4.1話
幕間6-6
夜高ミツル:寄せ合った身体の熱も、息が上がっているのも夜高ミツル:走ってきたから、ばかりではない。
夜高ミツル:袖を引かれるままに、足早にベッドへと向かう。
真城朔:部屋で待っていただけのはずの真城も、その点ミツルと大差ない。
真城朔:乱れたナイトウェアと、似たように皺を作ったベッドのシーツ。
夜高ミツル:抱き合ったまま、ベッドへともつれ込む。
真城朔:「っ」
夜高ミツル:足の動きだけで、もどかしげに靴を脱ぎ捨てて床に放り出す。
真城朔:どさりと背中からベッドに落ちて、
真城朔:熱い息を吐きながら、潤んだ瞳でミツルを見上げた。
真城朔:「ミツ……っ」
夜高ミツル:「……真城」
真城朔:名を呼ぶ。
夜高ミツル:「真城、真城」
真城朔:「ミツ」
真城朔:手を伸ばして、もどかしげに指が空を掻く。
夜高ミツル:その手を取って、自分の背中に回させる。
真城朔:「ミツ、ミツっ」
夜高ミツル:真城に覆いかぶさって
真城朔:背中に回った腕に力を込めて、胸に縋る。
夜高ミツル:顔がほど近い。
夜高ミツル:そのまま、更に顔を寄せて
真城朔:ミツルの下で吐息を漏らしながら、小さく震えている。
夜高ミツル:口づける。
真城朔:「ん――」
真城朔:熱い。
夜高ミツル:触れるだけのそれを、
夜高ミツル:何度も、繰り返す。
真城朔:瞼を伏せて、ひとつひとつ、
真城朔:降り注ぐ接吻を受け入れては息を漏らす。
真城朔:背に回った腕に、指先に力が籠もった。
夜高ミツル:その内に、触れるだけでは物足りなくなって
夜高ミツル:口づけたまま、舌先で真城の唇に触れる。
真城朔:ひくりと組み敷いた身体の内腿が震えた。
真城朔:喉が鳴る。唇が開いて、
真城朔:「み、つ」
真城朔:求めるようにまた名前を。
夜高ミツル:開いた口に、舌を割り入れる。
夜高ミツル:上手なやり方なんて知らない。
真城朔:濡れた唇にミツルの舌を招き入れて、びくびくと肩を震わせた。
夜高ミツル:ただただ、求める気持ちばかりで。
真城朔:熱を上げるばかりの粘膜に他人の舌を含んで、
真城朔:自分自身も舌を突き出して、絡ませる。
真城朔:どろりとすぐに涎が溢れて唇の端を溢れた。
夜高ミツル:粘膜が絡み合って、水音を立てる。
真城朔:内側から、外側から、
真城朔:濡れた音が響いては耳を侵す。
真城朔:頭の中がいっぱいになって、
夜高ミツル:そうしながら、掌を真城の頬に添えて
真城朔:唇を重ねたまま、喉の奥で拙く音を立てた。
夜高ミツル:頬から首筋までを、そっと撫でる。
真城朔:名前を呼ぶのと同じ発音。
真城朔:他人の体温に、
真城朔:その愛撫に、肩を震わせる。
真城朔:くぐもった声が漏れては重ねた唇に消えていく。
夜高ミツル:音を立てながら舌を絡ませ合って、
夜高ミツル:やがて、その唇が離れる。
夜高ミツル:酸素を求めるように、荒く呼吸をして、
真城朔:唇を突き出して、
夜高ミツル:「──真城」
真城朔:離れていくミツルの顔を見ている。
夜高ミツル:熱に浮かされた中で、ただその名前ばかりが。
真城朔:「はあ、は、……っ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ……」
夜高ミツル:「真城」
夜高ミツル:掌が、真城の身体の上を滑る。
真城朔:指がもどかしげにミツルの背を掻いて、
真城朔:触れられるつど、力が入って服を掴む。
夜高ミツル:首筋から鎖骨を通って、さらにその下まで。
真城朔:「んう……っ」
真城朔:熱を吐く。
真城朔:お互いの混ざりあった唾液で濡れた唇を噛んで、その愛撫に身を震わせて、
真城朔:ぞくりと太腿をすり合わせる。
夜高ミツル:平らかな胸を撫ぜる。
真城朔:その半ばの張り詰めた突起がミツルの掌に触れて、
夜高ミツル:もっと、と求める気持ちとは裏腹に、手の動きはひどく緩やかだった。
真城朔:ひくりと喉の奥に悲鳴のような音を押し込めた。
真城朔:肩で息をして、背を丸めながら、
真城朔:ぞくぞくを全身を震わせている。
夜高ミツル:指の腹でそっと、その張り詰めた箇所を擦る。
夜高ミツル:「真城」
夜高ミツル:「声」
夜高ミツル:「がまん、しないで」
真城朔:「……っ」
真城朔:「う」
夜高ミツル:「いい、から」
真城朔:潤んだ瞳を瞬いて、ミツルを見上げる。
真城朔:戸惑いを不安に瞳を揺らしている。
真城朔:「こ、え」
真城朔:吐息混じりに、繰り返す。
真城朔:「でも……」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「聞きたい」
真城朔:「っ」
真城朔:ぎゅ、とミツルの背中を掴んだ。
夜高ミツル:「……聞かせて」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「……ミツ、っ」
夜高ミツル:「……真城」
真城朔:「ぁ」
真城朔:「は、……く」
真城朔:「う、うぅ――」
夜高ミツル:やわやわと指先で突起を撫でる。
真城朔:「っひあ」
真城朔:声が甘く上擦る。
真城朔:高く抜けた声が喉をついて、
夜高ミツル:高く声が上がる度に、理性が、真城以外の全てが、
夜高ミツル:頭の中から消えていくようだった。
真城朔:張り詰めた背がシーツを滑って、
真城朔:「あん、っあ」
真城朔:蕩けた声をあげると共に、そらされる。
夜高ミツル:硬く勃ち上がった中心を、真城に押し当てる。
真城朔:「ぁ」
真城朔:「……っ」
真城朔:押し当てられた感触にぎくりと身体が固まった。
真城朔:肩で息をしながら、ミツルの顔を見つめて、
真城朔:その瞳の奥の情欲も最早隠すことなく。
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「……真城」
真城朔:「ミツ……」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「はやく」
夜高ミツル:布越しに、触れ合っている感触。
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:それだけでも達してしまいそうなほどに、限界だった。
真城朔:「……ミツ」
真城朔:脚が伸びて、
真城朔:ミツルへと絡む。
夜高ミツル:「……っ、」
真城朔:太腿の裏を柔らかな素足で撫ぜられる。
真城朔:きゅ、と腕を引いた。
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「……っう、でも」
夜高ミツル:「大丈、夫」
夜高ミツル:「なのか?」
真城朔:頷く。
真城朔:「だいじょうぶ」
真城朔:「だいじょうぶ、だから」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、……っ」
真城朔:横たえられたまま、
夜高ミツル:「……っ、」
真城朔:名前ばかりを呼んで、
真城朔:それ以外なんにも知らないみたいに。
夜高ミツル:焦りに震える手で、ベルトを外して
夜高ミツル:前を緩めて
真城朔:ぼうとそのさまを見つめている。
夜高ミツル:下着ごとズボンを下ろして、その中身を取り出す。
真城朔:「……っ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツっ」
真城朔:背に回った手が外れて、
真城朔:代わりにその手が、自分のナイトウェアの裾を掴んで。
真城朔:たくし上げながら、膝を開く。
夜高ミツル:「……真城、」
真城朔:負けず劣らず興奮を示して反り返るものと、
真城朔:それより奥、迎え入れる場所をミツルへと晒して、
夜高ミツル:「俺、お前に」
真城朔:「……ミ、ツ」
夜高ミツル:「無理とか、させたくないから」
夜高ミツル:「痛いとか」
夜高ミツル:「あったら、途中でも」
真城朔:「……?」
夜高ミツル:「止めるから」
真城朔:「……………」
真城朔:目を瞬いて、
真城朔:頷く、けれど。
真城朔:「……だい、」
真城朔:「じょうぶ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、だから」
夜高ミツル:「……ん」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、ミツ」
真城朔:「ミツ……」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「ミツが……」
真城朔:「したいこと、ぜんぶ」
真城朔:「ほしい」
真城朔:「から」
夜高ミツル:「…………っ!」
夜高ミツル:既に熱の回った身体に、
夜高ミツル:更に、体温の上がるような感覚。
真城朔:ベッドに力なく身を横たえて、
真城朔:ぐずぐずに熱を上げた肉を濡らして、
夜高ミツル:「……真城」
真城朔:瞳はミツルを求めている。
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:限界まで張り詰めた箇所を
夜高ミツル:今度は布越しではなく、直接
真城朔:「ミツ……」
夜高ミツル:真城に押し当てる。
真城朔:「んっ」
夜高ミツル:見つめ返す瞳は、真城だけを映している。
真城朔:「あ」
真城朔:ぞくりと身体を震わしてから、
真城朔:でも、
真城朔:笑った。
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「……挿れ、る、ぞ」
真城朔:「あつい」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ほしい」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、……っ」
夜高ミツル:「……真城」
夜高ミツル:「真城、真城」
真城朔:両脚が伸びて、ミツルの腰に回って、
夜高ミツル:名前を呼びながら、腰を進める。
真城朔:促すように背をさすった。
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミ、ツ――っ」
真城朔:存外にたやすく、
真城朔:その場所はミツルを受け容れる。
夜高ミツル:柔らかな粘膜に包まれる。
真城朔:まるで最初からそのための機能を備えていたかのようにたやすく開いて、
夜高ミツル:真城と、繋がっている。
真城朔:そのくせ熱烈に締めつける。
真城朔:「っあ」
真城朔:「んん、っう」
真城朔:「っは」
夜高ミツル:一つになっている。
真城朔:「っく――」
夜高ミツル:それだけで、
真城朔:回した脚と、
夜高ミツル:「──……っ!」
真城朔:組み敷かれた身体ががくがくと震えていて、
夜高ミツル:それだけで、達してしまう。
真城朔:「っ!?」
真城朔:びくりと腰が浮いた。
真城朔:涙に濡れた目を見開いて、瞬く。
夜高ミツル:真城の身体の中に、精を吐き出して。
真城朔:「ぁ」
夜高ミツル:「…………う、」
真城朔:「あ、…………っ」
真城朔:それを理解してから、
夜高ミツル:荒く、息を吐きながら
真城朔:大きく背を震わして、身を引きつらせた。
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、――――ッ」
真城朔:ミツルを受け容れた場所が、遅れてさらに収縮する。
