる人らのことまで殺したないと思っとるよ?だけどね」
藤花
「それでも毒の体であることはやめられんし、これからも毒を食って生きていく。」
藤花
「そうやって、うちはだんだん化け物になっていく。」
藤花
「……あんたはんとは逆やなあ。」
シェリ
彼女の情をも凌駕する、毒の身体への執着。
シェリ
「どうして、やめられないの?…やめたく、ない?」
藤花
「ふふ、どっちも。」
藤花
「あんなあ、多分食べても死ぬし、食べんでも死ぬんよ。」
シェリ
「…!」
藤花
「毒が強くなりすぎて体が耐えられんくなるか、毒が抜けて免疫落ちて自分の毒に耐えきれんくなるか」
藤花
「推測やけどなあ。多分そんなふうになる。」
藤花
「…だから、それなら。」
藤花
「奪ってきたもんのぶん、」
藤花
「終わり方はこっちにしよって、決めとるの。」
藤花
毒をとるのをやめても、きっと体は弱り続けて、いつかは死んでしまって。
藤花
でももしかしたら、その直前なら、人を愛せるかもしれない。
シェリ
「それは―」
藤花
それをしない。それを選ばない。
藤花
それこそが女の疵。自ら決めた終わりの形。
藤花
毒として生き、死ぬこと。
藤花
その疵が、あなたの前に晒されている。
シェリ
「―それが、トーカの決断なんだね」
藤花
「……うん。ずっと前に、そう決めたの。」
シェリ
大きく息を吸って、吐いて。
シェリ
今だからこそ、分かる。
シェリ
ぼくがこれから言おうとしていることは―ぼくが彼女に向ける慈しみは。
シェリ
彼女の心にそぐわないものなのだろう。
シェリ
それでも。
藤花
あなたを見つめている。ひどく眩しそうにしている。
藤花
そちら側にはいけないと、目を細めている。
シェリ
恋を知った今だからこそ、彼女がそれと定めた結末の悲しさが分かってしまう。
藤花
さっきもまた殺しかけて、思い知った。自分は人を愛してはいけないと。人を恋しがってはいけないと。
藤花
だから、ここで引導を渡してほしい。
シェリ
「トーカ」
藤花
眩しいあなたたちを見て、私はそっちにはいけないのだと、思い知らせて。
シェリ
「ぼくの手、見て」
藤花
「手?」
藤花
あなたの手を見る。透き通っていた水、のはずの。
シェリ
今度は意識して、肌の色を完全に透かす。
シェリ
湖水のいろをした、人ならざるものの腕。
シェリ
そこに今、藤花の毒の濁りはない。
藤花
透き通った色。濁り切った自分とは違う色。
藤花
何者にも犯されないような、うつくしいいろ。
シェリ
「さっきの毒」
藤花
自分が犯してしまうことを何より恐れたいろ。
シェリ
「もう、なくなってる」
シェリ
亡者の毒の色は、忌々しいことに足元に淀んでいるけれど。
シェリ
それでも、彼女の毒ならば。
シェリ
ぼくが受け止めて、なくして、それを繰り返したら―
シェリ
消し去ることだって、できるかもしれない。
藤花
「痛くなかったわけやないやろ。」
藤花
「あんな濁ったもん引き受けて」
シェリ
「それは、トーカだって一緒でしょう?」
藤花
「うちはええのよ。自分のことやし。」
藤花
「他人にまでそれ引き受けさせて何になるん?」
シェリ
殊更におどけたようにして毒を口に運んだあとで、微かに曇る表情を見た。
藤花
「薄まったとて一時的、ずっと繰り返しとったらどんなにあんたはんが清らかでも水質落ちるで」
藤花
自分が痛いのは、いい。だってそれを選んだから。でもこの子は違うだろう?
