お茶会 ラウンド2

行動:宿木ルカ

GM
三人が辿り着いた末裔の村は、前の村よりはよほどましな様相をしていた。
GM
崩れている建物は少なく、畑は痩せているが荒らされている様子もない。
GM
しかし。
GM
末裔たちが三人を出迎えるよりも前に、
救世主の少女
「いい加減にしてよ!!」
GM
耳をついた金切り声が、その村の異常を示していた。
イェルク
眉を寄せる。
ネロ
様子を伺うべく、魔法陣の展開を試みる。
救世主の少女
「救世主だなんだって!」
救世主の少女
「私はなにもできなかったの!」
救世主の少女
「私はなにもしてあげられないの!」
救世主の少女
「あんたたち」
救世主の少女
「あんまりしつこくするようなら」
救世主の少女
「全部、全部、この炎で」
救世主の少女
「燃やしてあげてもいいんだから!」
イェルク
目を見開いた。
イェルク
ネロが様子を窺い、その結果を報告するのを待つより先に。
イェルク
男は地を蹴り、声の方へ駆ける。
宿木ルカ
一歩出遅れて、イェルクの後を追う。
ネロ
慎重な男らしくもない行動に驚きながらも、後を追う。
GM
末裔たちが集まっている。
GM
怯え惑う彼ら。この世界にはよくある光景の中心に。
救世主の少女
燃え盛る少女の姿がある。
救世主の少女
「送ってやるわよ!」
救世主の少女
「同じところに!」
宿木ルカ
少女のあまりの剣幕に、そして炎に。息を呑む。
救世主の少女
「私だってこのまま死ぬんだわ!」
救世主の少女
「この――この炎に焼かれて」
救世主の少女
「あの女」
救世主の少女
「あの、ふざけた女!」
救世主の少女
「ジュアンとエマを焼いた女」
救世主の少女
「あいつのせいで、あんたたちだって、全員死ぬの!」
イェルク
聞いている。
イェルク
少女の叫びを。
イェルク
どよめく末裔たちの只中にあって、燕尾服を纏った男が呆然と立つ。
宿木ルカ
どうすべきかも分からずに、二人の様子を伺い見る。
ネロ
理解する。この少女に降りかかったであろう悲劇を。
ネロ
それをもたらしたであろう、女を。
ネロ
理解し、眺めている。
救世主の少女
「だから――」
救世主の少女
途中、少女が言葉を切り。
救世主の少女
三人の存在に気付く。
宿木ルカ
「!」
救世主の少女
口角に泡を溜めたいとけない少女が、その場に目を大きく見開いて。
宿木ルカ
激情に揺らぐ瞳が、こちらを捉えている。
末裔たち
その視線を追った末裔たちが、やっと救世主の来訪にどよめく。
末裔たち
「救世主さま」「新しい救世主さま!?」「ああ、今度こそ……」「助けて」「救世主さま」「どうか!」
末裔たち
少女に注がれていた恐怖と懇願の視線が、そのまま三人へと向けられる。
末裔たち
伸びた手のひとつが、ネロの服の裾を掴み。ルカの肩を縋り。
イェルク
袖を掴まれて尚、反応を返すことができずにいる。
宿木ルカ
戸惑い。
イェルク
少女を見ている。
ネロ
振り払うこともなく、かといって掬い上げることもなく。
宿木ルカ
振り払うことは、できない。
救世主の少女
その燃え盛る炎を。
救世主の少女
「……は」
救世主の少女
「はは、は」
救世主の少女
笑う。少女が。笑っている。
救世主の少女
乾いた笑い声に火の粉の弾ける音が混ざる。
宿木ルカ
この痛ましい世界で、少しでも強い者に縋ろうとする気持ちを否定することができない。
救世主の少女
燃えている。身体を焼かれている。焼かれるその身を抱くようにしながら。何かを悟ったように笑っている。
救世主の少女
「よかったじゃない、あんたら」
救世主の少女
「私は用済みね」
救世主の少女
「助けなら、そいつらに求めなさいよ。まだまだ元気そうで何よりじゃない」
GM
末裔たちはその言葉を否定しない。
GM
末裔たちにとっては誰でもいい。自分たちを救ってくれるものであれば。
宿木ルカ
用済み。
GM
狂乱のままに叫び散らかすその女よりも、なるほど理性を保ったままの救世主たちのほうがよほど頼りになるだろう。
宿木ルカ
彼女の辿ってきた道程を知らない以上、血を吐くようなその言葉を遮る道理が見つからない。
ネロ
星宙の瞳を薄く開けて、少女を見据えている。
救世主の少女
膝を折る。少女が。その場に。
救世主の少女
顔を覆って。
救世主の少女
その身体を炎が焼いている。
救世主の少女
「……いいわ」
救世主の少女
「もう、疲れたの」
救世主の少女
「なんにもできなかったの」
救世主の少女
「なんにもしてあげられなかったの」
ネロ
目を閉じる。
宿木ルカ
ただ、口を噤むことしかできない。
救世主の少女
「ジュアンは、私を助けてくれた。この世界に落ちたばかりで。右も左もわからない私に、優しくしてくれた」
救世主の少女
「エマは、この世界に来たのは私よりあとだったけど……でも、全然、私より、肝が座ってて」
救世主の少女
「でも」
救世主の少女
「二人を焼いた、あの女に」
救世主の少女
「私、なにもできなかった」
救世主の少女
「……この炎、消えないの」
救世主の少女
「消えないのよ」
救世主の少女
「どうして?」
救世主の少女
「……ねえ、あんたら」
救世主の少女
「救世主ども!」
宿木ルカ
「…っ!」
救世主の少女
顔を上げて、叫んだ。
ネロ
「聞きましょう、少女」
ネロ
受け止めて、返す。
イェルク
沈黙している。
救世主の少女
「あんたたち、私を殺すんでしょう?」
救世主の少女
「ねえ」
救世主の少女
「嬉しい?」
救世主の少女
「こんな、誰が見てももう終わりの救世主を見つけて」
救世主の少女
「あとは殺すだけの生き餌を見つけられて」
救世主の少女
「――良かったって、思ってる?」
救世主の少女
炎が少女の頬を焼いている。
宿木ルカ
かけられる言葉が、僕の中にはどこにもない。
ネロ
「いいえ」
ネロ
「嬉しくはありませんよ、僕にとっては。」
救世主の少女
「じゃあ」
救世主の少女
「殺さないでくれる?」
救世主の少女
火花が散る。
ネロ
「ですが、悲しくもありません。」
ネロ
「名も知らぬ少女、君は」
アウレア
女の纏うていたものと同じ色の炎が揺れている。
ネロ
「その炎が己の身から消えることを信じられますか?」
救世主の少女
「……は?」
ネロ
「君を焼いている、浄罪の炎が消えて。傷もすっかり治って、幸福に生きる」
ネロ
「そんな希望を持つことができますか?」
救世主の少女
「なに」
救世主の少女
「何、言ってるのよ」
救世主の少女
「この炎は」
救世主の少女
「ジュアンとエマを焼いたのよ」
救世主の少女
「何を」
救世主の少女
「何をしても、消えなかった!」
救世主の少女
「あんた――あんた、何も知らないで」
宿木ルカ
あの炎を知っている。それが消えないことに、絶望している。―少女とは、違う意味で。
ネロ
「ええ、君の事情を、僕は何も知らない」
ネロ
「僕が知りたいのは、君が未来に幸福を描くことができるかどうか」
ネロ
「…生とは、幸福であるべきだ。君がその炎が消えると信じられるのなら、僕の愛が君を救うこともできるかもしれない」
ネロ
「ですが」
救世主の少女
「……なに」
救世主の少女
「なに、を」
ネロ
「幸福を描けない生なのならば、ここで最大の幸福のままに終わらせましょう。僕の愛には、それもまた可能です。」
救世主の少女
「…………」
救世主の少女
「……ジュアンと」
救世主の少女
「エマが」
救世主の少女
「戻ってきて、ほしいの」
救世主の少女
「それも」
救世主の少女
「信じられれば、なんとかなるっていうの?」
ネロ
「それが、君の最も幸福になれる望みですか?」
救世主の少女
「…………」
救世主の少女
「……うん」
救世主の少女
「二人が」
救世主の少女
「帰ってきて、ほしいの」
救世主の少女
「ごめんなさいって、言いたいの」
救世主の少女
「今度こそ」
救世主の少女
「役に、立つからね、って――」
宿木ルカ
「………」
ネロ
「そう」
ネロ
「それなら、少女」
ネロ
「目を閉じて」
救世主の少女
「…………」
救世主の少女
炎の中に。
救世主の少女
ネロの言葉に従って、瞼を閉じた。
宿木ルカ
「……?」
救世主の少女
その少女の胸に、血の花が咲いた。
救世主の少女
「――え?」
救世主の少女
少女の胸に、二本のナイフが立っている。
救世主の少女
二人の目には覚えのあるナイフ。
ネロ
魔法をかける
救世主の少女
