メインフェイズ サイクル2-2
行動:夜高ミツル
GM:では、狩人最後の手番ですね。GM:どうぞ。
夜高ミツル:はい
夜高ミツル:先に行動だけ宣言します
夜高ミツル:常識を組み合わせて狩猟 対象は退路
GM:真城朔ですね。了解です。
GM:シーンに関してはもう……自由にどうぞ。心置きなく。
GM:できるだけ悔いのないように。
夜高ミツル:全員でもっかいお話……しとく!?
糸賀大亮:一応……しておくか!
乾咲フラン:オウイエー
夜高ミツル:最後 さいごの手番だ
夜高ミツル:真城探すのは一人で行こうと思ってて
夜高ミツル:思っています 心当たりのある場にいきます
GM:ゆかりさんが戻ってきたところで乾咲邸で会話する?
夜高ミツル:ゆかりさん戻ってくるまで何してたんだろう
乾咲フラン:麦茶でも出すか
糸賀大亮:休憩タイム
糸賀大亮:まあゆかりさんすぐ戻ってくるつってたし
夜高ミツル:備品探しつつ待ってた感じにしますか……
夜高ミツル:じゃあいつもお世話になりますフラン邸で
忽亡ゆかり:ゆかりさんがシレッと戻ってきたぜ!おれたちの時間だ!って感じかな
乾咲フラン:今のフラン邸、美メイドがだいたい寝てるから庭に折りたたみ椅子&テーブルぐらいしかなさそう
夜高ミツル:新鮮
野嶋優香:では戻ってきたゆかりにも優香が一応麦茶を出します。
野嶋優香:あんまり悠長にしてられる場合ではないのは分かっているのですが、それくらいの労いは必要だろうと。
野嶋優香:お疲れさまです、とゆかりに会釈して、美メイドらしくしずしずと下がる。
忽亡ゆかり:こちらも会釈して、ハンターたちと合流する。
糸賀大亮:頷いてゆかりを出迎える。
糸賀大亮:さっきよりは大丈夫そう。
夜高ミツル:「忽亡さん」
夜高ミツル:お疲れさまです、と迎えて。
忽亡ゆかり:「おうともよ」バッグをテーブル上に置く。中には狩り道具がいくつか。
夜高ミツル:「助かります……あのあと改めて倉庫を探させてもらったんですけど、花だらけで」
忽亡ゆかり:「うちの弟の級友がすまないねえ」
乾咲フラン:「忽亡クン、調達ありがとう。麦茶しかないが水分補給してくれたまえ」
忽亡ゆかり:「乾咲さん、いつもすんません。いただきます」
忽亡ゆかり:乾いた体に水分が染みる。
夜高ミツル:忽亡さんが謝ることじゃないですよ、と首を振り。
糸賀大亮:麦茶を飲んでいる……
糸賀大亮:「……プルサティラの力を削げるとしたら、あと一度ぐらいだろうな」
糸賀大亮:と、そろそろ決戦が近いんじゃないか的なことをぽつりと言います(説明的)
GM:丑三つ時って頃かな。
夜高ミツル:「……」もう時間はあまり残されていない。
夜高ミツル:「……そのことなんですけど」
夜高ミツル:「真城がいそう、っていうか……いるかもしれない場所に心当たりがあるので」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「俺一人で行かせてもらえませんか」
夜高ミツル:「……でも空振るかもしれないから、他の場所も探しててほしいんです」
乾咲フラン:「……危険ではないか?」
忽亡ゆかり:「居そうならなおさら、一人では行かせたくないんだけどね」
糸賀大亮:「……」
糸賀大亮:「もし、ほかの場所で真城が見つかった時は?」
夜高ミツル:「……できれば、教えてほしいです」
夜高ミツル:「でも、そんな余裕がある時ばっかりじゃないと思うので」
夜高ミツル:「……その時は、気にしないでください。これは俺のわがままだから」
乾咲フラン:「……さっきの魔女の言葉を気にしているのか?」
夜高ミツル:「……気にしている、というか」
夜高ミツル:「……プルサティラに言われたからっていうのも、確かにないわけじゃないです」
夜高ミツル:「でも、ちゃんと自分で考えてそうしたいって思ったことです」
糸賀大亮:「……そうか」
糸賀大亮:「夜高」
夜高ミツル:「はい」
糸賀大亮:「もし俺があの真城……プルサティラの力の源を見つけたら」
糸賀大亮:「その時は、必ずお前に教える」
糸賀大亮:「……」
夜高ミツル:「……!」
夜高ミツル:「ありがとう、ございます」
糸賀大亮:「お前が……」
糸賀大亮:「お前のためだけじゃない。もしお前が真城を助けたいと思うのなら」
糸賀大亮:「それが必ず必要だと思うからだ。……」
糸賀大亮:ただ、ほかの二人のことはほかの二人のことだ、とばかりに、フランとゆかりの方を見る。
夜高ミツル:「……できるなら、教えてほしいです。お願いします」
乾咲フラン:ちらりと目線だけで大亮を見てから……「いいよ、私も連絡しよう。」
夜高ミツル:「乾咲さん……ありがとうございます」
忽亡ゆかり:「…………」
忽亡ゆかり:じっと、ミツルを見つめている。
忽亡ゆかり:魔女の力の中心地へと単騎で向かう。まるで囮のような、無謀ともいえる行動。それに対し、普段、自分はどのようなスタンスで彼に接していただろうか。
忽亡ゆかり:「……必要なことなんだな?」
夜高ミツル:「……はい」
忽亡ゆかり:狩人として彼に危険を冒させたくない。おそらく、この中で誰よりもその意識が強いのは自分だ。
忽亡ゆかり:けれど、ある意味では。それは真に彼のことを仲間として認めていないのだとも言える。
忽亡ゆかり:「……おっけ。協力しよっか」
忽亡ゆかり:「全力で行って、ぶつかってこい」
夜高ミツル:「……!」
夜高ミツル:「……はい、ありがとうございます」
夜高ミツル:三人に頭を下げる。
夜高ミツル:時間も残されていない今、これは我儘な願いで、狩人としてはきっと正しくない。
夜高ミツル:それを受け入れてくれた仲間に深く感謝する。
糸賀大亮:ちょっと息をついて、首の後ろを掻いてる。
忽亡ゆかり:「男の子が成長しようとしてるのを阻むのは、野暮ってもんだからな」
忽亡ゆかり:人は、変わるのだ。それをコントロールするのは自分ではない。
忽亡ゆかり:「男子、三日会わざれば……とは言うが」
忽亡ゆかり:「かわいい子がかっこよくなっちゃうのは、少し嬉しくて、少し寂しいね」
忽亡ゆかり:きっとこれは、彼に必要な儀式なのだ。
乾咲フラン:「フフ……でも危ない事になったら、すぐ呼んでくれよ?」
夜高ミツル:「その時は、頼らせていただきます」
糸賀大亮:夜高の言葉に頷いた。
夜高ミツル:ゆかりの言葉にはちょっと複雑そうにする。かわいいと思われてたのか……。
夜高ミツル:「……俺は、今までみなさんにすごく助けられて、頼りにしてきて」
夜高ミツル:「だから、一緒にいたらきっとまた甘えてしまう」
夜高ミツル:「でも、真城にちゃんと自分の考えと言葉で、向き合いたいんです」
夜高ミツル:「プルサティラが作った真城は、本人じゃないけど……でもきっと、本物なんだと思うので」
糸賀大亮:「……」
糸賀大亮:向き合えば、きっと最後にはそれを手にかけることになる。
