お茶会 ラウンド1
イェルク
それを見下ろしている。その事実を認めている。
イェルク
何者を燃やすことのないはずの、女の炎が。
ネロ
「…軽いものなら、今の僕でも治せるでしょう」
ネロ
「君も、こちらへおいでなさい。簡単な治癒をしますから。」
宿木ルカ
なんとか立ち上がり、青年の方へと足を進める。
イェルク
イェルクが負うた傷はほとんどないに等しい。
ネロ
まずは近くにいたイェルク。焦げついた指先に触れ、呪文を唱える。
イェルク
アウレア、ネロ、イェルク。
三人の中では最も攻撃手段に秀でた存在だった。
イェルク
自然、戦闘においては守られることの多い役になる。
それを合理的と受け入れていた。
ネロ
キラキラとひかり、女が与えた炎の痕はすっかりと消えてしまう。
イェルク
ネロの癒しを拒むことを、合理的ではないと受け入れている。
ネロ
手を伸ばす。この少年のことを自分達は何も知らない。
ネロ
でも、彼女が守ったのだ。理由はそれで十分だろう。
ネロ
「…こんなことを言うのは酷だと、思うのですが。」
ネロ
「君には、治りたいと言う気持ちが、足りない。」
ネロ
「僕の魔法は、信じる気持ちがもたらすもの。」
宿木ルカ
当然だ。"僕"には、癒してもらうだけの価値がない。
イェルク
「……急に言われたところで、何がなんだかだろう」
イェルク
「一から説明してやる方が先じゃないか。ネロ」
行動:ネロ
イェルク
「俺もいまいちお前たちのような奇跡からは縁遠いところから来たからな」
イェルク
「祈りだの信じる力だの言われても、未だに感覚では納得できないところがある」
イェルク
「……そこの少年がどうだかは知らないけどな」
イェルク
「どちらにせよ、落ちたてだろう。この国には」
ネロ
「おやまあ。イェルクも信じてくれていなかったんですか?」
ネロ
「そうですね、まずは、君のことを聞かせて。」
ネロ
「そして、僕たちとこの世界のこともお話ししましょう。」
イェルク
頭では理解しているつもりなんだがな、とは答えて、こちらもルカを見る。
ネロ
「まずはお名前からですね。僕の名前はネロ。」
ネロ
「ネロお兄さんとでも、フェアリーゴッドマザーとでも、お好きに呼んでください。」
イェルク
ネロが話す最中も、時折周囲に視線を巡らせている。
ネロ
「険しい顔かもしれませんが、優しい男ですよ。」
イェルク
「イェルク・ヘルモルトだ。前の世界では執事をしていた」
宿木ルカ
思い出す必要すらなく、目に焼き付いている。あの女性の声を覚えている。
イェルク
そもそもそういう知識のない世界から来てる可能性もあるからな……
宿木ルカ
「あまり身近ではないですけど、言葉の意味は」
イェルク
「……まあ、今は救世主だとかいう……なんなんだか、これは……」
ネロ
イェルクの説明を受ける少年の様子を見ている。
イェルク
燕尾服の中からオペラグラスを取り出した。
イェルク
「この世界に招かれた異世界人は、全員が救世主と呼ばれる」
イェルク
ルカに説明しながらオペラグラスを目に当て、荒野を見渡しています。
イェルク
「ネロが先程見せた癒しの力はその一端だ」
イェルク
「俺のは……こういった便利な道具を、ある程度は取り出せるようになる」
イェルク
オペラグラスを目から外して、懐にしまう。
ネロ
「飛んで様子を見てこれるほどには、回復していなくて…」
ネロ
ほら、真面目で良い人でしょう?と、あなたの方を向いて
イェルク
あなたの反応に違和を抱いたか、男が問う。
イェルク
「その救世主の抱えている心的瑕疵や、捨てられない異常性」
イェルク
「心を動かされるという事象そのものを、気のせいとして流してしまうことは」
ネロ
「…この世界には、さっき君が見たような化け物も、残念ながらたくさんいます。」
ネロ
「心の動きを無視して、弱らせることは、致命になり得る。」
イェルク
ネロの言葉を聞きながら、考え込んでいる。
ネロ
「だから、もし気になることがあるのなら、きちんと向き合ってみて。」
宿木ルカ
熱かったはずのその痕は、もうおそろしくは感じられなかった。
イェルク
「お前の志向する善き振る舞いに関してだが」
イェルク
「この少年に対しては、もう十全に発揮するつもりでいるのか」
イェルク
「アウレアがああした以上は、応えてやりたいと思うが」
イェルク
この世界に落ちたばかりの少年の頭上で交わされている。
イェルク
「自己を開示させるより先に、説明してやるべきことがあるな」
ネロ
「この世界には、いくつかの特殊性やルールがあります。」
ネロ
「そのうちの一つで、最も守らなければならないもの」
ネロ
「僕たち救世主は、30日に1回、殺し合いをせねばなりません」
ネロ
「そうしなければ、先ほど君が見たような化け物に成り果ててしまいます。」
イェルク
「そうならないために、先にこうして説明をしている」
ネロ
「厳密には裁判と呼ばれる殺し合いの際に、誰か一人でも死者が出れば良いんです」