食事をする時に使うような、優美な曲線で形作られた銀のナイフが。
宿木ルカ
ナイフの飛んできた先を見やる。―見当など、つかぬはずもない。
イェルク
男はナイフを放った格好のままその場に立っている。
ネロ
痛みを取る魔法、意識を混濁させる魔法、幻覚を見せる魔法。
救世主の少女
「…………」
救世主の少女
絶望に目を見開いた少女には。
救世主の少女
裏切りを悟った少女の瞳には。
救世主の少女
それが、届かない。
ネロ
まあ、効果があるかは知りませんが。
救世主の少女
崩折れる。
救世主の少女
その柔らかな身体が。
救世主の少女
血の海の中に、どう、と倒れた。
救世主の少女
炎は。
救世主の少女
粘質の血の中に消え失せる。
イェルク
「…………」
イェルク
「救世主一行がここに、もう一組」
イェルク
「脅かされるのは、俺たちの方だろう」
イェルク
「違うか? ネロ」
ネロ
「嫌な役回りをさせてしまいましたね、すみません。」
ネロ
「せめて幸福のうちに送ろうと思ったのですが」
ネロ
「また、上手くはできなかった」
イェルク
「慈悲深いことだ」
イェルク
「俺には――」
イェルク
何事か続けかけた男が口元を押さえ、膝を折る。
イェルク
俯き、頭を垂れて、背を跳ねる。
ネロ
「イェルク!!」
宿木ルカ
「―イェルクさん!」
イェルク
「――ゔ、ッ」
イェルク
荒い呼吸の間に肩を震わして、
ネロ
駆け寄り、背を支えようとする。
イェルク
ろくな固形のない胃液を吐き戻す。
イェルク
擦るその手を拒むことは叶わず。
GM
末裔たちは少し離れたところから救世主たちを見守っている。
ネロ
「ー部屋を」
ネロ
「貸していただけますか?」
末裔
「は」
末裔
「はい」
末裔
「救世主さま……」
ネロ
男の背を撫でながら、いつかの男のように。
ネロ
救世主の特権を振りかざす。
イェルク
添える言葉をもたず、蹲っている。
宿木ルカ
「あの、僕、先に行きます」
GM
末裔たちは困惑と恐懼のままに救世主を導く。
宿木ルカ
一歩先に出て、案内を乞う。
ネロ
「飲める水も、あれば。すみませんが用意をお願いします。」
ネロ
口調だけは丁寧に。
GM
頷き、言われるがままに。
GM
粗末だがましな方の家屋へと案内し、濁った水が用意される。
宿木ルカ
荒れた部屋の中に、少しでもましな場所を作る。
GM
末裔たちに通された部屋の中。
ネロ
先導してくれた末裔とルカに続き、イェルクを半分担ぐようにして部屋に入る。
イェルク
ネロに抱えられるがままに部屋へと招かれ、項垂れている。
イェルク
「…………」
宿木ルカ
なるべく埃が立たないように、体を休められるように。
イェルク
「……すまな」
イェルク
「い」
イェルク
吐き出すような声。
ネロ
「無理をしないで。飲めますか?口を濯ぐだけでも構いませんから。」
ネロ
水を差し出しながら、空間とイェルクに心ばかり清めの魔法をかける。
イェルク
「…………」
イェルク
差し出された水を、無理矢理に飲み下す。
イェルク
意識して呼吸を繰り返し、それを整えて。
イェルク
視線は床へと落とされている。
イェルク
「…………お前、の」
イェルク
「願いを叶える奇跡を」
イェルク
「浪費させるべきではない」
イェルク
「そう」
イェルク
「判断した」
ネロ
「ありがとう」
イェルク
「…………」
ネロ
「でもね、僕に起こせる奇跡なんて、あの場にはなかったんですよ」
ネロ
「死者の蘇生なんて、さすがの僕にも出来ない。」
ネロ
「幸福な夢を見せて、送るくらいしか。」
ネロ
「だから、遅かれ早かれ、です。」
イェルク
「ああ」
ネロ
「また君の行動に助けられました。…そのせいで、無理もさせてしまいましたが。」
イェルク
「……冷静に考えれば、分かることだった」
イェルク
「だが」
イェルク
「……だから、か」
イェルク
「俺は、恐らく、許せなかったのだろう」
ネロ
男の隣に腰掛けたまま、話を聞いている。
イェルク
「あの少女が救われることにも」
イェルク
「……あの炎に、手が、加えられることにも」
イェルク
「だからだ」
イェルク
「だから、あのような露悪に至った」
宿木ルカ
目を伏せて、耳を傾ける。
イェルク
本人の言う通り、男の介入は些か遅すぎた。
イェルク
あの結末に至るなら、ネロと少女の会話を見守る必要はなかったはずだ。
イェルク
それが、どうして、あのタイミングで、
イェルク
少女にとって最大の絶望を齎すかたちで、彼女の命を絶つことを選んだのか。
イェルク
――恐らく男はその合理性でよく理解している。
イェルク
したからこその、この醜態。
ネロ
ああ、また上手く出来なかったなと。
ネロ
漠然と思っている。
ネロ
あの少女に自分解してやれることは、ほとんどなかった。
ネロ
…実を言うと、ないわけでは、ないのだが。
ネロ
それを選ばなかった。
ネロ
選ばぬ上で、仲間であり愛する2人に、重荷を背負わせたくなかった。
ネロ
今度こそ、愛する2人のために、傷付かぬように、自分がうまくやろうと思ったのだが。
ネロ
結果がこのざまだ。
イェルク
「――アウレア」
イェルク
「あいつは、そう、なったか」
ネロ
あの聖女のように、本物の愛でもって
ネロ
救うことは、出来ない。
宿木ルカ
「……………」
ネロ
「……ええ」
ネロ
「少女を焼いていた炎」
ネロ
「……そう言うこと、なのでしょう。」
宿木ルカ
やっぱり。
宿木ルカ
2人がそう言うのなら、間違いはないのだろう。
宿木ルカ
予想はしていたけれど、理解したくはなかった事実。
イェルク
「……俺は」
ネロ
イェルクとルカ、二人の顔をそっと眺めている。
イェルク
「そうだろうとは、思っていたが」
イェルク
「いいや、ああ」
イェルク
「納得していた。納得している」
イェルク
「あの状況で生き残れるはずもない――というよりは」
イェルク
「あいつは、もう、”終わって”いたから」
アウレア
その炎が自分のみを焼くものでなくなった瞬間に。
アウレア
アウレアという女の本質的な死があった。
イェルク
男はそれをよく理解している。理解していた。
イェルク
だが。
イェルク
「……俺が」
イェルク
「どうして”許せなかった”のか」
イェルク
「わかるか。ネロ、ルカ」
ネロ
「……」
宿木ルカ
ネロを見やる。
ネロ
答えは、ある。
ネロ
ただ
ネロ
それを口に出して良いものか
イェルク
男は項垂れている。
ネロ
それを「妖精」が口に出して良いものか
ネロ
はかりかねている
イェルク
あなたたちの答えを待っている。
ネロ
善良な妖精ではない自分には、感情の機微を、情動を、うまく形にすることができない
宿木ルカ
「…上手く、言えないです」
宿木ルカ
「…すみません」
イェルク
「…………」
ネロ
「……ええ、僕も、君の気持ちをうまく汲み取れるほど」
ネロ
「……そういう存在ではない、ですが」
ネロ
「君のそれは、愛の形をしていると」
ネロ
「僕には、思われます」
イェルク
「はは」
イェルク
笑った。
イェルク
「愛」
イェルク
「愛、ね」
イェルク
「なるほど」
イェルク
「そいつは微笑ましい話だ」
ネロ
「僕には分かりませんよ、正確なことは」
ネロ
「君のように合理的でもない」
イェルク
「…………」
ネロ
「ただ、そのような形にも見えると。」
イェルク
「誰にでも優しくする女に惚れ込む初心な男に」
イェルク
「なりきるのも、悪くはなかろうが」
イェルク
「少々遅すぎるな。それは」
宿木ルカ
この人のことを、少しは分かったつもりでいたけれど。
宿木ルカ
こころに踏み入るには、一歩届かない。
ネロ
「惚れた腫れただけではないでしょう。愛なんてものは。」
イェルク
「ああ、いいんだ」
イェルク
「聞いておいて悪いが」
イェルク
「説法を求めての話じゃあない」
イェルク
「俺は、分かっている」
イェルク
「俺のこれは」
イェルク
「”俺こそがあの炎に焼かれたかった”という」
イェルク
「どうしようもない、嫉妬だ」
ネロ
恋慕、執着、依存、狂信、友情、背徳、もしくはそのどれでもないもの、不定形たるもの。
宿木ルカ
「――!」
ネロ
愛なんて、それがそうだと思えば、そうなるものだ。
ネロ
妖精には、その程度のことしかわからず。
イェルク
「焼かれるべき罪が、ここにある」
ネロ
男の言葉を、ただ咀嚼している。
イェルク
「あの浄罪の炎であれば」
イェルク