シェリ
「…それでも!」
シェリ
「…トーカが辛いの、見てたくないよ」
シェリ
「ユーキが倒れたときのトーカが、どんな顔してたかわかってる?」
藤花
「……」
藤花
「知らんよ、自分の顔なんて」
藤花
「化け物みたいな面しとったんとちゃう?」
藤花
殺したくなるくらいの。
シェリ
「すごく辛そうな顔、してた。…毒を食べてるときよりも」
シェリ
「もし、トーカが。大事な人を苦しめてしまうことが辛いなら」
シェリ
「ぼくが助けてあげることが、できるかもしれない」
藤花
「助けてなんていらん。」
藤花
「なんで他人様に迷惑かけてまで、自分のこと甘やかしたらなあかんの」
シェリ
「うん。…トーカは、そう言うだろうと思った」
シェリ
「だからね」
シェリ
「これは、ぼくの我侭だと思って」
シェリ
「わるい泉の精霊に騙されたと思って―」
シェリ
「信じてみて、くれないかな」
シェリ
*藤花の心の疵「異食症」を、愛で舐めます。
GM
*横槍できません! 誰か!?
宮城ユウキ
*しません
GM
*はい あるわけないのでどうぞ
シェリ
*ティーセットも使います。
GM
*+2ですね~ どうぞ!
シェリ
2d6+3+2=>7 判定(+愛) (2D6+3+2>=7) > 5[4,1]+3+2 > 10 > 成功
GM
うーん 危なげなく。
[ シェリ ] ティーセット : 2 → 1
[ 藤花 ] 異食症 : 0 → 1
GM
*藤花にシェリへの恋心が付与されました。
シェリ
あなたの眼前で、碧色の湖面が揺れている。
藤花
「信じて」
藤花
「信じてかあ」
シェリ
あなたが触れようと思わなければ触れることのできない距離で。
シェリ
それでも確かに、あなたに向けて延べられた手がある。
藤花
「……ありがとうなあ。」
藤花
ずっと痛くて、ずっと泣きたくて、自分で決めたことなのに、決めたことだからこそ、苦しかった。
シェリ
一度は毒で淀んで、汚れたそれが。いまは、微かに差し込む日の光を映して輝いている。
藤花
自分の歪んだあり方の全てが。
シェリ
ひとつの澱みも残さずして。
藤花
「……ふふ。じゃあなあ、シェリ?」
藤花
あなたが差し伸べた手に、そっと小指を絡める。
シェリ
「…!」
藤花
指先だけ、ほんのわずかだけ触れ合って
シェリ
藤花からの、はじめての接触。
藤花
「…うちと、死んでくれる?」
シェリ
これまでの道行きで、愛の異能を振るうときさえも許されなかったこと。
藤花
「この先、何度も同じこと繰り返しとったら。あんあたはんももいずれは毒になるね。」
藤花
「一回は良くても、その次は?さらに次は?」
藤花
「反映しやすいあんたはんや、いつかはうちと同じになってまうけど。」
藤花
「あんたはんの大好きな坊主にも、触れられんくなってまうなあ。」
藤花
「それでもうちの手だけ取って、うちだけを見て」
藤花
「うちと一緒に、終わってくれる?」
シェリ
「………」
藤花
これはあなたに願いをかけているのでは無い。
藤花
あなたの形を変える願いではない。
シェリ
女の中に、深く根差したものがある。
藤花
ただ、問うている。あなたにはそれができないことをわかって。
シェリ
この国に落とされてよりの旅路よりも、遥かに長い時間をかけて。女の心を侵したものを見る。
藤花
あなたに根差した、あなたの恋心は、自分だけを選ばないことを理解して、問うている。
シェリ
「…いいよ」
シェリ
「トーカと、ぼくが。どうにもならなくなったら」
シェリ
「そのときはいっしょに、沈んであげる」
シェリ
これまで人間と共にありながら、心までは添わせることのできなかったいきもの。
藤花
「あら、熱烈なお返事。でもあんたはんの好きな男はどうするの?」
藤花
「こんなところに一人で置いていくの?」
シェリ
「でも、ぼくね。…そんなに簡単に諦めてあげるつもり、ない」
シェリ
「…ユーキを置いていくつもり、ない、から」
藤花
「あはは、それじゃあどうするんよ!」
藤花
おかしそうに笑っている。
シェリ
恋を知って、変えられたこころの形。
シェリ
「だからね。―ぼく、すっごく頑張る」
藤花
「何も手放さないでいられるほどこの国は甘くないし、何でも抱えられるほどうちらの腕長ないよ?」
シェリ