イェルク
「この世界には救世主が山といるからな。ふざけた話だが」
イェルク
「救世主同士で殺し合うにしても、小規模の群れを作ってやりあうことが多い」
ネロ
「この世界は、一人で生きていくには、いささか厳しすぎますからね」
宿木ルカ
「じゃあ、イェルクさんとネロさんと、……あのひとも」
ネロ
「おや、共に過ごした期間こそ長くなくても、僕はイェルクのことが好きですよ?」
イェルク
「俺もお前を生かすべく振る舞うつもりがあるよ」
イェルク
「この世界は人を殺さずには生きられない」
イェルク
「お前には、他者を殺してでも生きていく」
宿木ルカ
「あなた達が、そう望むのなら。奪われてもいい命だと、思っています」
宿木ルカ
「お二人さえよければ、一緒にいさせてください」
宿木ルカ
「必要がなければ、”そのように”していただいても、大丈夫ですから」
ネロ
「…もう、イェルク。あまり怖い言い方をしてはいけませんよ」
ネロ
「ふふふ、君のそう言うところが僕は大好きです」
ネロ
「でもね、生きていく理由なんて、誰しも持っているものじゃない」
ネロ
「ねえ、ルカ。ここはこんな世界だけど、それでも人を好きになったていい。情を育んでいい。」
ネロ
「僕は、君は素敵な子だと思います。こんな世界だけれど、どうか君のお友達になりたいな。」
ネロ
宇宙の瞳が覗いた、本質。きっとこの子は、善良で努力家の良き人だ。
ネロ
「どうかな?僕としては、ルカ、君とお友達になりたいのだけれど。」
GM
*判定をどうぞ。横槍はありません。悲しいね。
ネロ
2d6+3>=7 (2D6+3>=7) > 5[4,1]+3 > 8 > 成功
GM
*成功ですね。ルカの心の疵『ルカ』が○になります。
[ 宿木ルカ ] 「ルカ」 : 0 → 1
ネロ
「どうして生きていきたいかなんて結論は、今すぐでなくてもいいでしょう。」
ネロ
「アウレアが託した君と、他ならぬ『ルカ』と、僕はお友達になってみたいんです。」
ネロ
「できれば君もそうだと嬉しいのだけれど、どうかな?」
宿木ルカ
”ルナ”じゃなくて、都合のいい何かじゃなくて、”僕”を。
ネロ
打算もないわけではない。アウレアが離脱している現状、才覚と愛のふたりでは決定打に欠ける。
宿木ルカ
それは、僕にとってはおそろしいことだけれど。―不思議と嫌だとは思えなかった。
ネロ
安定しているパーティーに新たに人を入れることで、自分達が寝首をかかれるんじゃないかとか。
ネロ
そもそも30日のルールを教えてよかったのだろうかとか
ネロ
目の前の少年は、善良だ。優しい子だ。きっと、ずっと何かに耐えてきた子だ。
GM
あなたたちは少し前に救世主の責務をこなしたばかりとはいえ、一日でも刻限を延ばせることに価値がないわけではない。
GM
そればかりでいられないのが救世主であり、心の疵の具現である。
ネロ
そんな素敵な子を愛さないで、何が愛の妖精か!
ネロ
「だからね、どうか君自身の意思で、僕たちと一緒にいてくれると嬉しいな。」
ネロ
「少なくとも、僕は君の命を必要ないとは思わない」
ネロ
「イェルクも、いいでしょう?僕、この子のことが好きなのです」
イェルク
「こちらから30日ルールを開示したからには、今更異論があるはずもない」
ネロ
「よかった。君の意志ももちろん大事だからね」
ネロ
「それじゃあ、ルカ。僕たちの新しいお友達。これからどうかよろしくね」
GM
乾いた風が拭く荒野で、交わされる言葉には湿度がある。
GM
苛烈な熱の取り払われた後に、注がれる情の温度がある。
GM
ここは堕落の国。終末へ向かいつつある御伽の世界。
GM
その中でも救世主は寄り添い、手を取り合うて生きている。
行動:PK その1
イェルク
近づいてきた村をオペラグラスで観察しながら、イェルクが声を漏らす。
イェルク
「見覚えがあるような気はしていたが、そうか」
イェルク
「あの荒野は俺たちが出会った場所に近かったらしいな」
イェルク
「人喰い三月に悩まされていたあの村。覚えているだろう」
ネロ
「この辺りだったのですね。いや、イェルクに言われるまでとんと気づけませんでした」
イェルク
「荒野なんて見ていても見分けがつかないからな」
イェルク
「どこに飛ばされたのかと思っていたが……」
ネロ
「ええ…アウレアが、そうしてくれたのでしょうね。」
イェルク
「これから行くのは末裔と呼ばれる現地住民の村だ」
イェルク
「お前も救世主だのなんだのと持ち上げられることになると思うが……」
宿木ルカ
いるんだ、現地住民。いやまあ、当然のことではあるが。
ネロ
「決して悪い方達ではありませんよ。気負いすぎず、普通に接すれば良いんです」
GM
近づいていくにつれ、村の様相があらわになる。
GM
ここで暮らす者がいるとはとても思えない、寂れた村。
GM
人の気配もほとんどない。
家屋の多くは崩れきり、屋根を保っているものは珍しく。
