お茶会 ラウンド1

GM
◆マスターシーン
GM
気づけばあなたたち三人は荒野に立っている。
GM
ルカの身体にはまだ炎が燻ったままだ。
宿木ルカ
「… ……」
イェルク
男が炎の燃え移ったその服を剥ぎ取る。
宿木ルカ
「あ…!」
イェルク
力任せにそれを叩き、炎を掻き消した。
イェルク
手袋の指先が焦げている。
イェルク
それを見下ろしている。その事実を認めている。
イェルク
何者を燃やすことのないはずの、女の炎が。
イェルク
他者へと害をなした事実を認めている。
ネロ
「…軽いものなら、今の僕でも治せるでしょう」
イェルク
「ああ」
イェルク
「やってくれ。頼む」
ネロ
「君も、こちらへおいでなさい。簡単な治癒をしますから。」
ネロ
青ざめた少年へも声をかける。
宿木ルカ
「ありがとう、ございます」
宿木ルカ
なんとか立ち上がり、青年の方へと足を進める。
イェルク
イェルクが負うた傷はほとんどないに等しい。
ネロ
まずは近くにいたイェルク。焦げついた指先に触れ、呪文を唱える。
イェルク
アウレア、ネロ、イェルク。
三人の中では最も攻撃手段に秀でた存在だった。
イェルク
自然、戦闘においては守られることの多い役になる。
それを合理的と受け入れていた。
イェルク
今も。
ネロ
キラキラとひかり、女が与えた炎の痕はすっかりと消えてしまう。
イェルク
ネロの癒しを拒むことを、合理的ではないと受け入れている。
イェルク
「…………」
イェルク
「助かる」
ネロ
「いえいえ」
ネロ
そして、名も知らぬ少年へ。
ネロ
手を伸ばす。この少年のことを自分達は何も知らない。
宿木ルカ
「………」
ネロ
でも、彼女が守ったのだ。理由はそれで十分だろう。
ネロ
少なくとも、今は。
ネロ
「すみません、少し触りますよ」
宿木ルカ
「はい。…お願いします」
ネロ
触れて、炎が舐めた傷口が光る。
ネロ
痛みを消し去り、痕跡を消し去ろうとする。
ネロ
しかし
ネロ
「…」
ネロ
「すみません。」
ネロ
「…こんなことを言うのは酷だと、思うのですが。」
宿木ルカ
「…?」
イェルク
「…………」
ネロ
「君には、治りたいと言う気持ちが、足りない。」
ネロ
「僕の魔法は、信じる気持ちがもたらすもの。」
宿木ルカ
「……!」
ネロ
「君が僕の力を信じて、治ると信じる。」
ネロ
「そういう力が、足りないんです。」
宿木ルカ
「…すみません」
宿木ルカ
当然だ。"僕"には、癒してもらうだけの価値がない。
イェルク
「……急に言われたところで、何がなんだかだろう」
イェルク
「一から説明してやる方が先じゃないか。ネロ」
GM
*改めて、お茶会を始めていきましょう。

行動:ネロ

ネロ
「…そうですね。失礼しました。」
イェルク
「俺もいまいちお前たちのような奇跡からは縁遠いところから来たからな」
イェルク
「祈りだの信じる力だの言われても、未だに感覚では納得できないところがある」
イェルク
「……そこの少年がどうだかは知らないけどな」
イェルク
「どちらにせよ、落ちたてだろう。この国には」
ネロ
「おやまあ。イェルクも信じてくれていなかったんですか?」
ネロ
「そうですね、まずは、君のことを聞かせて。」
ネロ
「そして、僕たちとこの世界のこともお話ししましょう。」
ネロ
少年に、穏やかに微笑みかける。
宿木ルカ
「…はい。」
イェルク
頭では理解しているつもりなんだがな、とは答えて、こちらもルカを見る。
ネロ
「まずはお名前からですね。僕の名前はネロ。」
ネロ
「ネロお兄さんとでも、フェアリーゴッドマザーとでも、お好きに呼んでください。」
イェルク
ネロが話す最中も、時折周囲に視線を巡らせている。
ネロ
「そしてこちらはイェルク。」
ネロ
そんなイェルクの方を指す。
ネロ
「険しい顔かもしれませんが、優しい男ですよ。」
イェルク
「お前はいつも一言多い」
イェルク
「……一言で済むならマシな方か」
宿木ルカ
「ネロ、さん。イェルクさん」
イェルク
「イェルク・ヘルモルトだ。前の世界では執事をしていた」
イェルク
「……通じるか? 執事」
宿木ルカ
思い出す必要すらなく、目に焼き付いている。あの女性の声を覚えている。
イェルク
そもそもそういう知識のない世界から来てる可能性もあるからな……
宿木ルカ
「…はい。だいじょうぶ、です」
宿木ルカ
「あまり身近ではないですけど、言葉の意味は」
イェルク
「そうか。何より」
イェルク
「……まあ、今は救世主だとかいう……なんなんだか、これは……」
イェルク
ぼやきながら懐を探っています。
宿木ルカ
「きゅうせいしゅ」
ネロ
イェルクの説明を受ける少年の様子を見ている。
ネロ
利発そうな子だ。
イェルク
「……ああ、出たな」
イェルク
「そろそろ回復してきたか」
イェルク
燕尾服の中からオペラグラスを取り出した。
イェルク
「この世界に招かれた異世界人は、全員が救世主と呼ばれる」
イェルク
「だから、今はお前も救世主の一人だ」
イェルク
ルカに説明しながらオペラグラスを目に当て、荒野を見渡しています。
宿木ルカ
「僕も…ネロさんも、ですか?」
イェルク
「救世主には特別な力が与えられてな」
イェルク
「ああ」
ネロ
そうですよ、と頷く。
イェルク
「ネロが先程見せた癒しの力はその一端だ」
宿木ルカ
なるほど、と納得する。
イェルク
「俺のは……こういった便利な道具を、ある程度は取り出せるようになる」
イェルク
「この格好である必要はあるが」
イェルク
オペラグラスを目から外して、懐にしまう。
宿木ルカ
「よじげんポケットだ…」
イェルク
「?」
ネロ
「よじげん?」
宿木ルカ
「…いえ、何でも。すみません」
イェルク
「……あちらに末裔の村があるな」
イェルク
認めた方向を手で指し示す。
ネロ
「おや、さすがお仕事が早い」
イェルク
「お前たちもそろそろ動ける頃だろう」
ネロ
「ええ、歩きながらお話ししましょうか」
宿木ルカ
「はい」
ネロ
「イェルク、先導はお願いできますか?」
ネロ
「飛んで様子を見てこれるほどには、回復していなくて…」
イェルク
「任されよう」
イェルク
「哨戒も含めて、俺の仕事だ」
GM
荒野には乾いた風が吹いている。
ネロ
ほら、真面目で良い人でしょう?と、あなたの方を向いて
ネロ
「君のお名前も、教えてくれますか?」
ネロ
歩き出しながら、尋ねる。
イェルク
男は先導しながらあなたたちを振り返る。
宿木ルカ
「…ルカ。宿木、ルカです」
ネロ
「ルカ。素敵なお名前ですね。」
ネロ
「光のような響きだ。」
宿木ルカ
「………ありがとうございます」
宿木ルカ
そんな価値はないというのに。
アウレア
『光をもたらす、素敵な名前ね』
アウレア
リフレイン。
アウレア
定かではない、曖昧な夢の。
宿木ルカ
「…!」
イェルク
「…………」
イェルク
「何か、あったか?」
宿木ルカ
こんな場所は知らない。
宿木ルカ
この人たちのことも、知らない。
宿木ルカ
はずなのに。
宿木ルカ
あのやわらかな声だけは―。
イェルク
あなたの反応に違和を抱いたか、男が問う。
宿木ルカ
「…大丈夫です」
宿木ルカ
「気のせいだと、思うから」
イェルク
「…………」
イェルク
「救世主の奇跡の力は」
イェルク
「心の疵によって引き出される」
宿木ルカ
「こころの、きず」
イェルク
「その救世主の抱えている心的瑕疵や、捨てられない異常性」
イェルク
「心を動かされるという事象そのものを、気のせいとして流してしまうことは」
イェルク
「あまり勧められないな」
ネロ
「ええ」
宿木ルカ
「…ごめんなさい」
イェルク
「…………」
ネロ
「心の疵は力の源、そして致命的な弱点。」
ネロ
「…この世界には、さっき君が見たような化け物も、残念ながらたくさんいます。」
ネロ
「心の動きを無視して、弱らせることは、致命になり得る。」
イェルク
ネロの言葉を聞きながら、考え込んでいる。
ネロ
「だから、もし気になることがあるのなら、きちんと向き合ってみて。」
宿木ルカ
まだ、わからない。この世界も、力も。
宿木ルカ
けれど。
宿木ルカ
「…はい。」
宿木ルカ
あの瞳と、熱と、声だけは。
宿木ルカ
裏切りたくないと思った。
アウレア
燃えるような女の眼差しが。
アウレア
今もあなたの胸に焼き付いている。
宿木ルカ
きゅ、と焼け焦げた衣服を握りしめる。
宿木ルカ
熱かったはずのその痕は、もうおそろしくは感じられなかった。
イェルク
「……ネロ」
ネロ
「はい」
ネロ
呼ばれ、視線を向ける。
イェルク
「お前の志向する善き振る舞いに関してだが」
イェルク
「この少年に対しては、もう十全に発揮するつもりでいるのか」
イェルク
迂遠な言い回し。