「正しく裁かれることが、叶うかと思っていたが」
イェルク
「……ああ、だが」
イェルク
「あの女は、それを厭うていたな」
イェルク
「厭うていたんだ。よく知っているとも」
イェルク
「……知っているだろう?」
宿木ルカ
本当にあったかどうかも定かではない、誰にも保障のできない記憶の最中。
宿木ルカ
己を焼かない炎を、見た。…気がする。
ネロ
「正しさという言葉は、ひどく属人的だ」
ネロ
「特にこの国では」
ネロ
「僕の知っている彼女は……ええ、厭うでしょうね。そのような言葉で他人を焼くことを」
ネロ
おそらくそのような女であった、と思う。
ネロ
記憶の中の聖女の姿はひどくぼやけている。
アウレア
褪せていくものがある。
アウレア
失われたものがある。
アウレア
欠けたものは戻らない。
宿木ルカ
「あのひとは…アウレアさんは」
アウレア
そんな当然の真理の中に。
アウレアとの思い出
あなたたちは、彼女への想いに向き合う。
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「”ああ”なっても、まだ、二人を…」
宿木ルカ
「いえ」
宿木ルカ
「僕も含めて。三人を」
宿木ルカ
「慮っていた…ように見えました」
イェルク
「……ああ」
イェルク
「そういう、女だ」
宿木ルカ
「灼かれることのないように…僕を突き飛ばしてまで」
宿木ルカ
未だ残る火傷の痕に手を触れ、記憶を手繰り寄せる。
宿木ルカ
「僕は、あの人のことを知らない」
宿木ルカ
「だけど」
宿木ルカ
「あの行動が、すべてなんだと思います」
アウレア
あなたを抱きしめた女。
アウレア
あなたを狙う亡者の一撃を背に受けながらも。
アウレア
その抱擁は温かかった。
アウレア
xxx
アウレア
その心地よい熱は、すぐに苛烈な浄罪の炎に上塗られたが。
アウレア
あなたの記憶の中には、今も欠けずに残っている。
宿木ルカ
覚えている。あの温もりを。あの熱さを。
アウレア
あなたの中に灯る炎は未だ消えずにいる。
イェルク
「……そう、だ」
イェルク
「それが」
イェルク
「アウレアだ」
イェルク
「だから、俺を焼くことなど、望むはずもない」
イェルク
「それでも」
イェルク
「今、”そう”なり果てたアウレアにならば」
イェルク
「焼かれることが叶うかもしれないと」
イェルク
「…………」
イェルク
「……身勝手な、話だ」
宿木ルカ
「…僕は」
宿木ルカ
「そうあってほしく、ないです」
宿木ルカ
「これも、僕の身勝手」
宿木ルカ
覚えている。あの瞳を。
アウレア
あなたを見つめる燃えるまなざしを。
宿木ルカ
託されたことを。
宿木ルカ
生き残った価値など感じられない僕にも、譲れないことがある。
宿木ルカ
「アウレアさんに、お二人のことを任されましたから」
宿木ルカ
「自分から傷つきに行くイェルクさんを、放ってはおけない」
宿木ルカ
「…です」
宿木ルカ
あの言葉だけに支えられて、自分は今救世主として立っている。
宿木ルカ
*アウレアとの思い出の「アウレアへの好意」を、猟奇で抉ります。
GM
*横槍はありません。判定をどうぞ。
宿木ルカ
2d6+3=>7 判定(+猟奇) (2D6+3>=7) > 8[4,4]+3 > 11 > 成功
[ アウレアとの思い出 ] アウレアへの好意 : 0 → -1
イェルク
「はは」
イェルク
「……何か、言っているとは思ったが」
イェルク
「そんなことを」
宿木ルカ
「はい」
宿木ルカ
「だから、僕は」
宿木ルカ
「ここにいます。―お二人と、一緒に」
イェルク
「…………」
イェルク
「そいつは」
イェルク
「大変、頼もしい話だ」
ネロ
2人のやりとりを、眺めている。
ネロ
口を挟むことはなく。
宿木ルカ
「…聞いても、いいですか?」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「お二人から見た、あの人のことを」
イェルク
視線でルカを窺う。
宿木ルカ
僕は、あの人を知らない。
宿木ルカ
それでも、あの人の存在が瞼に焼き付いて離れない。
宿木ルカ
だから―少しでも知りたかった。
宿木ルカ
あの人の人となりを。意図を。感情を。
イェルク
「…………」
イェルク
「そういう話なら、ネロ」
イェルク
「お前のほうが得意なんじゃないか」
ネロ
…そう、だろうか?
ネロ
自分がアウレアという女と過ごした期間はイェルクよりも短く
ネロ
そしてその記憶すら、今は揺らぎ始めている。
ネロ
「僕に話せることも、そう多くはないのですが…」
イェルク
「…………」
ネロ
「それでも、そうですね」
イェルク
ネロに振った本人も、無理のあることを言った自覚はあるらしい。
イェルク
仕向けた以上その矛先を収めることはしないが。
ネロ
「本物の愛を持った聖女というのは、ああいうひとを言うのでしょう」
ネロ
「揺らぐことなく、確固たる芯のように、体の真ん中を愛が通っているような」
ネロ
「そんな印象でした」
イェルク
ネロの言葉を聞いている。
イェルク
否定の言葉はない。
ネロ
君は?と言うようにイェルクの方を見やる
イェルク
「……慈悲深い女であるとは、認識していた」
イェルク
「だから」
イェルク
「長くは、ないだろうとも」
イェルク
「生き延びるための殺しが迫られる世界だ」
イェルク
「自分が生き延びるため、他者を食い物として殺す」
イェルク
「あの女の愛と慈悲の形は」
イェルク
「この世界の生存戦略を前に、どうしようもない矛盾を起こす」
イェルク
「それを」
イェルク
「なるべく長く、生かすつもりで、動いていたが」
イェルク
「……今、思えば」
イェルク
「あの女の在り方を尊重しながら」
イェルク
「変質を望んでいたのかもしれないな」
イェルク
「俺は」
宿木ルカ
「変質」
イェルク
「この世界を生きるための変質を」
イェルク
「……それと」
イェルク
「………………」
イェルク
「いいや」
イェルク
「これ以上は、語るまでもないか」
ネロ
眺めている。男の語るさまを。
ネロ
変質。
ネロ
誰かを求め、変わってほしいと願うこと。
ネロ
求めに応じて、変わること。
ネロ
自分には、それがそう悪いことには思えず。
ネロ
ただ、アウレアという女の大きさを思い知るように、語られる言葉を聞いていた。
イェルク
生きてほしいと願う。生きるほどに罪を重ねることになるこの世界で。
イェルク
その身勝手な祈りを手放しに肯定するには、男は少々賢しすぎた。
イェルク
死なせたくないと思う。
イェルク
その願いの無力と、結末に導かれた醜悪を知っている。
イェルク
血溜まりに沈む少女の姿を知っている。
イェルク
自分は。
イェルク
自分の合理主義が、そこで。
イェルク
十全に働いてみせたことも、よく理解している。
宿木ルカ
「ありがとうございます」
宿木ルカ
「突然踏み入ったことを、聞いてしまって」
宿木ルカ
「すみません」
イェルク
「……いいや」
イェルク
「話を振ったのは俺の方だ」
イェルク
「お前も、困ったろう。突然このような話をされて」
宿木ルカ
「いいえ。―いいえ」
宿木ルカ
「遅かれ早かれ、聞かなければいけないとは思っていましたから」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「この国で、僕が…救世主として、生きるためには」
宿木ルカ
「アウレアさんのことも、お二人のことも」
宿木ルカ
「知らないままではいられなかったんです」
宿木ルカ
そうでなくては。
アウレア
『ネロと、イェルクのこと』
アウレア
『頼んだわ』
宿木ルカ
歩いていけない。手を延べることも、できない。
アウレア
あなたの定めた道程は、託されたその言葉の先にこそある。
アウレア
少なくともあなたはそのように定義している。
宿木ルカ
”僕”が、生き残ってしまったからには。
宿木ルカ
他ならぬ”僕”に託してもらったことを投げ出すわけにはいかない。
宿木ルカ
投げ出したくないとも思っている。
アウレアとの思い出
彼女への好意が、あなたの想いを新たにする。
アウレアとの思い出
希望なきこの国で、あなたが救世主として立つための想いを。
アウレアとの思い出
そのための熱が、あなたの胸にはまだ残されている。

行動:PK その3

アウレアとの思い出
……一方の、あなたはどうだ?