畑は荒らされている。
GM
かつてここを去った時の有り様とは異なることに気付けるのは、この地を訪れたことのある者のみ。
GM
この有り様は自分たちがこの村を初めて訪れた時のものに近い。
GM
この村を荒らし、悩ませる亡者を、三人で打ち倒したはずだった。
GM
そうしていくらかの復興を手伝い、この村に齎したはずの善き終末が。
白兎の少女
崩れかけの家屋から、痩せ細った白兎の少女が顔を出す。
白兎の少女
かつては荒野で三人を導いた少女だった。
白兎の少女
白兎の役目として、この世界に落ちたばかりの救世主を導くことを、誇りに思っていた。
イェルク
爪痕の残る村の様相に、平坦な声で確認する。
イェルク
オペラグラスで遠くから様子を見ていた男だ。概ねを理解していたのだろう。
白兎の少女
「お三方が、村を出てから……他の救世主さまが」
白兎の少女
”今の”三人を見て、少女は赤い瞳を瞬かせる。
ネロ
「……彼女は、理由あって今別行動なんです。」
白兎の少女
あなたの優しい嘘を、取り繕った物語を。
白兎の少女
「すぐに来てくれるとは、言ってくださらないのでしょう?」
アウレアとの思い出
*ネロの心の疵『よい妖精』を才覚で抉ります。
宿木ルカ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
宿木ルカ
2d6+1=>7 判定(+愛) (2D6+1>=7) > 8[5,3]+1 > 9 > 成功
アウレアとの思い出
2d6+3-1=>7 判定(+才覚) (2D6+3-1>=7) > 8[6,2]+3-1 > 10 > 成功
アウレアとの思い出
*成功。ネロの『よい妖精』が抉れます。
またルカは横槍によってHPが1点減少。
[ 宿木ルカ ] HP : 20 → 19
[ ネロ ] よい妖精 : 0 → -1
白兎の少女
「ほんとうにアウレアさまが生きていて、別行動でいらっしゃるなら」
白兎の少女
「そんなに遠くには、いらっしゃらないでしょう?」
白兎の少女
「この村に来てくださるはずではありませんか?」
白兎の少女
かつてあなたが救い、笑顔を、ハッピーエンドをもたらしたはずの少女が。
白兎の少女
それをたやすく壊されて、今は悲嘆に沈んでいる。
白兎の少女
亡者に悩まされる中でも、苦しい生活の中でも、
白兎の少女
自分が救世主を導けることを喜んでいた。
アウレア
アウレアは少女には、特別に懐かれていて。
アウレア
その胸に抱きついては炎の熱のないことをおかしんで、よく笑っていた。
ネロ
力が足りない。救うことができない。願いを叶えてあげることができない。
白兎の少女
あなたが失った、
あなたを守って死んだ女。
白兎の少女
善良な妖精はハッピーエンドを紡ぐことはできず、
無力な少年が失われた女の代替を務めることもできない。
ネロ
ハッピーエンドを齎せないのは、何と、気持ちの良くないことか。
ネロ
救えない申し訳なさではなく、無力さへの嘆きではなく。
ネロ
「自分が欲するものはここにはない」と言う感覚。
宿木ルカ
僕は、あのひとの欠落を埋めることができない。
宿木ルカ
そもそも、あの場に僕がいなかったら。きっと。あのひとは―。
ネロ
アウレアを救うことができない以上、願いを本当の意味で叶えることができない以上、せめてこの少女が今この場で最大の幸福を得られるように優しい嘘をつこうと思ったのだけれど。
白兎の少女
涙でぐしゃぐしゃの顔でネロを見上げる。
ネロ
「アウレアはもういません。僕たちを庇って、そしておそらく死にました。」
ネロ
「死んだかどうかの確認はできていません。もしかしたら生きているかもしれない。」
ネロ
「でもその可能性は限りなく低いでしょうね。」
イェルク
既に亡い者であろうことをまで、語る必要はない。
ネロ
「…すみません。僕では、君の願いを叶えてあげることができないようだ。」
ネロ
実際、悔しいのかもしれないけれど。悲しいのかもしれないけれど。
GM
少女の返答はなく、村に響くのはすすり泣きの音と、風が建物の間を通り抜ける音だけ。
ネロ
目の前の少女を幸福にできない以上、目の前の少女のことは、もうどうだっていいのだ。
GM
……何人かの末裔が、救世主たちの様子を少し離れたところから窺ってはいるけれど。
GM
きっと、彼らはもう、縋ることにすら疲れたのだ。
GM
少女とあなたたちのやり取りを聞いてか、アウレアの失われたことに涙を流す者もあった。
ネロ
食べられる幸福がそこにないのなら、その餌場に留まる意味はなく。
アウレア
心を寄せる行為とその意味を、女はよく理解していた。
アウレア
『あなたの振る舞いには、存在すると思うわ』
ネロ
君のことは、本当に好ましく思っていたんですよ。
ネロ
だって、君はたくさん幸せになっていい人でしたから。
ネロ
でももう喪われてしまった。どうすることもできない。
アウレア
女にもたらされるハッピーエンドはもはやない。