ネロ
「……」
ネロ
イェルクの意図を、正しく理解している。
イェルク
「俺としては、……そうだな」
イェルク
「アウレアがああした以上は、応えてやりたいと思うが」
ネロ
目を開く。
ネロ
閉じられていた瞼から、深い宇宙が覗く。
ネロ
量る。善性を。行いを。利害を。
ネロ
「…」
宿木ルカ
「…………」
イェルク
男の合理性と、妖精の善性が。
イェルク
この世界に落ちたばかりの少年の頭上で交わされている。
ネロ
「ええ、僕も同じ考えです。」
イェルク
救世主の心の疵。その有り様が。
イェルク
彼らをこのように振る舞わせる。
ネロ
瞳を閉じて、妖精は微笑んだ。
イェルク
「……で、あるならば」
イェルク
「自己を開示させるより先に、説明してやるべきことがあるな」
ネロ
「そうですね。」
ネロ
ルカの方に改めて向き直る。
ネロ
「ルカ、よく聞いてくださいね」
ネロ
「この世界には、いくつかの特殊性やルールがあります。」
宿木ルカ
「…はい」
ネロ
「そのうちの一つで、最も守らなければならないもの」
ネロ
「僕たち救世主は、30日に1回、殺し合いをせねばなりません」
宿木ルカ
「…!」
ネロ
「そうしなければ、先ほど君が見たような化け物に成り果ててしまいます。」
イェルク
「必竟、根本的には敵同士だな」
イェルク
「俺たちは」
宿木ルカ
今まで歩いていた足が止まる。
宿木ルカ
じり、と地面がわずかに音を立てる。
宿木ルカ
「僕たちも、殺し合いを…」
イェルク
「まあ」
イェルク
「そうならないために、先にこうして説明をしている」
宿木ルカ
「ぁ…はい」
宿木ルカ
「すみません」
ネロ
「厳密には裁判と呼ばれる殺し合いの際に、誰か一人でも死者が出れば良いんです」
ネロ
「だから僕たちは寄り集まる」
イェルク
「この世界には救世主が山といるからな。ふざけた話だが」
イェルク
「救世主同士で殺し合うにしても、小規模の群れを作ってやりあうことが多い」
ネロ
「この世界は、一人で生きていくには、いささか厳しすぎますからね」
宿木ルカ
「じゃあ、イェルクさんとネロさんと、……あのひとも」
宿木ルカ
「そうやって、生きてきたんですね」
イェルク
「……ああ」
ネロ
「ええ」
イェルク
「そう、長くはない期間ではあったがな」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「……」
ネロ
「おや、共に過ごした期間こそ長くなくても、僕はイェルクのことが好きですよ?」
ネロ
妖精は微笑う。
イェルク
「そりゃあありがたい話だ」
イェルク
「俺もお前を生かすべく振る舞うつもりがあるよ」
ネロ
「ありがとう、善良なきみ」
イェルク
「……それで」
イェルク
ルカを見る。
イェルク
「お前の方は、どうなんだ」
宿木ルカ
「!」
イェルク
「聞いて、分かったろう」
イェルク
「この世界は人を殺さずには生きられない」
イェルク
「ルカと言ったな」
宿木ルカ
「…はい」
イェルク
「お前には、他者を殺してでも生きていく」
イェルク
「生き延びたい」
イェルク
「それだけの欲求が存在しているのか?」
宿木ルカ
……… ……
宿木ルカ
「正直なところ、ありません」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「あなた達が、そう望むのなら。奪われてもいい命だと、思っています」
宿木ルカ
目を逸らすな。逃げるな。
宿木ルカ
この世界では、そうあらねばならない。
宿木ルカ
「…それでも」
宿木ルカ
「あの人に、任されたことがあるから」
宿木ルカ
「お二人さえよければ、一緒にいさせてください」
宿木ルカ
「必要がなければ、”そのように”していただいても、大丈夫ですから」
イェルク
ルカの言葉を聞いている。
ネロ
「…もう、イェルク。あまり怖い言い方をしてはいけませんよ」
イェルク
「いつかは問われる覚悟だ」
イェルク
「先にしてやった方がいい」
イェルク
「その方が、合理的で」
イェルク
「善良だ」
ネロ
「ふふふ、君のそう言うところが僕は大好きです」
ネロ
「でもね、生きていく理由なんて、誰しも持っているものじゃない」
ネロ
「ねえ、ルカ。ここはこんな世界だけど、それでも人を好きになったていい。情を育んでいい。」
ネロ
「僕は、君は素敵な子だと思います。こんな世界だけれど、どうか君のお友達になりたいな。」
宿木ルカ
「……!」
ネロ
宇宙の瞳が覗いた、本質。きっとこの子は、善良で努力家の良き人だ。
ネロ
自分の大好きな。
ネロ
「どうかな?僕としては、ルカ、君とお友達になりたいのだけれど。」
ネロ
*宿木ルカの心の疵『ルカ』を愛で舐めます。
GM
*判定をどうぞ。横槍はありません。悲しいね。
ネロ
2d6+3>=7 (2D6+3>=7) > 5[4,1]+3 > 8 > 成功
GM
*成功ですね。ルカの心の疵『ルカ』が○になります。
[ 宿木ルカ ] 「ルカ」 : 0 → 1
ネロ
「どうして生きていきたいかなんて結論は、今すぐでなくてもいいでしょう。」
ネロ
「アウレアが託した君と、他ならぬ『ルカ』と、僕はお友達になってみたいんです。」
ネロ
「できれば君もそうだと嬉しいのだけれど、どうかな?」
宿木ルカ
この人は、"僕"を見ている。
宿木ルカ
”ルナ”じゃなくて、都合のいい何かじゃなくて、”僕”を。
宿木ルカ
真正面から。
ネロ
打算もないわけではない。アウレアが離脱している現状、才覚と愛のふたりでは決定打に欠ける。
宿木ルカ
それは、僕にとってはおそろしいことだけれど。―不思議と嫌だとは思えなかった。
ネロ
安定しているパーティーに新たに人を入れることで、自分達が寝首をかかれるんじゃないかとか。
ネロ
そもそも30日のルールを教えてよかったのだろうかとか
ネロ
男の才覚は、それらを正しく認識している。
ネロ
でもどうだっていいじゃないか!
ネロ
目の前の少年は、善良だ。優しい子だ。きっと、ずっと何かに耐えてきた子だ。
GM
あなたたちは少し前に救世主の責務をこなしたばかりとはいえ、一日でも刻限を延ばせることに価値がないわけではない。
GM
そこに利があり、合理性がある。
GM
そして。
GM
そればかりでいられないのが救世主であり、心の疵の具現である。
ネロ
そんな素敵な子を愛さないで、何が愛の妖精か!
ネロ
「だからね、どうか君自身の意思で、僕たちと一緒にいてくれると嬉しいな。」
ネロ
「もちろん無理強いはできないけれど……」
ネロ
「少なくとも、僕は君の命を必要ないとは思わない」
宿木ルカ
「…ぁと、えと、あの」
宿木ルカ
「よろしく、お願いします…?」
ネロ
「うふふ、よろしくね」
ネロ
妖精は心底嬉しそうに笑い、くるりと回る。
ネロ
「イェルクも、いいでしょう?僕、この子のことが好きなのです」
ネロ
仲間にも、同意を求める。
イェルク
「こちらから30日ルールを開示したからには、今更異論があるはずもない」
ネロ
「よかった。君の意志ももちろん大事だからね」
ネロ
「それじゃあ、ルカ。僕たちの新しいお友達。これからどうかよろしくね」
宿木ルカ
「…はい。よろしくお願いします」
イェルク
「…………」
GM
乾いた風が拭く荒野で、交わされる言葉には湿度がある。
GM
苛烈な熱の取り払われた後に、注がれる情の温度がある。
GM
ここは堕落の国。終末へ向かいつつある御伽の世界。
GM
その中でも救世主は寄り添い、手を取り合うて生きている。

行動:PK その1

イェルク
「ああ」
イェルク
近づいてきた村をオペラグラスで観察しながら、イェルクが声を漏らす。
イェルク
「見覚えがあるような気はしていたが、そうか」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「あの荒野は俺たちが出会った場所に近かったらしいな」
ネロ
「!」
イェルク
「人喰い三月に悩まされていたあの村。覚えているだろう」
イェルク
「あそこは、そうだ」
イェルク
指差しながら語る。
ネロ
「この辺りだったのですね。いや、イェルクに言われるまでとんと気づけませんでした」
ネロ
少し懐かしげに目を伏せる。
イェルク
「荒野なんて見ていても見分けがつかないからな」
イェルク
「どこに飛ばされたのかと思っていたが……」
イェルク
「覚えのある土地で幸いだったな」
ネロ
「ええ…アウレアが、そうしてくれたのでしょうね。」
イェルク
「…………」
イェルク
「ルカ」
かさね
宿木ルカ
「! はい」
イェルク
「これから行くのは末裔と呼ばれる現地住民の村だ」
イェルク
「お前も救世主だのなんだのと持ち上げられることになると思うが……」