「恋は愚かなものだって、トーカは言ったけど―恋にもらえる力だってあるでしょう?」
シェリ
「ぼくの力は、ぼくの愛だから」
シェリ
そこには当然、ユウキへの恋情と―あなたへの慈愛も含まれている。
シェリ
「きっと、前よりもずっと―」
シェリ
「頑張れるって、思うんだ」
シェリ
幾百年かけてこの心に根差した情の大きさ。
シェリ
それが、本気で―愛するあなたを救い、焦がれる者と共にあることができると。信じている。
藤花
「……はあ。あんたはんとこの辺やりあっても無駄なん思い出したわ。」
藤花
指を離し、女が立ち上がる。
藤花
「でもな……ありがとう。あんたはんの気持ちな。」
藤花
「ほんまに嬉しいんよ。」
シェリ
離された指を追って、目線を上げて―必然に目が合う。
シェリ
「ねえ、トーカ」
藤花
「ん、なあに?」
シェリ
立ち上がり、歩み寄る。
藤花
立ち上がって、歩き出そうとしている。
シェリ
その手を取って。
シェリ
「今からすること。本当に、嫌で。つらくて、どうしようもなくなったら―」
シェリ
「ぼくのこと、好きなようにしていいからね」
藤花
「ーは?」
藤花
デジャヴを感じる。身を引こうとする。嫌な予感がする。
藤花
本当に、嫌な予感がする。
シェリ
そのまま、握った腕を引き寄せて―
シェリ
唇同士を触れ合わせる。
藤花
「ーは?ちょ、あんた」
シェリ
彼女が憂う毒が、彼女の内面にあって。それが原因で揺れているのなら。
シェリ
試して、―それで、大丈夫だと思ってもらえばいい。
藤花
「何、しとんの!!」
藤花
女の目一杯の腕力で、突き飛ばす。
シェリ
勢いのまま、べしゃりと尻もちをつく。
シェリ
それでもなお、立ち上がる。
シェリ
「…トーカ。また、新しい毒食べたでしょう」
シェリ
「それについて言いたいことは…ないわけじゃないけど」
シェリ
「それでも、ほら」
シェリ
染み込んだ毒が、指先から消えていく。
シェリ
「…ね?だいじょうぶ」
藤花
「ほんまに何なんあんたはんらは!人のこと好き勝手して!」
シェリ
「…うん。そうだね」
藤花
「なあんで軽率に試すん!?」
シェリ
「ぼくが。大丈夫だって、思ったから」
シェリ
「それに―この程度でダメだったら、これからも続けてなんていけないでしょう?」
藤花
「……はあ」
シェリ
その瞳はどこまでも凪いで、溢れるほどにあなたへの慈愛を湛えている。
藤花
「もう、ええわ、ほんまに。」
藤花
「何なん今日。厄日か…?」
シェリ
「あはは、うん、ごめんね」
シェリ
「…どう?ぼくのこと、信じてくれる気になった?」
藤花
「……あんたはんのご立派な志と、たいそうな慈愛はよう理解しました。」
藤花
面をつけ直して、女が歩き出す。
シェリ
「…それ、あんまり答えになってない!」
シェリ
その後を追う。
藤花
「信じとるよ、あんたはんの慈愛。実際さっき坊主のことも助けてもろた。」
藤花
「……だから、ありがとう。あんたはんのそういう透明なとこ、好きよ。」
シェリ
「…うん、ありがとう」
藤花
渦巻く感情がある。痛む心臓がある。
シェリ
「忘れないでね。ぼくが、トーカのためにしてあげたいことがあって―いつでもトーカは、ぼくに頼っていいってこと」
藤花
「……ふふ、胸に刻んどくわ。」
シェリ
無邪気に歩み寄って、手を繋ぐ。
藤花
高鳴る鼓動がある。毒に浸かった胸を焦がす感情がある。
藤花
同時に、妓女の誇りがある。
藤花
情に脆く、情に弱い自分が、ここまで人を愛さずにこれたこと。
藤花
人に依らず在れたこと。人を破滅させないために、何とか立ち回れたこと。
藤花
その誇りがある。
藤花
そして、毒を喰らうことも。自分はやめられはしない。その疵すら今は満たされているから。
藤花
だから、手をそっと離す。
藤花
「あんたはん、そういうのは有料!」
藤花
あなたが好き。あなたが恋しい。私に心臓をくれないあなたを、それでも好ましく思ってしまう。
藤花
私に寄り添ってくれたあなた。透明なあなた。どうか変わらないで。
藤花
……さっきの死んで欲しいという言葉は、受け入れられないとわかっていたいったけれど、本気だった。
シェリ
「…もう!トーカったら」
藤花
いいよといってくれたけれど。それは私と同じ気持ちでは、無いでしょう?