ネロ
君の優しさに優しさに応えることも出来ない。自分は、そう定義された存在ではない。
ネロ
たまたま、善良に「見えていた」だけの、羽虫なんだから。
イェルク
「無理をされて倒れられる方が面倒が増える」
イェルク
少し遠くから様子を窺う末裔へと視線をやる。
イェルク
「……どこか、適当な家屋を一軒貸してくれ」
末裔
疲れ切った表情で頭を垂れ、願われるままに救世主たちを導いた。
ネロ
妖精は、仲間たる二人の方を見て、微笑んでいる。
ネロ
君たちが「幸せ」を受け取って、僕を優しい妖精でいさせてくれるうちは。
ネロ
僕は、君たちのことを、僕の全てで持って愛しましょう。
ネロ
項垂れる末裔を目に入れず、壊れた村を気に留めず、ただ二人だけを見て笑っている。
GM
ハッピーエンドを迎えた後の、救いようなく廃れた世界。
GM
そこに導かれた救世主たちが、果たして何を思うものか。
GM
無力な白兎には、計り知ることができないことだ。
行動:宿木ルカ
宿木ルカ
*ネロの心の疵『○○○』を猟奇で舐めます。
GM
末裔たちに案内されるままに、ボロ小屋へと通される。
GM
現代人のルカの目には廃墟としか思えない様相であるが、
GM
今のこの村では上等な方であることは、流石に理解できるだろう。
GM
床には木屑や砂埃が積み重なっている。一応椅子らしきものもあるが、それも薄汚れている。
イェルク
懐からハンカチを取り出して、椅子の座面を軽く払った。
イェルク
男の服装に似つかわしい上等なハンカチだが、それもすぐに黒汚れしていく。
イェルク
そうして多少体裁を整えた椅子へと、男は真っ先に腰を下ろした。
イェルク
この言葉は、特にルカに向けられたものだった。
イェルク
「末裔たちの様子を思えば、こうして寛ぐのも気が引けるだろうが」
イェルク
「祭り上げられるままに応えてやるのには、限界がある」
ネロ
「念のため、少しだけ居心地良くしておきましょうか」
ネロ
小気味よいリズムと共に、ふわりと空間を光が包む。
ネロ
遮音と気配遮断の結界。まあ、ないよりマシという程度。
ネロ
この空間全てを上等に、というほどの力はない。今は。
イェルク
それでも多少、息を吸いやすくなったような感覚がある。
宿木ルカ
飾り気のない言葉だったけれど。イェルクの配慮や言わんとすることは十分に汲み取れた。
イェルク
合理の積み重ねによって弾き出した結論によって、この男の行動は形作られている。
宿木ルカ
休めるときに、少しでも”マシ”になっておかなければ。この世界では生き残ることすら危うい。
イェルク
その理をルカに説き、寛ぐことを勧める一方で、
宿木ルカ
イェルクに倣って、きしむ椅子に腰かけた。
宿木ルカ
「…予想は、出来ていたことなんですけど」
宿木ルカ
「…やっぱり、重たいんですね。"救世主"って」
宿木ルカ
「きっと救世主(ぼくたち)にしかできないことが、あって」
ネロ
「この堕落の国にあって、責任から目を逸らさずにあろうとしている」
ネロ
「他人のせいにしたり、押し付けられた責任だから仕方ないと喚いたり」
イェルク
「そもそも、救世主なんて呼ばれ方もただのお飾りだ」
ネロ
「僕はね、そういう子のことが、と〜っても好きなんです」
イェルク
「急に呼び立てられて、救世を押し付けられたところで」
イェルク
「それに応える義務を感じる必要はどこにもない」
イェルク
「そう考えることに、責められる必要もな」
イェルク
「だが、お前は救世主と呼ばれることに重みを感じた」
ネロ
「善良さも 高潔さも 他人を思いやる気持ちも 品性も 理性も」
宿木ルカ
「…応える義理がなくたって、疲れるでしょう。―求められ続けることって」
宿木ルカ
「僕が言えることでは、本当にないんですけど」
ネロ
「本当にルカはいい子ですねえ、ね、イェルク。」
イェルク
「救世主なんてのは、義務も責任もほっぽって」
イェルク
「”責務”だけこなして、甘い汁を啜るのが一番に長生きする存在だろ」
宿木ルカ
「でも、あなたたちはそれを選んでいない」
宿木ルカ
イェルクの合理主義も、ある種の自己防衛にあたるのだろうか。
イェルク
「末裔に強要して、自分の役立つように働かせた」
宿木ルカ
これと決めた領分以上に手を伸ばさないように。―そうすることで、失うものを最低限に抑えられるように。
イェルク
「”甘い汁を啜る”行為に他ならないと思うが」
イェルク
「末裔たちにとっては、知ったことじゃあないさ」
イェルク
「構わんがね。いいように使わせてもらった事実がある」
イェルク
この男も間違いなく、かつてはこの村を救うために力を尽くしたことを。
イェルク
村の末裔たちを悩ます人喰い三月を討ち倒すため、その才覚を働かせていたことを。
ネロ
知っている。この男は優しい。自分以外の他に向かって手を伸ばしてしまう。
ネロ
その上で届かなかったものを、救えなかったものを。
アウレア