夜高ミツル:「……う、あっ」
真城朔:びくびくと腰を震わして、内側が肉へと絡む。
真城朔:真城の背中が
夜高ミツル:欲を吐き出して尚硬さを保ったままのそこが
真城朔:大きく反れて、びくりと跳ねて、
夜高ミツル:締め付けられてびくりと震える。
真城朔:天を仰いで喉までもが反らされて、唇からは音のない嬌声が溢れた。
真城朔:全身の筋肉に奇妙な力が入って、びく、びくりと断続的に跳ねる。
真城朔:その中でせめて、
真城朔:どうしたって離せないとばかりに、
真城朔:ミツルの腰へと回った脚だけはずっと力強いままで。
真城朔:「……っ!!」
真城朔:見開いた瞳からほろほろと涙が流れ落ちる。
夜高ミツル:「……真城?」
真城朔:「ぁ、……はっ」
真城朔:「う」
夜高ミツル:溢れた涙を拭う。
真城朔:「あっ、……ぁ」
夜高ミツル:「大丈夫、か?」
真城朔:「んっ…………」
真城朔:目を伏せる。
真城朔:全身を未だ強張らせてびくびくと震わしながら、
真城朔:受け容れたミツル自身にもしつこく中を絡ませながら。
真城朔:「う」
真城朔:「あっ、あ」
真城朔:下手くそな呼吸に艶めいた声が乱れて、
真城朔:ミツルの問いにも答えられないままに、今更に背を折って、
真城朔:首を振りかけて、縮める。
真城朔:両手で頭を抱えて唇を引き結んだ。
真城朔:息を詰めて、がくがくと震えている。
夜高ミツル:背中に腕を回して、身体を寄せる。
真城朔:「っは」
真城朔:「ひ、う」
夜高ミツル:落ち着かせるように背中を撫でる。
真城朔:「うぅ、……ッ」
真城朔:「あっ、あ」
真城朔:「み」
真城朔:「みつ」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「ミツ、っ」
真城朔:背中を撫でられても震えがおさまらないで、
真城朔:繋がったままミツルの胸に身体を預けて、縋る。
真城朔:「はあっ、はあ、……ッ」
真城朔:「あ、……あ! うぅっ」
真城朔:「う――っ」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「……動いて」
真城朔:「ミツ、ミツ、ミツ、……っ」
夜高ミツル:「大丈夫、か?」
夜高ミツル:背中を撫でながら
真城朔:「…………っ」
夜高ミツル:気遣うように問いかける。
真城朔:浅い呼吸を必死に繰り返している。
真城朔:ミツルを締めつける肉が物欲しげにきつく絡んで、
真城朔:遅れて真城の背が跳ねた。
夜高ミツル:「……ぅ、」
真城朔:「っ」
夜高ミツル:締め付けられて、息を漏らす。
真城朔:濡れた瞳を見開いて、ごく近くでミツルを見る。
真城朔:ぼろぼろと涙を零して、
真城朔:ミツルの肩に顔を埋めて、しがみついた。
真城朔:「っ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ――」
夜高ミツル:「……真城」
真城朔:「っ」
真城朔:「すきに」
真城朔:「すきに、して」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、……っ」
夜高ミツル:「……っ、真城」
夜高ミツル:「……わか、った」
真城朔:ほろほろと涙がミツルの肩を濡らしていく。
夜高ミツル:真城を強く抱きしめたまま
真城朔:脚も腕もミツルに抱きついて、
夜高ミツル:遠慮がちに、腰を動かし始める。
真城朔:中までもが必死に絡みついて、ミツルを求めている。
真城朔:「あ、ッ」
真城朔:「あ」
夜高ミツル:引いては、再び深く埋める。
真城朔:「ふっ、く」
真城朔:「うぅ」
真城朔:「う――」
夜高ミツル:最初は緩やかだったそれが、やがて
夜高ミツル:もっともっと、と求めて
真城朔:揺らされるたびにぱちぱちと目を瞬いて、
夜高ミツル:激しく、性急になっていく。
真城朔:涙が散る。
夜高ミツル:「……真城、真城っ」
真城朔:強張った全身とは裏腹に、
夜高ミツル:乱れる息の合間に、その名を呼ぶ。
真城朔:中は柔らかく、同時に熱烈にミツルを受け容れて、
夜高ミツル:「真城」
夜高ミツル:「すき、」
夜高ミツル:「好きだよ」
夜高ミツル:「ましろ」
真城朔:「っ」
真城朔:「あ」
真城朔:「う」
真城朔:「み」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「み、つ」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「ミツ、ミツ」
真城朔:「……っ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、すき」
真城朔:「すき」
真城朔:「ミツ……っ」
夜高ミツル:「……っ!」
夜高ミツル:「ま、しろっ」
真城朔:上擦った息と喘鳴の間に、
真城朔:舌足らずの甘い声で繰り返す。
真城朔:「すき」
真城朔:「ミツ、……ミ、ツ」
真城朔:「っ」
真城朔:「あ」
夜高ミツル:びくびくと震えて、再び精を放つ。
真城朔:「うぅ――」
真城朔:「ぁ、あ…………ッ」
夜高ミツル:それでも、勢いは衰えることがない。
夜高ミツル:「……は、あ、」
夜高ミツル:「まし、ろ」
真城朔:赤子が泣くように唇を開いて、
夜高ミツル:「好きだ、」
夜高ミツル:「好き」
真城朔:全身を反らしながら、また極まる。
真城朔:震えている。
真城朔:ぼろぼろと涙を流しながら、
真城朔:「ミツ」
真城朔:呼び求める。
真城朔:「ミツ」
真城朔:「すき」
真城朔:「ミツ、……ミツっ」
真城朔:「はな、っ」
真城朔:「はなさない、で」
真城朔:「みつ」
真城朔:「ずっと」
真城朔:「ミツ、ミツが」
夜高ミツル:「離さない」
真城朔:「ミツと」
夜高ミツル:「ずっと」
真城朔:「……っ」
真城朔:「あ」
夜高ミツル:「ずっと、一緒」
真城朔:「ああ、ぁ」
夜高ミツル:「ずっと一緒にいるから」
真城朔:「…………っ」
真城朔:「ずっ、と」
真城朔:「ずっと――」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「すき」
真城朔:「すき……っ」
真城朔:「ミツが」
夜高ミツル:「真城」
夜高ミツル:「俺も」
真城朔:「ミツと」
真城朔:「が」
夜高ミツル:「すきだよ」
真城朔:「いい、……から」
真城朔:「っ」
真城朔:「すき」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「ん」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「すき」
真城朔:「すき」
真城朔:「なんでも」
夜高ミツル:「真城、真城」
真城朔:「なんでも、するから」
真城朔:「されていいから」
真城朔:「ずっと」
真城朔:「ずっと……」
夜高ミツル:「ずっと」
真城朔:ぐしゃぐしゃに涙を流しながらミツルにしがみついて、
夜高ミツル:「ずっといる」
夜高ミツル:「離さない」
夜高ミツル:「絶対、」
夜高ミツル:「離さ、ない」
真城朔:全身を大きく震わせている。
真城朔:「う」
真城朔:「ああ、……ッ」
夜高ミツル:これ以上ないほどに、真城を強く抱いて
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツっ」
夜高ミツル:名前を呼ぶ間にも、腰の動きは止まらない。
夜高ミツル:「ましろ」
真城朔:募る衝動と熱に高められながら、
夜高ミツル:「っ、真城」
真城朔:声のトーンもあがっていく。
真城朔:「ミツ」
真城朔:「すき」
真城朔:「す、……き」
夜高ミツル:「好き」
真城朔:「すき……っ」
夜高ミツル:「おれも」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「ましろ」
真城朔:「ミツが」
真城朔:「ミツと」
真城朔:「ず、っと」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「ミツになら」
真城朔:「なんでも、されたい」
真城朔:「から……っ」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「……っ、う、ん」
真城朔:「ミツ……!」
真城朔:顔を埋めて、きつくミツルを締めつける。
真城朔:全身でミツルと繋がって、
真城朔:触れて、
真城朔:重ねて、
真城朔:離れないように。
夜高ミツル:全身で、熱を分け合う。
真城朔:離れてしまえなくなることを求めて。
夜高ミツル:一つになるように。
真城朔:何よりも、
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「ミツ」
真城朔:目の前の相手を求めて、
真城朔:持てる限りの全てを尽くして、
夜高ミツル:ずっと、一緒にいたかった。
真城朔:ただその存在を噛み締めている。
夜高ミツル:何度も自分の目の前を去って、
夜高ミツル:あるいは、誰かに連れ去られて、
夜高ミツル:何度も何度もいなくなって、
夜高ミツル:その度に、求めて、探して
夜高ミツル:その手を取った。
真城朔:「ミツ……」
夜高ミツル:もしかしたら、ずっと
夜高ミツル:ずっと前から、気づいてなかっただけで
夜高ミツル:真城と、こうしたかったのかもしれない。
夜高ミツル:今となっては、確かなことは分からないけど。
夜高ミツル:ずっとずっと前からこうしたかったのではないかと
夜高ミツル:錯覚してしまうくらい、今は
夜高ミツル:ただ、真城のことばかりで。
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミツ、……ミツっ」
夜高ミツル:真城を、求めるばかりで。
夜高ミツル:「真城」
真城朔:馬鹿みたいに名前を呼んで、ミツルに縋る。
夜高ミツル:同じくらいに名前を呼んで、
夜高ミツル:腰を振って、精を吐き出して、
夜高ミツル:それでも一向に治まらなくて、ただただ真城を求める。
真城朔:求められるほどに求めて、求めるほどに求められて、
真城朔:そのつど名を呼んで、涙を零す。
夜高ミツル:「──真城」
夜高ミツル:「真城、真城っ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「ミ、ツ――」
■10/12 5:00 a.m.
真城朔:日の出前。夜高ミツル:──ゆっくりと、瞼を持ち上げる。
真城朔:まだ暗い部屋。
真城朔:籠もった汗と精液の臭いが鼻をつく。
夜高ミツル:あー、そうか、あのまま……
夜高ミツル:寝落ちしたのか……。
夜高ミツル:ベッドの上、ぐちゃぐちゃに乱れたシーツと
真城朔:真城は隣でぐったりと倒れ臥している。
夜高ミツル:あちこちに乾いた体液の張り付いた、自分と真城の姿。
夜高ミツル:夕方だろうか、と思い、時計に目をやる。
真城朔:白い背中が静かに上下している。
夜高ミツル:備え付けの時計が示す日時は、早朝。
夜高ミツル:12日の。
夜高ミツル:「…………は?」
夜高ミツル:思わず、間抜けな声が出た。
夜高ミツル:この部屋に戻ってきたのは、10日の夜だった。
夜高ミツル:そこから……丸一日……?
夜高ミツル:丸一日以上……?