藤花
あなたのそれは、他の人に向いているから。
藤花
「ほおら、坊主今頃くたばっとるかもしれん。さっさと行こか!」
藤花
だから、あなたには何もあげない。
藤花
好きだからこそ、何もあげない。
シェリ
「…うん!」
シェリ
後を追う。―少なくとも、共に歩むことが許されていることは分かったから。
藤花
好きだから、変えられない。それでいい。
藤花
眩しいものをもらったから。これを胸に、きっと一人で終われる。
藤花
だからもう……きっとあなたの名前を呼ばない。

割り込み:ラビング・ラビット 3

GM
見上げるだけだった眩しいものが、あなたの内にある。
GM
胸を焦がす感情を抱いて、ふと気がつくと。
GM
藤花は一人、荒野に立っている。
ラビング・ラビット
後ろに確かについてきていた足音は途絶えている。
藤花
「ーっ!?」
藤花
周囲を見まわし、理解する。
藤花
「…なるほど」
藤花
「次はうちの番っちゅうわけ?」
ラビング・ラビット
眼の前に広がる寂寥とした荒野。
ラビング・ラビット
振り向けば、やはり荒野が広がっている。
ラビング・ラビット
乾いた大地に、あなたの足跡がある。
藤花
シェリとユウキが魅せられた幻覚。おそらくそれと同じ状況。
ラビング・ラビット
あなたは荒野を歩いてきた。
ラビング・ラビット
その道行きに、多くのものを捨てながら。
ラビング・ラビット
時には何かを拾い上げ、誰かに与えながら。
藤花
歩いてきた。歩いている。この場所に覚えはなくとも、きっと自分はここを歩んできた。
藤花
そんな感覚。
ラビング・ラビット
そうして、拾い上げたものでやがて大事な大事な城を築き上げて。
ラビング・ラビット
しかし、それも今は遠い。
ラビング・ラビット
もう戻れない場所にある。
藤花
私の不夜城。女の城。女が誇りを持って働ける場所。
ラビング・ラビット
あなたがずっと守っていくはずだった場所。
藤花
それを築くまでに、多くの犠牲を払ってしまった。
藤花
……それでも結局は、完全に掬い上げることはできなかったけれど。
ラビング・ラビット
払った犠牲は多く、どれも取り戻すことはできない。
藤花
それでも、私のようなものを生まないために、守ってきた場所だった。
ラビング・ラビット
だけど、もうそこに帰ることはできない。
藤花
そのために殺してきたものも、死なせてしまったものも、多くあって。でも、もう帰れない場所。
ラビング・ラビット
あなたは再び荒野に一人で放り出された。
藤花
堕落の国に落ちた時から、それを理解していた。
ラビング・ラビット
あなたは歩きはじめる。
ラビング・ラビット
そうして──あなたは、花を見つける。
藤花
もう戻れないことを理解して、歩いている。
ラビング・ラビット
ひとつは、透明な花。
ラビング・ラビット
美しい湖面のように、汚れを知らず澄んだ花。
ラビング・ラビット
もうひとつは、赤い花。
ラビング・ラビット
激しく暗い、絶望と激情を湛えた深い色。
藤花
私が触れることを恐れた花。私が傷つけてしまった花。
藤花
うちなら、うまくやれた。私だから、うまくできなかった。
ラビング・ラビット