女以外のなにものをも焼くことのなかった浄罪の炎が、ルカに害をなした事実に。
イェルク
男は正しく女の”終わり”を見て取っていた。
ネロ
そうすべきだということと、それを選び取った責任とを。
ネロ
その上で、手を伸ばさなかったという事実を、きっと手放さないのだろう。
ネロ
そのような責任感を、理性を、優しさを持った男。
ネロ
妖精の触覚は、己が好む高潔な魂を鋭敏に感じ取っている。
アウレア
引き換えるように差し出された少年の姿がそこにある。
ネロ
「僕は君のことが大好きですよ、イェルク。そしてルカ。」
宿木ルカ
「………つらい役回りを、させてしまって」
ネロ
「誰かが言うべきことでした。そして、彼女のことを僕は救えない。」
ネロ
「それが事実です。僕は、僕が救える人しか救うことができません。」
ネロ
「そのようなものです。だから、仕方がなかった。」
イェルク
「そもそもが、取り繕う必要すら本来はなかった」
イェルク
「少なくとも、お前が気を回すことじゃあない」
宿木ルカ
「それでも。やりたくないことって、あるから」
ネロ
「僕ね、やりたくないことってそんなにありませんから」
宿木ルカ
たった一人に、「そうあれかし」と望まれただけのことが。
宿木ルカ
こうしたほうが楽だから、と選び取った道だったのに。
イェルク
地図に視線を落としながら、二人の会話を聞いている。
ネロ
「本当に、君は心を痛めなくていいんですよ。」
ネロ
「僕は君のような子の味方、フェアリーゴッドマザーのお兄さんです。」
宿木ルカ
「…僕は、ネロさんのこと、まだよく知らないですけど」
宿木ルカ
「自分でそう決めていても、痛い時は痛いし、嫌なものは嫌じゃないですか」
宿木ルカ
「”そう”であってもいいですから。―痛いときは、痛いって言って」
宿木ルカ
彼と僕は違うのだと、線を引くような彼の言動が。ひどく寂しく映った。
宿木ルカ
*ネロの心の疵「○○○」を猟奇で舐めます。
GM
*では猟奇の+3にティーセットの+2が乗って7以上ですね。
宿木ルカ
2d6+3+2=>7 判定(+猟奇、ティーセット) (2D6+3+2>=7) > 11[6,5]+3+2 > 16 > 成功
[ ネロ ] ○○○ : 0 → 1
[ 宿木ルカ ] ティーセット : 2 → 1
ネロ
以前からあったもの。この世界に来てから形を得た概念。
ネロ
主人公たる誰かのため、都合よく発生するお助け装置。
ネロ
誰かを救って、救って、救い続けてこう成り果てて
ネロ
手が届かなかったものは、そういう脚本だからと諦めて
ネロ
眩しい王子様だって、心優しい灰被りの少女だって、こんなふうには見つめてくれなかった。
ネロ
ずっと、自分はそういうものという焼けた靴に自身を押し込めて
ネロ
「堕落の国の人でも、知っている人と知らない人がいるみたいで」
ネロ
「大体のことはなんでもできます。そういう妖精なので」
ネロ
「もっとも、この国に堕ちてからは万能とは程遠いですが…」
ネロ
「それでも、僕はそういう、なんというか……そう、お助けキャラクターみたいな存在です」
宿木ルカ
「……それでいいって、ネロさん自身が思っていたとしても」
宿木ルカ
”そういうものだ”という認識に横たわるのは。
ネロ
彼はどこまでも善良で、輝かしい、自分好みの人間だ。
ネロ
そういう人間が好き。善良と幸福を愛する妖精だから。
ネロ
神経の一つ一つが、生きていることを訴えてくる。
宿木ルカ
「うまく言えないし、言えることでもないですけど」
宿木ルカ
「きっと、ネロさんがずっと”そう”だったら」
ネロ
今まで仕方がないと、そういうものだからと飲み込んできた全てが、突き刺さってくるようだ。
ネロ
こんな世界を、こんな痛みを、生きてきていたんですね。
ネロ
この痛みを飲んで、立ち上がらなければいけない。
ネロ
自分達は生きている。生かされているのだから。
ネロ
「痛いと感じられることに、意味があるのだと」
イェルク
「一番に休息が必要だったのは、お前だったのかもしれないな」
イェルク
「お前とて傷を受ける役目に変わりはない」
ネロ
「ふふふ、ありがとう。僕は君のそういうところが好きですよ。」
アウレア
少なくともあなたの知る女は、そういう善良さを湛えた女だった。
行動:PK その2
イェルク
「話がついたところで、これからの方針について共有したい」
イェルク
末裔に渡された、古びた地図を二人にも見える形で広げます。
イェルク
あまり精確ではない、それこそゲームの中で見るような手書きの地図ですが……
イェルク
「お前と会う前、俺たちはグレイブリッジという街に向かっていた」
イェルク
「公爵家――この世界で権力を持つ存在が統治する街だ」
ネロ
どんな国にもお偉いさんというのはいるものです
イェルク
公爵家は救世主を疎んでいるという話も小耳に挟んだことはあるが……
イェルク
地図の上の、街を模したらしき建物の描かれた部分を手袋の指先で示し、