イェルク
「……しかし、なんだ」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「お前の、その、何もかもを愛として定義して肯定的に捉える仕草……」
イェルク
「一概に悪いものとは、言わないが」
ネロ
「……おや」
ネロ
「問題がありましたか?」
イェルク
「心の機微への解像度の低さは」
イェルク
「そのまま心の疵への解像度の低さに直結する」
イェルク
「そのように振る舞うことで救われる場面もあろうが」
イェルク
「”敢えて”であれるようにした方が良いと、俺は思う」
ネロ
「ああ、そうですね」
ネロ
「心、心というもの」
ネロ
「僕はどうも、それに疎い」
ネロ
「いや、疎くなってしまった?」
イェルク
「疎くあることに気付けた」
イェルク
「愛で全てを肯定し、立ち止まってしまうことは」
イェルク
「言ってしまえば、思考停止に等しい」
イェルク
「”アウレアを愛しているから、少女のことを許せなかった”」
イェルク
「その結論は」
イェルク
「俺の疵に触れるものではなかった」
宿木ルカ
彼の、これまでの在り方が。彼をそうあらしめているのだろうか。
イェルク
「だから俺は」
イェルク
「お前の言葉を遮って、話を進めざるを得なかった」
イェルク
「お前の愛の堂々巡りでは答えが出ない話題であったからだ」
イェルク
賢しい男の語る言葉は正鵠を射る。
イェルク
あなたの本質を捉え、同時に、
イェルク
先程の話題で、あなたが踏み入ることのできない領域のあったことを、改めて浮き彫りにする。
イェルク
愛への解像度の低さ。
イェルク
望まれたままに動くだけの存在としての習性。
イェルク
あるいは後遺症。
イェルク
それこそがあなたの心の疵であった。
アウレアとの思い出
だから、救えなかった女への想いもおぼろげだ。
アウレアとの思い出
イェルクのようには彼女を語れず。
アウレアとの思い出
想いの強さでは、ルカにすら負けているのではないかとも思える。
アウレアとの思い出
だって、そうだろう。
アウレアとの思い出
あなたが彼女と過ごした日々。
アウレアとの思い出
その日々の中に立っていた自分。
アウレアとの思い出
その時の自分は果たして、物語の当事者として在っただろうか?
アウレアとの思い出
*ネロの心の疵『○○○』を才覚で抉ります。
宿木ルカ
*横槍を入れます。
GM
*チョイスからどうぞ。
宿木ルカ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
宿木ルカ
2d6+3=>7 判定(+猟奇) (2D6+3>=7) > 7[5,2]+3 > 10 > 成功
GM
*1D6で効果量をどうぞ。
宿木ルカ
1d6 (1D6) > 4
アウレアとの思い出
2d6+3-4=>7 判定(+才覚) (2D6+3-4>=7) > 3[2,1]+3-4 > 2 > 失敗
アウレアとの思い出
*失敗ですね。
[ 宿木ルカ ] HP : 19 → 18
ネロ
わからないのだ、愛というものが。
ネロ
物語の一端であるという在り方を捨て、自分の意志で全てを選び取っていいと言われた先に
ネロ
自分の器には、驚くほど何もないことに気づいた。
ネロ
物語性を捨てたことで、便利な道具としての側面は失われ
ネロ
他者の心と真実を見通していた瞳は、その機能のほとんどを失い
ネロ
世界がぼやけている。意味のあるものが見えはしない。
ネロ
それでも、愛だけがあった。この身たらしめるもの。
ネロ
失いたくない。
ネロ
ーー変質。
ネロ
変わらねばならない。この愛を失わないためには、変わる必要がある。
ネロ
でもどうやって?
ネロ
「ーーあれ?」
ネロ
無意識に広がった羽根が
ネロ
ボロボロと、虫が食ったように崩れていく。
ネロ
「あれ」
イェルク
「……ネロ」
宿木ルカ
「ネロさん!?」
ネロ
「すみません」
ネロ
「ちょっと今」
ネロ
「制御が効かない、みたいで」
イェルク
「いい。焦るな」
宿木ルカ
「――っ」
イェルク
「俺も」
イェルク
「少し、言い過ぎた」
ネロ
「すみません、おかしいな」
ネロ
揺らいでいる
ネロ
どのような在り方が望ましいのか
ネロ
どうありたいのか
ネロ
どうあれば、愛されるのか
イェルク
「……俺も、あまり偉そうに説教できる立場じゃあない」
宿木ルカ
咄嗟に、ネロの手を取る。
ネロ
もはや自分の意思とは無関係のところで、肉体が、変質を試みている。
イェルク
「こうして過ちを犯している以上、は」
イェルク
「…………」
イェルク
ルカが。
イェルク
ネロの手を取るのを見ている。
宿木ルカ
ぎゅう、と。指先が白むほどに。
宿木ルカ
ネロという存在の輪郭がここにあると、知らせるように。
宿木ルカ
「ネロさん」
ネロ
「あ、ルカ」
宿木ルカ
「大丈夫です。……大丈夫」
ネロ
ルカの方を見る
イェルク
「…………」
宿木ルカ
星空の瞳を覗き込む。
宿木ルカ
「ネロさんは、慣れていないだけです。きっと」
ネロ
「慣れ、ですか?」
宿木ルカ
「ずっとずっと、”そう”だったから。…きっと」
宿木ルカ
ずっと、第三者であったから。そうあることを、望まれていたから。
ネロ
「そう、僕はずっとそういうものだった」
宿木ルカ
「でも、今は違う。―そうでしょう?」
ネロ
「ええ、君が教えてくれた」
宿木ルカ
手を握る。体温を分け与えるように。
ネロ
「傍観者でいる必要はないのだと」
ネロ
「だからこそ、なればこそ、僕は変わらなければいけない」
ネロ
「変質をしなければならない」
宿木ルカ
「…うん。」
宿木ルカ
「それが言えるネロさんなら、きっと大丈夫」
ネロ
でも、どのように?
ネロ
どう変わればいい?