イェルク
「まあ、心の準備をだけしておけ」
宿木ルカ
いるんだ、現地住民。いやまあ、当然のことではあるが。
宿木ルカ
「はい。」
ネロ
「決して悪い方達ではありませんよ。気負いすぎず、普通に接すれば良いんです」
宿木ルカ
「わかりました」
GM
近づいていくにつれ、村の様相があらわになる。
GM
ここで暮らす者がいるとはとても思えない、寂れた村。
GM
ルカが抱く感想はそういったところだろう。
GM
人の気配もほとんどない。
家屋の多くは崩れきり、屋根を保っているものは珍しく。
畑は荒らされている。
GM
それが。
GM
かつてここを去った時の有り様とは異なることに気付けるのは、この地を訪れたことのある者のみ。
GM
逆戻りしている。
宿木ルカ
「ここ、ですか…?」
GM
この有り様は自分たちがこの村を初めて訪れた時のものに近い。
GM
亡者に悩まされる村。
GM
この村を荒らし、悩ませる亡者を、三人で打ち倒したはずだった。
GM
そうしていくらかの復興を手伝い、この村に齎したはずの善き終末が。
GM
見事に覆されている。
ネロ
目を見開き、瞬かせる。どういうことだ。
イェルク
「…………」
白兎の少女
「あ」
白兎の少女
「救世主、さま……」
白兎の少女
崩れかけの家屋から、痩せ細った白兎の少女が顔を出す。
ネロ
「君は……」
白兎の少女
かつては荒野で三人を導いた少女だった。
白兎の少女
白兎の役目として、この世界に落ちたばかりの救世主を導くことを、誇りに思っていた。
イェルク
「……また」
イェルク
「亡者が出たか」
ネロ
「……」
イェルク
爪痕の残る村の様相に、平坦な声で確認する。
イェルク
オペラグラスで遠くから様子を見ていた男だ。概ねを理解していたのだろう。
白兎の少女
「……はい」
白兎の少女
「お三方が、村を出てから……他の救世主さまが」
白兎の少女
「でも」
白兎の少女
「刻限が」
白兎の少女
「どうにも、ならなくて」
白兎の少女
「…………」
白兎の少女
そこでふと、
白兎の少女
”今の”三人を見て、少女は赤い瞳を瞬かせる。
白兎の少女
「……アウレアさま」
白兎の少女
「アウレアさま、は?」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「………」
ネロ
「……彼女は、理由あって今別行動なんです。」
ネロ
引き取り、答える。
白兎の少女
「…………」
ネロ
「次はきっと、一緒にここを訪れますよ」
白兎の少女
「嘘」
白兎の少女
あなたの優しい嘘を、取り繕った物語を。
白兎の少女
目の前の少女が拒む。
白兎の少女
「だって」
白兎の少女
「そんな次は、来ないんでしょう?」
白兎の少女
「ネロさま」
白兎の少女
「すぐに来てくれるとは、言ってくださらないのでしょう?」
アウレアとの思い出
*ネロの心の疵『よい妖精』を才覚で抉ります。
宿木ルカ
*横槍を入れます。
GM
*ではチョイスからどうぞ。
宿木ルカ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
GM
*愛で7以上ですね。
宿木ルカ
2d6+1=>7 判定(+愛) (2D6+1>=7) > 8[5,3]+1 > 9 > 成功
GM
*横槍の効果量1D6をどうぞ。
宿木ルカ
1d6 (1D6) > 1
アウレアとの思い出
2d6+3-1=>7 判定(+才覚) (2D6+3-1>=7) > 8[6,2]+3-1 > 10 > 成功
アウレアとの思い出
*成功。ネロの『よい妖精』が抉れます。
 またルカは横槍によってHPが1点減少。
[ 宿木ルカ ] HP : 20 → 19
[ ネロ ] よい妖精 : 0 → -1
白兎の少女
「ほんとうに」
白兎の少女
「ほんとうにアウレアさまが生きていて、別行動でいらっしゃるなら」
白兎の少女
「そんなに遠くには、いらっしゃらないでしょう?」
白兎の少女
「すぐに」
白兎の少女
「すぐにまた」
白兎の少女
「この村に来てくださるはずではありませんか?」
白兎の少女
少女の赤い瞳が揺れている。
白兎の少女
薄汚れた頬。寂れた村。
白兎の少女
かつてあなたが救い、笑顔を、ハッピーエンドをもたらしたはずの少女が。
白兎の少女
それをたやすく壊されて、今は悲嘆に沈んでいる。
ネロ
叶えてあげたい。無垢な少女の願いだ。
白兎の少女
あなたが善良と認めた相手。
白兎の少女
頑張り屋の少女だった。
白兎の少女
亡者に悩まされる中でも、苦しい生活の中でも、
白兎の少女
自分が救世主を導けることを喜んでいた。
ネロ
そうしてアウレアもまた、清廉な女であった。
ネロ
そんな二人を救う。願いを叶える。
ネロ
自分はそうすべきだ。それができるならば。
アウレア
アウレアは少女には、特別に懐かれていて。
ネロ
でもできない。
アウレア
女同士の気安さか。
アウレア
その胸に抱きついては炎の熱のないことをおかしんで、よく笑っていた。
アウレア
その炎はしかしルカを焼いた。
ネロ
力が足りない。救うことができない。願いを叶えてあげることができない。
ネロ
そのことに対して、胸に去来するものは。
ネロ
…去来するものは?
白兎の少女
「アウレアさま」
白兎の少女
「アウレアさま、どうして……」
白兎の少女
少女が泣いている。
白兎の少女
あなたが失った、
あなたを守って死んだ女。
白兎の少女
その欠落に少女が涙を流す。
ネロ
なんとまあ、驚くほどに。
白兎の少女
欠落を埋めることは叶わない。
ネロ
…なあんにも、ないのだ。
ネロ
抉れている。致命的に欠けている。
白兎の少女
善良な妖精はハッピーエンドを紡ぐことはできず、
無力な少年が失われた女の代替を務めることもできない。
ネロ
ハッピーエンドを齎せないのは、何と、気持ちの良くないことか。
ネロ
救えない申し訳なさではなく、無力さへの嘆きではなく。
ネロ
「自分が欲するものはここにはない」と言う感覚。
宿木ルカ
僕は、あのひとの欠落を埋めることができない。
宿木ルカ
そもそも、あの場に僕がいなかったら。きっと。あのひとは―。
ネロ
アウレアを救うことができない以上、願いを本当の意味で叶えることができない以上、せめてこの少女が今この場で最大の幸福を得られるように優しい嘘をつこうと思ったのだけれど。
ネロ
それも無意味だったようだし。
ネロ
「……そうですね、ええ。嘘です。」
白兎の少女
「…………」
白兎の少女
少女が赤い目を丸くする。
白兎の少女
涙でぐしゃぐしゃの顔でネロを見上げる。
ネロ
「アウレアはもういません。僕たちを庇って、そしておそらく死にました。」
宿木ルカ
「ネロ、さん…?」
イェルク
「…………」
ネロ
「死んだかどうかの確認はできていません。もしかしたら生きているかもしれない。」
ネロ
「でもその可能性は限りなく低いでしょうね。」
イェルク
男は余計を語ることをしない。
イェルク
生きているとしても、恐らく。
イェルク
既に亡い者であろうことをまで、語る必要はない。
白兎の少女
少女が膝を折る。
白兎の少女
両手で顔を覆って、涙を流す。
白兎の少女
その指先は土と血に汚れている。
ネロ
「…すみません。僕では、君の願いを叶えてあげることができないようだ。」
ネロ
申し訳なさそうに。眉を下げて。悔しそうに。
ネロ
そういうフリをする。
ネロ
実際、悔しいのかもしれないけれど。悲しいのかもしれないけれど。
ネロ
よくわからないし
GM
少女の返答はなく、村に響くのはすすり泣きの音と、風が建物の間を通り抜ける音だけ。
ネロ
目の前の少女を幸福にできない以上、目の前の少女のことは、もうどうだっていいのだ。
GM
……何人かの末裔が、救世主たちの様子を少し離れたところから窺ってはいるけれど。
GM
きっと、彼らはもう、縋ることにすら疲れたのだ。
GM
助けを求められることはない。
ネロ
そういう習性。幸福を食べて生きる羽虫。
GM
少女とあなたたちのやり取りを聞いてか、アウレアの失われたことに涙を流す者もあった。
ネロ
食べられる幸福がそこにないのなら、その餌場に留まる意味はなく。
アウレア
あなたとは違う。
アウレア
慈悲深い、愛情に満ちた女であった。
アウレア
心を寄せる行為とその意味を、女はよく理解していた。
アウレア
……それを理解できないあなたのことも。
ネロ
***
アウレア
『でも』
アウレア
『ネロはそれでいいのよ』
アウレア
『私にはできない優しさと救いが』
アウレア
『あなたの振る舞いには、存在すると思うわ』
アウレア
『だから』
アウレア
『私はあなたといるんだもの』
ネロ
ああ、本物の聖女。慈悲深き人。善良な隣人!