花は、荒野に寄り添いあうように咲いている。
藤花
美しい光景だと思う。
藤花
そっと目を伏せる。
ラビング・ラビット
花は、あなたに触れられたいと願って揺れている。
藤花
絶対に、嫌。
藤花
枯らしてしまうだけだもの。
ラビング・ラビット
触れれば、枯らせてしまう。命を奪ってしまう。
藤花
地に寄り添いあって咲く花にはなれない。
ラビング・ラビット
あなたの身体は、そのように成っている。
藤花
そのようであることを理解しているし、そのようであることが身を守る武器でもある。
藤花
この国においては、救世主の異能として発揮されている。
ラビング・ラビット
触れれば傷つける。
ラビング・ラビット
触れなければ、そうならずに済む。
ラビング・ラビット
けれど
ラビング・ラビット
いつまで、そのようにあれるだろう。
ラビング・ラビット
救世主の力は、コインを得れば得るほど強まっていくというのに。
藤花
今は良くても、でも次は?今日は良くて、じゃあ明日は?明後日は?
ラビング・ラビット
あなたと体液を交えれば毒となる。
ラビング・ラビット
その次は、触れるだけでも毒になる。
ラビング・ラビット
いずれは──吐息だけでも?
藤花
きっとそのようになる。そういう、化け物になる。
藤花
人でなくなる。今でさえ怪しいが。
ラビング・ラビット
周囲に何者の生存も許さない、命を奪う毒そのもの。
ラビング・ラビット
そんな存在に、きっとあなたはなってしまう。
藤花
そうなってしまう。そうなるようにしてきた。
藤花
望んで、そうなるようにした。
ラビング・ラビット
もう、引き返すことはできない。
ラビング・ラビット
この道を後戻りしても、なにもない。
藤花
ーもしくは。そうなる前に、器が耐えきれなくなるか。
藤花
終わるまでを、まっすぐ、歩き続けるしか無いのだ。
藤花
『藤花』を、そのように作ったのだから。
ラビング・ラビット
藤の花は、毒の花。
ラビング・ラビット
そうでない花と共に咲くことはできない。
藤花
共には在れない。好きであるほどに。情をかけるほどに。
ラビング・ラビット
苦しめたくはないはずだ。
ラビング・ラビット
傷つけたくはないはずだ。
ラビング・ラビット
殺したくないはずだ。
藤花
苦しめたくない。傷つけたく無い。殺したくない。
ラビング・ラビット
恋の毒が、あなたの恋心と表裏一体の不安をくすぐる。
ラビング・ラビット
幸いであってほしいと思えば思うほど、あなたの不安もまた大きくなる。
藤花
苦しめてしまう。傷つけてしまう。殺してしまう。
藤花
いつか、きっと、必ず。
藤花
こんな化け物は、他の花に触れてはいけない。
藤花
いけないのに、花の前に立ち尽くしている。
ラビング・ラビット
花は、生気を失ってきている
ラビング・ラビット
ように、見える。
藤花
ほら、やっぱり。
藤花
やっぱり傷つけたじゃない。
藤花
身体も、心も。
ラビング・ラビット
それは、避けられない未来。
藤花
いずれそうしてしまうなら、今離れた方がいい。
ラビング・ラビット
あなた自身ですら、近く耐えられなくなるような激しい毒を、
ラビング・ラビット
どうして、他人が耐えられようか!