宿木ルカ
「分からないことは、”分からない”でいいんです」
宿木ルカ
少し…凄く。怖いことだけど。
宿木ルカ
「僕たちは、一人で立っているわけじゃないから」
ネロ
「僕は」
ネロ
「善良な存在では決してない」
ネロ
揺らぐ
ネロ
「ーーあ」
イェルク
「ネロ……」
ネロ
「まずい」
宿木ルカ
「…!」
ネロ
顔が、溶け落ちる。
イェルク
妖精の在り方の揺らぐさま。
イェルク
それを見ている。
ネロ
表情というものが、一度文字通りにごっそり抜け落ちて
ネロ
今度は、女の体つきへ
ネロ
「ああ、これはシンデレラの時の」
イェルク
「…………」
ネロ
「そう、僕はわからない」
ネロ
「僕は善良ではなく、幸福を与える妖精ではなく」
ネロ
揺らぐ
ネロ
「向き合えば向き合うほど、ただの僕であろうとするほど、僕には何もない」
ネロ
「あ、だめだ、ごめんなさい」
ネロ
言いながらまた、揺らいで
ネロ
見覚えのある、輪郭をとる
ネロ
薄桃の髪の
イェルク
「…………ッ」
イェルク
息を呑む。
ネロ
「僕である必要というのが」
宿木ルカ
目を瞠る。
ネロ
**
ネロ
また揺らいで
ネロ
今度は白い兎の耳の生えた少女
ネロ
「すみません、ちょっと今、僕にもコントロールができなくて」
イェルク
それには多少、緊張の気配を緩めるが。
イェルク
「……いい」
ネロ
揺らぐ
イェルク
「無理をするな」
イェルク
「ネロ」
宿木ルカ
「―ネロさん」
イェルク
男の掠れた声が上滑る。
ネロ
これは誰だろう?見知らぬ少女だ。
宿木ルカ
握っていた手を、一度離して。
ネロ
もはや妖精の意志とは関係なく、「愛される誰か」の姿を映す
ネロ
そして
イェルク
また、
イェルク
言葉を失う。
ネロ
茶色い髪の、ポニーテールの少女
ネロ
これも知らない少女
宿木ルカ
「…!?」
ネロ
「ああ、そう」
イェルク
凍り付いた思考の裏で。
イェルク
面立ちと、ルカの反応に、それを悟る。
ネロ
「僕は、僕であるために、愛されていたい。愛を、手放したくない」
ネロ
「そのために、僕が僕である必要が、今の僕には、わからない」
ネロ
「ねえ、ルカ、イェルク」
イェルク
「…………」
ネロ
「僕は、どのような僕であれば、良いんでしょうか」
宿木ルカ
「―ネロさんッ!」
宿木ルカ
離した手を。
宿木ルカ
他でもない”彼”の、両頬に添える。
ネロ
「ルカ」
ネロ
「君は」
ネロ
「どう、あってほしい?」
イェルク
「…………」
ネロ
「僕は、望まれることには、割合万能だから」
ネロ
「きっと、君の願いを叶えられる」
宿木ルカ
「違う。…違うよ、ネロさん」
ネロ
「違いますか?」
ネロ
「この姿 僕には覚えがありませんが」
ネロ
「きっと、君の望むものなのでしょう」
ネロ
「強く望まれれば、空っぽの僕の中身は、今なら完全に変質できる」
ネロ
「中身すらも、変わることができます」
宿木ルカ
「それでも。…ネロさんがそうある必要は、ないんです」
ネロ
「愛してもらうために変わることを、僕は悪いことだと思えない」
ネロ
「それでも?」
宿木ルカ
「ネロさんが”ネロさん”になったからこそ、そうしてちゃ、いけないんです」
宿木ルカ
「アウレアさんに託されたのは、”ネロさん”のことで」
宿木ルカ
「それだけじゃなくて。…他ならぬ”あなた”と、僕はいたいんです」
宿木ルカ
リフレイン。
宿木ルカ
いつか、自分にもらった言葉。
ネロ
アウレア、の言葉に呼応して、再び姿が揺らぐ。
ネロ
「僕と」
宿木ルカ
「そう。ネロさんと」
ネロ
「……アウレア、愛を与え、愛される聖女」
イェルク
「…………」
アウレア
あなたの思う理想の愛を抱いた女。
ネロ
「君に託した張本人。君に断罪を与えるかもしれない人。」
ネロ
2人の方を見る
イェルク
覆った手の下で、唇を引き結んでいる。
ネロ
「そんな人が、戻ってくるかもしれなくても?」
宿木ルカ
「…それでも、です」
イェルク
「……代替品を慰みに出来るほど」
ネロ
奇跡に近いことが、今の揺らぎの中でなら、起こせるかも知れないのに!
イェルク
「鈍感ではいられないさ」
イェルク
「それに、お前、よく分かっているだろう」
イェルク
「お前の、解像度じゃあ」
イェルク
「限界がある」
イェルク
呻くように言葉を紡ぐ。
ネロ
「僕は願いを司る存在。そうあってほしいと強く望まれれば、そのようになります。それは僕の意志と関係なくです。」
宿木ルカ
欠けたものは戻らない。―だからこそ。
ネロ
「そうであってほしいと望まれるのならば、僕は」
ネロ
「そうなってもいいと」
ネロ
「思うの、ですが。」
宿木ルカ
「だったら…だからこそ、僕は」
宿木ルカ
「”ネロさん”が、いいです」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
善良なだけの存在ではなくとも。空っぽでも。それでも。
宿木ルカ
「僕に優しくしてくれた、…少し、怖いところもあるけど」
宿木ルカ
「あの”ネロさん”で、いてほしいんです」
ネロ
「……」
宿木ルカ
願いを押し付けることのグロテスクさを、痛いほどに知っている。
宿木ルカ
痛かったから。辛かったから。
宿木ルカ
自分が、そうしたくは、ない。
ネロ
ゆらりと、また姿が揺らいで
ネロ
もう一度、君が見知った、それでいて知らない背丈の少女が姿を表す。

行動:ネロ

ネロ
「……君の話してくれた過去は、在り方は」
ネロ
「とても痛ましく、辛いものだ。」
ネロ
「でも、君の愛されるための努力を、そのための変質を、僕は悪いものであったとは思わない」
宿木ルカ
「………」
ネロ
「そして、君が望む人が目の前にいるのならば、君が今後役を貼り通す必要もない」
ネロ
「それでも君は、前を向いて」
宿木ルカ
ネロに触れたままで、ただ聞いている。
ネロ
「過去の自分の行いを、否定したとしても」
ネロ
「自分であることを肯定して、歩むと。歩めと。」
ネロ
「そう言うのですね」
ネロ
*宿木ルカの心の疵『ルナ』を愛で舐めます。
GM
*横槍はありません。判定をどうぞ。
ネロ
2d6+3>=7 (2D6+3>=7) > 4[2,2]+3 > 7 > 成功
[ 宿木ルカ ] 「ルナ」 : -1 → 0
宿木ルカ
「…そう、です」
宿木ルカ
「僕は、ずっと辛かった」
ネロ
君と瓜二つの顔をした少女が、君の独白を見つめている。
宿木ルカ
「”ルナ”でいたら、愛してもらえたけれど」
宿木ルカ
かつての自分と鏡映しの顔に、それでも向き合う。
宿木ルカ
「ずっと、”ルカ”(僕)は、辛かった」
宿木ルカ
泣き乱れる母親を、思い出す。
GM
どうしてと叫ぶ女の金切り声。
宿木ルカ
「だから、………」
宿木ルカ
「……はじめから、間違いだったんです」
GM
自分ではない自分を求められる苦痛。
GM
それをあなたはよく知っている。
宿木ルカ
「お母さんが、壊れたままでも。………愛されなくても」
宿木ルカ
「僕が。僕を、認めてあげなくちゃいけなかったんです」
宿木ルカ
「とても怖いけど。…多分、すごく痛いけど」
アウレア
『ルカ』
アウレア
『助けてくれて、ありがとう』
アウレア
聞いたはずのない女の声。
アウレア
あなたを見つめる燃える瞳。
アウレア
それは他ならぬあなたの想う女のもので、
アウレア
あなたの想う、目の前の妖精のものでは、有り得ない。
宿木ルカ
「だから、ね」
宿木ルカ
「ネロさんにも、そうあってほしい…です」
宿木ルカ
「”誰か”として求められる痛みじゃなくて、”ネロさん”だからこその痛みを」
宿木ルカ
「選んでほしい」
宿木ルカ
「…僕も一緒、ですから」
宿木ルカ
「痛かったら、痛いって言い合いましょう。…一緒に」
ネロ
少年の言葉に呼応して、
ネロ
巻き戻るように、また姿が揺らいでいく
イェルク
「…………」
宿木ルカ
その輪郭を、見つめる。
ネロ
ポニーテールの少女から、上品な雰囲気の少女へ
イェルク
息を呑む。そればかりは隠せない。
ネロ
呼応するように、少しばかりその姿のまま静止する。
ネロ
が、また揺らいで、兎の耳の少女へ
ネロ
最後に
イェルク
身を強張らせている。
ネロ
燃えるような女の姿を映して
ネロ
女の目と髪色を引き継いだ、女の体をした妖精になって
ネロ
そして
ネロ
元の形に、帰結する。
イェルク
男にはしばらく、息を殺すような気配があったが。
イェルク
やがて細い息を長く吐き出す。
ネロ
「……」
イェルク
「……すまない」
イェルク
「余計を言った」
イェルク
「早速、助けられたな。ルカに」
ネロ
「すみません」
宿木ルカ
「…おかえりなさい」
宿木ルカ
かたちを、確かめるように。
宿木ルカ
頽れそうになりながら、何とかネロの首元に縋りつく。
ネロ
「イェルクのせいではありませんよ。僕の未熟です。」
ネロ
縋り付いてきた少年を受け止めて
イェルク
「では」
イェルク
「その未熟を測り違えた俺の責任だ」
ネロ
その熱が己にふれていることを、実感する。
アウレア
炎の果てに消え失せた女とは違い。
イェルク
未だ距離を保つ男とも違い。
ネロ
「自分の責任にしたがるんだから」
ネロ
苦笑して
ネロ
「……ありがとうございます」
ネロ
少年を、抱きしめ返す。
ネロ
「……君にとって、辛いことだったでしょうに。」
宿木ルカ
ふるふると、首を横に振る。
宿木ルカ
「ネロさんが、ずっと痛かったら。僕もずっと、辛いから」
宿木ルカ
「ネロさんにも、辛い選択をさせてしまって」
宿木ルカ
「…ごめんなさい」
ネロ
「いえ、いいえ」
宿木ルカ
結局はずっと、僕の我侭だ。
ネロ
「…良い妖精でない僕は弱くて、無力で、多くを間違えてしまう。」
ネロ
「僕でない方が、きっとうまくいくことが多くある。」
ネロ
「それでも、僕がいいと言ってくれた。」
ネロ
それは確かに困難で、痛みを伴うけれども。
ネロ
「…どうか、謝らないで。私を選んでくれたきみ。」
ネロ
「僕は確かに今、痛くて、でも、幸福なのです。」
ネロ
「君に選んでもらえて、君が痛いと言ってくれて、君が前を向いてくれること、その全てが」
ネロ
ルカ。光をもたらすもの。
ネロ
「ありがとう。……君が、君でいてくれて、よかった。」
ネロ
ああ、なんと眩しい幸福か!