ネロ
君のことは、本当に好ましく思っていたんですよ。
ネロ
だって、君はたくさん幸せになっていい人でしたから。
ネロ
でももう喪われてしまった。どうすることもできない。
アウレア
女にもたらされるハッピーエンドはもはやない。
ネロ
君の優しさに優しさに応えることも出来ない。自分は、そう定義された存在ではない。
ネロ
たまたま、善良に「見えていた」だけの、羽虫なんだから。
ネロ
「…行きましょうか」
イェルク
「……その前に」
イェルク
「ルカを休ませる必要があるだろう」
ネロ
「ああ、そう、そうでしたね」
宿木ルカ
「ぁ…いえ」
宿木ルカ
「僕は、別に、どこでも」
イェルク
「この国で屋根のある場所は貴重だ」
イェルク
「無理をされて倒れられる方が面倒が増える」
ネロ
「そうですよ。無理をしてはいけません」
宿木ルカ
「……はい。」
イェルク
少し遠くから様子を窺う末裔へと視線をやる。
イェルク
「……どこか、適当な家屋を一軒貸してくれ」
宿木ルカ
「すみません」
イェルク
「それと」
ネロ
「君に倒れられたら、僕は悲しいですから」
イェルク
「地図が残っているなら、拝借したい」
イェルク
「頼めるな?」
イェルク
救世主の強権でもって、末裔たちに冀う。
宿木ルカ
「………」
イェルク
合理に導かれた行動。
末裔
末裔はそれに抗う術を持たない。
末裔
疲れ切った表情で頭を垂れ、願われるままに救世主たちを導いた。
ネロ
妖精は、仲間たる二人の方を見て、微笑んでいる。
ネロ
二人のことは、ちゃんと愛している。
ネロ
善良で、優しくて、幸せになれそうだから。
ネロ
君たちが「幸せ」を受け取って、僕を優しい妖精でいさせてくれるうちは。
ネロ
僕は、君たちのことを、僕の全てで持って愛しましょう。
ネロ
どうかこれからも、愛させてくださいね。
ネロ
項垂れる末裔を目に入れず、壊れた村を気に留めず、ただ二人だけを見て笑っている。
GM
ここは堕落の国。
GM
ハッピーエンドを迎えた後の、救いようなく廃れた世界。
GM
そこに導かれた救世主たちが、果たして何を思うものか。
GM
無力な白兎には、計り知ることができないことだ。

行動:宿木ルカ

宿木ルカ
*ネロの心の疵『○○○』を猟奇で舐めます。
GM
末裔たちに案内されるままに、ボロ小屋へと通される。
GM
現代人のルカの目には廃墟としか思えない様相であるが、
GM
今のこの村では上等な方であることは、流石に理解できるだろう。
GM
床には木屑や砂埃が積み重なっている。一応椅子らしきものもあるが、それも薄汚れている。
イェルク
懐からハンカチを取り出して、椅子の座面を軽く払った。
イェルク
男の服装に似つかわしい上等なハンカチだが、それもすぐに黒汚れしていく。
イェルク
そうして多少体裁を整えた椅子へと、男は真っ先に腰を下ろした。
イェルク
口元を覆って、小さく息をつく。
イェルク
「休めるうちに休んでおけ」
イェルク
この言葉は、特にルカに向けられたものだった。
宿木ルカ
「……… はい」
イェルク
「末裔たちの様子を思えば、こうして寛ぐのも気が引けるだろうが」
イェルク
「こちらも生きるのに必死だ」
イェルク
「祭り上げられるままに応えてやるのには、限界がある」
ネロ
「念のため、少しだけ居心地良くしておきましょうか」
イェルク
「……頼む」
ネロ
ビビディ バビディ
ネロ
小気味よいリズムと共に、ふわりと空間を光が包む。
ネロ
遮音と気配遮断の結界。まあ、ないよりマシという程度。
ネロ
この空間全てを上等に、というほどの力はない。今は。
イェルク
それでも多少、息を吸いやすくなったような感覚がある。
ネロ
本当におまじない程度ですけれどね〜…
宿木ルカ
飾り気のない言葉だったけれど。イェルクの配慮や言わんとすることは十分に汲み取れた。
宿木ルカ
それから、ネロの気配りも。
イェルク
合理に従って動いてきた男。
イェルク
アウレアによって荒野に飛ばされて以降、
イェルク
いや、その前から。
イェルク
合理の積み重ねによって弾き出した結論によって、この男の行動は形作られている。
宿木ルカ
休めるときに、少しでも”マシ”になっておかなければ。この世界では生き残ることすら危うい。
宿木ルカ
「…ありがとうございます」
イェルク
その理をルカに説き、寛ぐことを勧める一方で、
イェルク
その気が緩められる気配はあまりない。
イェルク
xxx
宿木ルカ
イェルクに倣って、きしむ椅子に腰かけた。
イェルク
ルカの言葉に、視線を向けた。
宿木ルカ
目を瞑って、大きく息を吐く。
宿木ルカ
「…予想は、出来ていたことなんですけど」
宿木ルカ
「…やっぱり、重たいんですね。"救世主"って」
宿木ルカ
「きっと救世主(ぼくたち)にしかできないことが、あって」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「それをこなしたら、次も、また次も…」
イェルク
「……良かったな、ネロ」
イェルク
「つくづくお前好みの善良さだ」
ネロ
「ええ」
ネロ
「ルカ、君の考え方はとても好ましい」
ネロ
「この堕落の国にあって、責任から目を逸らさずにあろうとしている」
宿木ルカ
「 …?」
ネロ
「つまりね」
ネロ
「他人のせいにしたり、押し付けられた責任だから仕方ないと喚いたり」
ネロ
「君はそういうことをしていないでしょう?」
宿木ルカ
「それは…そう、ですけど」
イェルク
「そもそも、救世主なんて呼ばれ方もただのお飾りだ」
ネロ
「僕はね、そういう子のことが、と〜っても好きなんです」
イェルク
「急に呼び立てられて、救世を押し付けられたところで」
イェルク
「それに応える義務を感じる必要はどこにもない」
イェルク
「そう考えることに、責められる必要もな」
イェルク
「だが、お前は救世主と呼ばれることに重みを感じた」
イェルク
「それは、まあ――」
イェルク
「そこの妖精が好む善良さだ」
ネロ
「だから君のことも大好きですよ?イェルク」
ネロ
「善良さも 高潔さも 他人を思いやる気持ちも 品性も 理性も」
ネロ
「誰もが当たり前に持っているものではない」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「…応える義理がなくたって、疲れるでしょう。―求められ続けることって」
宿木ルカ
覚えがある。
宿木ルカ
痛いほどに。苦しいほどに。
宿木ルカ
「ネロさんも、イェルクさんも」
宿木ルカ
「僕が言えることでは、本当にないんですけど」
宿木ルカ
「無理は、しないでくださいね」
ネロ
「……」
イェルク
「本当に言えることじゃないな……」
宿木ルカ
「あはは…」
ネロ
「本当にルカはいい子ですねえ、ね、イェルク。」
イェルク
「俺は心配だよ」
イェルク
「この世界、善良な存在ほど馬鹿を見る」
イェルク
「救世主なんてのは、義務も責任もほっぽって」
イェルク
「”責務”だけこなして、甘い汁を啜るのが一番に長生きする存在だろ」
宿木ルカ
「でも、あなたたちはそれを選んでいない」
宿木ルカ
「そうでしょう?」
イェルク
「どうだろうな」
宿木ルカ
イェルクの合理主義も、ある種の自己防衛にあたるのだろうか。
イェルク
「末裔に強要して、自分の役立つように働かせた」
イェルク
「それは正しく、救世主の力を濫用した」
宿木ルカ
これと決めた領分以上に手を伸ばさないように。―そうすることで、失うものを最低限に抑えられるように。
イェルク
「”甘い汁を啜る”行為に他ならないと思うが」
ネロ
「君のそれは全体を見てのことでしょう」
ネロ
「自分一人が利を得る為ではない」
イェルク
「末裔たちにとっては、知ったことじゃあないさ」
イェルク
「構わんがね。いいように使わせてもらった事実がある」
イェルク
一方で、あなたは知っている。
イェルク
この男も間違いなく、かつてはこの村を救うために力を尽くしたことを。
イェルク
村の末裔たちを悩ます人喰い三月を討ち倒すため、その才覚を働かせていたことを。
イェルク
男の知恵と、
アウレア
女の慈愛と、
GM
あなたの献身が。
GM
かつてはこの村を、確かに救ったはずだった。
ネロ
知っている。この男は優しい。自分以外の他に向かって手を伸ばしてしまう。
ネロ
その上で届かなかったものを、救えなかったものを。
ネロ
合理で切り捨てるように見せて。
アウレア
燃え盛る炎の中。
アウレア
男が女に手を伸ばすことはなかった。
アウレア
アウレア。炎を纏うた女。
アウレア
女以外のなにものをも焼くことのなかった浄罪の炎が、ルカに害をなした事実に。
イェルク
男は正しく女の”終わり”を見て取っていた。
ネロ
そうすべきだということと、それを選び取った責任とを。
ネロ
目の前の男は正しく量りとっている。
ネロ
その上で、手を伸ばさなかったという事実を、きっと手放さないのだろう。
ネロ
そのような責任感を、理性を、優しさを持った男。
ネロ
だからこそ、妖精はこの男が好ましい。
ネロ
目の前の少年もまた、同じく。
ネロ
妖精の触覚は、己が好む高潔な魂を鋭敏に感じ取っている。
アウレア
ひとつ、失われた高潔な魂と。
アウレア
引き換えるように差し出された少年の姿がそこにある。
ネロ
「僕は君のことが大好きですよ、イェルク。そしてルカ。」
ネロ
「君たちは紛れもなく、優しい人間です。」
宿木ルカ
「… 」
宿木ルカ
「―ネロさん」
ネロ
「妖精さんが、保証しましょう」
ネロ
「はい。どうしましたか?」
イェルク
呆れた重症ぶりに肩を竦めた。
宿木ルカ
「さっきの。末裔の、子と…」
宿木ルカ
「話していた、ときの」
ネロ
目を伏せる。
ネロ
痛ましげな表情をしている、ように見える。
宿木ルカ
「………つらい役回りを、させてしまって」
宿木ルカ
「ごめんなさい」
ネロ
「いいえ、優しい子。」
ネロ
「誰かが言うべきことでした。そして、彼女のことを僕は救えない。」
ネロ
「それが事実です。僕は、僕が救える人しか救うことができません。」
ネロ
「そのようなものです。だから、仕方がなかった。」
ネロ
「君が気に病む必要はありませんよ」
イェルク
「そもそもが、取り繕う必要すら本来はなかった」
イェルク
渡された地図を広げながら言う。
イェルク
「あれはネロのすべき尻拭いだ」
イェルク
「少なくとも、お前が気を回すことじゃあない」
宿木ルカ
「それでも。やりたくないことって、あるから」
ネロ
「大丈夫ですよ、優しい子」
ネロ
「僕ね、やりたくないことってそんなにありませんから」
ネロ
いや、ないわけではないけれど。
ネロ
「なすがままに、あるがままに。」
ネロ
「世界がそうあれと言うならば、その通りに」
宿木ルカ
「…ほんとうに?」
ネロ
「ええ、僕はそういう妖精です」
宿木ルカ
だって、僕は。
宿木ルカ
僕はそうしてきて、ずっと痛かった。
宿木ルカ
たった一人に、「そうあれかし」と望まれただけのことが。
宿木ルカ
こうしたほうが楽だから、と選び取った道だったのに。
宿木ルカ
それでも、ずっと。痛かった。
ネロ
目の前の、良き子。善良な男の子。
ネロ
きっと、主人公であるべき子。
イェルク
地図に視線を落としながら、二人の会話を聞いている。
ネロ
君が悲しそうな顔をすると、僕も悲しい。
ネロ
「本当に、君は心を痛めなくていいんですよ。」
ネロ
「僕は君のような子の味方、フェアリーゴッドマザーのお兄さんです。」
宿木ルカ
だからこそ。
宿木ルカ
「…僕は、ネロさんのこと、まだよく知らないですけど」
宿木ルカ
「自分でそう決めていても、痛い時は痛いし、嫌なものは嫌じゃないですか」
宿木ルカ
「だから、せめて」
宿木ルカ
「”そう”であってもいいですから。―痛いときは、痛いって言って」
宿木ルカ
そのほうが、安心できる。僕が。
宿木ルカ
身勝手。