ラビング・ラビット
別離は早い方がいい。
ラビング・ラビット
これ以上傷つけてしまう前に。
ラビング・ラビット
そうなると分かっていても、なお離れがたくなる前に。
藤花
情があるからこそ、あるほどに、今別れておくべきだ。
藤花
妓女の藤花には、その判断ができるはずだ。
藤花
地に咲く花から視線を切る。
藤花
そのままゆっくり、一歩を踏み出す。
ラビング・ラビット
花は、静かに揺れている。
藤花
昔と変わらない。私は、前を見て歩くだけ。
藤花
前にある、いつかは来る破滅に向かって。
藤花
横道に咲く花なんて、見てはいけない。触れてはいけない。
ラビング・ラビット
荒野を行くあなた。
ラビング・ラビット
やがて、毒の化け物と成り果てるあなた。
ラビング・ラビット
その隣に立てるものがあるとしたら。
ラビング・ラビット
きっと、それは。
ラビング・ラビット
おんなじ、毒の化け物なんじゃない?
ラビング・ラビット
*藤花の異食症を愛で抉ります。
シェリ
*横槍を入れます!
ラビング・ラビット
choiceをどうぞ。
シェリ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
ラビング・ラビット
シェリ
*ティーセット使います!
ラビング・ラビット
どうぞ!
シェリ
2d6+0+2=>7 判定(+猟奇) (2D6+0+2>=7) > 8[2,6]+0+2 > 10 > 成功
[ シェリ ] HP : 20 → 19
[ シェリ ] ティーセット : 1 → 0
ラビング・ラビット
では1d6を……
シェリ
1d6 (1D6) > 3
ラビング・ラビット
2d6+3-3=>7 判定(+愛) (2D6+3-3>=7) > 7[5,2]+3-3 > 7 > 成功
ラビング・ラビット
ぴった!
ラビング・ラビット
*藤花からラビング・ラビットへの恋心が付与されます。
[ 藤花 ] 異食症 : 1 → 0
藤花
「……」
ラビング・ラビット
ラビング・ラビットが、あなたの前に佇んでいる。
ラビング・ラビット
大きな一つの目。毒々しい色の混ざった毛皮。
ラビング・ラビット
くりぬかれ、あなたへ差し出される心臓。
藤花
どこからどう見たって、化け物。
ラビング・ラビット
末裔の小娘の成り果てた姿。
藤花
うちと
藤花
私と、おんなじ!
ラビング・ラビット
うん。
ラビング・ラビット
おんなじだよ。
藤花
面を外す。醜い痣に呑まれた醜い顔。
ラビング・ラビット
大きな瞳は、変わらずあなたに向けられている。
ラビング・ラビット
怯えはしない。ひるみもしない。嫌悪もない。
藤花
見たものならば知っている。服の下、全身にまで広がっている死の象徴。
藤花
「…リサ」
ラビング・ラビット
ただ、あなたへの恋情だけをその瞳に、全身に湛えている。
ラビング・ラビット
亡者は、それに答える言葉をもたない。
藤花
名前を呼ぶ。だってその子は、もう死んでいる。
藤花
もう死んでいる者の名前なら、呼べる。
藤花
今まで殺してきた人の名前は、みんな覚えているから。
藤花
「あんたは あなたは」
藤花
「……私と、死んでくれる?」
ラビング・ラビット
「…………」
ラビング・ラビット
亡者は言葉を持たない。心を持たない。命を持たない。
藤花
私だけを見てくれる、私のために死んでしまった人。
ラビング・ラビット
だから、会話などできようはずもなく。
ラビング・ラビット
だけど、あなたの言葉に応えるように。
ラビング・ラビット
「…………」
ラビング・ラビット
巨体にふさわしい大きな心臓が、あなたの目の前に差し出される。
ラビング・ラビット
命を持たないながらも、生命を模した身体。
ラビング・ラビット
今も脈を打ち、冷たい血液を循環させる心臓。
ラビング・ラビット
誰が見ても分かる、致命的な弱み。
ラビング・ラビット
それがあなたに差し出され、委ねられている。
藤花
涙を流し、頬を染め、眺めている。
藤花
ずっと焦がれてきた、死が、破滅が、今私の目の前に差し出されている。
ラビング・ラビット
それは、あなたを待っている。
藤花
駄目だとわかっていた。触れれば傷つけてしまうとわかっていた。恋をしてはならなかった。恋をされてはいけなかった。
藤花
でも、この子は。
藤花
この子は、もう。
ラビング・ラビット
命なき亡者。
ラビング・ラビット
毒を撒き散らす化け物。
藤花
ふらりと、一歩二歩
藤花
化け物の方に歩み寄って
藤花
差し出された心臓に、口付けて。思いっきり毒を吹き込む。
ラビング・ラビット
心臓が、強く脈を打つ。
ラビング・ラビット
高く声を上げる。
ラビング・ラビット
それは苦悶ではなく、歓喜。
藤花
「ふ、ふふ。」
藤花
「あはは、はは」
ラビング・ラビット
恋する相手から触れられた喜びに、うさぎが跳ねる。
ラビング・ラビット
ズシン、ズシンと、地を鳴らす。
藤花
こんなに、こんなに望ましいのに!こんなに狂おしいのに!