真城朔:ぐったりしてます。
真城朔:べっちゃり潰れている。
夜高ミツル:呆然としたまま、真城に目を移す。
夜高ミツル:倒れ伏す姿。
夜高ミツル:だいぶ……無理をさせてしまったのでは、と
夜高ミツル:罪悪感がチクチクと胸を刺す。
真城朔:『ミツ』
真城朔:『もっと』
真城朔:『ミツ――』
夜高ミツル:名前を呼ばれて、
夜高ミツル:もっと、とねだられる度に
夜高ミツル:それが嬉しくて
夜高ミツル:自分の方からも、もっと、もっとと
夜高ミツル:求め続けた。
夜高ミツル:望んでほしい、とずっと
夜高ミツル:そう思って、言ってきた。
夜高ミツル:望まれるのが、心から嬉しかった。
夜高ミツル:応える度に嬉しそうにしてくれるのが、幸せで。
真城朔:泣きながらふにゃふにゃと笑っていた。
真城朔:昂った身体が肉を受け容れて、貪欲に締めつけて、甘い声をあげて、
真城朔:そのたびに名前を呼んでは、もっとと。
真城朔:繰り返していたのが。
真城朔:今は潰れている。
夜高ミツル:……さすがに、
夜高ミツル:やりすぎだろ……。
夜高ミツル:責めても過去の自分には届かない。
真城朔:抱きしめて縋った、あるいは縋られた指の痕が残っている。
真城朔:痣のような痛々しさはないが。
真城朔:肌に残る熱烈さは相当に。
夜高ミツル:互いに求めあった痕を、じっと眺める。
夜高ミツル:それから、せめてきれいにはしておくか……と、
夜高ミツル:潰れている真城を抱えあげて
夜高ミツル:浴室に向かう。
真城朔:ぐったりとしている。
夜高ミツル:いつの間にそうしたのか、もはや定かではないが
真城朔:脚の間から、
夜高ミツル:お互いに一糸まとわぬ姿なので、服を脱がす必要もない。
真城朔:太腿をひたひたと精液が伝い落ちていく。
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:冷静になって、それを見ると
真城朔:既に乾いてこびりついた跡も相当にある。
夜高ミツル:生でして、良かったのか……?と、
夜高ミツル:今更ながらに思う。
真城朔:「…………」
真城朔:「……ん」
夜高ミツル:浴室の扉を開ける。
夜高ミツル:「……真城?」
真城朔:「うー……」
夜高ミツル:起きたかな、と様子を伺う。
真城朔:うにゃうにゃと頭が振れて、
真城朔:ミツルに抱えられたまま、ゆっくりと目を開けた。
真城朔:ぼんやりと視線を彷徨わせる。
夜高ミツル:「おはよ」
真城朔:「…………」
真城朔:「ミツ……」
真城朔:ふにゃふにゃ笑った。
真城朔:笑っていた、が。
真城朔:「………………」
夜高ミツル:「……?」
真城朔:急に真顔に戻ると、またほろほろと泣き始めた。
真城朔:眉を下げて、俯く。
夜高ミツル:「……」
真城朔:抱えられた脚がゆらゆらと揺れて、爪先からまた精液が落ちた。
夜高ミツル:真城の身体を支えながら、バスチェアに座らせる。
真城朔:ぽろぽろ泣いている。
夜高ミツル:自分はその正面で片膝を立てて
夜高ミツル:顔を俯かせる真城の手を取る。
夜高ミツル:「……後悔、してる?」
真城朔:「…………」
真城朔:小さく頷いた。
真城朔:「……し」
真城朔:「なきゃっ」
夜高ミツル:「……ん」
真城朔:声はひどく掠れている。
真城朔:「だめ」
真城朔:「なん、だ」
夜高ミツル:手を離して、その代わりに
夜高ミツル:真城の背中に腕を回す。
真城朔:「…………」
真城朔:身体を強張らせる。
夜高ミツル:「……後悔、させるって」
夜高ミツル:「分かってて」
夜高ミツル:「分かったのに、した」
真城朔:「…………」
真城朔:「ミツ、の」
真城朔:「せい」
真城朔:「……じゃ」
夜高ミツル:「俺の、責任だよ」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「俺の責任だ」
真城朔:「で、も」
真城朔:「俺が……」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「望んじゃダメだって言ってた真城に」
夜高ミツル:「望ませた」
真城朔:「……う」
真城朔:「ぅ」
夜高ミツル:「俺が、そうしたんだよ」
夜高ミツル:「そう、してほしかったから」
真城朔:「…………」
真城朔:俯いて涙を流している。
真城朔:「……わ、っ」
真城朔:「わす」
真城朔:「わす、れ、……っ」
夜高ミツル:「むりだ」
真城朔:「うう」
真城朔:「う」
真城朔:「なかっ、た」
真城朔:「ことに……」
夜高ミツル:「しない」
夜高ミツル:「ならない」
真城朔:「ま、ちがって」
真城朔:「ちがう……」
真城朔:「ちがう、か、ら」
夜高ミツル:「何も、忘れない」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「ずっと一緒にって」
夜高ミツル:「約束した」
真城朔:「う……」
夜高ミツル:「……これからも、こうするよ」
夜高ミツル:「真城が、どんなに」
夜高ミツル:「望んじゃいけない、間違ってるって」
夜高ミツル:「そう言っても」
夜高ミツル:「俺は、望んでほしいって言うし」
夜高ミツル:「望めなければ、勝手に叶えるし」
夜高ミツル:「押し付けてでも」
夜高ミツル:「そうする」
真城朔:涙を流しながら、それを聞いている。
夜高ミツル:「ずっと」
夜高ミツル:「ずっと、ずっと」
真城朔:「……俺は」
真城朔:「ミツを、困らせる……」
夜高ミツル:「そんなことない」
夜高ミツル:「困ってなんかない」
真城朔:「面倒」
真城朔:「かける、し」
夜高ミツル:「いいよ」
夜高ミツル:「真城のためにできること」
夜高ミツル:「なんでも、したいから」
真城朔:「なんでも、とか」
真城朔:「簡単に」
真城朔:「……っ」
夜高ミツル:「できないことは、できないけど」
夜高ミツル:「できることなら、なんでも」
夜高ミツル:「全部、したいよ」
真城朔:「…………」
真城朔:唇を噛む。
真城朔:昨日は散々に重ねた唇を噛み締めて、泣いている。
夜高ミツル:「頼ってほしい」
夜高ミツル:「迷惑だとか、面倒だとか」
夜高ミツル:「そんなの、気にしなくていい」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……いいって言っても、難しいかもだけど」
真城朔:顔を覆う。
夜高ミツル:「俺は、真城のために」
真城朔:「……幸せに」
夜高ミツル:「できることがあるのが、嬉しいから」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「なって」
真城朔:「ほしいんだ……」
夜高ミツル:「……俺の幸せは」
夜高ミツル:「真城、だよ」
真城朔:「…………」
真城朔:覆い隠した下でぐしゃぐしゃに涙を流して、
真城朔:頬を顎を伝い落ちて、浴室の床を濡らす。
夜高ミツル:「真城と一緒じゃないと」
夜高ミツル:「幸せになんかなれない」
真城朔:「……っ」
夜高ミツル:「ずっと、一緒にいて」
夜高ミツル:「それが」
夜高ミツル:「俺の幸せ、だし」
夜高ミツル:「真城のことも」
夜高ミツル:「幸せに、したい」
真城朔:「ばか」
真城朔:「ばか……っ」
夜高ミツル:「バカでいいよ」
夜高ミツル:「それでいい」
夜高ミツル:「真城がいれば、」
夜高ミツル:「なんだって」
夜高ミツル:「なんだっていい」
真城朔:あとはもう、押し込めたような嗚咽しか出てこない。
真城朔:顔を隠したまま項垂れて、ぐすぐすと泣いている。
夜高ミツル:隔てるもののないままに、身体を密着させて、
真城朔:「っ」
夜高ミツル:体温が、鼓動が伝わる。
真城朔:ぎくりと背が強張った。
夜高ミツル:昨日に比べると、穏やかなそれ。
真城朔:涙に乱れた呼吸がさらに引き攣って、
真城朔:けれど、
真城朔:ミツルの鼓動に同調するように、少しずつ鎮まっていく。
夜高ミツル:鎮まったのを見て、腕を緩めて。
夜高ミツル:「……身体」
夜高ミツル:「洗うか」
真城朔:「…………」
真城朔:無言のままに頷いた。
夜高ミツル:「ん」
夜高ミツル:身体を離す。
真城朔:俯いている。
真城朔:腰を下ろしたバスチェアに溢れた精液が溜まって床へと流れている。
夜高ミツル:離れると、床に溜まる白濁が目について、
夜高ミツル:「……あ」
夜高ミツル:「ああ」
夜高ミツル:「そうだ」
夜高ミツル:「ゴム……」
夜高ミツル:「してなくて……」
真城朔:「……?」
夜高ミツル:「……ごめん」
真城朔:ゆっくりと顔をあげた。
夜高ミツル:「いや、だから」
夜高ミツル:「ゴムが」
夜高ミツル:「生で……」
真城朔:濡れた涙をぱちぱちと瞬いて。
真城朔:「……別に」
真城朔:「大丈夫だし……」
夜高ミツル:「……そ、う?」
真城朔:「女だと困るけど……」
夜高ミツル:「いや、でも」
夜高ミツル:「まあ、それは……」
真城朔:「そうでもなかった、し」
夜高ミツル:「そこは、そう」
夜高ミツル:「だけど……」
真城朔:「?」
真城朔:首を傾げた。
夜高ミツル:「病気とか……」
真城朔:「…………」
真城朔:ぽろぽろ泣き始めた。
真城朔:また俯く。
夜高ミツル:「え、いや」
真城朔:膝を擦り寄せて、
真城朔:唇を震わして、言葉を探していたが。
夜高ミツル:「これは、真城がどうとかじゃなくて」
夜高ミツル:「俺から、とかもあるかもしれないわけで」
真城朔:「……俺は……」
真城朔:「今まで」
真城朔:「そういうの」
真城朔:「なかった、から」
真城朔:「……人間じゃないから……」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……あ」
夜高ミツル:「そ、うか」
真城朔:「でも」
真城朔:「俺経由、で」
真城朔:「……とか」
真城朔:「までは」
真城朔:「よくは……」
真城朔:「ちゃんと……」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……ん」
真城朔:ぼろぼろ泣いている。
真城朔:「……ごめん……」
真城朔:「やっぱ、り」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……いや、」
真城朔:「よくない……」
真城朔:「俺」
真城朔:「だって」
真城朔:「…………」
真城朔:「散々……」
夜高ミツル:「……俺は」
夜高ミツル:「また、したい」
夜高ミツル:「真城と」
真城朔:「…………」
真城朔:口を噤んでいる。
夜高ミツル:「……したいし」
夜高ミツル:「する、から」
夜高ミツル:言って、改めて立ち上がる。
真城朔:「……?」
夜高ミツル:シャワーを取って、お湯を出して
真城朔:おそるおそるに見上げた。
真城朔:ミツルのすることを見ている。
夜高ミツル:「とりあえず、洗って」
夜高ミツル:「きれいにして」
夜高ミツル:「それで、また話そう」
真城朔:「…………」
真城朔:「ん……」
真城朔:頷いた。
夜高ミツル:シャワーで互いの身体を軽く流す。
真城朔:ぼんやりとされるがままにしている。
夜高ミツル:それから、ボディータオルを取って、泡立てて。
夜高ミツル:もはや確認もとらずに、それを
夜高ミツル:真城の身体に押し当てる。
真城朔:「ん」
真城朔:それを受け入れる。
夜高ミツル:こびりついた行為の痕を落としていく。
真城朔:僅かにミツルへと身を傾けて、
真城朔:ぼんやりと洗われるに任せているが。
真城朔:「…………」
真城朔:「……なんか」
夜高ミツル:やわやわと、泡だらけのタオルが真城の身体を這う。
夜高ミツル:「んー?」
真城朔:「そういうやつ」
真城朔:「みたいだ……」
真城朔:余計なことを言い出した。
夜高ミツル:「そういう……?」