糸賀大亮:本物の真城を。ただ、それはもう今更のことだろう。どちらにせよ──
乾咲フラン:「新人狩人の君を友の姿をした者に立ち向かわせるのは忍びないが……君がそれを望むのなら、私はそれを尊重するよ」
糸賀大亮:「もう、一般人とも新人とも言えないだろう、ここまでくる」
糸賀大亮:ここまでくると。
夜高ミツル:ハンター歴4ヶ月
糸賀大亮:「……心構えは別としてな」
糸賀大亮:「任せたぞ」
夜高ミツル:頷いて。
夜高ミツル:「ありがとうございます、……行ってきます」
夜高ミツル:改めて仲間たちに礼をする。
忽亡ゆかり:「いってらっしゃい。ちゃんと帰ってくるんだよ」
夜高ミツル:「……はい」
夜高ミツル:椅子から立ち上がり、歩き始める。真城に会うために。
夜高ミツル:心当たりの場所。
夜高ミツル:それは、ミツルの家の近くの公園だ。
夜高ミツル:いつも夜中に真城に特訓をつけられていた場所。
夜高ミツル:7月の雪の日には、皆川彩花の相談所があった場所。
夜高ミツル:8月のあの日、先に向かっていたはずの真城がいなかった場所。
夜高ミツル:正直、言うほど確信があったわけではない。
夜高ミツル:勘に近いものだった。
GM:その公園で。
真城朔:白い回転式ジャングルジムのてっぺんに腰掛けて、空を見上げている。
真城朔:いつもの真城と変わりない姿。
真城朔:ただひとつ、平たい胸が、薄紫に光っている。
夜高ミツル:だけど、そこに確かに真城はいた。
夜高ミツル:「……真城」
夜高ミツル:呼びかけるような、独り言のような。
真城朔:「……あれ」
真城朔:ゆるりと見下ろす。
真城朔:「一人か」
真城朔:「もったいない」
夜高ミツル:「何が」
夜高ミツル:地上から、真城を見上げる。
真城朔:不安定な足場でゆらゆらと足を揺らしている。
真城朔:「糸賀さんとか、忽亡さんなんかはさ」
真城朔:「まあなんか、いい感じに予行練習っていうかさ」
真城朔:「なるべく苦しませてくれるもんかと」
真城朔:「でも、いねえから」
真城朔:もったいない、と肩を竦める。
夜高ミツル:「……糸賀さんも、忽亡さんも」
夜高ミツル:「俺が一人で行きたいって言ったら、送り出してくれたよ」
夜高ミツル:「お前を苦しめるとか、そんなこと望んでない」
真城朔:「権利は、あるだろ」
真城朔:ジャングルジムを蹴って、地面へと降り立つ。
真城朔:反動で白い球型がくるくると回る。
夜高ミツル:あえて確かめるまでもなく。プルサティラが語ってきたことが真実なんだと。
夜高ミツル:真城の語り口から、分かる。
真城朔:「ま、いいや」
真城朔:「やんなら早くやれよ」
真城朔:「別に今更逃げる気もねえし」
真城朔:ほら、と両腕を軽く広げて、無防備に胸を晒してみせる。
夜高ミツル:「……お前の部屋、行ったよ」それを、無視するように話しかける。
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「それから、お前が隠してたこととか、知られたくなかっただろうことも色々知った」
真城朔:冷めた目をミツルに向けている。
夜高ミツル:「……悪かったな」
真城朔:「何が?」
夜高ミツル:「俺がもっと気が回れば、お前は一人で抱え込まなくてよかったのかもしれないって」
夜高ミツル:「全部じゃなくても、いくらかは」
真城朔:「それ」
真城朔:「俺に言う必要ある?」
真城朔:腰に手を当てて、首を傾げた。
真城朔:「本人じゃねえんだけど、俺」
真城朔:「俺に何言っても、あそこで寝てる方には伝わんねえぞ」
夜高ミツル:「……お前も真城だろ」
真城朔:「はあ」
真城朔:「あっちに伝えらんない代わり?」
真城朔:「なら別にそれでいいけど」
夜高ミツル:「……あいつが起きたらまた言うだけだ」
真城朔:ジャングルジムに腰掛けた。
真城朔:「二度手間じゃん」
真城朔:「あ」
真城朔:「それこそ予行練習か」
真城朔:「なるほど」
真城朔:納得、とばかりに頷いている。
夜高ミツル:「そんなんじゃねえよ」
夜高ミツル:「言いたくなったんだよ、顔合わせたら」
真城朔:「…………」
真城朔:「まあ」
真城朔:「じゃあ」
真城朔:「ちったあ報いてやるか」
真城朔:などと言いながら、おもむろに手袋を外していく。
真城朔:投げ捨てると、それが花弁となって消える。
夜高ミツル:「……は?」
真城朔:「あれが得することなんて、俺はやる義理ねえけどな」
真城朔:「逆に言うと、嫌がらせなら別にしてもいい」
夜高ミツル:何をするつもりだ、と警戒する。
真城朔:手袋の下の素手。
真城朔:白く伸びた指で、自分の腰の、武装に触れる。
真城朔:瞬間、
真城朔:じゅ、と嫌な音と、煙が立った。
真城朔:肉の焼ける臭いがする。
夜高ミツル:「な……!」
夜高ミツル:「……にやってんだ!」
真城朔:真城朔の武装であるところの、聖別された銀で加工された、杭。
真城朔:それを握る皮膚が焼け爛れている。
夜高ミツル:真城の手に握られた杭を引き離そうと。
真城朔:抵抗はない。剥がされる。
夜高ミツル:これから殺す相手の心配をする矛盾に、気がつかないではないけど。
真城朔:かつてそれを受け止めたグラジオラスと同じように、
真城朔:無惨に焼け爛れた手のひらを真城は翳して。
真城朔:「とっくにこうなんだよな」
真城朔:「滑り止めなんてのは、まあ、言い訳みたいなもんでさ」
夜高ミツル:「……いつから?」
真城朔:「お前に会ってよりは、後だったかな」
夜高ミツル:銀に灼かれた掌が痛々しい。
真城朔:「あとは何の話がいい」
真城朔:「何人としたかとか?」
真城朔:「覚えてねえ話しても仕方ねえか」
真城朔:「じゃあ、お前が狩人なって、泊まるようになってからさ」
真城朔:「まあマジでモンスターとやり合ってて遅れたのも全然あるけどさ」
真城朔:「連れ込まれて、連絡する暇も余裕もないまま気付いたら時間過ぎてたみたいなさ」
真城朔:「そういうのも全然あってさ」
真城朔:「まあ申し訳ねえとは思ってたけど、説明するわけにもいかないし」
夜高ミツル:何人と……というのがどういう話か、少し遅れて理解する。
夜高ミツル:「……そうか」
真城朔:「ああなるともうダメなんだよな」
真城朔:「お互いさ」
真城朔:「あとはなに」
真城朔:「子ども堕ろしたときの話とかか?」
夜高ミツル:「……っ!?」
真城朔:「いやー結構困るんだよな、あれ」
真城朔:「戻んなくなってさ」
真城朔:「普段だとまあほっときゃ済むんだけどな」
真城朔:「あと――あとはなんだ」
真城朔:「何が聞きたいよ」
夜高ミツル:「もう、いい……違う、そういうことを聞きに来たんじゃない」
真城朔:「あ、学校のときとか?」
真城朔:「あれ結構俺もヒリヒリしてたんだよな」
夜高ミツル:「……なあ」
真城朔:「かなり死にかけだったからさ、魔女の方の性質が出てきて」