宿木ルカ
己の物差しで他者を量るエゴイズム。
宿木ルカ
「…ほしい、です」
宿木ルカ
意識してはいないかもしれないけれど。
宿木ルカ
彼と僕は違うのだと、線を引くような彼の言動が。ひどく寂しく映った。
宿木ルカ
*ネロの心の疵「○○○」を猟奇で舐めます。
GM
*判定をどうぞ。横槍はありません。
宿木ルカ
*ティーセット使用。
GM
*では猟奇の+3にティーセットの+2が乗って7以上ですね。
宿木ルカ
2d6+3+2=>7 判定(+猟奇、ティーセット) (2D6+3+2>=7) > 11[6,5]+3+2 > 16 > 成功
GM
*成功ですね。
[ ネロ ] ○○○ : 0 → 1
ネロ
*はい ○○○舐められます…
[ 宿木ルカ ] ティーセット : 2 → 1
ネロ
「…」
ネロ
漠然とした違和感。疎外感。
ネロ
以前からあったもの。この世界に来てから形を得た概念。
ネロ
NPC
ネロ
きっと自分は、そういうものだ。
ネロ
主人公たる誰かのため、都合よく発生するお助け装置。
ネロ
そう思って、そう納得して
ネロ
今日までの300年を生きてきた。
ネロ
だってそうじゃないか。
ネロ
誰かを救って、救って、救い続けてこう成り果てて
ネロ
手が届かなかったものは、そういう脚本だからと諦めて
ネロ
でも
ネロ
目の前の少年の瞳の
ネロ
なんと真っ直ぐなことか
ネロ
眩しい王子様だって、心優しい灰被りの少女だって、こんなふうには見つめてくれなかった。
ネロ
そうか、
ネロ
痛いのか。
ネロ
僕は痛かったのか。
ネロ
ずっと、自分はそういうものという焼けた靴に自身を押し込めて
ネロ
ずっと、痛かったのだろうか。
ネロ
「…痛い、かあ」
宿木ルカ
「…」
ネロ
「シンデレラって物語、知っていますか?」
ネロ
「堕落の国の人でも、知っている人と知らない人がいるみたいで」
宿木ルカ
「え、あ、はい。」
宿木ルカ
「絵本とか、ありました」
ネロ
「知っている人でしたか」
イェルク
灰かぶりの姫の話。アシェンプテル。
ネロ
「それの妖精さんなんですよ、僕。」
ネロ
「紛れもなく本物の」
ネロ
「だから、君たちとは発生から異なる。」
ネロ
「大体のことはなんでもできます。そういう妖精なので」
宿木ルカ
「………」
ネロ
「もっとも、この国に堕ちてからは万能とは程遠いですが…」
イェルク
「コインの枚数相応だな」
イェルク
「それでも、助かっているが」
ネロ
「助けられているなら、よかった」
ネロ
「それでも、僕はそういう、なんというか……そう、お助けキャラクターみたいな存在です」
ネロ
「存在と思ってくれていい」
ネロ
「のに」
ネロ
「君は、それをしないんですね」
宿木ルカ
「……それでいいって、ネロさん自身が思っていたとしても」
宿木ルカ
「それに甘えるのは」
宿木ルカ
”そういうものだ”という認識に横たわるのは。
宿木ルカ
「なんていうか、その」
宿木ルカ
「あなたを。ネロさんを」
宿木ルカ
「軽んじているように、思うから」
宿木ルカ
「したくは、ないです」
ネロ
「……」
ネロ
「そうですか」
ネロ
「そう、ですか」
ネロ
やはり、自分の瞳は、直感は正しかった。
ネロ
彼はどこまでも善良で、輝かしい、自分好みの人間だ。
ネロ
そういう人間が好き。善良と幸福を愛する妖精だから。
ネロ
でも
ネロ
それだけではない
ネロ
こんなに
ネロ
こんなに熱いものだっただろうか
ネロ
血潮が巡る。手足が震える。
ネロ
神経の一つ一つが、生きていることを訴えてくる。
ネロ
自分はここに生きているのだと。
ネロ
300年生きてきて、初めて。
ネロ
「……君は」
ネロ
「本当に、優しい子ですね」
ネロ
「こんな妖精のことまで、気にかけてくれて」
宿木ルカ
「我侭なだけ、です。…きっと」
宿木ルカ
「うまく言えないし、言えることでもないですけど」
宿木ルカ
「きっと、ネロさんがずっと”そう”だったら」
宿木ルカ
「僕もずっと、痛かった…と思うから」
イェルク
「どちらにせよ、上出来だ」
イェルク
「救世主の心の疵は」
イェルク
「慰められているに越したことはない」
ネロ
「そうですね」
ネロ
「痛くなんて、ない方がいい」
ネロ
「君も、僕も」
宿木ルカ
「…はい 」
ネロ
痛くなんてない方がいい。
ネロ
そのはずなのに
ネロ
当事者性を得た体は、胸は、こんなにも痛い。
ネロ
今まで仕方がないと、そういうものだからと飲み込んできた全てが、突き刺さってくるようだ。
ネロ
ああ、シンデレラ。君は、君たちは
ネロ
こんな世界を、こんな痛みを、生きてきていたんですね。
ネロ
なればこそ
ネロ
この痛みを飲んで、立ち上がらなければいけない。
ネロ
自分達は生きている。生かされているのだから。
宿木ルカ
「…ネロさん?」
宿木ルカ
「大丈夫、ですか?」
ネロ
「大丈夫です、大丈夫ですよ」
ネロ
「ただそう、少し」
ネロ
「…少し、痛かっただけです」
イェルク
「…………」
イェルク
「悪くはない痛みだと、思っている」
イェルク
「そういう顔だな」
ネロ
「……ええ」
ネロ
「……きっと、君と同じ痛みだから」
ネロ
今を、ちゃんと生きている、君たちとの
ネロ
「痛いと感じられることに、意味があるのだと」
ネロ
「やっと少しだけ、わかりました」
イェルク
「存外」
イェルク
「一番に休息が必要だったのは、お前だったのかもしれないな」
イェルク
「ネロ」
宿木ルカ
「きちんと休んでくださいね」
ネロ
「そうなのかもしれませんね」
ネロ
「すみません、迷惑をかけてしまって」
ネロ
「もう、大丈夫ですよ」
ネロ
「心配してくれてありがとう、優しいふたり」
イェルク
「お前とて傷を受ける役目に変わりはない」
イェルク
「…………」
イェルク
「……案じは、するさ」
ネロ
「ふふふ、ありがとう。僕は君のそういうところが好きですよ。」
ネロ
「そしてルカ、君も」
ネロ
「君の優しさに、感謝を。」
ネロ
「君のその優しさが、僕はとても好きです」
宿木ルカ
「…ありがとうございます」
宿木ルカ
「そう言ってもらえて、嬉しいです」
ネロ
「愛していますよ 愛しいふたり!」
ネロ
そういう存在だからではなく
ネロ
そう定義されたからではなく
ネロ
ちゃんと、本心で
ネロ
自分で、選択したものとして!
ネロ
彼らを愛し、守り抜こう
ネロ
やっと芽生えた、自分の意思で
ネロ
そして、守れなかった彼女の分まで
ネロ
この胸の痛みに、誓う。
アウレア
彼女もきっと、それを望んでいる。
アウレア
少なくともあなたの知る女は、そういう善良さを湛えた女だった。
GM

行動:PK その2

イェルク
「さて」
イェルク
「話がついたところで、これからの方針について共有したい」
イェルク
末裔に渡された、古びた地図を二人にも見える形で広げます。
宿木ルカ
「…はい」
ネロ
横から覗き込みましょう
イェルク
あまり精確ではない、それこそゲームの中で見るような手書きの地図ですが……
イェルク
「ルカ」
宿木ルカ
「!はい」
イェルク
「お前と会う前、俺たちはグレイブリッジという街に向かっていた」
イェルク
「公爵家――この世界で権力を持つ存在が統治する街だ」
宿木ルカ
いるんだ、権力者。
宿木ルカ
この…こんな、世界にも。
ネロ
どんな国にもお偉いさんというのはいるものです
ネロ
程度の差こそあれ。
イェルク
公爵家は救世主を疎んでいるという話も小耳に挟んだことはあるが……
イェルク
地図の上の、街を模したらしき建物の描かれた部分を手袋の指先で示し、
イェルク
そこからす、と地図の橋まで走らせる。
イェルク
「今いるのがこのあたり」
イェルク
「……もう一度、同じ街を目指すのが最善に思う」
イェルク
「人の多い分、救世主同士の殺し合いはあろうが……どちらにせよ避けられないことだ」
イェルク
「むしろ殺し合う相手を他に見つけられない方が望ましくないからな」
宿木ルカ
「…もう一度、同じ道を?」
イェルク
「…………」
イェルク
「そうなる」
宿木ルカ
それは。
宿木ルカ
アウレアのいた場所を通る、ということ。
宿木ルカ
「そう、ですか」
イェルク
「前は一月ほどかかったな」
イェルク
「救世主に遭遇することもできた。街の近くでな」
イェルク
「それもまた、俺たちには必要なことだ」
宿木ルカ
「それが最善なんでしょうね」
宿木ルカ
異論はない。
ネロ
「少なくとも、この村にとどまるメリットはない。僕たちは人の多いところに移動すべきです。」
宿木ルカ
疑念を抱く余地も、またない。
ネロ
「…そして」
ネロ
「放っておくこともまた、できないでしょう」
ネロ
「…違いますか?」
イェルク
「…………」
ネロ
何を、とは言わない。
宿木ルカ
「………」 
ネロ
目を伏せる二人を、見つめている。
イェルク
「葬ることになるか、弔い合戦になるかは」
イェルク
「その時にならねば分からんがな」
イェルク
「存外、相討ちで痕跡すら消え失せているかもしれん」
宿木ルカ
「そう、ですね」
イェルク
「……まあ」
イェルク
「確認して、初めて分かることだ」
ネロ
以前の自分なら、この道は選ばなかったと思う。
ネロ
けれど今は、自分達を生かすために散ったであろう女を、
ネロ
弔うにせよ、戦うにせよ、向き合わねばいけないと
ネロ
そのような思いがある。
ネロ
「その確認をしに行くべきだと、僕は思います。」
ネロ
「……決して易しいことでは、ないでしょうが。」
ネロ
「そのみち街に向かう上で、避けては通れない道です」
宿木ルカ
「…はい。」
イェルク
「……同じ方向を向けているようで、何よりだ」
イェルク
男が地図を折り畳む。
GM
その最中。
GM
家の外から、どよめくような悲鳴が響いた。
宿木ルカ
「…!」
イェルク
舌打ち。
イェルク
膝を上げる。
ネロ
「様子を見ます!」
ネロ
警戒用の魔法陣を展開する
宿木ルカ
遅れて立ち上がる。
GM
ネロが様子を探れば、村は変わらず荒れ果てたさまで。
GM
しかし、亡者に襲われたなどという様子はない。
GM
ただ末裔たちが、とある廃屋に集まって顔を伏せている。
GM
……少なくとも。
GM
危険のあるようには、感じられない。
GM
そこに逃げ惑うもの、恐怖するものは存在しないのだから。
宿木ルカ
「…外には、何が?」
ネロ
「…亡者や他の救世主といった敵では、ないようです」
宿木ルカ
「それって…?」
ネロ
「…外に出ても、安全に問題はなさそうだ。」
ネロ
「ただ……」
イェルク
ネロの言葉に、扉に手をかける。
ネロ
「村の様子のおかしいことは、確かです。」
イェルク
「これ以上は」
イェルク
「直接確認した方が、早そうだ」
ネロ
「……そうですね」
イェルク
扉を押し開けて、外に出る。
ネロ
その後ろに続く
GM
村は変わらず分厚い雲の下にあり。
GM
爪痕の残る荒れ果てたさまもそのままに。
宿木ルカ
最後に出る。申し訳程度に扉を閉めて、外を見やる
GM
数少ない末裔の集団が、とある廃屋の前で悲嘆にくれている。
GM
けれど。
GM
誰もが皆、それを”仕方ない”と受け入れているようにも見られた。
GM
その廃屋へと救世主たちが向かえば、
GM
頼りなく揺れる爪先が目に入る。
宿木ルカ
「  ……!!」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
たたらを踏んで、一歩後ずさる。
ネロ
「…………」
GM
先程あなたたちと話した、白兎の少女。
宿木ルカ
違う。あれは、違う。
宿木ルカ
お母さんじゃ、ない。
宿木ルカ
でも。
GM
梁に縛りつけた縄で首を括って、その痩せ細った身体が揺れている。
宿木ルカ
僕がいたから。アウレアさんじゃなくて、僕だったから、あの子は―
GM
彼女が望んでいたのはあなたではなかった。
宿木ルカ
…僕の、 せい  ?