宿木ルカ
縋りついた体温から離れる。
宿木ルカ
”ネロ”に向き合う。
宿木ルカ
「ネロさんも」
宿木ルカ
「ネロさんでいることを、選んでくれて。ありがとう」
ネロ
「……はい」
イェルク
「……どちらにせよ」
イェルク
「いくら願いを司る存在であろうと、6ペンスがたったの20枚だ」
イェルク
「限界がある」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「……お前がお前でいてくれたほうが、余程いい」
ネロ
「ありがとう、イェルク」
ネロ
「君に随分と迷惑をかけてしまった。」
イェルク
「同じことを二度三度言わせるな」
イェルク
「またルカに感謝を述べる羽目になる」
ネロ
「そうですね、すみません。僕はどうにも覚えが悪い。」
ネロ
「でも、どうかこれからも付き合ってください。」
イェルク
「…………」
イェルク
「お前たちを生かすべく」
イェルク
「振る舞うつもりがある」
イェルク
「それは変わらないさ」
宿木ルカ
「…はい!」
宿木ルカ
「これから、少しずつ。ですね」
ネロ
「ええ、君とイェルクと僕と、3人で。」
アウレア
欠けたものは戻らない。
アウレア
だからこそ変わらなければならない。
アウレア
それぞれが心の疵を抱えた救世主たち。
アウレア
触れ合い、確かめ合い、そのかたちを確かめながら。
アウレア
託されたものを胸に、歩んでいく。
GM
宿木ルカ
*ルカのティーセットを1つネロに渡します。
GM
*了解です。
[ 宿木ルカ ] ティーセット : 1 → 0
[ ネロ ] ティーセット : 0 → 1

行動:PK その4

GM
公爵家の統治する街を目指す。
GM
一行の予定は変わらないが、
GM
その前に末裔たちに縋られるままに、村を悩ます木端亡者を片付ける役目を引き受けることとなる。
GM
その仕事は容易く済んだ。食糧や物資の提供も受けられ、お互いに得をする結果となった。
GM
後顧の憂いなく村を起てるとなった、その矢先。
GM
一行の目指す先を知った末裔はこう言った。
末裔
「グレイブリッジ、ですか?」
末裔
「確か、あの女救世主」
末裔
「その街で亡者に襲われたって言ってたような……」
GM
アウレア
その女は焦土と化した街に立つ。
アウレア
身を灼く炎はあなたたちの想い出すどの姿よりも苛烈で。
アウレア
瓦礫の残骸が、ぱちり、火の粉の弾ける音を立てる。
アウレア
ただ燃え盛るばかりの女の姿がそこにある。
GM
……かつては、栄えていた街であったのだろう。
GM
煤けた石の煉瓦が限りなく積み重なり。
GM
いつかの威容に想いを偲ばせることすら、今は虚しい。
アウレア
「…………」
アウレア
燃え盛る女はその中央に立つ。
アウレア
煤塗れの女。自らを焼き尽くした女。
アウレア
逆光の中に、表情は窺えず。
アウレア
よろめくような足取りで、救世主たちの前へと出る。
イェルク
「…………」
イェルク
「随分と」
イェルク
「長く、待たせた」
アウレア
燃え盛る女は答えない。
アウレア
苛烈な熱を纏って、あなたたちの前に立っている。
宿木ルカ
炎を、ただ見つめる。
宿木ルカ
これまでのどれとも、違って見える。
アウレア
あなたを焼き。
アウレア
街を焼き。末裔を焼き。
アウレア
救世主を焼いた。
アウレア
その炎が揺らめいている。
ネロ
「随分と、変質してしまった」
ネロ
意に染まぬ方に
ネロ
それも、きっと自分達のせいで。
宿木ルカ
変質。これもまた。
アウレア
女の足取りは不確かで。
アウレア
また、一歩前に出て、
アウレア
しかし、それが途中で崩折れた。
アウレア
炎を纏った黒影が、あなたたちの前に膝をつく。
宿木ルカ
「!」
アウレア
熱風が救世主たちの頬を叩く。
宿木ルカ
想定外の動きに、体が強張る。
アウレア
罪を責め苛む炎が揺れている。
宿木ルカ
空気が、熱い。視界が揺らぐほどに。
アウレア
蜃気楼の中に、今は、幻覚すら見えない。
アウレア
塗り潰される。
アウレア
女の微笑みが、声が、目の前の影に。
アウレア
慈悲深き女。赦しを与える女。注ぐ愛を躊躇わぬ女。
アウレア
その成れの果てがここにある。
アウレア
『イェルク』
アウレア
『ネロ』
アウレア
『――ルカ』
アウレア
呼ぶ声も。
アウレア
今はもうない。
アウレア
炎だけが揺れている。
アウレア
その炎の中に揺らぐ女の姿が、
アウレア
目の前の影すらも、脆く崩していくようで。
イェルク
だから。
イェルク
男が得物を振るった。
アウレア
煤が散る。
アウレア
灰が舞い上がる。
アウレア
突き立てられた純銀は、少女がそうされたのと同じように。
アウレア
心臓のあった場所を貫いている。
アウレア
顔を上げた、女の姿をしたものの。
アウレア
影の虚ろがあなたたちを見上げている。
アウレア
暫し。沈黙の中に火花の弾ける音だけが断続的に響いて。
アウレア
崩れ去る。
アウレア
その姿が。
アウレア
その影が。
GM
女であったものが、焼き尽くされて灰へと還る。
GM
舞い上がる灰の中に。
イェルク
今は男が立っている。
ネロ
そっと、男の方に歩み寄る。
イェルク
見下ろしている。
イェルク
灰燼へと帰した女の残骸を。
宿木ルカ
瓦礫を、煤を、―灰を、踏みしめる。
GM
生命を奪われたものたちの上に立つ。
ネロ
男の隣に立ち、灰を見下ろす。
ネロ
救えなかった灰被り。
ネロ
取りこぼしてしまったもの。
イェルク
「…………」
ネロ
もう、感謝も謝罪も届くことはない。
イェルク
「手遅れだった」
イェルク
「最初から」
イェルク
「そうだったことを、俺は、よく理解している」
宿木ルカ
「… ……」
ネロ
「ーーええ」
ネロ
「こうするより他、僕たちにできることはなかった」
イェルク
「だから、切り捨てた」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「お前の切除の在り方を、俺は間違ったものとは思わないよ」
イェルク
「お前は」
イェルク
「それをどうにも、気に負うているようだが」
ネロ
「僕はそういう在り方のものであった」
ネロ
「今まではそれをそれを気にする事もなかった」
ネロ
「ただ」
イェルク
「いいんだ」
イェルク
「正しい在り方だ。この堕落の国では」
ネロ
「そうやって切り捨てることは、心を切り捨て、痛めることでもあるのだと」
ネロ
「ようやっと、気づきました。」
ネロ
「切り捨てられた側も、切り捨てた側も」
ネロ
「…痛んで、割り切れなくて、どうしようもないのだと」
イェルク
「そうか」
イェルク
「とんだ退化だな」
宿木ルカ
隣に立つネロを見やる。
宿木ルカ
輪郭は、もう揺らいでいないように見える。
ネロ
「僕は、悪いことばかりではないと思っています」
ネロ
「僕の鈍感さは、今まで君たちの痛みまでも見過ごしてきた」
ネロ
「…痛いときは、痛いと言っていいのだと」
ネロ
「教わりました」
イェルク
「”今まで”」
イェルク
「”今まで”と来たか、ネロ」
イェルク
「では」
イェルク
「”今”は?」
イェルク
「今、お前の目には何が映っている?」
イェルク
「その退化で」
イェルク
「お前は果たして何を見抜く?」
イェルク
「何を捉える?」
イェルク
「何を見て取れるようになったと言うんだ」
イェルク
「なあ」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「答えてみろ」
ネロ
「わかりませんよ。正確には。」
ネロ
「他人の心を全て見透かして、その形はこうである、なんて」
イェルク
「わからないのなら」
ネロ
「断言することは、ひどく高慢だ。」
イェルク
「わかったような口を利くな」
イェルク
「高慢を理解してそう振る舞うのならば」