真城朔:「普段は血ィ吸われたくらいじゃ、まあ……」
真城朔:「いや、どうだろうな。わかんねえなもう」
夜高ミツル:「やめろよ」
真城朔:「じゃ、殺せよ」
真城朔:「聞きたくないなら口を塞げばいい」
真城朔:「教えたろ? やり方はさ」
真城朔:「結局お前が俺に何を求めたところで」
真城朔:「俺は本人じゃないし」
真城朔:「ここで終わらなくても、プルサティラが死ねば消えるしかない」
真城朔:「その上で都合よく好きにしてもらうのは構わねえけど」
真城朔:「俺は、違うぞ」
夜高ミツル:「……そうだな。お前は真城だけど、あいつ本人じゃあない」
夜高ミツル:「……お前を殺すのは、それは、ちゃんと決めてきてた」
夜高ミツル:「でも、それは真城を殺す予行演習なんかじゃない」
真城朔:「…………」
夜高ミツル:「プルサティラの力を削いで、お前を吸血鬼にさせるのを止めるためだ」
真城朔:「じゃあ、そうしろよ」
真城朔:「それでプルサティラが止まると思うんなら、そうすればいい」
真城朔:「そうなったらもう俺は関係ない」
真城朔:「その後のことを、俺は何も知れないんだからな」
夜高ミツル:「……そうだな」
夜高ミツル:どんなに本物と相違なくても、この真城は本人ではなくて。こいつ自身もそれを自覚している。
夜高ミツル:「なあ、一つ聞いていいか」
真城朔:「なに」
夜高ミツル:「お前、なんで俺と一緒にいたんだよ」
夜高ミツル:いつかも投げかけた問い。
真城朔:「…………」
真城朔:呆れに目を眇める。
真城朔:「……お前さあ」
真城朔:「それ、俺に訊くか?」
真城朔:「いくら都合よく好きにしろっつってもさ、わざわざあれの代わりに答えてやる筋合いはねえっつの」
真城朔:「いいからさ」
真城朔:とんとんと胸を叩く。
真城朔:焼け爛れた手のひらで、自分の胸の光を示す。
真城朔:「本命、こっちだろ」
真城朔:「これ壊して、見れることの方にこそ興味があんだろ」
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:「……そう、だな。悪い」答える筋合いはない、という言葉に。
夜高ミツル:本人じゃないと、これから殺す相手なのだと、頭では理解している。
夜高ミツル:それでも、その胸の光を除けば、あまりにも一緒に過ごしてきた真城と同じで。
夜高ミツル:街中が寝静まっている今、刀は隠しもせず手に持ったままだ。さすがに鞘には収めているが。
真城朔:その刀を、黒い瞳が見つめている。
真城朔:「で」
真城朔:「やんの、やんねえの」
真城朔:「俺、別に逃げてもいいんだけど」
夜高ミツル:「……やるよ」躊躇いを捨てるように、鞘から刀を抜く。
真城朔:「へえ」
真城朔:かすかに笑う。
真城朔:「いい子じゃん」
真城朔:ジャングルジムに腰掛けたまま、ミツルを見上げている。
夜高ミツル:どうしても本人を前にしているようで、言いたいことは色々と浮かんできてしまうが。
夜高ミツル:それで、これから死ぬと分かっている時間を長引かせるのは酷だ。
真城朔:「選ばないものに対して、変に情かけんなよ」
真城朔:「……なんてのは、まあ」
真城朔:「俺が言えたことでもねえけどな」
夜高ミツル:抜き身の刃が月の光を受けて輝く。
真城朔:ぼんやりとその光を見ている。
夜高ミツル:「……ごめん」そう言い終わるが早いか、真城の淡く光を放つ胸の中心に刀を突き立てた。
真城朔:では、判定を。
夜高ミツル:完全に判定のこと忘れてたわね
真城朔:あるあるなんだよな 退路ですね。
夜高ミツル:常識使います 興奮剤使います
乾咲フラン:じゃあ援護しますOK?
夜高ミツル:+4!
真城朔:ではどうぞ。
夜高ミツル:2D6+4>=8 (判定:捕らえる)
BloodMoon : (2D6+4>=8) → 7[1,6]+4 → 11 → 成功
GM:常識使用によって支配力が2削れ、
GM:支配力:真城朔が破壊されます。
夜高ミツル:夜高ミツルのテンションが3増加!(テンション:18->21)
夜高ミツル:乾咲フランのテンションが3増加!(テンション:12->15)
夜高ミツル:夜高ミツルは激情を獲得!(激情:1->2)
夜高ミツル:プルサティラへ1個の部位ダメージ!(部位ダメージ:0->1)
GM:WBT
BloodMoon :魔女の血表(4[4]) → 魔女の身体をプルサティラの花が覆い、体力を回復する。[受けている部位ダメージ数]D6点、自分の【余裕】を回復させる。
GM:1d6
BloodMoon : (1D6) → 2
GM:プルサティラの余裕が2増加!(余裕:16->18)
真城朔:突き入れた刃は、光ごとに真城の薄い胸を貫く。
真城朔:肉を穿つ感触。人を殺す、手応え。
真城朔:幼い真城を殺した時と同じそれ。
真城朔:貫かれた胸から赤い血を溢れさせながら、真城は笑う。
真城朔:「……まあ」
真城朔:「これくらいは、言っていいか」
夜高ミツル:「…………?」
真城朔:「俺も、殺したくはなかったよ」
真城朔:弾ける。
プルサティラ:プルサティラの花が舞う。
プルサティラ:紫の花弁が、ミツルの視界を覆い尽くして――
紅谷菖太:「真城、……お前、冬園さんのこと知ってたのか?」
真城朔:紅谷はいいやつだ。
真城朔:俺も嫌いじゃなかった。むしろ好ましい方なくらいで。
真城朔:俺にビビらず接してくるやつっていうのが、もう結構貴重になってたし。
真城朔:「あのあたりじゃ結構有名だろ」
紅谷菖太:「そりゃ、俺は近所だから知ってるけど……」
紅谷菖太:「いや、じゃあどうするっていうんだよ」
紅谷菖太:「どうしようもないってのも、有名なら聞いてるんだろ」
紅谷菖太:「あそこの親父、児相とかはうまく誤魔化してるらしいし……」
真城朔:いいやつだから、こうして他人のことで真面目に悩める。
真城朔:下心が全然ないわけじゃないかもしれないけど、
真城朔:そもそもそういう事情を知っていても、って時点で結構根性あるわけで。
真城朔:「……まあ、結構大変かもしれないっていうか」
紅谷菖太:「?」
真城朔:「俺はまだいいけど、お前には相当働いてもらうかも」
紅谷菖太:「……どういうことだ?」
真城朔:「なんつか、かなり相当なことをやってもらうことになる、っつーか……」
真城朔:煮え切らない俺の言い方に紅谷は戸惑ってたみたいだけど、
真城朔:でもやがて腹を決めたようで、すっと表情を引き締める。
紅谷菖太:「……それで本当に、冬園さんが助かるのか?」
真城朔:「……それは、保証する。絶対に」
紅谷菖太:「分かった」
真城朔:紅谷が頷く。
真城朔:頷いてしまう。
紅谷菖太:「俺にできることなら、なんでもさせてくれ」
真城朔:「……ん」
紅谷菖太:「でも、具体的にはいったいどういう……」
紅谷菖太:「――真、城?」
真城朔:詰め襟を掴んで、乱暴に引き寄せる。
真城朔:剥き出しになったその首に、