アウレア
彼女が望んでいたのはあなたではなく、あなたの代わりに死んだ女だ。
アウレア
村の苦境にあなたは関係ない。彼女がいたところでこれを防げたはずはない。
宿木ルカ
「あ…」
アウレア
けれど、あの白兎の少女。
アウレア
彼女にとっては。
アウレア
あなたではない、他の存在が、間違いなく望まれていた。
宿木ルカ
ごめんなさい。ごめんなさい。
アウレア
そこにいたのが、彼女ではなく、あなただったから。
宿木ルカ
僕で、ごめんなさい。
アウレア
少女は絶望の淵に、その爪先を揺らしている。
アウレアとの思い出
*宿木ルカの心の疵『「ルナ」』を才覚で抉ります。
ネロ
*横槍します
GM
*チョイスからどうぞ。
ネロ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
ネロ
2d6>=7 (2D6>=7) > 5[1,4] > 5 > 失敗
ネロ
※すみません誤送信をやらかしました。ティーセットを使用させてください…
GM
*いいですよ! 横槍効果量を1D6でどうぞ。
[ ネロ ] ティーセット : 1 → 0
ネロ
1d6 (1D6) > 6
アウレアとの思い出
2d6+3-6=>7 判定(+才覚) (2D6+3-6>=7) > 10[4,6]+3-6 > 7 > 成功
[ ネロ ] HP : 21 → 20
[ 宿木ルカ ] 「ルナ」 : 0 → -1
GM
ひたひたと。
GM
あなたが聞いたばかりの、滴のしたたる音。
GM
頼りなく揺れる爪先から垂れ落ちるもの。
宿木ルカ
「…ぁ」
イェルク
末裔たちの間を掻き分け、前に出る。
イェルク
袖から取り出したナイフでその縄を断ち切り、
イェルク
少女を胸に抱えて床に下ろす。
宿木ルカ
「…!」
末裔
涙にくれる末裔たちが囁き交わす。
末裔
亡者に追い詰められたこの村では、口減らしの必要があったこと。
末裔
その役目を誰が負うかの相談を、この数日、続けてきたらしいこと。
末裔
そうして。末に。
末裔
アウレアの喪失という絶望が引き金を引いて、少女を決断に至らしめたのだと。
末裔
そのような経緯が救世主たちの耳に伝わる。
宿木ルカ
「…やっぱり」
イェルク
少女ののどに手を触れ、首を振る。
宿木ルカ
「僕だった、から」
ネロ
「ルカ、聞かないで、聞かなくていい」
ネロ
「これは、君の罪じゃない」
イェルク
もとより衰弱状態にあった少女だ。命を刈り取られるのも早かったか。
宿木ルカ
ここにいるのが、僕だったから。
イェルク
……縊死は、長く苦しむと言うが。
イェルク
他に手段も見つけられなかったか。
ネロ
あまりにも青褪めた少年を抱きしめる。その視界に残酷な光景が映らないように。
ネロ
苦しみの痕に目が向かないように
宿木ルカ
心が、拒否しているのに。
宿木ルカ
瞼を閉じることが、どうしたってできない。
宿木ルカ
受け入れろと、囁かれているように。
GM
すぐに降ろされ、床に横たえられた少女。
GM
彼女はむしろ幸福であったかもしれない。
GM
何故なら。
GM
あなたにはそれが叶わなかった。
GM
果たしてあなたの母親は、あの後どうなっただろう?
GM
あなたがこの世界に落とされて。
GM
他にあなたの母を見つける訪問者が、いつ訪れるものだろうか?
宿木ルカ
「おかあ、さん」
宿木ルカ
ごめんなさい。
宿木ルカ
あなたの、ルナじゃなくて。
宿木ルカ
ルナでいられなくて。
宿木ルカ
あの事故で、生き残ったのが、僕で。
宿木ルカ
「ごめんなさい」
ネロ
「ルカ、ルカ。どうか落ち着いて」
ネロ
「ルカ」
ネロ
あなたの名前を呼ぶ。双子ではない、他ならぬあなたの名前を。
ネロ
「ルカ、君のせいじゃない。君は、何も悪くないんだ。」
宿木ルカ
「僕は、ルナでいなくちゃ いけなかったのに」
GM
やさしい妖精の声。
宿木ルカ
「だから、お母さんも。―あの子も?」
GM
けれどこの妖精はあなたの真実を知らない。
GM
あなたが死に追いやった、もう一人の存在を知らない。
ネロ
君のせいじゃない。これは僕の罪だ。彼女の首をあの梁に括り付けたのは、間違いなく僕の言葉だ。
GM
定義を乗り越え、自分の意思で、目の前の少年を慰めようにも。
ネロ
だから、君が傷つく必要はないのに。
ネロ
致命的に、届かない。
GM
あなたの愛の形は、全てを都合よく整え、丸め込もうとする欺瞞の姿をしている。
GM
だから真実を突きつけられた少女には届かない。
GM
だから真実を突きつけられた少年には届かない。
ネロ
今度は僕自身の意思で、君に幸福でいてほしいのに
ネロ
『めでたしめでたし』しか知らない妖精-在り方-では
ネロ
おとぎ話のような、都合のいい、薄っぺらな言葉しか用意ができない。
宿木ルカ
ひゅ、と。
宿木ルカ
喉が、厭な音をたてる。
宿木ルカ
息が うまく 吸えなくて 吐けなくて
宿木ルカ
抱きしめられた体温さえも、他人事のようで。
宿木ルカ
地面が波打っているような感覚。
宿木ルカ
ルナじゃなくて、僕がいたから。
宿木ルカ
お母さんは、壊れてしまった。あの日に。
宿木ルカ
僕のことが見えなくなった。ルナのことが、見えていた。
宿木ルカ
ルナのお葬式でお祖母ちゃんが用意してくれた遺影が、仏壇に入って。―それが僕の写真に入れ替わったのは、いつのことだっただろう?
宿木ルカ
だから。
宿木ルカ
『お母さん、驚かせてごめんね』
宿木ルカ
『あたし、ここにいるよ。…お母さんの、そばにいるよ』
宿木ルカ
お母さんの、笑顔が見たかったから。
宿木ルカ
「ルカ」は、「ルナ」になった。
宿木ルカ
お母さんは笑ってくれた。
宿木ルカ
毎日髪を梳いてくれた。綺麗に伸びるようにと。
宿木ルカ
可愛らしいリボンも、買い揃えて結んでくれた。
宿木ルカ
学校に行く道中で、それを解いて。
宿木ルカ
量販店で買った、絡まるゴムでまとめた。
宿木ルカ
家に帰っても、『解けちゃった』と笑ってみせれば、また笑って結んでくれた。
宿木ルカ
―それで、よかったのに。
宿木ルカ
そんな日常で、良かったはずなのに。
宿木ルカ
背が伸びた。声が枯れるようになった。
宿木ルカ
同級生よりもずいぶん、遅かったけれど。
宿木ルカ
嬉しかった。
宿木ルカ
これで、どうしようもなくなったら。お母さんは現実を見てくれるはずだと、思った。
宿木ルカ
だから、お母さんの目の前で髪を切った。
宿木ルカ
学校で使う裁縫箱から、裁ちばさみを取り出して。
宿木ルカ
「ルナ」は、「ルカ」になった。
宿木ルカ
そんなこと、しなければ。
宿木ルカ
あるいは、二人とも幸せなままだったのかもしれないのに。
GM
母親が求めていた存在は、宿木ルナ。
GM
白兎の少女が求めていた存在は、アウレア。
GM
あなたを求めるはずの妖精の言葉は今は上滑りして。
アウレア
『ルカ』
宿木ルカ
… …… ……
アウレア
『宿木ルカ』
アウレア
『私は、あなたの助けを求めています』
宿木ルカ
… ……  ?