イェルク
「……もう一度、同じ街を目指すのが最善に思う」
イェルク
「人の多い分、救世主同士の殺し合いはあろうが……どちらにせよ避けられないことだ」
イェルク
「むしろ殺し合う相手を他に見つけられない方が望ましくないからな」
イェルク
「救世主に遭遇することもできた。街の近くでな」
ネロ
「少なくとも、この村にとどまるメリットはない。僕たちは人の多いところに移動すべきです。」
イェルク
「葬ることになるか、弔い合戦になるかは」
イェルク
「存外、相討ちで痕跡すら消え失せているかもしれん」
ネロ
以前の自分なら、この道は選ばなかったと思う。
ネロ
けれど今は、自分達を生かすために散ったであろう女を、
ネロ
弔うにせよ、戦うにせよ、向き合わねばいけないと
ネロ
「その確認をしに行くべきだと、僕は思います。」
ネロ
「……決して易しいことでは、ないでしょうが。」
ネロ
「そのみち街に向かう上で、避けては通れない道です」
イェルク
「……同じ方向を向けているようで、何よりだ」
GM
ネロが様子を探れば、村は変わらず荒れ果てたさまで。
GM
しかし、亡者に襲われたなどという様子はない。
GM
ただ末裔たちが、とある廃屋に集まって顔を伏せている。
GM
そこに逃げ惑うもの、恐怖するものは存在しないのだから。
ネロ
「…亡者や他の救世主といった敵では、ないようです」
宿木ルカ
最後に出る。申し訳程度に扉を閉めて、外を見やる
GM
数少ない末裔の集団が、とある廃屋の前で悲嘆にくれている。
GM
誰もが皆、それを”仕方ない”と受け入れているようにも見られた。
GM
梁に縛りつけた縄で首を括って、その痩せ細った身体が揺れている。
宿木ルカ
僕がいたから。アウレアさんじゃなくて、僕だったから、あの子は―
アウレア
彼女が望んでいたのはあなたではなく、あなたの代わりに死んだ女だ。
アウレア
村の苦境にあなたは関係ない。彼女がいたところでこれを防げたはずはない。
アウレア
あなたではない、他の存在が、間違いなく望まれていた。
アウレア
そこにいたのが、彼女ではなく、あなただったから。
アウレア
少女は絶望の淵に、その爪先を揺らしている。
アウレアとの思い出
*宿木ルカの心の疵『「ルナ」』を才覚で抉ります。
ネロ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
ネロ
2d6>=7 (2D6>=7) > 5[1,4] > 5 > 失敗
ネロ
※すみません誤送信をやらかしました。ティーセットを使用させてください…
GM
*いいですよ! 横槍効果量を1D6でどうぞ。
[ ネロ ] ティーセット : 1 → 0
アウレアとの思い出
2d6+3-6=>7 判定(+才覚) (2D6+3-6>=7) > 10[4,6]+3-6 > 7 > 成功
[ ネロ ] HP : 21 → 20
[ 宿木ルカ ] 「ルナ」 : 0 → -1
イェルク
袖から取り出したナイフでその縄を断ち切り、
末裔
亡者に追い詰められたこの村では、口減らしの必要があったこと。
末裔
その役目を誰が負うかの相談を、この数日、続けてきたらしいこと。
末裔
アウレアの喪失という絶望が引き金を引いて、少女を決断に至らしめたのだと。
イェルク
もとより衰弱状態にあった少女だ。命を刈り取られるのも早かったか。
ネロ
あまりにも青褪めた少年を抱きしめる。その視界に残酷な光景が映らないように。
宿木ルカ
瞼を閉じることが、どうしたってできない。
GM
果たしてあなたの母親は、あの後どうなっただろう?
GM
他にあなたの母を見つける訪問者が、いつ訪れるものだろうか?
ネロ
あなたの名前を呼ぶ。双子ではない、他ならぬあなたの名前を。
ネロ
「ルカ、君のせいじゃない。君は、何も悪くないんだ。」
宿木ルカ
「僕は、ルナでいなくちゃ いけなかったのに」
GM
あなたが死に追いやった、もう一人の存在を知らない。
ネロ
君のせいじゃない。これは僕の罪だ。彼女の首をあの梁に括り付けたのは、間違いなく僕の言葉だ。
GM
定義を乗り越え、自分の意思で、目の前の少年を慰めようにも。
GM
あなたの愛の形は、全てを都合よく整え、丸め込もうとする欺瞞の姿をしている。
GM
だから真実を突きつけられた少女には届かない。
GM
だから真実を突きつけられた少年には届かない。
ネロ
今度は僕自身の意思で、君に幸福でいてほしいのに
ネロ
『めでたしめでたし』しか知らない妖精-在り方-では
ネロ
おとぎ話のような、都合のいい、薄っぺらな言葉しか用意ができない。
宿木ルカ
抱きしめられた体温さえも、他人事のようで。
宿木ルカ
僕のことが見えなくなった。ルナのことが、見えていた。
宿木ルカ
ルナのお葬式でお祖母ちゃんが用意してくれた遺影が、仏壇に入って。―それが僕の写真に入れ替わったのは、いつのことだっただろう?