真城朔:牙を立てた。
真城朔:――娘を亡くした父親だった。
真城朔:俺が、俺自身の意思でもって、
真城朔:一番最初に吸血鬼にした人間の話だ。
真城朔:復讐のための力を求めていた。
真城朔:自分がどうなっても構わないと言っていた。
真城朔:誰も。
真城朔:誰もが、誰かのために。
真城朔:大切な人のために、力も求める人が、
真城朔:人生を擲ってしまえる人が、悲しいほどに多すぎた。
真城朔:誰かのための願いが、そのために積み上げられた犠牲が、力になる。
真城朔:『フォゲットミーノット』を強くする。
真城朔:だから、
真城朔:そういう人しか、俺はモンスターに変えることができなかった。
真城朔:手放せないのなら。
真城朔:いつか吸血鬼になってしまうというのなら。
真城朔:その前にあの人を蘇らせたかった。
真城朔:吸血鬼のあの人ではだめだ。それでは意味がない。
真城朔:あの人が、吸血鬼ではないあの人が、
真城朔:できることなら、俺を身籠ってしまう前のあの人。
真城朔:俺のために人生を犠牲にしてしまう前のあの人を、蘇らせたかった。
真城朔:それが俺にできる唯一の補填だった。
真城朔:蘇ったあの人は、きっと何も覚えていない。できれば俺の父親に会う前がいい。
真城朔:そういうあの人がいい。そういうあの人なら、託してしまえる。
真城朔:今度はあの人を正しく幸せにしてくれる人に、今度こそ。
真城朔:――自分が吸血鬼や魔女を生み出せると気づいたのも、
真城朔:生み出したモンスターの力が、この血戒を、
真城朔:『フォゲットミーノット』の力を強めていくことに気づいたのも、全部が偶然だった。
真城朔:初めて吸血鬼になってしまったあの夜に、結果としてそうなった。
真城朔:俺を救ってくれたあの人、優しい狩人、頭を撫でてくれた人。
真城朔:彼が吸血鬼になって、知ったことだった。
真城朔:許されることじゃない。
真城朔:許されるはずがなかった。
真城朔:たった一人を蘇らせるために、罪のない人々の屍を積み上げる。
真城朔:言うまでもない。
真城朔:許されるはずがない。
真城朔:自分が生み出したのと同じ数のモンスターを殺しても、
真城朔:生み出された犠牲と同じ数の人間を救ったとしても、
真城朔:そんなのはただの帳尻合わせで、償いになるわけがない。
真城朔:自己満足を重ねたところで、何にもならない。
真城朔:そんなことは分かっていた。
真城朔:だからずっと迷っていた。
真城朔:あの人を諦めれば、それでいい。
真城朔:受け継いだ血戒を、『フォゲットミーノット』を手放して、
真城朔:ただの狩人として生きていけばいい。
真城朔:そうすれば狩りの中で死ねるだろう。
真城朔:すでに人を手に掛け喰らった、許されるはずのない化け物の俺は、
真城朔:それでもこれ以上の犠牲を積み上げることなく死ねるだろう。
真城朔:ただそれだけで良かったのに、
真城朔:手放すことができなかった。
真城朔:手放せばいい。
真城朔:どうせこんなものはあの人じゃない。語りかけてくれもしない。
真城朔:吸血鬼になってしまったあの人がすべてを賭けて作り上げた血戒。
真城朔:ただそれだけ。本人じゃない。
真城朔:手放してしまえばすべてが終わる。
真城朔:繰り返し、繰り返し、自分にそう言い聞かせて。
真城朔:そうしない理由も見つからなくて、
真城朔:吸血鬼になんてなりたいはずがなくて、人を殺したいはずもなくて、
真城朔:犠牲を築くことも許せるはずがなくて、
真城朔:あの人の形見だからって、託されて委ねられたからって、
真城朔:そんなことどうでもいいじゃないかって、
真城朔:分かってた。分かってる。分かってたのに。
真城朔:分かってたのに。
真城朔:どうせいつか吸血鬼になってしまうのならと、
真城朔:せめてあの人を取り戻すことだけが自分の人生の責務だと、
真城朔:都合のいい言い訳に境界を超えてしまった、最後のきっかけは、なんだっただろう。
真城朔:覚えていない。
皆川彩花:「さっくんさ、すぐ顔に出るんだよね」
真城朔:背中に回った手のひらが、まだ暖かい。
真城朔:真夜中の訪問。これは夢だと血戒で誤魔化して。
皆川彩花:「直さなくていいから、ちゃんと自覚した方がいいと思う」
真城朔:彩花はそれを訝しみもせずに。
皆川彩花:「ふふ」
皆川彩花:「……まあ、さ」
皆川彩花:「見えてなくても、どんな顔してるかなんて、わかるけどね」
真城朔:その指摘は、けれど俺の弱さを詰るものだったろうか。
真城朔:高校に進学したのは、それを始めてしまってからだった。
真城朔:中卒じゃあ悪目立ちするだとか、人脈を広げるのも便利だろうって、
真城朔:何かと勧められるから拒むのも面倒になって、それっぽく取り繕って、深い意味もなく。
真城朔:ミツがそうだってことも、すぐ分かった。
真城朔:噂なんて聞くまでもなく、顔を見ただけで、ああ、って。
真城朔:どうでもいいような気もしたけど、でも同時に、
真城朔:自分が助けた人間になら、
真城朔:近づくことも許されるんじゃないかって、そう思った。
真城朔:それだけだった。
真城朔:それだけだった。
真城朔:――それだけだったのが。
真城朔:望んでしまうことに気づいた瞬間に、まずいと思った。
真城朔:すべきことだけを受け入れるべきで、したいことなんて必要なくて、
真城朔:したいと思うことはむしろ切り捨てなければならないのに。
真城朔:だってもう始めてしまったんだから、
真城朔:俺が望む、望んでいいたったひとつはもう決まってて、
真城朔:俺にはもうあの人を蘇らせることしかなくて、
真城朔:それ以外は余計で、いらなくて、あってはならなくて、
真城朔:あってはならないのに。
真城朔:人殺しの俺が、誰に許されるはずもない悪いことを繰り返して、
真城朔:そのすべてが私利私欲のためで、なら、俺はたったひとつの願い以外、叶えてはならないのに。
真城朔:拒みたいと思えばこそ受け入れなければならなかった。
真城朔:喜びがそこにあると知れば、それを遠ざけなければならなかった。
真城朔:そうでなければ理屈が合わなかった。
真城朔:そうしている間にもどんどん人間のやり方も忘れて、
真城朔:誰かと一緒にいる自分には違和感ばかりで、
真城朔:味も温度もわかんなくなって、眠るのもいらなくなって、
真城朔:餓えばかりは強くなって血を啜るたび、外れていくことを自覚して。
真城朔:その末に求められるのも流されるのも溺れるのも、
真城朔:ただただたまらなく嫌で、
真城朔:でもそれが正しいのだと思っていた。
真城朔:奪われなければならなかった。
真城朔:奪われたくないものをこそ失わなければならなかった。
真城朔:俺がそれを嫌だと思えば思うほど、
真城朔:俺はそれを、受け入れなければならなかったから。
真城朔:受け入れなければならなかったのに。
真城朔:今のこのざまは、なんだ?