真城朔:「ソープみたいな……」
夜高ミツル:ピンと来ていない。
夜高ミツル:「ソープ」
夜高ミツル:「……えっ」
夜高ミツル:「いや」
夜高ミツル:「えっ?」
夜高ミツル:来た。
真城朔:「?」
夜高ミツル:「いや、びっくりして……」
真城朔:「そう……」
夜高ミツル:「そういう」
夜高ミツル:「そういうつもりでは」
真城朔:「うん」
夜高ミツル:「……はー……」
夜高ミツル:「つもりじゃなくてもさあ」
夜高ミツル:「意識するだろ」
夜高ミツル:「言われると」
夜高ミツル:「言われたらさあ」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:手を動かしながら、ぶつぶつと零している。
真城朔:「……ええと」
真城朔:ミツルを見ている。
真城朔:「…………」
真城朔:「ごめん……」
夜高ミツル:「……いや」
夜高ミツル:「責めてるんじゃなくて……」
夜高ミツル:「ちがくて」
真城朔:しょんぼりしている。
夜高ミツル:昨日までの切実な欲はないとはいえ、
夜高ミツル:真城のことを、そういう目で
夜高ミツル:見ていることには、変わりなく。
真城朔:白い肌に泡が伝っている。
真城朔:最初の日にあったような痛々しい傷はなく、
真城朔:代わりにあれらと比べたらほんの些細な、
真城朔:指の圧迫による赤い痕。
夜高ミツル:泡を纏っただけの素肌を見ていると、思い出してしまう。
夜高ミツル:それは、昨日散々した行為のこともだし
夜高ミツル:このホテルに着いた日、
夜高ミツル:この場所で、真城が見せた姿も。
夜高ミツル:こうしていると、やはり思い出されてしまう。
真城朔:あの日と同じようにだらりと腕を落としている。
真城朔:「…………」
真城朔:「……中」
夜高ミツル:「……ん?」
真城朔:「先に」
真城朔:「きれいに……」
夜高ミツル:「あ」
夜高ミツル:「うん」
夜高ミツル:「えーと……」
真城朔:よろよろと立ち上がる。
夜高ミツル:横から身体を支える。
真城朔:「ん」
夜高ミツル:「……シャワー、」
夜高ミツル:「使う?」
真城朔:頷く。
夜高ミツル:「ん」
真城朔:「流したままで」
真城朔:「よくて」
真城朔:「ええと……」
夜高ミツル:シャワーヘッドを取り、お湯を出す。
夜高ミツル:「ど、う、したら」
夜高ミツル:「いい?」
真城朔:「…………」
真城朔:「引っかけて」
真城朔:シャワーフックを示す。
夜高ミツル:真城の指示通りにする。
真城朔:「背中に」
真城朔:「当たるくらいで……」
夜高ミツル:「ん」
真城朔:「……立ったまま」
真城朔:「する、から」
夜高ミツル:量を調整して、真城にお湯が届くようにして。
真城朔:ミツルの肩に片手をかけて、捕まる。
夜高ミツル:「……ん」
夜高ミツル:捕まられて、真城の身体を支えて。
真城朔:背中からシャワーの温水を浴びながら、
真城朔:もう片方の手を自分の尻に這わせ、
真城朔:「……ん」
真城朔:「んん……っ」
夜高ミツル:「…………」
真城朔:シャワーの水音に紛れて、
真城朔:水音が立った、
真城朔:ような、
真城朔:気がした。
真城朔:ミツルの肩に縋って、息を漏らす。
夜高ミツル:吐息が肌に当たる。
真城朔:背を叩く温水に紛れて垂れ落ちるものを目視で確認することはできないが、
真城朔:時折ふるりと真城は身体を震わせて。
真城朔:「は」
真城朔:「ん……」
真城朔:「っ」
夜高ミツル:漏れる声が、耳をくすぐる。
真城朔:「……はあ」
真城朔:熱が、
真城朔:上がるような気がする。
夜高ミツル:じわじわと、身の内から炙るような熱が。
真城朔:湯気の籠もる中でも、吐息の熱さは際立って、
夜高ミツル:それを受ける度に、呼応するように熱が高まって。
真城朔:不意に真城の膝ががくりと折れる。
夜高ミツル:「……っ、」
夜高ミツル:崩れ落ちる真城の身体を、支える。
真城朔:支えられて、
真城朔:抱き止められるかたちで密着する。
夜高ミツル:「真、城?」
真城朔:「っ」
真城朔:「ミツ」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:密着すれば、
夜高ミツル:硬さを持ち始めた中心が、真城の身体に触れる。
真城朔:「…………」
真城朔:抱き止められたまま、ちろりとミツルの顔を窺う。
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:散々したあとなのに、と
夜高ミツル:我ながら、呆れてしまう。
真城朔:「……そ」
真城朔:「れ」
真城朔:「だから」
夜高ミツル:「…………う、ん」
真城朔:「俺のせい、で……」
真城朔:「…………」
真城朔:黙り込んだ。
真城朔:逡巡している。
夜高ミツル:「いや、」
夜高ミツル:「だから、その」
夜高ミツル:「……真城」
夜高ミツル:「の、ことが」
夜高ミツル:「好き、だから」
夜高ミツル:「こう……」
夜高ミツル:「見て、」
夜高ミツル:「たら……」
夜高ミツル:「……」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「また……」
夜高ミツル:「……した、く……」
真城朔:「…………」
真城朔:ぐるぐる。
真城朔:している。
夜高ミツル:「……いや、あの」
夜高ミツル:「でも」
夜高ミツル:「疲れてる、だろ」
夜高ミツル:「真城」
夜高ミツル:「気にしなくて、」
夜高ミツル:「いいから」
夜高ミツル:「ほっとけば、まあ」
真城朔:「……で、も」
夜高ミツル:「おさまるし……」
真城朔:「ミツが……」
真城朔:「…………」
真城朔:したいなら、と口走りかけて、
真城朔:先程言ったことを思い出して二倍ぐるぐるしている。
夜高ミツル:「だ、いじょうぶ」
夜高ミツル:「大丈夫、」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「だから」
真城朔:「素股……」
真城朔:「あ」
真城朔:「口……?」
真城朔:ぐるぐる。
夜高ミツル:「……へ?」
夜高ミツル:「あ、いや」
夜高ミツル:「ほんとに」
夜高ミツル:「だいじょうぶ」
夜高ミツル:大丈夫、と繰り返しながらも、
夜高ミツル:そこは、硬さを保ったままに、
真城朔:「…………」
夜高ミツル:抱き止めた真城の身体も、離せないでいる。
真城朔:ゆっくりとミツルの腕からすり抜けて、
真城朔:膝をつく。
夜高ミツル:「……え、」
夜高ミツル:「あ?」
夜高ミツル:「真城?」
夜高ミツル:不意をつかれて、呆けたようにそれを見下ろし
真城朔:ミツルの中心に手を触れて、
夜高ミツル:「……う、」
夜高ミツル:びくりと、身体が震える。
真城朔:指で裏筋を辿りあげて反りを確認しながら、
真城朔:先端を食んだ。
夜高ミツル:「っあ、」
真城朔:唇が触れる。
夜高ミツル:「ま、しろ」
真城朔:接吻のように吸い上げて、
夜高ミツル:「いっ、い、から」
真城朔:ちゅ、と小さな音を立てる。
真城朔:熱い。
真城朔:唇も、
真城朔:触れているものも。
夜高ミツル:ゾクゾクと、快感が背筋を走る。
真城朔:控えめな接吻から、急に大きく口を開くと、
真城朔:ぐっと喉奥までそれを咥え込んだ。
夜高ミツル:「っ、う」
真城朔:ミツルに触れられたことのある上顎の粘膜が亀頭を擦って、
夜高ミツル:「ん」
真城朔:狭い喉を塞ぐ。
真城朔:「ん、……っ」
真城朔:「んく」
真城朔:「ぅ」
夜高ミツル:「っあ、ま、しろ」
真城朔:唾液の絡んだ舌が裏を撫ぜて、
夜高ミツル:秘所とは全く違う感触。
真城朔:頬を窄めながら全体を竿を包み込む。
夜高ミツル:それに、身体をわななかせ、
夜高ミツル:止めようと真城の頭に置いた手も、力ない。
真城朔:喉を鳴らして吸い上げて、さらにその圧迫感を強める。
真城朔:そのまま頭ごとにゆっくりと前後に動かして、
夜高ミツル:荒く息をして、ただ真城にされるがままになっている。
夜高ミツル:「っ、う」
夜高ミツル:「は」
真城朔:性交に似た、粘膜と唾液による摩擦。
真城朔:ゆっくりとそれを繰り返しながら、
真城朔:ふと瞼を上げて、
真城朔:ちらりとミツルの顔を窺った。
夜高ミツル:何もできず、ただただ快楽を与えられている。
真城朔:目が合う。
夜高ミツル:「……っ、は、ま、しろ」
真城朔:そのまままた深くまで咥えこんで、
夜高ミツル:目が合って、それだけで頭がしびれるようで。
真城朔:指で根本を扱きながら、一際強く肉杭を吸い上げた。
夜高ミツル:「────……っ!」
夜高ミツル:それで、あっけなく達してしまう。
真城朔:「っ!」
真城朔:目を見開くも、口を離さない。
夜高ミツル:「……っ、はー……」
夜高ミツル:「あ……」
夜高ミツル:「あ、わ」
夜高ミツル:「ごめ、」
夜高ミツル:「吐いて」
真城朔:吐き出されたものをそのまま喉に受け止めて、
夜高ミツル:「いいから」
真城朔:口を閉じて、もごもごと唇を動かしている。
真城朔:じっとミツルを見上げた。
夜高ミツル:「ご、ごめん……」
夜高ミツル:「口に……」
真城朔:不意にぱ、と唇を開いて、
夜高ミツル:「真城……?」
真城朔:受け止めたものを見せつける。
真城朔:舌に。
夜高ミツル:「……っ、」
真城朔:唾液と混ざって泡立ったそれを見せてから、
真城朔:口を閉じて、飲み込んだ。
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……な、」
夜高ミツル:「あ」
夜高ミツル:口をぱくぱくと開閉させている。
真城朔:あまりに自然に一連の動作を終わらせたが。
真城朔:「…………」
真城朔:「……あ」
夜高ミツル:自分が出したものを、
夜高ミツル:受け止めて、飲み込まれている。
真城朔:「え」
真城朔:「……っと」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:その光景が、目に焼き付いている。
真城朔:膝をついたまま。
真城朔:ミツルを見上げて、
真城朔:視線を彷徨わせている。
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……えーと」
夜高ミツル:「その」
夜高ミツル:「……真城」
真城朔:ぺたんとしゃがみこんだ。
真城朔:「……う」
真城朔:「ううー……」
真城朔:項垂れた。
夜高ミツル:目線を合わせるように、座り込む。
夜高ミツル:「真城」
夜高ミツル:「気持ち、よかった」
真城朔:びくっと肩を強張らせた。
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……ありがと」
真城朔:「…………」
真城朔:肩を竦めたまま、
真城朔:躊躇いがちに頷いた。
夜高ミツル:頷いた真城を立たせて、再びバスチェアに座るように促す。
真城朔:すとんと腰を落として、俯いている。
夜高ミツル:放っていたタオルを持ち直して、身体を洗うのを再開させる。
真城朔:悄然とされるがままにしている。
夜高ミツル:真城の背後で片膝を立てて、
夜高ミツル:背中にタオルを当てて、泡で擦る。
真城朔:後ろめたさ故にか、背中が丸まっている。
夜高ミツル:浮いた背骨を、肩甲骨をなぞって、
真城朔:「ん……っ」
夜高ミツル:すくめられた肩をほぐすように行き来させて、
夜高ミツル:肩を通って、そのまま首筋を撫でる。
真城朔:腰が浮きかけて、それを抑える。
真城朔:「ひゃ」
真城朔:「ふ、……う」
真城朔:「ぅ」
真城朔:「…………」
真城朔:「うう……」
真城朔:うなだれた。
夜高ミツル:「……なるべく」
夜高ミツル:「はやく、終わらせる」
夜高ミツル:「ので……」
夜高ミツル:あの時とは違って、今は