アウレア
女の声が耳に蘇る。
アウレア
けれど。
アウレア
それはもう亡い女の声。
アウレア
あなたが失わせた女の声。
宿木ルカ
「アウレア、さん」
GM
欠けたものは戻らない。
宿木ルカ
そんな記憶は、ないはずなのに。
GM
ないはずの記憶が、欠落の引き起こす欠落を知らしめる。
GM
あなたの胸を、心の疵を。
GM
深く抉って、思い知る。
GM
――あの日。
GM
事故で失われた命が、
GM
宿木ルナでなく、宿木ルカであったなら。
GM
この欠落は生まれなかったはずなのに。
GM
――欠けたものは戻らない。
GM
ただその事実だけが、今は心の奥深くに横たわっている。
GM
◆マスターシーン
GM
あの後。
GM
救世主たちは少女の弔いを申し出たが、
GM
末裔たちはめっそうもない、とそれを固辞してみせた。
GM
自分たちの問題であるからと。
GM
怯えるような、脅かされるような、そんな視線とともに、言い募られては。
GM
救世主たちに食い下がる理由はなく。
イェルク
何よりも、イェルクが早々に切り上げた。
イェルク
一刻もこの村を去ることが望ましいと、この男は判断したらしい。
GM
救世主たちは荒野をゆく。
GM
地図を片手に、先導はイェルクが。
GM
積極的に彼が進み出た、というのもあるが。
GM
何より、あなたたちにその覇気はなかったろう。
GM
白兎の少女の揺れる爪先。
GM
その光景は、ルカとネロ、あなたたち二人を打ち据えるには十分過ぎるものであったからだ。
ネロ
「……」
宿木ルカ
逸れてしまわぬように。それだけを考えて、視界にかろうじて入るイェルクの足跡を追う。
宿木ルカ
重たい体を、引きずるようにして。
ネロ
足取りは重く
ネロ
羽根の力で宙空に浮くような軽い体は、今は地面を擦るように。
ネロ
魔法の調子が、悪い。安定しない。
イェルク
男の歩幅もまた狭く、
イェルク
一歩一歩を刻むのに似た歩みのさま。
ネロ
「すみません」
ネロ
「どうにも、魔法の力が安定しないんです。」
ネロ
本来はこの魔法の力でもって、哨戒を行うべきなのだが
ネロ
「……お役に、立てず」
イェルク
「なに」
イェルク
「この荒野のありさまだ」
イェルク
「接近する敵意に気付けなくば、それは俺にも責任がある」
イェルク
「……何より」
イェルク
「お前たち、揃って調子が悪かろう」
宿木ルカ
「 …すみません」
ネロ
「……僕は、大丈夫なのですが」
ネロ
ルカの方を見やる。
ネロ
明らかに顔色が良くない。
イェルク
「その言いざまをルカに咎められたばかりと思ったが?」
宿木ルカ
一度ならず二度までも。目に焼き付いた光景が、脳裏から離れてくれない。
宿木ルカ
イェルクとネロの会話も、どこか頭上を滑っていくような感覚。
ネロ
「……そうですね……いえ、でも、本当に。」
ネロ
言い淀む。
ネロ
自分でも現在の自分の状態を、正しく把握できているとは言い難い。
ネロ
「体調が悪いなどでは、ないのです。」
ネロ
「本調子でないのは、確かなのですが……」
イェルク
「救世主にとって深刻なのは、体調よりも心の調子の方だ」
イェルク
「そうはなろうさ」
イェルク
「…………」
イェルク
「気分転換に」
イェルク
「少し、話をしようか」
ネロ
「話、ですか?」
ネロ
俯いていた顔をあげる。
イェルク
荒野を吹く乾いた風が、男の燕尾服の裾を揺らしている。
ネロ
先導する男の顔を見る。その姿を視界に捉える。
宿木ルカ
ぼう、とした意識のままで。ネロに倣って、目線だけを上げる。
イェルク
男はあなたたちを振り返らず、ただ前を進んでいる。
イェルク
けれど刻むようなその歩幅は、間違いなくあなたたちに合わせたものだ。
イェルク
「下らない昔話だ」
イェルク
「罪の話と、言ってもいいかもしれないが」
GM
罪。
GM
先の村で、あなたたちに突きつけられたもの。
イェルク
「俺はまあ、このナリの示す通り」
イェルク
「執事をやっていたという話はしたと思うが」
イェルク
「仕える先というのが、とある要人のご息女でな」
ネロ
耳を傾ける。
ネロ
彼が自分の話をするところを、少なくとも自分は初めて見る。
宿木ルカ
気を、使わせている。
宿木ルカ
何よりも合理で動く彼の、言動を。
宿木ルカ
だからこそ、蔑ろにするわけにはいかない。
イェルク
「”そう”なるまでにも、まあ……それなりの経緯がありはしたが」
イェルク
「本質からずれた話は、今は置いておこう」
イェルク
「とにかく」
イェルク
「そのご息女に仕えるただ一人の存在として、俺は在った」
イェルク
「一人きりの使用人で、一人きりの執事だ。求められることはなんでもしたさ」
イェルク
「できもした」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「お前に少し、似ているかもしれないな」
ネロ
「君はとても優秀な人だ」
ネロ
「求められることには、応えられてしまうでしょう」
ネロ
その光景は容易に想像ができた。
イェルク
「お前と違って、応えることそのものが目的ではなかったがな」
イェルク
「相応の報奨があった。俺にはそれが必要だった」
イェルク
「対価を求めての働きだ。けちをつけられないように努めていた、という方が正しい」
宿木ルカ
「……」
ネロ
自分のそれは、ただそういうあり方というだけだ。習性、機能に近い。
ネロ
なるほど、彼の動機は幾分人間らしい。
ネロ
ように、感じられる。
イェルク
人間としての行動原理。その結実としての奉仕。それを叶えるための合理。
イェルク
男の纏う燕尾服は、なるほどそういった概念を正しくあらわしたものであろう。
イェルク
「…………」
イェルク
「彼女には双子の兄がいた」
イェルク
「正しくは」
イェルク
「双子の妹であったことが、ご息女をそういった立場に至らしめた」
宿木ルカ
「!」
イェルク
「存在を秘匿されるべき忌み子として」
イェルク
「辺境の屋敷へと追いやられた」
イェルク
「使用人など、少しばかり優秀な一人をだけつけておけばいい」
イェルク
「そのために取り立てられたのが俺だ」
ネロ
自分が王妃に押し上げた、あの娘のことを思い出す。
ネロ
境遇は違うが、日陰に追いやられていた女。
ネロ
「君は、報酬を対価として、その娘の日常を助けていたのですね」
イェルク
「必要を見極める能力は、そこで培われたと言っていいだろう」
イェルク
合理主義。
イェルク
「放棄されたご息女と屋敷が相手とはいえ」
イェルク
「瑕疵を見出されれば、いつ雇い止められてもおかしくはなかったからな」
イェルク
「せいぜいが奉仕してみせたさ。必死にな」
イェルク
奉仕精神。
イェルク
男をかたちづくるそれ。
イェルク
それが。
イェルク
「……ずっとそう在り続けられれば」
イェルク
「放棄されたご息女で在り続けられたならば」
イェルク
「問題は起こらなかったが」
イェルク
「……まあ、こう言っている以上はな」
イェルク
「やがて不都合が発生した」
ネロ
「不都合…」
イェルク
「ご息女のその、双子の兄」
イェルク
「それが重い病に冒された」
イェルク
「命を危ぶまれるような重い病だ」
イェルク
「そうなれば、邪魔者であった少女は一転」
イェルク
「もう一人の跡継ぎ候補として求められるというわけだ」
ネロ
「……急に、引き上げられたのですね」
宿木ルカ
なんて身勝手。理不尽。
ネロ
「日の当たる場所に」
イェルク
「ああ」
イェルク
「それも、ご子息のフリをしてみせろという注文付きだ」
イェルク
「双子の存在そのものが醜聞だったからな」
宿木ルカ
「………」
ネロ
「……代わりとして、求められた」
ネロ
「いえ、代わりとしてしか、不要だと」
ネロ
「そう、押し付けられたのですね」
ネロ
事実を確かめるように、口に出す。
宿木ルカ
それを、一人ではなく。世界の全てから求められる。
宿木ルカ
察した気になることすらおこがましい、重圧であっただろう。
ネロ
代わりでしかないこと。それは、どんなふうに苦しいのだろうか?