真城朔:全部終わらせるつもりで紅谷を手に掛けたのに
真城朔:巻き込んでしまって全部見られたのに
真城朔:これでもう二度と会うこともないって安心してたのに
真城朔:なのに
真城朔:なんで
真城朔:なんで
真城朔:――それでも、
真城朔:一緒にいたかった。
真城朔:一緒にいられると嬉しかった。
真城朔:一緒にいてはいけなかった。
真城朔:危険からは遠ざけたかった。
真城朔:遠ざけたいのなら、遠ざけてはいけなかった。
真城朔:危ないことだって受け入れなければならなくて、拒む権利はなかった。
真城朔:危ないことをしてほしくないのに、こうして鍛えていれば、
真城朔:いつかその手にかかって殺される日が来るだろうかと心のどこかで待ち望んで、
真城朔:でもそんなこと、望みを叶えることなど、許されないのに。
真城朔:殺されたいのなら殺されてはならない。
真城朔:さりとて生きたいはずもない。
真城朔:早く死にたい。
真城朔:なら生きなければならない?
真城朔:できるはずがない。許されるはずがない。
真城朔:少なくともそんなことは、
真城朔:そんなことは、
真城朔:隣にいて、一緒にいて、
真城朔:安らぎの中に望むことじゃないだろう。
真城朔:俺なんかが望んでいいことじゃないだろう。
真城朔:狩人たち。
真城朔:俺を仇として憎むべき人たち。
真城朔:ミツに殺してもらうより先に、
真城朔:俺の歪んだ欲望が満たされるより先に、
真城朔:彼らは俺を殺してくれるだろうか。
真城朔:俺の身勝手な望みを絶って。
真城朔:何もかもを踏み躙って、俺を軽蔑して、
真城朔:俺を殺してくれるだろうか。
真城朔:そうなるのがきっと正しいのだ。
真城朔:そうなってほしいと、思わずにはいられない。
真城朔:ああ、でも、
真城朔:でも、
真城朔:でも。
真城朔:それでも。
真城朔:それでも、どうか。
真城朔:――どうか、ミツが。
プルサティラ:プルサティラの花が舞い落ちる。
GM:ミツルの前にはもう、誰もいない。
GM:刀を濡らして滴った血すらも残らずに、
GM:ただ、夜の帳だけが落ちている。
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:プルサティラの花弁が舞い、血すらも残さず魔女のつくった真城は消え去った。
夜高ミツル:「……それでも、なんだよ……」
夜高ミツル:誰にも届かない言葉を零して、刀を鞘にしまい。
夜高ミツル:他の狩人たちに連絡を取る。
夜高ミツル:端的に要件を伝え、この場所に集まってもらうことにして。
乾咲フラン:では美がやってきます。
乾咲フラン:「夜高クン……その様子だと、無事に終わったみたいだね。」
夜高ミツル:美だ。
夜高ミツル:「……はい」
忽亡ゆかり:その場へと集う。
忽亡ゆかり:「…………」終わった、という事は、彼の刀は恐らく再び、真城の幻を貫いたのだろう。
糸賀大亮:集まろう。
糸賀大亮:すっかり馴染みの公園だ。
糸賀大亮:夜高の顔は浮かない。
糸賀大亮:それが、支配力たる真城を殺したせいなのか、いい情報がなかったのか。
糸賀大亮:…そのどちらもかは分からない。言葉を待っている。
忽亡ゆかり:だんだんと、少しずつ慣らされている。
忽亡ゆかり:これを仕組んだのはプルサティラ。そしてそのプルサティラは真城の為に。今ならこんな嫌な手段を取らされる理由も納得がいく。
夜高ミツル:三人が揃ったのを見て、やや重く話を切り出す。
夜高ミツル:「……真城が」
夜高ミツル:「紅谷を吸血鬼にするところを、見ました」
糸賀大亮:「……そうか」
乾咲フラン:「!……真城が?」
忽亡ゆかり:「…………」
夜高ミツル:頷く。
夜高ミツル:「プルサティラが言ってた通り、真城は……母親を蘇らせるために」
夜高ミツル:「誰かのための願いと、そのための犠牲があいつの血戒を強くするために必要で……」
夜高ミツル:「だから、そういう願いを持つ人を……魔女や吸血鬼に、して」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:そうしてモンスターにされた人の中には、自分の友人も、糸賀の友人もいた。
糸賀大亮:「……殺されたがっている、というのも?」
夜高ミツル:「……はい」
夜高ミツル:「……自分のやっていることが許されることじゃないと、分かってて」
夜高ミツル:「だから、殺されたい、って……」
糸賀大亮:「……」
夜高ミツル:「……殺されたいって思うことすら、あいつは自分に許してなかったみたいですけど」
夜高ミツル:覗き見た真城の心はぐちゃぐちゃだった。
夜高ミツル:死にたい、それなら生きなければならないのか。しかし、自分が生きることなど許されないと。
夜高ミツル:「母親を蘇らせること、それ以外を望むことは許されないと……」
糸賀大亮:「……それで、」
糸賀大亮:「それで、お前はどう思った」
糸賀大亮:聞いて、夜高を見る。
夜高ミツル:「俺は……」
夜高ミツル:「……あいつの、真城のしたことは許せない」
夜高ミツル:「許されないことだと、思います」
夜高ミツル:到底、許されるはずがない。自分の願いのために、人をモンスターに変えることなど。
夜高ミツル:…………それでも。
夜高ミツル:「……それでも、俺は、あいつに……生きていてほしい」
夜高ミツル:「……死なせたくない」
夜高ミツル:だから、こう思うことだって多分許されない。
夜高ミツル:正しくない。
糸賀大亮:「助けられると、思うのか」
夜高ミツル:「…………あいつに、血戒を手放させることができたら、きっと」
乾咲フラン:「……真城の血戒は、まるで呪いのようだな……」
糸賀大亮:「真城は」
糸賀大亮:「仲間を自分の手で殺すかもしれないと」
糸賀大亮:「そう突きつけられても血戒を手放さなかった」
夜高ミツル:「……はい」
糸賀大亮:「…手放させることができるか?」
糸賀大亮:「無理矢理にでも手放させた時、」
糸賀大亮:これはプルサティラが、前に夜高へ投げかけた言葉をなぞるようだ。
糸賀大亮:「そこには、奴が無駄にモンスターにして殺した人間が」
糸賀大亮:「そのモンスターに殺された人々の死体が」
糸賀大亮:「……何の意味もなく横たわることになる」
糸賀大亮:「それを、真城は耐えられると、お前はそう思うか」
夜高ミツル:どうあっても、真城に殺された人々がいるという事実は揺らがない。
夜高ミツル:まして、真城碧を蘇らせるという目的さえも壊してしまえば。
夜高ミツル:「……そう、ですね。今よりもっと苦しむかもしれない……」
糸賀大亮:「……」
夜高ミツル:「真城は、血戒を手放そうと思えばそうできた。でも、できなかった」