藤花
こんなに、愛したいのに!
藤花
「……だめよ、だめなの。リサ。」
ラビング・ラビット
「…………?」
藤花
「だって、リサ、あなた」
藤花
「あなた、もう、死んでしまったじゃない」
藤花
「私より先に」
ラビング・ラビット
ここにいるのは、ラビング・ラビット。
ラビング・ラビット
あなたを求め、あなたに恋するうさぎ。
藤花
この亡者が自分に死を齎してくれたとしても!
藤花
それは、あの娘ではない。あの娘は先に死んでしまって、私と共には死んでくれない。
ラビング・ラビット
リサなんて娘は
ラビング・ラビット
ここにも、どこにもいない。
藤花
「私は本当は、ずっと誰かに一緒にいてほしかった。」
ラビング・ラビット
亡者の瞳に、困惑が浮かんでいるように見える。
ラビング・ラビット
なにがだめなの?
ラビング・ラビット
なにがいやなの?
藤花
「私一人だけを見てくれる人に愛されて、私も一人だけを愛したかった。」
ラビング・ラビット
恋している。愛している。
藤花
「好きだっていってほしかった。好きだって言いたかった。」
藤花
「でも、でもね」
藤花
「……そうなれないの、そうなっちゃいけないの。一人で、いなきゃいけないの。」
藤花
「それは、毒の化け物だからじゃなくて」
藤花
「あの日、春梅が、そうするって決めたから!」
藤花
春梅。過ぎ去った春の日の名前。
ラビング・ラビット
「……」
ラビング・ラビット
亡者の瞳は、変わらずあなたを捉えている。
ラビング・ラビット
あなたに囚えられている。
藤花
貧しい薬園に生まれて、将来は薬草を研究したかった女の子の名前。
藤花
あの日、売り飛ばされた先でいきなり客を取らされて、毒を飲んで死のうとした女の子の名前。
藤花
それでも死ねなくて、どうしようもなくて、
藤花
それならば、皆、殺そうと
藤花
「私が、決めたの。他でもない私が、選んだの。」
藤花
「この先誰も愛せなくても、こうするって。化け物になって一人で死んでいいって、決めたの。」
藤花
「あなたが好き。私だけを見てくれるあなたが好き。私に死を齎してくれるあなたが好き。」
藤花
「でも、私は」
藤花
「私は、それに、縋る資格がない……!!」
ラビング・ラビット
「……」
ラビング・ラビット
再び、亡者はあなたに心臓を差し出す。
藤花
縋る資格ごと、あの日に捨て置いてきた。
ラビング・ラビット
それしか知らない。
ラビング・ラビット
心持たぬもの、言葉を持ち得ぬ亡者は、ただ同じ行動を繰り返す。
藤花
あなたが言葉を尽くせる生者なら、何かが変わったのかもしれない。
藤花
でも、あなたは、もう死んでしまっているから。
藤花
死んでしまっているあなたにできることが、私にはこれしかない。
藤花
「好きよ。…好いてくれてありがとう。」
藤花
「好きだから……あなたに、私の心臓は、あげられない」
藤花
もう一度、今度は亡者の心臓に、歯を立てて
藤花
毒を、ありったけ注ぎ込む。
ラビング・ラビット
「……!!」
ラビング・ラビット
毒そのものよりも
ラビング・ラビット
そこに込められた断絶こそが、痛い。
ラビング・ラビット
幻覚が晴れる。
ラビング・ラビット
そこに荒野はない。
藤花
毒のかんばせに涙を浮かべたまま、膝をついている。