夜高ミツル:さすがに、
夜高ミツル:真城が示す反応の、
夜高ミツル:その意味が、分かるので。
真城朔:「…………」
真城朔:うなだれたまま、頷いた。
真城朔:太腿の上できゅっと拳を握る。
夜高ミツル:言葉通り、執拗にならないように注意しながら身体を洗う。
夜高ミツル:背中が終われば、今度は右腕を取って、
夜高ミツル:「……俺は」
真城朔:息を吐く。
真城朔:「……っ?」
夜高ミツル:そうしながら、ぽつりと言葉を漏らす。
夜高ミツル:「俺は、こうして」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「触って」
夜高ミツル:「それで、真城が」
夜高ミツル:「嬉しく思ってくれたり」
夜高ミツル:「……気持ちよく、とか」
夜高ミツル:「なってくれたら」
夜高ミツル:「それは」
真城朔:「……うう」
夜高ミツル:「俺は、」
夜高ミツル:「俺も、嬉しい」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「から……」
夜高ミツル:もはや何が原因でか分からないが、赤く染まった顔で
夜高ミツル:そう言いながら、腕を洗っていく。
真城朔:唇を引き結んでいる。
真城朔:居心地悪げに視線が彷徨った。
真城朔:洗われていない方の拳をぎゅっと握りしめている。
真城朔:触れられている方の腕を意識して脱力させながら、
真城朔:それでも時折、どうしようもなく強張って、震える。
夜高ミツル:腕にタオルを滑らせ、そうしながら
夜高ミツル:反対の手にも泡を取って、真城の掌を包む。
真城朔:「はあ、っ」
真城朔:「……う」
真城朔:大きく息を吐いてから、詰める。
夜高ミツル:指先まで、愛おしむように泡で擦ってから
夜高ミツル:そっと、手を離す。
真城朔:離された腕が降りる。
夜高ミツル:腰を浮かせて、反対側に移動する。
夜高ミツル:今度は左腕を取って、同じように。
真城朔:「んん……」
夜高ミツル:肩から二の腕をタオルで擦り、
真城朔:「は、……く」
夜高ミツル:そうしながら、タオルを持っていない手では
真城朔:「んんっ」
真城朔:「んー…………」
夜高ミツル:真城の掌を取って、やわやわと泡で包む。
真城朔:取られた手が一瞬ミツルの手を握り返して、
真城朔:すぐにぱっと力が抜ける。
夜高ミツル:応えるように、ミツルの手にも力が入って、
夜高ミツル:それから、また洗うのを再開する。
夜高ミツル:真城の手の、細い指先までを泡だらけにすると、
夜高ミツル:手を離す。
真城朔:「…………」
真城朔:離された手が、また落ちた。
夜高ミツル:「じゃあ、あと」
真城朔:泡だらけになった腕を太腿の間に挟み込む。
夜高ミツル:「脚、を……」
真城朔:「……う」
真城朔:「うう」
真城朔:なんとも言えない嗚咽があがった。
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「洗う、ぞ」
夜高ミツル:と声をかけて、
夜高ミツル:太ももに、タオルを這わせる。
真城朔:びくっと腰が跳ねる。
夜高ミツル:タオルが太腿を行き来して、
夜高ミツル:洗いながら、徐々に内腿へと向かう。
真城朔:「ふ」
真城朔:「ぁう……っ」
真城朔:ぞくぞくと膝を擦り合わせていたが、
真城朔:内腿を洗われれば、それに従って開かざるを得ないで。
夜高ミツル:内腿にも、どちらのものともしれない体液が残っている。
夜高ミツル:それを、なるべく手早く洗い落とす。
真城朔:結局熱をもってしまっている真城自身までもう隠せずに、ぐずぐずと顔を伏せている。
夜高ミツル:反対の腿も洗って、
真城朔:背を丸めて震えている。
夜高ミツル:情交の痕を擦り落とすと、タオルが下がり
夜高ミツル:膝から下を洗っていく。
真城朔:深く息を吐く。
夜高ミツル:脛をタオルで擦り、
真城朔:「んっ」
夜高ミツル:そうしながら、腕にしたのと同様に、
夜高ミツル:足を取って、力の篭もる足指に手を這わせる。
真城朔:丸まった指先。
夜高ミツル:丸まった指先を、足の裏を、
真城朔:触れるたびにきゅっと力が入って、
真城朔:意識してそれを緩めて、また。
夜高ミツル:その意図はなくとも、くすぐるように泡だらけの指が滑る。
真城朔:「はっ」
真城朔:「は、……ぅ」
真城朔:「ぅ……」
夜高ミツル:足の指先まで洗って、それが終わると反対の足を取って。
夜高ミツル:タオルと手を使って、清めていく。
真城朔:「んん……っ」
真城朔:指の間を擽られるたび肩が震えた。
夜高ミツル:ぬるついた指先が、足の皮膚を滑って、
夜高ミツル:指の間を通り、
真城朔:「ん、っは」
真城朔:「ぁ」
夜高ミツル:小指の先まで洗い終わると、足が降ろされる。
真城朔:「あ、……っ」
真城朔:結局、
真城朔:肩で息をしている。
夜高ミツル:洗い終わっても、真城の前に座ったまま
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「腕」
真城朔:項垂れている。
真城朔:「う」
夜高ミツル:「どけて」
真城朔:「うー…………」
真城朔:かなり切なげに呻いていたが。
夜高ミツル:「他、洗い終わったから」
夜高ミツル:「……それ」
夜高ミツル:「出さないと、
夜高ミツル:「きつい、だろ」
真城朔:「い」
真城朔:「……い、から」
真城朔:「別に……」
夜高ミツル:「……してもらったし」
真城朔:「しっ」
真城朔:「したかった、だけ」
真城朔:「だから」
真城朔:「あれは」
夜高ミツル:「俺も」
真城朔:「別に」
夜高ミツル:「したい」
真城朔:「……う」
真城朔:「うう…………」
真城朔:「じ」
真城朔:「じぶん、で」
真城朔:「できる、し」
夜高ミツル:「……」
真城朔:「できる……」
夜高ミツル:降ろされたままの腕の隙間に、
夜高ミツル:自身の腕を差し込む。
真城朔:「ひッ」
真城朔:腰が逃げを打って、引かれる。
夜高ミツル:反対の手を太腿にかけて、真城の身体を押し留めて
真城朔:「や」
夜高ミツル:差し込んだ手で、真城の中心に触れる。
真城朔:「あ、あっ」
真城朔:「あ……ッ」
夜高ミツル:形を確かめるようになぞったあと、
夜高ミツル:ゆるく、そこを握り込む。
真城朔:ぞくぞくと膝が揺れる。
真城朔:握り込まれた熱が震えて、
真城朔:快感に耐えるように背を丸めて、肩を跳ねさせて、
夜高ミツル:加減を確かめるように何度か手を滑らせてから、
真城朔:結局ミツルの肩に顔を埋めて、息を吐く。
真城朔:「ふッ、う」
夜高ミツル:握る力を強めて、そこを愛撫する。
真城朔:「うぅ、あ」
夜高ミツル:泡だらけの手が、
真城朔:「あっ」
夜高ミツル:真城の中心を扱く。
真城朔:「は、……」
夜高ミツル:「……言ったろ」
真城朔:「ひぁ」
夜高ミツル:「俺、真城が」
夜高ミツル:「気持ちよくなってくれると、それが」
真城朔:「あっ、んん」
夜高ミツル:「嬉しいから」
真城朔:「う」
夜高ミツル:囁くように言いながら
真城朔:「うぅ……っ」
真城朔:「ミ、ツ」
夜高ミツル:手の動きを徐々に早めていく。
夜高ミツル:「真城」
真城朔:「ミツ……っ」
真城朔:刺激に応じて腰の震えが増して、
真城朔:ぞわぞわと背が粟立って、
真城朔:結局頑なに脚の間に挟み込まれたままの腕が、指先がきゅ、と握られて。
真城朔:ミツルの肩に完全に頭を委ねてしまう。
真城朔:背中を大きく上下しながら、
夜高ミツル:やがて、手に一際力が籠もり、
真城朔:きつく目を伏せて、息を漏らして。
真城朔:「あ」
夜高ミツル:促すように、強く扱き上げる。
真城朔:「あぁ、……ッ」
真城朔:意図に従うままに、あっけなく果てる。
夜高ミツル:残ったものを絞り出すように、何度か手を往復させて、
真城朔:反り返ったものが精を吐いて、
真城朔:濡れた浴室の床を汚した。
夜高ミツル:それから、手を離す。
真城朔:「は、あっ」
真城朔:「あう」
真城朔:「う」
真城朔:「うぅ……」
真城朔:とろとろと絞り出されながら、
真城朔:ミツルの肩口でぐずっている。
夜高ミツル:よしよし、と肩にもたれかかる真城の頭を撫でる。
真城朔:「っ」
真城朔:「……こ」
真城朔:「こん、な」
真城朔:「簡単に……」
真城朔:べそついている。
夜高ミツル:「……俺のさっきのを見て、」
夜高ミツル:「それ、言う……?」
真城朔:「…………?」
夜高ミツル:「いや、俺だって真城に、」
夜高ミツル:「されたら、」
夜高ミツル:「すぐ、だし……」
夜高ミツル:「…………」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「お互い様と、」
夜高ミツル:「いうことで」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「どう、だ……?」
真城朔:小さく頷いた。
夜高ミツル:頷きを返して、
夜高ミツル:名残を惜しむようにまた真城の頭を撫でてから
夜高ミツル:身体を離す。
真城朔:泡だらけでじっとミツルを見ている。
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:自分の方が再び硬さを持ちつつあるのは無視して、
夜高ミツル:バスチェアは一つしかないので床に座り
夜高ミツル:今度は自分の身体にタオルを当てる。
真城朔:ぼんやりと見つめている。
真城朔:概ね食事をするミツルを見ているときと同じような眼差し。
夜高ミツル:視線を受けながら、わしゃわしゃと身体を洗っていく。
夜高ミツル:真城に対してしていたのよりは、幾分適当に。
真城朔:ぼや……
真城朔:じー……
夜高ミツル:途中でボディーソープを足したりしつつ。
夜高ミツル:真城にそうするのよりは遥かにはやく、全身を洗い終えた。
夜高ミツル:よいしょ、と立ち上がって
真城朔:それをぼんやりと見ていた。
夜高ミツル:フックにかけたままにしていたシャワーを手に取る。
夜高ミツル:お湯を出し、真城の方を向いて
夜高ミツル:「流すぞ」
真城朔:「ん」
夜高ミツル:と声をかけて、
夜高ミツル:真城の身体に、温水を当てる。
真城朔:心地よさそうに流されている。
夜高ミツル:全身を包む泡を、お湯が洗い流していく。
真城朔:泡に隠されていた裸身が再びあらわになっていく。
夜高ミツル:シャワーの位置や角度を変えていき
真城朔:首を傾けたりなどしていい具合にやりつつ。
夜高ミツル:その白い肌に纏っていた泡がすっかり流れ落ちたのを確認すると
真城朔:ほうと息を吐いて。
夜高ミツル:今度は自分の泡を流していく。
真城朔:ぽたぽたとしずくを落としながらまたそれを見ている。
夜高ミツル:お湯を止めて、シャワーをフックに戻し。
夜高ミツル:今度はシャンプーを手に取る。
夜高ミツル:「次頭なー」
真城朔:こくんと頷いた。
夜高ミツル:言いながら泡を立て、
夜高ミツル:大人しく身を委ねる真城の頭を洗い、
夜高ミツル:自分の頭もそうして、
夜高ミツル:また流し。
真城朔:あわあわ
真城朔:ばしゃー
真城朔:そういう動物みたいにおとなしくしている。
夜高ミツル:互いにすっかりきれいになって、浴室を出る。
真城朔:ぼんやりしている。
夜高ミツル:ぼんやりしている真城を、バスタオルで包む。
夜高ミツル:自分の方は肩にバスタオルをかけただけで、水滴を垂らしながら、
夜高ミツル:真城の身体を拭いていく。
真城朔:「…………」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「んー?」
真城朔:「身体、冷える」
夜高ミツル:手を動かしながら応える。
夜高ミツル:「ん」