夜高ミツル:「……今更手放させるのは、きっとすごく難しいです。もうほとんど完成してるっていうなら、尚更」
夜高ミツル:「でも、あいつのやってきたことは間違ってるから……その苦しみからは、逃げちゃいけないんだと思います」
糸賀大亮:「……血戒の完成まで、」
糸賀大亮:「どれぐらい猶予があると思う」
糸賀大亮:「プルサティラはこの一月、真城の代わりにモンスターを作ってきた」
糸賀大亮:「そうして、その上で俺たちの前に姿を現した」
糸賀大亮:「プルサティラを殺したら、いずれにせよ血戒も完成する可能性もある」
糸賀大亮:「その時お前は」
糸賀大亮:「……どんな言葉をかけるつもりだ」
乾咲フラン:「……碧を生き返らせて、自分は死にたいだなんて、とんでもないワガママだな……」
乾咲フラン:「碧はそんな事望んで……ないだろ。」碧のすべてがわかる、というわけではないので自信はないが。
夜高ミツル:「……猶予は、」きっとないのだろう。プルサティラが血戒は完成させたと言っていたのだから。
夜高ミツル:最後に真城の手が必要で、つまりはあいつが目覚めればすぐにでも血戒は起動されるかもしれない。
糸賀大亮:「夜高」
夜高ミツル:「……はい」
糸賀大亮:「死にたい奴に生きたいと思わせるのは」
糸賀大亮:「ただでさえ大変なんだ」
糸賀大亮:「許せるとか、許せないとか、罪とか」
糸賀大亮:「お前が生かそうとするなら……」
糸賀大亮:「……それはきっともう、関係なくて」
糸賀大亮:「でも、真城はそうじゃない」
糸賀大亮:「……真城がもし、生きたいと思えなかったら」
糸賀大亮:「奴は、生きていてほしいと願っている友達の気持ちさえ裏切ってると思いながら」
糸賀大亮:「死んでくことになるかもしれない」
糸賀大亮:「……」
夜高ミツル:「……それは、」
夜高ミツル:そこまで考えが至っていなかった。
夜高ミツル:死なせたくないと、そう思うばっかりで。
夜高ミツル:それが果たせなければ、余計に苦しめることになるのだと。
糸賀大亮:苦しめるだけ。プルサティラも同じ言葉遣いをした。
糸賀大亮:彼女は結局、だから──本当に真城のための魔女なのだろう。
糸賀大亮:「助けたいんだろう」
夜高ミツル:……頷く。
糸賀大亮:「友達を、助けたいと思うのは、変なことじゃない」
糸賀大亮:「でも、真城の友達はお前だけだ」フランやゆかりの方を見る。
夜高ミツル:助けたい。生きていてほしい。
糸賀大亮:フランにとっても、真城は大切な存在だろうが──
乾咲フラン:視線を受け。「……私は、碧の願いを守りたい。できる限りね。」
乾咲フラン:「碧を生き返らせて自分は死ぬなんて……碧になんて説明させる気だよマシロは。」
夜高ミツル:「……真城は、自分が生まれる前、父親とも出会う前の母親を生き返らせようとしてます」
乾咲フラン:「……全部無かった事にしたいとでも言うのか……」
夜高ミツル:「それが、自分にできる補填だって……」
夜高ミツル:「正しく幸せになってほしいんだって……そう、真城は思ってたみたいです」
糸賀大亮:もし、自分のせいで死んだ人が生き返ったら。
糸賀大亮:そうしたら自分のことを赦せる。自分が生きていてよかったということになる。
糸賀大亮:よく分かる。でも真城は、そのために人を手にかけている。
糸賀大亮:許されるために罪を重ねて、その罪でまた自分を許せなくなっている。
糸賀大亮:「…殺してやった方が幸せだなんて言い方はしたくない」
糸賀大亮:「それぐらいに思ってる奴とお前はこれから向かい合う」
夜高ミツル:「……はい」
糸賀大亮:「だから、聞くんだ。お前は、真城を助けることができるか?」
夜高ミツル:……できるかできないかで言えば。分からないというのが正直なところだ。
夜高ミツル:だから、今の自分に出せる答えは。
夜高ミツル:「……助けます」
夜高ミツル:「俺は、そうしたい」
忽亡ゆかり:「……そろそろな。具体的な手立てや準備が要る頃だ」
忽亡ゆかり:黙っていたゆかりが口を開く。しかしその声は、普段ミツルに向けられるものよりも冷たい。
忽亡ゆかり:「お気持ちを表明してるままだと、真城くんは私に殺されるぞ」
夜高ミツル:「……っ、」その冷たさに圧される。
乾咲フラン:「しかし、私達に取れる手段がどれほどあるか……」
夜高ミツル:ゆかりの言う通りだ。
夜高ミツル:助けたいと、そう言っているだけではどうしようもない。
夜高ミツル:「……プルサティラが、真城を吸血鬼にすると言ってました」
夜高ミツル:「それを止められれば、少なくとも猶予はできるはず……」
忽亡ゆかり:「それで?」
忽亡ゆかり:「その猶予で何ができる?」
夜高ミツル:「……あいつの、血戒を手放させる」
忽亡ゆかり:「どうやって?」
夜高ミツル:「……説得、します」
夜高ミツル:自分で言っていても確実性に欠けると思う。それでも今思いつく手段はそれしかなかった。
忽亡ゆかり:「……まずはプルサティラちゃんを倒す。真城くんが起きたら、対話を試みる、と」
忽亡ゆかり:「失敗したら、その時は?」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「……その時は。どうしてもあいつが吸血鬼になって、血戒を起動させるようなら」
夜高ミツル:「……その時は、殺します。これ以上、人を手に掛ける前に」
忽亡ゆかり:「できるか? 今、少し迷ったろ、君」
忽亡ゆかり:「今の隙があれば、真城くんは君を殺せるぞ」
夜高ミツル:迷いを指摘され、再度言葉に詰まる。
夜高ミツル:少しの間、自分と向き合うように逡巡する。
夜高ミツル:短い沈黙の後。
夜高ミツル:「……できます。あいつは、人を殺したいと思ってなかった」
夜高ミツル:「だから、そうさせないために」
忽亡ゆかり:「…………」
忽亡ゆかり:その言葉に対し。
忽亡ゆかり:悲しげに、目を伏せる。
忽亡ゆかり:「……それでいい。合格点だな」
糸賀大亮:「……」
忽亡ゆかり:目の前の少年の、その甘さが好きだった。できることなら、そのままで居てほしかった。
忽亡ゆかり:自分もそれに救われた。けれど、この先は、それではいけなかった。
夜高ミツル:合格点、と言われて目を瞬かせ。
忽亡ゆかり:「……ついてくよ、君に」
夜高ミツル:「……ありがとうございます」
夜高ミツル:今日何度目か分からない言葉。
忽亡ゆかり:目の前の少年は狩人なのだ。狩人として、なすべき選択を為したのだ。
夜高ミツル:それでも、何回言っても言い足りないくらいだった。
忽亡ゆかり:だから、彼はもう、守るべき相手ではなく……背中を並べて闘うべき、対等な仲間なのだ。
夜高ミツル:真城が彼女に、大亮に、大勢の人たちにしてきたことを思えば。