宿木ルカ
『あたし、ここにいるよ。…お母さんの、そばにいるよ』
宿木ルカ
毎日髪を梳いてくれた。綺麗に伸びるようにと。
宿木ルカ
可愛らしいリボンも、買い揃えて結んでくれた。
宿木ルカ
家に帰っても、『解けちゃった』と笑ってみせれば、また笑って結んでくれた。
宿木ルカ
これで、どうしようもなくなったら。お母さんは現実を見てくれるはずだと、思った。
宿木ルカ
学校で使う裁縫箱から、裁ちばさみを取り出して。
宿木ルカ
あるいは、二人とも幸せなままだったのかもしれないのに。
GM
あなたを求めるはずの妖精の言葉は今は上滑りして。
GM
ないはずの記憶が、欠落の引き起こす欠落を知らしめる。
GM
ただその事実だけが、今は心の奥深くに横たわっている。
GM
末裔たちはめっそうもない、とそれを固辞してみせた。
GM
怯えるような、脅かされるような、そんな視線とともに、言い募られては。
イェルク
一刻もこの村を去ることが望ましいと、この男は判断したらしい。
GM
何より、あなたたちにその覇気はなかったろう。
GM
その光景は、ルカとネロ、あなたたち二人を打ち据えるには十分過ぎるものであったからだ。
宿木ルカ
逸れてしまわぬように。それだけを考えて、視界にかろうじて入るイェルクの足跡を追う。
ネロ
羽根の力で宙空に浮くような軽い体は、今は地面を擦るように。
ネロ
本来はこの魔法の力でもって、哨戒を行うべきなのだが
イェルク
「接近する敵意に気付けなくば、それは俺にも責任がある」
イェルク
「その言いざまをルカに咎められたばかりと思ったが?」
宿木ルカ
一度ならず二度までも。目に焼き付いた光景が、脳裏から離れてくれない。
宿木ルカ
イェルクとネロの会話も、どこか頭上を滑っていくような感覚。
ネロ
自分でも現在の自分の状態を、正しく把握できているとは言い難い。
イェルク
「救世主にとって深刻なのは、体調よりも心の調子の方だ」
イェルク
荒野を吹く乾いた風が、男の燕尾服の裾を揺らしている。
ネロ
先導する男の顔を見る。その姿を視界に捉える。
宿木ルカ
ぼう、とした意識のままで。ネロに倣って、目線だけを上げる。
イェルク
男はあなたたちを振り返らず、ただ前を進んでいる。
イェルク
けれど刻むようなその歩幅は、間違いなくあなたたちに合わせたものだ。
イェルク
「罪の話と、言ってもいいかもしれないが」
イェルク
「執事をやっていたという話はしたと思うが」
イェルク
「仕える先というのが、とある要人のご息女でな」
ネロ
彼が自分の話をするところを、少なくとも自分は初めて見る。
宿木ルカ
だからこそ、蔑ろにするわけにはいかない。
イェルク
「”そう”なるまでにも、まあ……それなりの経緯がありはしたが」
イェルク
「本質からずれた話は、今は置いておこう」
イェルク
「そのご息女に仕えるただ一人の存在として、俺は在った」
イェルク
「一人きりの使用人で、一人きりの執事だ。求められることはなんでもしたさ」
ネロ
「求められることには、応えられてしまうでしょう」
イェルク
「お前と違って、応えることそのものが目的ではなかったがな」
イェルク
「相応の報奨があった。俺にはそれが必要だった」
イェルク
「対価を求めての働きだ。けちをつけられないように努めていた、という方が正しい」
ネロ
自分のそれは、ただそういうあり方というだけだ。習性、機能に近い。
イェルク
人間としての行動原理。その結実としての奉仕。それを叶えるための合理。
イェルク
男の纏う燕尾服は、なるほどそういった概念を正しくあらわしたものであろう。
イェルク
「双子の妹であったことが、ご息女をそういった立場に至らしめた」
イェルク
「使用人など、少しばかり優秀な一人をだけつけておけばいい」
ネロ
自分が王妃に押し上げた、あの娘のことを思い出す。
ネロ
「君は、報酬を対価として、その娘の日常を助けていたのですね」
イェルク
「必要を見極める能力は、そこで培われたと言っていいだろう」
イェルク
「放棄されたご息女と屋敷が相手とはいえ」
イェルク
「瑕疵を見出されれば、いつ雇い止められてもおかしくはなかったからな」
イェルク
「せいぜいが奉仕してみせたさ。必死にな」
イェルク
「放棄されたご息女で在り続けられたならば」
イェルク
「そうなれば、邪魔者であった少女は一転」
イェルク
「もう一人の跡継ぎ候補として求められるというわけだ」
イェルク
「それも、ご子息のフリをしてみせろという注文付きだ」
イェルク
「双子の存在そのものが醜聞だったからな」
宿木ルカ
それを、一人ではなく。世界の全てから求められる。
宿木ルカ
察した気になることすらおこがましい、重圧であっただろう。
ネロ
代わりでしかないこと。それは、どんなふうに苦しいのだろうか?