夜高ミツル:「まあちょっとくらい」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「大丈夫大丈夫」
真城朔:「俺の方が」
真城朔:「平気だから……」
真城朔:「ミツを先に……」
夜高ミツル:「んー……」
夜高ミツル:そうしたいからで押し切ろうかとしたが
夜高ミツル:心配させるのも本意ではないので。
夜高ミツル:「……わかった」
真城朔:ぽたぽた。
真城朔:「ん」
真城朔:少し満足げに頷いた。
夜高ミツル:手を止めて、バスタオルを真城に渡して。
真城朔:渡されたバスタオルを被る。
夜高ミツル:自分のタオルを取って、頭を拭く。
真城朔:見ている。
夜高ミツル:わしわし。
夜高ミツル:見られてるな……。
真城朔:なんとなく頭を自分でもぼんやりわしわししている。
夜高ミツル:見られてるな、と思いながら身体の方も拭いていく。
夜高ミツル:狩りの中でついた傷跡が、身体に残っている。
真城朔:が、途中で疲れたのか、腕をおろした。
真城朔:じっとミツルを見ている。
夜高ミツル:切り傷、擦過傷。
夜高ミツル:首筋には、小さな二つの穴。
夜高ミツル:そして脇腹に、一際大きな傷跡。
真城朔:「…………」
真城朔:バスタオルを被ったまま、ぽろぽろと泣き出した。
夜高ミツル:比較的新しいその傷は、縫った痕もまだ生々しい。
夜高ミツル:「……?」
夜高ミツル:「真城……?」
真城朔:「…………」
真城朔:「俺の……」
真城朔:「俺」
真城朔:「……ミツを……」
夜高ミツル:「うん」
夜高ミツル:促すように、相槌を打つ。
夜高ミツル:打ってから、真城の視線を辿って、
真城朔:泣いている。
夜高ミツル:自身の脇腹に目をやる。
夜高ミツル:「……あー」
夜高ミツル:「これのことなら、もう」
夜高ミツル:「大丈夫」
夜高ミツル:「治ったし」
真城朔:「治ってない……」
真城朔:「残ってる……」
真城朔:「いっぱ、……っ」
真城朔:「いっぱい……」
夜高ミツル:「残るけど」
夜高ミツル:「残ったけど、それは」
真城朔:「俺のせいで……」
夜高ミツル:「いいんだ」
真城朔:「よくない……」
真城朔:「俺」
真城朔:「ミツを」
真城朔:「殺す、ところで」
真城朔:「……それは」
夜高ミツル:「……うん」
真城朔:「何回も……」
夜高ミツル:「でも、生きてる」
真城朔:「…………」
真城朔:「結果論……」
夜高ミツル:「いいだろ別に」
夜高ミツル:「生きてるんだから」
夜高ミツル:「俺も、真城も」
真城朔:「…………」
真城朔:水滴を落としながら眉を寄せている。
夜高ミツル:「それが、一番」
夜高ミツル:「一番大事だ」
夜高ミツル:「真城は俺を殺せなかったし」
夜高ミツル:「俺も、真城を殺せなかった」
真城朔:「…………」
真城朔:「殺そうとしたのに……」
夜高ミツル:「でも生きてる」
夜高ミツル:「一緒にいて」
夜高ミツル:「これからも、そうしてられる」
真城朔:「そんなの」
真城朔:「……都合が」
真城朔:「………………」
夜高ミツル:「……何言われても」
夜高ミツル:「俺は、真城から」
夜高ミツル:「離れる気」
夜高ミツル:「ないから」
真城朔:反論できなくなって、泣いている。
夜高ミツル:「……身体、冷えるぞ」
夜高ミツル:新しいナイトウェアを真城に羽織らせる。
真城朔:抵抗はしないが。
真城朔:「俺は」
真城朔:「大丈夫だし……」
夜高ミツル:「ん」
夜高ミツル:応えながら、さっさとボタンを留めてしまい、
真城朔:「濡れてても」
真城朔:「冷えても」
夜高ミツル:自分も、ナイトウェアに袖を通す。
真城朔:「……汚れてても……」
真城朔:「別に……」
夜高ミツル:「よくない」
夜高ミツル:「俺が気にする」
夜高ミツル:「全然良くない」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:前を閉じると、傷跡も隠れて見えなくなる。
夜高ミツル:「俺が、真城にそうしたいから」
真城朔:「……うう」
夜高ミツル:「邪魔じゃないなら」
夜高ミツル:「受け取ってくれると」
夜高ミツル:「うれしい」
真城朔:「…………」
真城朔:「邪魔、なんて」
真城朔:「はず……」
夜高ミツル:「……なら、よかった」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「じゃあ」
夜高ミツル:「これからも、そうする」
真城朔:また嗚咽を漏らした。
夜高ミツル:まだ水気を含む頭に手を乗せて、撫でる。
夜高ミツル:「……髪」
夜高ミツル:「ドライヤー、するか」
真城朔:「…………」
真城朔:「……ん」
真城朔:控えめに頷いた。
夜高ミツル:それを見て、満足げにミツルも頷いた。
真城朔:ミツルに従って部屋へと戻る。
真城朔:そのまま椅子に腰掛けて、
真城朔:後はもう、何もかもをなすがままに委ねた。
夜高ミツル:カチ、とドライヤーのスイッチを切る。
夜高ミツル:髪に触れて、水分の残っていないのを確認して、
夜高ミツル:ドライヤーをサイドボードに置く。
真城朔:うとうとしている。
夜高ミツル:「……起きてるかー?」
真城朔:「ん……」
真城朔:「起きてる」
夜高ミツル:「ん」
真城朔:やや浮いた声だが。
夜高ミツル:「やっぱ、やりすぎたよな、昨日……」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:ごめんな、と頭を撫でて
夜高ミツル:「今日は休むか」
真城朔:「まあ……」
真城朔:「それも」
真城朔:「俺の」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……いや」
真城朔:「ん」
夜高ミツル:「まあ、俺も、」
夜高ミツル:「かなり」
夜高ミツル:「かなり、だったし……」
真城朔:「かなり」
真城朔:ミツルを振り返る。
真城朔:じ、と顔を見上げた。
夜高ミツル:「……こう、」
真城朔:「こう」
夜高ミツル:「もっと真城と、」
夜高ミツル:「ずっと」
夜高ミツル:「してたいって、」
夜高ミツル:「そう……いう感じで」
真城朔:「…………」
真城朔:じー。
夜高ミツル:「止めらんなかったな、と」
真城朔:「……ふつう」
真城朔:「普通は……」
真城朔:「疲れたら、止まるんだと」
真城朔:「思うけど」
真城朔:椅子に座ったまま膝を抱えた。
夜高ミツル:「うん」
真城朔:ナイトウェアの裾がずり上がって白い太腿が露わになる。
真城朔:「なんか」
真城朔:「その」
真城朔:「……結構」
真城朔:「したい、限り」
真城朔:「続いてしまう……と」
真城朔:「いうか…………」
夜高ミツル:「したい限り……」
真城朔:膝に顔を埋めた。
真城朔:「だから」
真城朔:「それが」
真城朔:「俺の……」
真城朔:「……」
真城朔:「影響が…………」
真城朔:どんよりしている。
夜高ミツル:「……ん、そうか」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「俺の方は、大丈夫」
真城朔:「……うう」
夜高ミツル:「大丈夫だけど」
夜高ミツル:「真城に負担になるのは嫌だから」
夜高ミツル:「俺の方で、気をつけてみる」
真城朔:「俺は」
真城朔:「別に」
真城朔:「そんなのは、どうでも……」
夜高ミツル:「よくない」
真城朔:「頑丈だし……」
真城朔:「そんなんじゃ」
真城朔:「死なないし」
夜高ミツル:「でも今そうなってるだろ」
真城朔:「今は」
真城朔:「…………」
真城朔:「その」
真城朔:「……それだけじゃ」
真城朔:「ない」
真城朔:「ので……」
夜高ミツル:「……あー」
夜高ミツル:「やっぱ、血」
夜高ミツル:「……足りてなかった?」
真城朔:「…………」
真城朔:ばつが悪そうな顔をしている。
真城朔:ぎゅ、と膝を抱える。
夜高ミツル:「……いる?」
真城朔:「…………」
真城朔:「大丈夫……」
夜高ミツル:「……俺は」
夜高ミツル:「真城がはやく」
夜高ミツル:「元気になる方が」
夜高ミツル:「嬉しいんだけど」
真城朔:困った顔をした。
真城朔:「……寝てれば」
真城朔:「…………」
真城朔:「うう」
真城朔:唸った。
夜高ミツル:「……まあ、真城の身体のことだから」
夜高ミツル:「本当に大丈夫なのかそうじゃないのか」
夜高ミツル:「俺には、ちゃんと分からないけど」
夜高ミツル:「大丈夫なら、いいし」
夜高ミツル:「そうじゃないなら」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「遠慮はするなよ」
真城朔:「……また」
夜高ミツル:「俺は」
真城朔:「?」
夜高ミツル:「真城に頼られたほうが嬉しいんだから」
真城朔:「……………」
真城朔:眉根を寄せている。
真城朔:「……え、と」
真城朔:「うう」
夜高ミツル:「ん」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:膝を抱える真城の頭を撫でる。
真城朔:撫でられている。
真城朔:「その」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「ちゃんと」
真城朔:「血を止める」
真城朔:「準備とか……」
真城朔:「ないと……」
夜高ミツル:「……あー」
夜高ミツル:「絆創膏とか?」
真城朔:「消毒とか……」
夜高ミツル:そういえば前回は何もなしで
真城朔:「汚すし……」
夜高ミツル:ナイトウェアを悲惨な状態にしてしまったな……と。
真城朔:「あと」
夜高ミツル:「そうだな……」
真城朔:「…………」
真城朔:「……したく」
真城朔:「なる」
真城朔:「し」
真城朔:小さくなりながら。
夜高ミツル:「まあ、それは……」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「真城が、いいなら」
真城朔:「?」
夜高ミツル:「真城がよければ」
夜高ミツル:「俺は……」
真城朔:「うん」
夜高ミツル:「……したい、し」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「散々やっておいて、なんですが」
真城朔:「……する?」
真城朔:言ってからしまったという顔になった。
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:「……真城がいいなら」
真城朔:「う」
真城朔:「…………」
真城朔:逡巡ののち、頷いた。
真城朔:夕陽の射し込むホテルの一室で、ベッドに横たわって眠っている。
真城朔:すう、すうと、規則正しく穏やかな呼吸。
夜高ミツル:寝息を立てる真城の頭を撫でる。
真城朔:全裸に布団を被ってすやすやと。
夜高ミツル:乱れた髪を、手で整えて
夜高ミツル:頬にかかる髪をかきあげて。
真城朔:「ん」
真城朔:「んん」
真城朔:「…………」
真城朔:「ミツ……」
真城朔:むにゃむにゃ。
夜高ミツル:「……真城」
夜高ミツル:名前を呼んで、ふ、と笑う。
真城朔:自分の腕を枕にむにゃむにゃと眠っている。
夜高ミツル:整えた髪を、そうしてからもゆるゆると撫でている。
真城朔:乾かしたばかりの髪がまた汗で濡れている。
夜高ミツル:……かわいい、とか。
夜高ミツル:クラスの女子なんかが、真城をそう評していたのを聞いた時
夜高ミツル:かわいいか……?と、
夜高ミツル:そう思ったのを覚えている。
夜高ミツル:顔が女子っぽい、かわいい方、というのは
夜高ミツル:さすがに思ってはいたけど。
真城朔:長い睫毛を伏せて、すうすうと寝息を立てている。
夜高ミツル:でも、今、こうして
夜高ミツル:隣で無防備に寝顔を晒している、
夜高ミツル:寝言に自分の名を呼ぶようなところを見ていると、