糸賀大亮:「俺は、」
糸賀大亮:「お前が仕方なかったというところは、聞きたくないからな」
夜高ミツル:「……糸賀さん」
糸賀大亮:「お前が出せる答えが今それなら、それでいい」
糸賀大亮:「…………」
糸賀大亮:何か物言いたげに視線を巡らせたが、押し黙った。
夜高ミツル:「……忽亡さんは、いいんですか?」
忽亡ゆかり:「何が?」
夜高ミツル:「プルサティラの言うことが本当なら殺すしかないって、」
夜高ミツル:「そう、言ってたので……」
夜高ミツル:プルサティラと最初に会話した時に。
忽亡ゆかり:「そりゃ君、許せるわけはないだろう。今から仲直りして友達同士めでたしめでたし、とはちょっといかんぞ」
忽亡ゆかり:「狩人として、私は彼を殺すべきだと考えてる。相手が真城くんじゃなかったら、皆もそう結論づけたはずだ」
夜高ミツル:「……それでも、俺についてくって言ってくれるんですね」
忽亡ゆかり:「我々、チームだからね」
忽亡ゆかり:「一人で先走って、そのせいでみんな死にました、じゃ話にならない。もし説得が成功するのなら、それでも一応の使命は達成するとも言えるし……」
忽亡ゆかり:「……それに、プルサティラちゃんと約束した事の中には『真城くんとちゃんと向き合う』ってのもあるから……彼から直接話が聞けるのなら、私もそうしたい」
夜高ミツル:「……チーム。そうですね」
夜高ミツル:「俺も、あいつとちゃんと話したい」
忽亡ゆかり:「あとは、皆へのささやかな恩返しさ」
忽亡ゆかり:「一回分くらい、自分の意思を捻じ曲げてでも、皆のために全力で働きたい。不誠実な私に……皆、それぐらいのものをくれたからね」
夜高ミツル:「……ありがとう、ございます」
夜高ミツル:殺すべきだという考えを曲げてまで、自分はチャンスを与えてもらっている。
夜高ミツル:きっと機会は一度だけで、それを逃せば後はない。
乾咲フラン:「私もマシロに聞きたい事も言いたい事もある……だからってワケじゃないけど、私もできる限り夜高クンの助けになろう。」
夜高ミツル:「ありがとうございます……一緒に、あいつに色々言ってやりましょう」
乾咲フラン:「ああ……」
夜高ミツル:真城は死にたいと、殺されたいと思っていて。でも見せられた記憶はそれだけではなかった。
夜高ミツル:自分と一緒にいたいと、それを嬉しいと思っていて。
夜高ミツル:だったら俺と一緒だ。
夜高ミツル:俺だってあいつと一緒にいたい。生きていてほしい。
夜高ミツル:だから。悪いけど、素直に言うことを聞いて殺してやるわけにはいかない。
夜高ミツル:いざという時は殺すと、そう約束した。
夜高ミツル:それならば、いざという時を来させない。
夜高ミツル:それが今の自分に出せる答えだった。
糸賀大亮:「……チーム、という意味でなら」
糸賀大亮:と、口に出す。
糸賀大亮:「……悪いが、少し単独行動をとらせてもらう」
乾咲フラン:「……どうするつもりだ?」
糸賀大亮:「プルサティラはこのあと、」
糸賀大亮:「……俺の願いを叶えに来るはずだ。さっきの、答えを聞きに」
糸賀大亮:それは、狩人としてはあり得ない発言だ。
糸賀大亮:魔女に願いを叶えさせてはならない。今までそうやって来た。
糸賀大亮:実力行使をしてまで、ゆかりの願いを止めまでした。
糸賀大亮:周りの反応を見るように、じっと目を向ける。
乾咲フラン:「……願いを、叶えてもらうのか?」
夜高ミツル:狩人としてはあり得ない発言。それが糸賀の口から出てくるのは意外だった。
糸賀大亮:「いや、そうじゃない……」
糸賀大亮:「抵抗できるとも思ってない。ただ……その」
糸賀大亮:「それ以外の問題というか……」
夜高ミツル:「……それ以外?」
乾咲フラン:「ふむ……?」
忽亡ゆかり:「……」
糸賀大亮:「忽亡さん」
糸賀大亮:「……あんたの弟は、確かに生き返った。そうだな」
忽亡ゆかり:「……うん」
糸賀大亮:「以前……」
糸賀大亮:「グラジオラスに、蘇らされた俺の仲間」
糸賀大亮:「……墓から、遺体がなくなっていたらしい」
忽亡ゆかり:「……!」
糸賀大亮:前に、狩人仲間に聞いたことを思い出して、ぽつぽつと話す。
糸賀大亮:「俺が〈殺した〉あの三人は……墓には入ってない」
糸賀大亮:「それで……だが、プルサティラがこれから蘇らせようとするのは」
糸賀大亮:「俺たちが殺すプルサティラとは、別の〈彩花ちゃん〉だろう」
糸賀大亮:「………」
忽亡ゆかり:「……そうだね」
糸賀大亮:「それで……」
糸賀大亮:「だから、もし、」
糸賀大亮:「……もし、俺があんたを呼んだら」
糸賀大亮:「何も言わずに、プルサティラを止めてくれないか」
忽亡ゆかり:「いいの?」
糸賀大亮:沈黙を置く。前にこんな頼み方をしていたら……どんな返事がきたかと考えたのだ。
糸賀大亮:「……魔女は願いを叶える存在だ。俺の願いを叶えようとするだろう」
糸賀大亮:「俺は」
糸賀大亮:「…………」
糸賀大亮:「でも、俺が叶えるべきではないと思った時は」
糸賀大亮:「……きっとあんたを呼べると思う。だから、止めてくれ」
忽亡ゆかり:「……わかった。そのときは、全力で駆けつける」
忽亡ゆかり:「あなたたちの問題だ。どう転んでも責めないよ」
糸賀大亮:「ああ……」
忽亡ゆかり:「……ちゃんとあなたの意思で選んで……」
忽亡ゆかり:「プルサティラちゃんと向き合って……、相応に、苦しんであげて」
糸賀大亮:「ありがとう。……分かってる」
プルサティラ:はらはらと、
プルサティラ:彼らの頭上から、紫の花が舞い落ちる。
プルサティラ:上空にプルサティラが、狩人たちを見下ろしている。
乾咲フラン:はっと顔を上げる。
乾咲フラン:「来たな、早速……」
忽亡ゆかり:「お」
夜高ミツル:「……糸賀さんの決めたことなら」と言いかけたところで。
夜高ミツル:舞い落ちる花びらに気づき、頭上を見上げる。
糸賀大亮:「……あ」
行動:プルサティラ 2nd
プルサティラ:プルサティラの腰掛けた大きな花弁がゆっくりと降りてきて、プルサティラ:魔女はちらりと大亮を見るが。
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「……いや」
プルサティラ:「あのね」
プルサティラ:「……はあー」
糸賀大亮:「……」
プルサティラ:ひとつため息をつくと、その膝に眠る真城の髪を梳いている。
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「いえ」
プルサティラ:「ごめんだけど」
プルサティラ:「ごめんだけど、違うので」
糸賀大亮:「…………」違うというのは?