イェルク
「高慢から逃れる道を」
イェルク
「…………」
イェルク
「違う」
ネロ
「…僕が言えるのは、僕から見た君のことだけ。」
イェルク
「ならば」
イェルク
「答えをはぐらかすな」
イェルク
「俺は、お前から見た俺を問うた」
イェルク
「そこから逃れたいのか、逃れたくないのか」
イェルク
「お前の立ち位置は、今でさえひどく不確かだ」
イェルク
「ネロ」
イェルク
口元を覆う。
イェルク
「……俺と同じ」
イェルク
「無様を晒しては、くれるなよ」
ネロ
「君が痛んでいることはわかる」
ネロ
「…それくらいは、わかるようになった。」
イェルク
「……ああ」
イェルク
「そうか」
ネロ
妖精が、傷ついた顔をしている。
イェルク
「なるほど」
イェルク
「俺も、随分と見誤ってきた」
イェルク
「お前の”ふり”に」
イェルク
「思いの外、乗せられてきたわけだ」
ネロ
「……以前の僕は、随分と慈悲深く、そして無神経だったことでしょう。」
イェルク
背を丸めている。
イェルク
揺れる炎を見つめている。
イェルク
勢いを失いつつあり、今は燻るばかりの浄罪の炎を。
イェルク
この国の何もかもは罪に塗れている。
イェルク
あの女の纏うそれが正しく浄罪の炎であったのならば、
イェルク
それは格好の燃料であっただろう。
ネロ
「今の僕は、他人の心を形まで正確にはかれなんてしない」
ネロ
昔の僕より役立たずだ、間違いなく。
イェルク
「……お前の」
イェルク
「そう在ることを咎める権利は、俺にはない」
イェルク
「だが」
ネロ
変質の途中、生まれたての心、他人の機微を正確に読み取れない。
イェルク
「それを無邪気に善きものと受け止めてしまう、その振る舞いが」
イェルク
「俺にはひどく厭わしい」
イェルク
何故だか分かるか、と問いかけて。
イェルク
その問いに意味のないことを悟る。
宿木ルカ
「……」
ネロ
もはや、善きものと思っているわけでもない。
ネロ
自分は善良ではなく、そうはあれず。
ネロ
今は、全て手探り。なんの指針もない。
イェルク
「『守り切れなかった』」
イェルク
「そう、言ったな」
イェルク
唐突な話題の転換。
イェルク
燻る浄罪の炎の儚きさまを瞳に映しながら。
ネロ
それでも、2人の心に添うことができたらと、手探りで暗闇を歩いている。
ネロ
添いたいと、無意識のエゴを抱えている。
イェルク
かつての告解の後をつぐ。
ネロ
唐突な話題の転換に、二の句を告げずにいる。
イェルク
「疵を晒したようでいて」
イェルク
「お前たちには少しばかり、嘘をついた」
イェルク
「いいや」
イェルク
「嘘ではないな」
イェルク
「誤魔化した。そう表現するほうが、正しいか」
イェルク
乾いた空気に声が掠れている。
ネロ
聞いている。先ほどからの傷ついた顔を隠せぬままに。
イェルク
「ありとあらゆる手を尽くし、最期まで奉仕を貫き、それでも届かなかった」
イェルク
「それならまだいいさ」
イェルク
「だが――」
イェルク
「俺は」
イェルク
「”見切りをつけた”んだ」
宿木ルカ
合理主義。
イェルク
男の心の疵。
イェルク
そう在る異常性としてのそれではなく。
イェルク
そう在ってしまった心的外傷として刻まれたそれ。
イェルク
「最早これ以上、彼女に尽くすことに意味はないと」
イェルク
「見切りをつけて手放した」
イェルク
「救うことを」
イェルク
「諦めた」
イェルク
男の語るその在り方は、
イェルク
燃え盛る女に手を伸ばすことすらしなかったあの瞬間と重なる。
ネロ
先の暴走で、自分が転じた女を思い出す。
ネロ
彼が見切った少女。
イェルク
目の前に、炎が。
イェルク
掻き消える。
イェルク
ただ立ち昇る熱だけが焦土の中に残される。
イェルク
浄罪の炎は消え失せた。
イェルク
男の罪を灼き尽くすものはない。
イェルク
「最早望みなきものを切り捨てる」
イェルク
「俺はその合理に従って」
イェルク
「切り捨てたものを踏みつけに歩んできた」
イェルク
尽くすべきであった主君。罪に苛まれる女。泣き叫ぶ少女。
イェルク
奉仕という異常性を合理性という心的外傷でねじ伏せてきた男の、
イェルク
「その末路が、これだ」
イェルク
その軀に、炎が灯る。
ネロ
「……!!!!」
宿木ルカ
「イェルクさん…!?」
イェルク
振り返る。
イェルク
「悪いな」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「ひどい癇癪を起こした」
イェルク
「”悪いことばかりではない”」
イェルク
「切り捨てられなくなったその有様を、そう許容されたこと」
イェルク
「それが」
イェルク
「今の俺には、どうにも耐え難かったようだ」
ネロ
手を伸ばす
宿木ルカ
「――」
イェルク
炎が揺れている。
ネロ
焼け付く炎を厭わず、隣に立つ男の躰を掴む。
宿木ルカ
空気が、ひどく、熱い。
ネロ
「イェルク!!」
イェルク
炎はあなたをも焼く。
ネロ
消そうと、試みる。己の体も、魔法も、使えるものはなんでも使って。
イェルク
女の炎とは違う。
宿木ルカ
「待って、だめ」
イェルク
自らの罪をばかり清めるようなその性質を、男は持ち合わせていない。
宿木ルカ
「嫌だ、どうして、こんな―」
ネロ
覆いかぶさるようにして、火を止められないものかと。
ネロ
衣が、髪が、肌が焼けていく。
イェルク
叶わない。
イェルク
あなたたちの前に男が燃える。
宿木ルカ
炎に損なわれるその様を、見つめることしか叶わない。
イェルク
短い間ながら旅路を共にしてきた男。
イェルク
あなたたちを導いてきた男。
アウレア
『――ルカ』
アウレア
『ネロと、イェルクのこと』
アウレア
『頼んだわ』
宿木ルカ
熱い。熱い。あつい。
アウレア
あなたにとっては。
アウレア
それは、彼女に託されたものの片割れ。
宿木ルカ
燃えて、落ちて、思考も―
アウレア
ルナではなく、ルカに対して。
アウレア
かつてあなたという存在を正面から見つめてみせた女が。
アウレア
託してみせた、願いの一つが。
宿木ルカ
今は、今なら。手を伸ばすことができるのに。
イェルク
炎の中に。
イェルク
叶わない。
宿木ルカ
助けることが。―救うことが、叶わない。
ネロ
「イェルク、どうか」
GM
宿木ルカという少年は。
GM
求めに応えることをその存在意義とし、在り方を定めた。
GM
女から託されたものを守り。
GM
自分を必要としてくれる仲間に尽くす。
GM
それが救世主『宿木ルカ』が立つためのしるべ。
アウレアとの思い出
けれど、今、目の前に。
アウレアとの思い出
それが焼き尽くされようとしている。
宿木ルカ
「――僕、は」
アウレアとの思い出
あなたの在り方を支えるものが。
宿木ルカ
果たせない。
アウレアとの思い出
炎の中に、毀損されゆく。
宿木ルカ
託されて、自分で選んだ在り方を。
アウレアとの思い出
欠けたものは戻らない。
アウレアとの思い出
その事実を繰り返し、何度となく、思い知らされる。
アウレアとの思い出
*宿木ルカの心の疵『ルカ』を才覚で抉ります。
ネロ
*横槍します
GM
*チョイスからどうぞ。
ネロ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 才覚
ネロ
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 6[2,4]+1 > 7 > 成功
GM
*効果量もどうぞ。
ネロ
1d6 (1D6) > 4
アウレアとの思い出
2d6+3-4=>7 判定(+才覚) (2D6+3-4>=7) > 5[3,2]+3-4 > 4 > 失敗
アウレアとの思い出
*失敗ですね。
[ ネロ ] ティーセット : 1 → 0