夜高ミツル:なるほどな……と。
夜高ミツル:真城ってかわいいんだな……と、
夜高ミツル:やっと、腑に落ちた感覚がある。
真城朔:「……ん」
真城朔:むずがるように首を竦めてから、
真城朔:ぼうと瞼を上げて、虚空を見つめる。
夜高ミツル:「……ん」
夜高ミツル:「おはよ」
真城朔:声をかけられて、ゆっくりとミツルを見上げた。
真城朔:「…………」
真城朔:「……はよう」
夜高ミツル:「ん」
真城朔:ゆるく首を傾げて、ふにゃふにゃと。
夜高ミツル:ミツルの手はまだ真城の頭を撫でている。
真城朔:頭を撫でられながら、
真城朔:ミツルの首筋に貼られた大きなバンドエイドを見ている。
夜高ミツル:「?」
夜高ミツル:見られていることに気づいて、怪訝そうな表情を浮かべる。
真城朔:「…………」
真城朔:「痛く、ない?」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「大丈夫大丈夫」
真城朔:やや腑に落ちない顔をしている。
夜高ミツル:「……まあ、全然痛くないってわけでは」
夜高ミツル:「ないけど」
夜高ミツル:「別に」
真城朔:しょぼ……
夜高ミツル:「……大丈夫だって」
真城朔:「痛いの」
真城朔:「良くない、し……」
夜高ミツル:「まあ……」
真城朔:「ミツだって嫌がるくせに……」
夜高ミツル:それはそうだけど……
夜高ミツル:「……う」
夜高ミツル:「まあ、うん」
夜高ミツル:「そうだけど……」
真城朔:じと……
夜高ミツル:「いや、でも」
夜高ミツル:「これは、」
夜高ミツル:「俺が望んだ傷」
夜高ミツル:「だから」
夜高ミツル:「いいの」
真城朔:「…………」
真城朔:「……俺も」
真城朔:「ミツのためなら」
真城朔:「痛いのとか、多少だるいくらい」
真城朔:「別に……」
真城朔:「全然……」
真城朔:「多少じゃなくても……」
真城朔:もごもご
夜高ミツル:「……そう、思ってくれるのは」
夜高ミツル:「嬉しいけど」
夜高ミツル:頭を撫でる。
真城朔:撫でられてその方へ頭を傾ける。
夜高ミツル:「……やっぱり、真城には」
夜高ミツル:「そういうのさせたくないなって」
夜高ミツル:「思っちゃうんだよな」
真城朔:「自分を棚に上げて……」
夜高ミツル:「勝手だよな」
真城朔:「勝手だ」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「勝手だし」
真城朔:「ひどい……」
真城朔:「俺は」
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:「……うん」
真城朔:「ミツがいないと」
真城朔:「駄目なのに……」
夜高ミツル:「俺もだよ」
真城朔:「……もう」
真城朔:「生きて」
真城朔:「いけないのに」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「……うん」
真城朔:「ミツも」
真城朔:「そんなこと、言うし……」
真城朔:しょぼしょぼ
夜高ミツル:「……俺も、真城がいないとダメで」
夜高ミツル:「優しくしたくて」
夜高ミツル:「なんでもしてやりたい」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「だから、ちょっと痛いのくらいは大丈夫で」
真城朔:ぐにゃぐにゃと脱力している。
夜高ミツル:「必要だしな」
真城朔:「うう」
夜高ミツル:「だから、これからも遠慮すんなよ」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:脱力している真城の頭を撫で続けている。
真城朔:「……遠慮、じゃなくて」
夜高ミツル:「なくて?」
真城朔:「俺が……」
真城朔:「俺が、嫌だから……」
夜高ミツル:「……何が?」
真城朔:「ミツが」
真城朔:「痛いのが……」
夜高ミツル:「……そっか」
夜高ミツル:手を止めて、それから
夜高ミツル:腕を真城の背中に回す。
夜高ミツル:ぐい、と抱き寄せる。
真城朔:「…………」
真城朔:意気消沈したまま抱き寄せられる。
夜高ミツル:「……大丈夫だよ」
夜高ミツル:「これくらい、痛いの内に入らないし」
夜高ミツル:「全然平気」
真城朔:無抵抗に身体を預けている。
真城朔:「血」
真城朔:「飲みすぎないようには、する」
真城朔:「けど」
夜高ミツル:「……ん」
真城朔:「……なんか、具合悪くなったりとか」
真城朔:「あったら……」
夜高ミツル:「うん」
夜高ミツル:「そこは、ちゃんと言う」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「心配させたらよくないしな」
真城朔:頷いた。
夜高ミツル:「それは誤魔化したりしないよ」
夜高ミツル:「約束する」
真城朔:「うん」
真城朔:「……うん」
真城朔:「約束……」
真城朔:「…………」
真城朔:首を傾げて。
夜高ミツル:「うん、約束」
夜高ミツル:「無理はしない」
真城朔:「……今は?」
夜高ミツル:「……今は、んー」
夜高ミツル:「……疲れた、くらい」
夜高ミツル:「ねむい」
真城朔:「……なんか」
真城朔:「食べたり、とか……」
真城朔:心配そうにしている。
夜高ミツル:「あー……」
夜高ミツル:「そうだな、」
夜高ミツル:言われてやっと気づいたように。
夜高ミツル:「確かに腹減ったな……」
真城朔:「…………」
真城朔:じと……
夜高ミツル:「……いや、眠くて……」
夜高ミツル:言い訳。
夜高ミツル:「食うか……」
真城朔:むむ……
真城朔:頷いた。
夜高ミツル:腕を解いて、のろのろと立ち上がる。
真城朔:自分が食べるわけではないが。
真城朔:ベッドにぼふんと転がって、立ち上がるミツルを見ている。
夜高ミツル:がさごそと、テーブルに置いたビニール袋を漁る。
夜高ミツル:外に出た時に買ってきたおにぎりなんかがある。
真城朔:見ている。
夜高ミツル:インスタントの味噌汁も。
夜高ミツル:部屋の電気ポットを取って、洗面所で水を入れる。
真城朔:仰向けに眺めていたのが、転がってうつ伏せに戻った。
夜高ミツル:蓋を閉めて設置して、スイッチを入れ。
真城朔:シーツに手をついてミツルを見ている。
夜高ミツル:「……こっち来る?」
真城朔:「…………」
真城朔:もぞもぞと起き上がった。
夜高ミツル:お湯の沸くのを待ちながら座っている。
真城朔:ミツルの方へと歩いていって、
真城朔:隣の椅子ではなく、
真城朔:足元の床に座った。
夜高ミツル:「……真城?」
真城朔:ミツルの膝に頬を乗せる。
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:固まる。
真城朔:頭を委ねて脱力している。
夜高ミツル:一瞬緊張して、それがすぐに解けて
夜高ミツル:乗せられた頭を、掌で撫でる。
真城朔:「んん」
夜高ミツル:あー……。
真城朔:「ん」
夜高ミツル:かわいいな…………。
真城朔:嬉しそうに笑った。
夜高ミツル:なるほどな…………。
夜高ミツル:何に対してか分からないなるほどが出た。
真城朔:ごろごろ
真城朔:喉は鳴らない。
真城朔:膝に腕を添えて、その上に改めて頬を預けて、ミツルを見上げている。
夜高ミツル:鳴らないなあ。
夜高ミツル:おにぎりを一つ取って、開封する。
夜高ミツル:エビマヨ。
真城朔:食べるのを見ている。
夜高ミツル:こういう味誰が最初に考えたんだろうなって思う。
夜高ミツル:うまいけど。
夜高ミツル:もくもくと食べている。
真城朔:もくもくと見ている。
夜高ミツル:いつの間にかお湯が湧いているが、立ち上がる気になれず。
夜高ミツル:まあ味噌汁は次飲めばいいか、となる。
真城朔:膝の上でご満悦にしている。
夜高ミツル:一つ食べ終わると、また次のおにぎりを取る。
夜高ミツル:食べる。
真城朔:最早ミツルを眺めるでもなく膝に頬を預けてふにゃふにゃになっている。
夜高ミツル:自分で思ったより空腹だったようで、ぱくぱくと食べ進める。
夜高ミツル:膝の上に真城の体温を感じながら食事をする。
夜高ミツル:なんだか不思議な心地だった。
真城朔:こちらはたいへん居心地がよさそうにしている。
夜高ミツル:むず痒いような、照れくさいような。
夜高ミツル:ふにゃふにゃになっている真城に意識がいきながらも、
夜高ミツル:結局未開封のままのカップ味噌汁以外を食べ終えて、
夜高ミツル:「ごちそうさま」
夜高ミツル:手を合わせた。
真城朔:顔をあげる。
真城朔:「食べた?」
夜高ミツル:「食べた食べた」
真城朔:「ん」
真城朔:何故か嬉しそうに頷いた。
夜高ミツル:嬉しそうにされると嬉しい。
真城朔:まだ膝の上でごろごろしている。
真城朔:喉は鳴らない。
夜高ミツル:ティッシュで手を拭ってから、眼下の真城の頭を撫でる。
真城朔:「ん」
真城朔:目を細める。
夜高ミツル:やわやわと頭を撫でて、
夜高ミツル:その手が、頬に下りて触れる。
夜高ミツル:先日、手を取ってそうされたように。
真城朔:ミツルの手に頬を委ねて、くすぐったげに喉に喉を鳴らした。
真城朔:「ん」
夜高ミツル:真城の頬を撫でる。
真城朔:「んん」
真城朔:ごろごろとは鳴らないが。
真城朔:十分に心地良さそうな音。
真城朔:「ミツ」
夜高ミツル:その様子を見ていると、胸の中が暖かいもので充ちる。
夜高ミツル:「ん」
真城朔:「…………」
真城朔:「……ミツ」
夜高ミツル:「……真城」
真城朔:ふにゃふにゃと笑って、
夜高ミツル:掌が頬をなぞる。
真城朔:手に頬を擦り寄せる。
真城朔:うとうとと眠たげに瞼を落としながら、
夜高ミツル:「……明日」
夜高ミツル:「元気だったら、」
真城朔:頬を撫でられて笑っている。
夜高ミツル:「ちょっと出かけてみるか?」
真城朔:「ん」
真城朔:「ミツと」
真城朔:「いっしょなら……」
夜高ミツル:「……ん」
夜高ミツル:「動物園」
真城朔:とろとろと眠たげな声で答える。
夜高ミツル:「行ってみるか」
真城朔:「……うさぎ」
真城朔:「?」
夜高ミツル:「うん」
夜高ミツル:「一緒に」
夜高ミツル:「今度は、一緒だなって」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「動物見て」
真城朔:「うん」
夜高ミツル:「うさぎとか触って」
真城朔:「うん……」
夜高ミツル:「一緒に」
夜高ミツル:「一緒に行こう」
真城朔:「ん」
真城朔:「いっしょ」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「いっしょに」
真城朔:「ミツと」
真城朔:「いっしょに、いく……」
夜高ミツル:「うん」
夜高ミツル:「真城と」
夜高ミツル:「一緒だ」
真城朔:最後に頷いて、
真城朔:静かな寝息を立て始める。
夜高ミツル:真城の頭が落ちないように苦心しながら、
夜高ミツル:一旦椅子に体重を預けさせて、自分は立ち上がり
夜高ミツル:安らかに眠る真城を抱き上げる。
真城朔:無抵抗に抱き上げられる。
夜高ミツル:そのままベッドへ移動して
夜高ミツル:そっと横たえる。
真城朔:ベッドに身体が沈む。
真城朔:ナイトウェア一枚、一週間ずっとこれきりの見慣れた姿。
夜高ミツル:その隣に、自分も寝転ぶ。
真城朔:すやすやと寝入っている。
夜高ミツル:寝息を立てる真城に寄り添って、
夜高ミツル:軽く腕を回して。
夜高ミツル:「真城」
夜高ミツル:「おやすみ」
夜高ミツル:囁くように言って、自身も目を閉じる。
夜高ミツル:疲労と、軽い貧血からくる眠気。
夜高ミツル:それに身を任せて、意識を落としていった。
■10/13 10:00 a.m.