藤花
本当は応えたかった。応えて、そして殺してほしかった。
藤花
女の疵が、誇りが、あの日の自分への責任が。そして恋したものと、恋をさせてしまったものへの責任が、それを許さなかった。
ラビング・ラビット
「……」
藤花
「……あんたはんのことは、ちゃんと」
藤花
「うちが、殺してあげる」
藤花
死に焦がれ、恋に溺れるこの心ごと。
ラビング・ラビット
亡者の瞳は変わらずあなたを見つめている。
ラビング・ラビット
心臓もまた、あなたに向けられている。
ラビング・ラビット
そうして、一つだけこの亡者にもわかったことがある。
ラビング・ラビット
このひとは、このままではてにはいらない。
ラビング・ラビット
「……!」
ラビング・ラビット
藤花に向かって、亡者の大きな足が振るわれる。
シェリ
瞬間。
シェリ
亡者と藤花の間に割り込む影。
ラビング・ラビット
「!」
シェリ
待機中の水分を集めて作られた愛の救世主の幻影が、藤花を庇うように立ちはだかる。
シェリ
「させない…っ!」
藤花
「!」
ラビング・ラビット
構わず幻影に向けてそのまま足を振り抜く。
シェリ
「――っ!」
シェリ
幻影は衝撃を受け止め霧散して、その傷は救世主に向かう。
藤花
「……!!」
シェリ
「…まだまだ!」
シェリ
救世主は斃れない。新たな幻影が、もう一度作り出される。
ラビング・ラビット
苛立ちか威嚇か、ズシンズシンと地を鳴らす。
宮城ユウキ
そこからラビング・ラビットが二撃目を振り抜くその寸前、
宮城ユウキ
放られた斧が亡者の首へと落ちる。
ラビング・ラビット
「!!」
ラビング・ラビット
亡者の厚く堅い毛皮が、首への一撃を受け止める。
藤花
目の前で飛沫いた血と水に、冷静さを取り戻し体を動かす。毒の煙を張る。
宮城ユウキ
「……あー」
シェリ
「ユーキ!」
宮城ユウキ
「しまった」
宮城ユウキ
「こっちだと斧の調達、面倒だったな」
ラビング・ラビット
次々に現れるじゃまものに、かんしゃくを起こしたように地団駄を踏む。
宮城ユウキ
重い身体を引きずるようにして現れる。
宮城ユウキ
シェリと藤花の隣で足を止め、二人を見やる。
宮城ユウキ
藤花を見て明らかに顔を顰めたが、
宮城ユウキ
「……まあ、いいや」
藤花
まだ涙の残る女が、油断なく亡者を見据えている。
宮城ユウキ
「とにもかくにも」
宮城ユウキ
「殺すか。アレ」
ラビング・ラビット
「……! …………!!」
藤花
「あんたはん、今の怪我平気?すまんな、かばわしてしもて」
藤花
シェリに向かって。
藤花
「そんであんたはん…動けるん?」
藤花
ユウキに向かって、尋ねる。
シェリ
「平気。このぐらいで倒れないよ、ぼく」
宮城ユウキ
「非常に最悪な気分ながら」
宮城ユウキ
「心の疵の方は調子がいいみたいでね」
宮城ユウキ
「多分、前の裁判よりは良好」
藤花
「……そう。」
シェリ
「二人とも、ぼくが治す!だから―」
シェリ
亡者に向き直る。
シェリ
「―やらなきゃ!」
宮城ユウキ
「うん」
宮城ユウキ
「やろうか」
藤花
「せやね」
藤花
「ちゃあんと、殺したる」
ラビング・ラビット
ラビング・ラビットは
ラビング・ラビット
今も、激しい恋の毒に浮かされている!