[ ネロ ] HP : 20 → 19
ネロ
「イェルク どうか 願って」
ネロ
それの叶わないことを知っていてなお、口に出さずにいられなかった。
宿木ルカ
炎が、揺れている。
イェルク
ただ燃え盛るばかりの男の姿がそこにある。
ネロ
焼け付く肺腑を感じながら、燃えゆく男を抱き止めている。
イェルク
「……アウレアのことを”ああ”評してみせはしたが」
イェルク
「結局、俺も同類だ」
イェルク
「あの女に手を伸ばせなかった瞬間から分かっていた」
イェルク
「この世界で生きるために」
イェルク
「俺は、異常性を超越した心的外傷を稼働させ続けることを求められる」
宿木ルカ
消すことが能わぬ炎に、二人が―僕を救世主たらしめている人たちが。焼かれている。
イェルク
「その在り方を変質させることは」
イェルク
「どうやら、俺には難しかったようだ」
イェルク
「……さて、ネロ」
イェルク
「このまま俺にかかずらっていれば」
イェルク
「お前は、ルカを残して死ぬことになるが」
宿木ルカ
頬を濡らすものが、すぐに熱気で失われていく感覚。
ネロ
「!」
宿木ルカ
僕の手は届かない。―どうしようもなく。
ネロ
救いたい、そばにいたい、僕の愛のその片割れ。僕を僕たらしめる人のひとり。
イェルク
しかし、両方を選ぶことは叶わない。
イェルク
違う。
イェルク
既に選ぶまでもないほどに欠落している。
ネロ
切り捨てたくない、どうしても。どうしても救えないのならば、共に燃え落ちても構わない。手を伸ばせず後悔するような、同じ過ちを繰り返したくない。
ネロ
そう
ネロ
そう思うのに
イェルク
「ネロ」
イェルク
「間違ったものとは思わないよ」
イェルク
「言ったろう」
イェルク
「気に負う必要もないんだ」
イェルク
「俺には、それができなくなったが」
イェルク
「お前にはまだ、生きていてほしいと思っている」
ネロ
「僕は、君が好きだ。君を愛してる。」
ネロ
「君のそばにいたい。君の心に添いたい。」
ネロ
「のに」
ネロ
「……イェルク、きみを」
ネロ
「選ぶことが、できない」
イェルク
「心は痛むか?」
ネロ
ルカを一人にできない。ルカを愛している。あの子をこんな世界に一人残すことはできない。
ネロ
「…とても。とても。」
イェルク
「そうか」
宿木ルカ
イェルク
「それを切り捨てる者に対して認める厚顔の慈愛を」
イェルク
「俺はお前らしさと認めているよ」
宿木ルカ
喉が焼け付いて、声が出てくれない。
イェルク
「ルカ」
宿木ルカ
伝えたいことが。叫びたいことが。
イェルク
ルカの名前を呼んで、きらめく何かを放る。
宿木ルカ
「!」
宿木ルカ
咄嗟のことに取り落としそうになりながらも、必死で掴み取る。
GM
熱を残しながらあなたの手に収められたのは6ペンスコイン。
GM
救世主としての証。在り方を支えるもの。
イェルク
それが今、合意の上に男からあなたへと受け渡された。
宿木ルカ
「…こ、れは」
イェルク
「冥銭はいらん」
イェルク
「お前が役立てろ」
宿木ルカ
「…め、です」
宿木ルカ
嫌だ。受け取りたくなんか、ない。
宿木ルカ
「嫌だ」
イェルク
「…………」
イェルク
「俺は、お前たちに生き延びてほしいと思っているよ」
宿木ルカ
「こんな、こんなものより」
宿木ルカ
「あなたに、いてほしいのに―!」
宿木ルカ
癇癪。我侭。駄々。
イェルク
「…………」
宿木ルカ
もはやそれが成し得ぬことだと、理解は出来ているのに。
宿木ルカ
腑に落ちない。落としたく、ない。
イェルク
「悪いな」
イェルク
「もう少し、お前とは距離を置いておくべきだった」
イェルク
「アウレアを見捨てた瞬間から」
イェルク
「こうなることを、悟ってはいたはずなんだが」
イェルク
「どうにも」
イェルク
「抉れ切った心の疵では、正しき平衡を保つことすらままならなかったらしい」
宿木ルカ
合理の中に、確かに配慮があった。
宿木ルカ
それ故に、見せてくれたものがあった。
宿木ルカ
だから――
宿木ルカ
今、こんなにも。痛んでいる。
イェルク
思い出に焼かれる男の姿を前に。
宿木ルカ
目を逸らすことが、できないでいる。
イェルク
「繰り返すが」
イェルク
「俺はお前たちに生きていてほしい」
イェルク
「別に介錯も望んじゃあいない」
イェルク
「末期を汚すことになろうとも」
イェルク
「この世界では、今更だろう」
イェルク
「6ペンスも渡してしまった後だしな」
イェルク
「俺とやり合う意味はないんじゃないか」
ネロ
「…」
ネロ
「イェルク、君を愛してる。」
イェルク
「…………」
ネロ
燃え盛る男を、もう一度最後に抱きしめて。
ネロ
自分を自分たらしめる愛、その半分を、ここに置いていく。
ネロ
「愛している、から。」
ネロ
体を離す。燃え盛る炎の熱すら、名残惜しい。
イェルク
燃え盛る男があなたを見ている。
イェルク
離れゆくその姿を認めている。
ネロ
1歩1歩、イェルクから遠ざかる。その分1歩1歩、ルカの近くへ。
ネロ
「……君の、最後を。その炎を。」
ネロ
「他の誰にも、渡したくない。」
イェルク
「そいつは」
イェルク
「随分と人間的な愛を獲得したな」
イェルク
「苦労するぞ。ネロ」
ネロ
涙を流したままに、妖精は立ち尽くしている。
宿木ルカ
最早、この燃え盛る男を助けることが叶わないとして。
宿木ルカ
彼の最期からも逃げてしまったなら。
宿木ルカ
与えられて―自分で選び取った、存在意義。
宿木ルカ
彼女からもらったもの。
宿木ルカ
―彼から、受け取ったもの。
アウレア
燃え盛る女が、あなたに託したもの。
イェルク
燃え盛る男が、あなたに託したもの。
宿木ルカ
その全てが、燃え落ちてしまいそうで。
ネロ
「君とルカが、くれた愛です。」
宿木ルカ
「…僕が。この世界で、立っているために。」
宿木ルカ
「―”生き延びる”ために」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「………逃げません」
イェルク
「お前も、まあ」
イェルク
「背負いたがるというか、なんというか」
イェルク
「まあ」
イェルク
「それが宿痾か」
イェルク
「立ち続ける意思のあってくれることは」
イェルク
「俺にとっては、好ましい」
イェルク
「こんな世界で、死んでほしくないと思うこと」
イェルク
「それに勝る呪いはないからな」
イェルク
「……アウレアは」
イェルク
「相応しい相手に、想いを託したものと見える」
宿木ルカ
「……!」
イェルク
揺れる炎の中に息をつく。
イェルク
「では」
イェルク
「刻限だ」
イェルク
「お前たちの選択を」
イェルク
「俺は認めてやりたいと思っているよ」
宿木ルカ
「イェルク、さん」
宿木ルカ
「――ありがとうございます」
宿木ルカ
「ありがとう、ございました」
ネロ
目をしっかりと開け、炎の只中の男を見つめている。
ネロ
その全てを、網膜に焼き付けている。
イェルク
「…………」
イェルク
「どういたしまして」
イェルク
「どうか」
イェルク
「その旅路に、幸多からんことを」
イェルク
男の言葉を呑むように、火勢が強まる。
イェルク
逆光が男の表情を覆い尽くす。
イェルク
後にはただ、そこに立っていた女と同じに。
《燃え盛る男》
燃え盛る男が残される。
GM
GM
お茶会を終了します。
GM
亡者の名称「アウレアとの思い出」が「《燃え盛る男》」へと変更されます。
GM
裁判に突入する前にやり残したことがありましたらどうぞ。
心の疵の共有、小道具の移動など。
宿木ルカ
*心の疵「アウレアへの好意」を、ネロへ共有します。
GM
*了解しました。
 「アウレアへの好意」の関係欄にネロの名前が記載されます。
GM
*小道具の移動は大丈夫かな。
GM
*なさそうなので、このまま裁判へと突入しましょうか。