夜高ミツル:平日の動物園は、さすがに前回よりも客足が落ち着いている。夜高ミツル:数日前には一人で来た動物園に、
夜高ミツル:今日は真城とやってきていた。
真城朔:きょろきょろとあたりを見回している。
夜高ミツル:きょろきょろしている真城の手を引いて
夜高ミツル:「あれ」
夜高ミツル:「ふれあいコーナー」
夜高ミツル:指を指す。
真城朔:「ふれあいコーナー」
真城朔:復唱。
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「うさぎ」
夜高ミツル:「モルモットとか、うさぎとか」
夜高ミツル:「膝に乗せれるらしい」
真城朔:「モルモット」
真城朔:「膝に……」
真城朔:人が近くを通り過ぎるたび、気持ちミツルにはりつく。
夜高ミツル:「モルモットの方がおとなしいらしいからそっちかなあ」
真城朔:「……ん」
夜高ミツル:寄り添われる度に、手を握って。
夜高ミツル:二人でふれあいコーナーに入る。
真城朔:そのたび安心したように息を漏らす。
真城朔:ミツルに手を引かれて入っていく。
夜高ミツル:中に入ると、スタッフから注意事項の説明を受ける。
夜高ミツル:先に手を消毒するようにとか、持ち方とか。
真城朔:こくこくと聞いている。
夜高ミツル:それに従って手を消毒して。
夜高ミツル:モルモットが放されている籠に近づく。
夜高ミツル:この中から好きに選んでいいらしい。
夜高ミツル:「……いっぱいいる」
真城朔:「いる……」
真城朔:まじまじ見ている。
夜高ミツル:「いるな……」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:緊張している。
真城朔:眺めている。
真城朔:「水飲んでる」
夜高ミツル:「飲んでるなあ……」
夜高ミツル:緊張した面持ちで、しばらくの間
夜高ミツル:動き回るモルモットたちを眺めていたが
夜高ミツル:そうしていても埒が明かないので。
真城朔:向かいの客がのんびりしているモルモットを一匹連れていった。
真城朔:存外ひょいっと持っていかれている。
夜高ミツル:「あんな感じでいいのか……」
夜高ミツル:連れて行かれるモルモットを見送って。
真城朔:近くのスタッフがちゃんとお尻支えてあげてくださいねーって。
夜高ミツル:やがて、隅の方にいたおとなしそうな一匹に
夜高ミツル:思い切って、手を伸ばす。
真城朔:モルモットから視線を外して、ミツルがそうするのを見ている。
夜高ミツル:抵抗されることもなく、持ち上げることができた。
夜高ミツル:スタッフのアドバイスには頷いて、片手でお尻を支える。
真城朔:「…………」
夜高ミツル:白と黒の毛並みの一匹を、まじまじと眺める。
真城朔:ミツルに持っていかれるモルモットを見ている。
夜高ミツル:「あったかい……」
夜高ミツル:とぼんやり呟いて
夜高ミツル:「真城も」
真城朔:「え」
真城朔:「と」
夜高ミツル:「選ばないのか?」
真城朔:「…………」
真城朔:ミツルの隣に座った。
真城朔:ぴっとりくっつく。
夜高ミツル:「……?」
夜高ミツル:モルモットを膝の上に下ろして、隣の真城を見る。
真城朔:膝の上のモルモットをじっと眺めて
真城朔:こわごわと撫でた。
真城朔:「…………」
真城朔:「あったかい」
真城朔:ミツルと同じことを言う。
夜高ミツル:「な」
真城朔:「結構大きい」
夜高ミツル:「うん」
夜高ミツル:「なんかもっと小さいイメージあったな」
夜高ミツル:「モルモット」
真城朔:「ん」
真城朔:頷く。
真城朔:「なんか」
真城朔:「ねずみっぽくない」
夜高ミツル:膝の上に乗せていると、それなりに体重を感じる。
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「そうだなー」
真城朔:膝の上に乗っているモルモットを見ている。
真城朔:「チューチューじゃなくて」
真城朔:「キュッキュッて感じだし」
真城朔:鳴き声の話
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「そもそもネズミってほんとにチューチュー鳴くのか?」
真城朔:首を傾げた。
夜高ミツル:「意外と見ることないよな」
夜高ミツル:「ネズミ」
真城朔:「ドブネズミは」
真城朔:「なんか……」
夜高ミツル:「あー」
真城朔:「きーきーって感じの……」
夜高ミツル:「なるほど……」
真城朔:頷いた。
真城朔:そろそろとミツルの膝の上のモルモットを撫でては、手を引っ込めている。
夜高ミツル:「見てたのかもしれないけど、俺はいつも余裕ないからなー」
夜高ミツル:狩りの時、とは言えないので。
夜高ミツル:ふわふわした言い方になる。
真城朔:「潜った時に……」
夜高ミツル:「え」
真城朔:「えっと」
真城朔:「蓋開けて……」
夜高ミツル:そういうこともあるのか……。
夜高ミツル:ある時はあるか……。
真城朔:頷いた。
夜高ミツル:「なるほど……」
夜高ミツル:と、また言って、
真城朔:ミツルの膝の上のモルモットをじっと見つめている。
夜高ミツル:神妙に頷いた。
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「……乗せる?」
真城朔:「…………」
真城朔:「……なんか」
夜高ミツル:視線を受けて、真城に尋ねる。
夜高ミツル:「?」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「…………」
真城朔:「だめに」
真城朔:「しそうで……」
真城朔:「生きてるから……」
夜高ミツル:「……大丈夫だろ」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「乗せるだけ」
夜高ミツル:「おとなしいし」
真城朔:「噛まれるのは」
真城朔:「怖くないけど……」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「…………」
真城朔:モルモットの背中を撫でた。
真城朔:背中から丸い尻までを撫でて、
真城朔:「……大丈夫」
真城朔:「あった、かい」
真城朔:「し」
真城朔:「ちょっとは」
真城朔:「わかる、から」
夜高ミツル:「……膝」
真城朔:「?」
夜高ミツル:「乗せたら、もっと分かる」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:そう言って、膝の上のモルモットを抱えて、
夜高ミツル:「動くなよー」
夜高ミツル:これは真城に対して。
真城朔:「え」
真城朔:「う」
夜高ミツル:それから、真城の膝にモルモットを乗せる。
真城朔:膝を揃えて固まった。
真城朔:乗せられる。
真城朔:「…………」
真城朔:モルモットを見下ろす。
夜高ミツル:モルモットは抵抗することも暴れることもなく。
夜高ミツル:のし、と真城の膝の上に乗せられた。
真城朔:毛玉がのしっと膝に乗った。
真城朔:のを、
真城朔:見下ろしている。
夜高ミツル:モルモットはぼんやりしている。
真城朔:「…………」
真城朔:「……思った」
真城朔:「より」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「…………」
真城朔:「……足の存在感がある……」
夜高ミツル:「そうだな」
夜高ミツル:「結構重いし」
真城朔:「足……」
夜高ミツル:「足だなー」
真城朔:さきほどよりもずっとおそるおそるに手を伸ばして、
真城朔:触れた。
夜高ミツル:その様子をじっと眺めている。
真城朔:揃えた指先で、そっと背中をなでている。
真城朔:「…………」
真城朔:無抵抗のさまを見下ろしながら。
夜高ミツル:「乗せた方が分かるだろ?」
真城朔:頷いた。
真城朔:「……こういう、生き物って」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「何考えてんだろ」
真城朔:「でっかいの相手に……」
夜高ミツル:「分かんないよな……」
真城朔:「怖くないのかな……」
夜高ミツル:「こんだけサイズ差あったらな」
真城朔:こくこく。
夜高ミツル:「俺だったらめちゃくちゃ怖いな……」
夜高ミツル:モノビーストと人間とか、このくらいサイズ差あんのかな……。
真城朔:「モノビとかすごいでかい」
真城朔:雑なことを言ってから。
夜高ミツル:「やっぱそうなんだ……」
真城朔:「…………」
真城朔:「でも」
夜高ミツル:「うん」
真城朔:「相手がミツなら」
真城朔:「俺は」
真城朔:「いいな」
真城朔:「おっきくても」
真城朔:撫でている。
真城朔:ぺっちゃりしたモルモットの毛並みを整えている。
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:首を傾げて、
夜高ミツル:「んー……」
夜高ミツル:「あんまり差があると、こう」
夜高ミツル:「思いっきり、色々」
夜高ミツル:「できないから……」
真城朔:「色々」
夜高ミツル:「……抱きしめたり……」
夜高ミツル:多少小声になった。
真城朔:「…………」
真城朔:ぱちりと目を瞬いた。
夜高ミツル:「……だから、俺は同じくらいが」
夜高ミツル:「いいな」
夜高ミツル:「今くらいで」
真城朔:「……ん」
真城朔:「じゃあ」
真城朔:「そう、思う」
真城朔:ね、と何故かモルモットに同意を求めたが、
真城朔:モルモットは我関せずに。
夜高ミツル:「まあ小さくても大きくても、」
夜高ミツル:「真城なら、俺もいいけどな」
真城朔:「……そっか」
真城朔:ふにゃりと笑って、
夜高ミツル:「そうだよ」
真城朔:「うん」
夜高ミツル:それを見てミツルも笑う。
真城朔:モルモットを撫でながら、ミツルを向く。
夜高ミツル:目が合う。
真城朔:相好を崩した。
真城朔:どこかふわふわとした真城の笑顔は、半年より前の様子を思うととても想像のつかないものだったが。
夜高ミツル:ここ半年の間に、幾度かその片鱗は見ることのあった笑顔。
真城朔:それが今は、衒いなくミツルへと向けられている。
夜高ミツル:それを受けると、また気持ちが暖かくなる。
夜高ミツル:こんな風に、笑ってもらえてよかった。
夜高ミツル:それを見られて嬉しい。
夜高ミツル:幸せだ。
夜高ミツル:真城も、同じように感じてくれているのだろうか。
夜高ミツル:そうであればいいと思う。
夜高ミツル:そうでないのなら、
夜高ミツル:そうさせたい。
夜高ミツル:真城に笑顔でいてほしい。
夜高ミツル:喜んでほしい。
夜高ミツル:傷つけたくなくて、
夜高ミツル:守りたくて、
夜高ミツル:ずっと傍にいたくて
夜高ミツル:幸せに、したい。
夜高ミツル:それが、今は。
夜高ミツル:何を捨てても、誰に迷惑をかけてでも、
夜高ミツル:それだけが。
夜高ミツル:ミツルにとっては、今、大切なことだった。