ネロ
どちらの方が、などというものではないのだろう。
イェルク
「ご子息の病態がやがて快方に向かってしまえば」
宿木ルカ
勝手に望まれて、求められて。勝手に打ち捨てられる。
イェルク
「十も下の幼子に、欲情してみせるほど酔狂じゃあない」
イェルク
「俺が目の前の行動、誰かの言葉に動揺し」
イェルク
「それは、これらの経緯から来るものだろう」
イェルク
「知らないよりは、知っていた方がやりやすかろう」
イェルク
「見当違いを口走ることは、いくぶんか避けられるはずだ」
イェルク
「お前たちを生かすべく振る舞うつもりがあるからな」
宿木ルカ
明日自分たちがどうなるかもわからぬこの世界で、自分の疵を自ら晒すこと。その意図。
イェルク
「お前が白兎の少女に見ていたものは、アウレアではなかった」
宿木ルカ
「似たようなことが、あって。…ここに来る、直前に」
イェルク
「救世主はいつ殺し合うか分からないものだ」
イェルク
「それを曝け出してみせることそのものが、平常の精神では困難なことだ」
イェルク
「お前にそれが可能かどうかは、判断がつかん」
宿木ルカ
このひとが、この世界で自分から疵を晒すリスクを分からないはずがない。
宿木ルカ
その程度には、このひとのことを分かっている。つもりだ。
宿木ルカ
「知らないよりは、知っていた方がやりやすいことも…あるでしょうから」
宿木ルカ
目を伏せながら、所々つかえながら。それでも語る。
宿木ルカ
己の人生の、半分以上。11年続いた生活と、その末路。
イェルク
時折差し込まれる男の相槌は端的で、適切であった。
イェルク
「お前のそれは、お前が救世主として立つ上で必要なものだ」
宿木ルカ
まだあの光景が、脳裏から出て行ってくれない。
宿木ルカ
自分が生き残ったことに、正当性を叫ぶことなどできようはずもない。
イェルク
あの場で彼の心を救うことは、叶わなかったわけだが。
宿木ルカ
けれど。それでも。この疵にも、意味があるのなら。
宿木ルカ
―”彼女”の願いが、これによって果たされるものであるならば。
ネロ
規定された存在であることから抜け出してなお、いや、抜け出していいと言われたからこそ
ネロ
「物語」の補助のない世界は、あまりに不安定で
イェルク
それでもいくらか、足取りが力を取り戻したさまを見て取っていた。
ネロ
人として羽化したばかりの空っぽの肉の器に、かつての自分の罪だけが詰め込まれている。
ネロ
罪とも思わなかった、罪。そういうものだと思っていた、罪。
ネロ
自分が何か、わからない。何が好きで、何がしたくて、何を選び取ればいいのかも、ひどく曖昧で。
ネロ
この肉の身を、ご都合主義ではないと示してくれた彼と、己の疵を晒しながら導いてくれる彼への。
ネロ
この愛を手放してしまったら、自分はどうなるのだろうか。
ネロ
愛を、手放さなくて良いように。善良でない自分でも、愛を保てるように
ネロ
そのようなことを、繰り返しながら、荒野を歩いていく。
イェルク
「……昔話のついでに、ひとつ、添えておこう」
イェルク
「これがお前達の慰みになるとは思わんが」
イェルク
「あの女は、もとより救われない女だった」
イェルク
「自分には決して訪れないことを、知っている女だった」
イェルク
「救うすべを増やし、救われる人間が増えればそれでよいと思った」
イェルク
「それが、自らに望まれる在り方への裏切りであることを」
イェルク
「自分が異端を用いて救った相手に自死されて、初めて悟った」
宿木ルカ
ネロの癒しにも、治りきることのなかった火傷の痕を見やる。
イェルク
「燃え尽きるまでの生命と悟って、ただ走り続けるだけの形をしていた」
イェルク
「お前に見切りをつけさせるべきでないと、そのように判断したからだ」
ネロ
「僕が救うことができるのは、救われることを信じられる人だけ」
ネロ
「彼女の形がそうであるなら、僕は彼女を諦めていたでしょうね」
イェルク
『……救世主などみな、大なり小なり”そう”であるように思うがね』
イェルク
『心の疵が変質する可能性も、あるだろう』
アウレア
『だから、そうなる前提では動かない。間違える可能性を減らしたい』
アウレア
『私はアウレア。浄罪の炎を纏うことを選ぶ女』
アウレア
『この炎が私以外のものを灼くことがあるならば』
アウレア
『それは、私という女の致命的な終わりを示します』
イェルク
「あの女にとってみれば、上々の終わりだ」
ネロ
「君たち二人は、随分、僕のことも気にかけてくれていたようですね」
ネロ
「僕たちをここに生かしているのは、君に依るところも大きい」
ネロ
「そうあるべきと定めたことを、成している。」
宿木ルカ
言葉ではうまく伝えきれないから、少しでもこれで汲んでもらえたら、いいと願って。
イェルク
男はあなたの示そうとする誠意の形を精確に読み取る。
イェルク
眼差しを合わせることを、意識して受け入れ、それに応える。
イェルク
「……努力と働きで報いてもらうとしよう」
イェルク
「その在り方は、今の俺には悪くないものに映る」
ネロ
「……僕自身、そうありたいと、思っています」
宿木ルカ
ネロの衣を引きかけた手を、しかし直前で引っ込める。
イェルク
二人の足取りがさらにまた力強さを増したさまを感じながら。
イェルク
曝け出した合理と奉仕、その在り方に従って。
GM
そうして荒野を越えるのに数日。
この国にまだ慣れぬルカの苦労は多かったが、
幸い、イェルクもネロもフォローを得意とする救世主であった。
GM
道中、亡者との遭遇を避けられたのも、救世主たちにとって幸いであったと言えるだろう。
GM
ぎりぎりの物資を分け合いながら、荒野を乗り越えて辿り着いた村は、