ネロ
代わりですらないことと
ネロ
代わりであっても、求められること。
ネロ
どちらの方が、などというものではないのだろう。
イェルク
「……それでも」
イェルク
「求められている間はましだった」
イェルク
「ご子息の病態がやがて快方に向かってしまえば」
イェルク
「あとは想像がつくだろう?」
ネロ
「……」
宿木ルカ
「身代わりのお人形は、いらなくなる」
宿木ルカ
勝手に望まれて、求められて。勝手に打ち捨てられる。
イェルク
世界に翻弄されるだけの玩具。
イェルク
それを。
イェルク
「俺は、守り切れなかった」
宿木ルカ
「 ………!」
ネロ
「……君は」
ネロ
「愛していたのですか?」
イェルク
「まさか」
イェルク
「十も下の幼子に、欲情してみせるほど酔狂じゃあない」
イェルク
「だが、俺の在り方はその奉仕にあった」
イェルク
「燃え盛る屋敷の中で」
イェルク
「俺の合理は役に立たず」
イェルク
「奉仕の成し遂げられぬことを知った」
イェルク
「これが、俺の疵だ」
イェルク
「俺が目の前の行動、誰かの言葉に動揺し」
イェルク
「不可解なことを口走っていたのならば」
イェルク
「それは、これらの経緯から来るものだろう」
イェルク
「うまくやってくれ。その時は」
ネロ
「上手く、ですか」
イェルク
「できなくとも責めはしないが」
イェルク
「知らないよりは、知っていた方がやりやすかろう」
イェルク
「少なくとも」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「先程のお前のように」
イェルク
「見当違いを口走ることは、いくぶんか避けられるはずだ」
ネロ
「……」
ネロ
「随分と」
ネロ
「心配をしてくれている、ようですね?」
ネロ
もちろん、合理の上で。
イェルク
「お前たちを生かすべく振る舞うつもりがあるからな」
宿木ルカ
明日自分たちがどうなるかもわからぬこの世界で、自分の疵を自ら晒すこと。その意図。
イェルク
「ルカ」
宿木ルカ
「!」
宿木ルカ
「…はい」
イェルク
「お前が白兎の少女に見ていたものは、アウレアではなかった」
イェルク
「そうだろう?」
宿木ルカ
「……… はい」
宿木ルカ
「似たようなことが、あって。…ここに来る、直前に」
イェルク
「…………」
イェルク
「理路や詳細を吐けとは言わん」
イェルク
「救世主はいつ殺し合うか分からないものだ」
イェルク
「何よりも、自らの心の疵」
イェルク
「それを曝け出してみせることそのものが、平常の精神では困難なことだ」
イェルク
「俺はこの合理でそれを為したが」
宿木ルカ
「…」
イェルク
「お前にそれが可能かどうかは、判断がつかん」
イェルク
「俺はお前のことを知らないからな」
宿木ルカ
「聞いて、もらえますか」
イェルク
「…………」
ネロ
「……」
イェルク
「お前が」
イェルク
「それを望むのなら」
イェルク
「俺はそのために、奉仕してみせよう」
宿木ルカ
このひとが、この世界で自分から疵を晒すリスクを分からないはずがない。
宿木ルカ
その程度には、このひとのことを分かっている。つもりだ。
宿木ルカ
だから。
宿木ルカ
その誠実に、応えたいと思った。
宿木ルカ
「知らないよりは、知っていた方がやりやすいことも…あるでしょうから」
イェルク
「そいつは」
イェルク
「助かる話だ」
宿木ルカ
目を伏せながら、所々つかえながら。それでも語る。
宿木ルカ
己の人生の、半分以上。11年続いた生活と、その末路。
イェルク
時折差し込まれる男の相槌は端的で、適切であった。
ネロ
目を閉じ、黙って耳を傾けている。
宿木ルカ
「だから、さっきは」
宿木ルカ
「あんな風に…なってしまって」
イェルク
「…………」
宿木ルカ
「ご迷惑をおかけしました」
イェルク
「いいや」
イェルク
「お前のそれは、お前が救世主として立つ上で必要なものだ」
ネロ
「迷惑だなんて、とんでもない」
ネロ
ああ、届かないわけだ。
ネロ
自分の言葉が
ネロ
彼の抱えた、深い疵に。
宿木ルカ
まだあの光景が、脳裏から出て行ってくれない。
宿木ルカ
自分が生き残ったことに、正当性を叫ぶことなどできようはずもない。
ネロ
とんだ見当違い。
イェルク
それを見極める才覚があったとて、
イェルク
あの場で彼の心を救うことは、叶わなかったわけだが。
ネロ
ああ、それでも。
ネロ
人間性を得て
ネロ
自分で解答を選んだ途端に、これだ。
宿木ルカ
けれど。それでも。この疵にも、意味があるのなら。
宿木ルカ
―”彼女”の願いが、これによって果たされるものであるならば。
ネロ
自分が、間違えた。
ネロ
物語がそうであるのではなく。
宿木ルカ
逃げてばかりではいられない。
ネロ
ー他ならぬ自分が、間違えたのだ。
ネロ
規定された存在であることから抜け出してなお、いや、抜け出していいと言われたからこそ
ネロ
「物語」の補助のない世界は、あまりに不安定で
ネロ
不安定で
ネロ
不安定で
ネロ
揺らぐ
ネロ
存在が、揺らぐ。
イェルク
「…………」
イェルク
思い悩む二人のさまに。
イェルク
それでもいくらか、足取りが力を取り戻したさまを見て取っていた。
ネロ
人として羽化したばかりの空っぽの肉の器に、かつての自分の罪だけが詰め込まれている。
ネロ
罪とも思わなかった、罪。そういうものだと思っていた、罪。
ネロ
詰め込まれた体はひどく重く。
イェルク
目の前の男もそれを背負っている。
イェルク
そして。
イェルク
共に歩く少年も。
ネロ
自分が何か、わからない。何が好きで、何がしたくて、何を選び取ればいいのかも、ひどく曖昧で。
ネロ
でも確かに、愛だけがある。
ネロ
愛だけしかない。
ネロ
この肉の身を、ご都合主義ではないと示してくれた彼と、己の疵を晒しながら導いてくれる彼への。
ネロ
愛だけが、この身を「ネロ」たらしめている。
ネロ
この愛を手放してしまったら、自分はどうなるのだろうか。
ネロ
何も残らない。本当の空っぽ。
ネロ
だから、だから、この愛だけは。
ネロ
揺らいでいく。揺らいでいく。
ネロ
愛を、手放さなくて良いように。善良でない自分でも、愛を保てるように
ネロ
体が、揺らいで
ネロ
また、収束する。
ネロ
そのようなことを、繰り返しながら、荒野を歩いていく。
アウレア
揺らがぬ愛。
アウレア
それを湛えていた女を知っている。
アウレア
今はもう亡い、失われた女。
イェルク
そのかたちを。
イェルク
「……昔話のついでに、ひとつ、添えておこう」
イェルク
「これがお前達の慰みになるとは思わんが」
イェルク
「…………」
イェルク
「……アウレアの、話だ」
宿木ルカ
「!」
ネロ
「アウレアの、ですか」
ネロ
「僕が君たちと出会う前のこと、ですか?」
イェルク
「前とも言えるし」
イェルク
「そうでないとも言える」
宿木ルカ
「…?」
イェルク
「アウレア」
イェルク
「あの女は、もとより救われない女だった」
イェルク
「”良き終末”が」
イェルク
「自分には決して訪れないことを、知っている女だった」
ネロ
「……それは、何故?」
イェルク
「自らの罪の象徴」
イェルク
「浄罪の炎を手放せない女だったからだ」
イェルク
「よかれと思って、異端に手を染めた」
イェルク
「救うすべを増やし、救われる人間が増えればそれでよいと思った」
イェルク
「それが、自らに望まれる在り方への裏切りであることを」
イェルク
「自分が異端を用いて救った相手に自死されて、初めて悟った」
宿木ルカ
浄罪の炎。一度はこの身を焼いたそれ。
宿木ルカ
ネロの癒しにも、治りきることのなかった火傷の痕を見やる。
イェルク
「あの女には自らを赦す心算がなく」
イェルク
「燃え尽きるまでの生命と悟って、ただ走り続けるだけの形をしていた」
イェルク
「ネロ」
イェルク
「お前にそれが明かされなかったのは」
イェルク
「お前に見切りをつけさせるべきでないと、そのように判断したからだ」
ネロ
「……ええ」
ネロ
「そうですね」
ネロ
「僕が救うことができるのは、救われることを信じられる人だけ」
ネロ
「彼女の形がそうであるなら、僕は彼女を諦めていたでしょうね」
イェルク
「お前の在り方を変えてみせるには」
アウレア
『彼の在り方を変えるには』
イェルク
「俺とアウレアは賢しすぎた」
アウレア
『私とあなたは、賢しすぎる』
イェルク
それでも。
イェルク
『……救世主などみな、大なり小なり”そう”であるように思うがね』
イェルク
『君一人を特別扱いすることはない』
イェルク
『心の疵が変質する可能性も、あるだろう』
アウレア
『うん』
アウレア
『でも、私がそうなりたくないの』
アウレア
『だから、そうなる前提では動かない。間違える可能性を減らしたい』
アウレア
『私はアウレア。浄罪の炎を纏うことを選ぶ女』
アウレア
『この炎が私以外のものを灼くことがあるならば』
アウレア
『それは、私という女の致命的な終わりを示します』
アウレア
『その時は』
アウレア
『イェルク』
アウレア
『どうかあなたは、間違えないでね』
イェルク
「……最期に」
イェルク
「人を一人、救うことが叶うたことは」
イェルク
「あの女にとってみれば、上々の終わりだ」
宿木ルカ
「…」
ネロ
「君たち二人は、随分、僕のことも気にかけてくれていたようですね」
ネロ
「そして、彼女は、君を」
ネロ
ルカの方を向く
ネロ
「救ってみせた」
宿木ルカ
「……… はい」
ネロ
「僕ではできないことだ」
ネロ
「いやあ」
ネロ
「つくづく、感心するというか……」
ネロ
「尊敬するというか……」
ネロ
「……すごいことだと、思いますよ。」
イェルク
「大した女だ」
宿木ルカ
「…はい」
ネロ
「君もですよ、イェルク」
イェルク
「…………」
ネロ
「君はきちんと、仕事を果たしてみせた」
ネロ
「僕たちをここに生かしているのは、君に依るところも大きい」
宿木ルカ
こくり。
ネロ
「そうあるべきと定めたことを、成している。」
ネロ
「誰にでもできることではありません。」
ネロ
「ありがとうございます。」
宿木ルカ
もう一つ、頷く。
ネロ
自分は、そうではない。とは言わずに。
ネロ
ただ感謝を述べる。
宿木ルカ
「僕も。ありがとうございます」
宿木ルカ
目を合わせようとする。
宿木ルカ
言葉ではうまく伝えきれないから、少しでもこれで汲んでもらえたら、いいと願って。
イェルク
男はあなたの示そうとする誠意の形を精確に読み取る。
イェルク
眼差しを合わせることを、意識して受け入れ、それに応える。
イェルク
緑の瞳は。
イェルク
あなたの姿を映している。
イェルク
「……努力と働きで報いてもらうとしよう」
宿木ルカ
「…はい!」
イェルク
「ネロも」
イェルク
「その在り方は、今の俺には悪くないものに映る」
イェルク
「保たせるべく努めてくれ」
ネロ
「……ええ、はい」
ネロ
「そう、望んでいただけるのでしたら」
ネロ
「……僕自身、そうありたいと、思っています」
宿木ルカ
ネロの衣を引きかけた手を、しかし直前で引っ込める。
宿木ルカ
嘆息。安心。
宿木ルカ
今の彼は、大丈夫。
イェルク
二人の足取りがさらにまた力強さを増したさまを感じながら。
イェルク
男は荒野に仲間を導いていく。
イェルク
曝け出した合理と奉仕、その在り方に従って。
GM
そうして荒野を越えるのに数日。
この国にまだ慣れぬルカの苦労は多かったが、
幸い、イェルクもネロもフォローを得意とする救世主であった。
GM
道中、亡者との遭遇を避けられたのも、救世主たちにとって幸いであったと言えるだろう。
GM
ぎりぎりの物資を分け合いながら、荒野を乗り越えて辿り着いた村は、
GM
狂乱の救世主に支配された村だった。