プルサティラ:「大亮さん」
プルサティラ:「ちょっと、待っててね」
プルサティラ:ちいさく微笑んで、その視線を切る。
プルサティラ:そして、
プルサティラ:プルサティラはミツルを見下ろした。
プルサティラ:「…………」
夜高ミツル:その視線を受け止める。
プルサティラ:じっとミツルを見ている。
夜高ミツル:プルサティラの示した道筋と自分の意見は真っ向から対立している。
夜高ミツル:真城を殺せと、そうした方がいいと、彼女はずっと言っていて。
夜高ミツル:「……俺は、真城を殺さない。殺させない」
夜高ミツル:問われる前に自分の答えを告げる。
プルサティラ:ふう、とまた小さく息を吐き。
プルサティラ:「狩人の皆さん」
プルサティラ:「特にここにいる、ミツルさん以外の、他のひとたち」
プルサティラ:「ここから先は手出し無用です」
プルサティラ:「あなたたちがなにか口を出したり、口でなくとも物理的に、とにもかくにもなんにせよ」
プルサティラ:「私の許しが出るまでになにかの干渉や妨害をするようなら」
プルサティラ:「私はその瞬間に、全てを決めます」
乾咲フラン:「……」
プルサティラ:「――さっくんを、吸血鬼にしてあげる」
プルサティラ:「それが嫌なら、黙っていてください」
忽亡ゆかり:「! ……」
夜高ミツル:「……!」
糸賀大亮:「……」
プルサティラ:「私に反論するのに、自分一人でできないミツルさんなら」
プルサティラ:「それはもう、いらないから」
夜高ミツル:「……ああ」
プルサティラ:魔女の白いつま先がゆらゆらと揺れている。
プルサティラ:「それで」
プルサティラ:「なんでしたっけ?」
夜高ミツル:「……俺は真城を殺さない。死なせない」
夜高ミツル:「あいつに、生きてほしい」
夜高ミツル:魔女を見据えて。
夜高ミツル:そう告げる。
プルサティラ:プルサティラは白い足を揺らしながらミツルの答えを聞いている。
プルサティラ:驚くでもなく。眉をひそめるでもなく。
プルサティラ:その答えそのものには何の価値も感じていないというように、
プルサティラ:変わらぬ色の瞳でミツルを見下ろしている。
夜高ミツル:「……考えた。ちゃんと。あいつを殺してやった方がいいのか」
夜高ミツル:「俺が嫌だから、とかじゃなくて」
夜高ミツル:「あんたの言う通り、その方があいつにとっては良いのかって」
プルサティラ:プルサティラは真城の頭を撫でている。
夜高ミツル:「……確かに、殺してやったらもう苦しむことだってなくなるけど」
夜高ミツル:「でも、自分が生まれてこなければ、いなければよかったなんて」
夜高ミツル:「そんな風にあいつが思いながら死んでいくことが、いいことだとは思えない……」
夜高ミツル:「そうやって死ぬのは楽かもしれないけど、なんていうか……悲しいだろ」
プルサティラ:「それ、ミツルさんの感想だよね」
プルサティラ:「私ミツルさんの感情には興味ないんだけど」
夜高ミツル:「……そうだな」
プルサティラ:「世間一般のいいこと悪いことにだって興味ないよ」
プルサティラ:「っていうか、そういう話をするなら」
プルサティラ:「罪を犯した人間が、その罪を裁かれずに生きながらえるほうが」
プルサティラ:「いいことじゃないでしょ」
プルサティラ:「っていうか楽にしてあげたいと思わないの?」
プルサティラ:「ミツルさんは、ミツルさんが悲しくなるから」
プルサティラ:「さっくんを苦しめたいと思うの?」
プルサティラ:「ミツルさんが悲しくならないために、さっくんに苦しいばかりの人生を歩ませたいの?」
夜高ミツル:「苦しめたいわけない」
夜高ミツル:「……死んだら楽になるよな、確かに」
プルサティラ:「…………」
夜高ミツル:「でも、楽になるだけだ」
プルサティラ:真城の髪を撫ぜて、指で梳いて、詰め襟に引っかかった毛先を解いて。
夜高ミツル:「……俺は」
夜高ミツル:「俺はあいつに生きて、幸せになってほしい」
プルサティラ:愛おしい子にするように、その額に触れている。
夜高ミツル:「そうさせたい」
プルサティラ:「どうやって」
プルサティラ:「……別にさ」
プルサティラ:「吸血鬼になるのに対してどうするとか、血戒をどうこうするとか」
プルサティラ:「そういう難しい話をしてるわけじゃなくてさ」
プルサティラ:膝から下を交互に振りながら。
プルサティラ:「この後のさっくんの人生に、どう幸せをもたらせるかって、そういう話だよ」
夜高ミツル:「俺があいつの苦しみを一緒に背負う」
夜高ミツル:「……あいつは許されないことをした。それは覆らない」
夜高ミツル:「それでも俺はあいつに生きてていいって、そうしてほしいって言うんだから」
夜高ミツル:「だから俺も共犯だ」
夜高ミツル:「今まで俺は、あいつに助けられるばっかりだった」
夜高ミツル:「でも今度は、俺があいつを支える」
夜高ミツル:「……あんたは、俺といて真城は苦しんでばっかりだったって言ったけど」
夜高ミツル:「でも、それだけじゃなかったのを俺は知ったから」
プルサティラ:「具体的には?」
プルサティラ:「具体的には、どうするの」
夜高ミツル:「……まずは、あいつの話をちゃんと聞く」
夜高ミツル:「前は、あいつが話したくないなら、それで良いと思ってた。無理に聞き出すことじゃないって」
夜高ミツル:「でも俺が何も聞かなかったから、あいつは言えたかもしれないことまで一人で抱えこんで苦しんでた」
夜高ミツル:例えば味覚のことだとか。
夜高ミツル:あるいは睡眠のこととか。
夜高ミツル:自分がもう少し気が回っていれば、言い出せたかもしれないこと。
夜高ミツル:「誰かに話して、受け止められて、それで楽になるものはあるはずだから」
夜高ミツル:いつかの相談所を思い出す。
夜高ミツル:とうてい誰に話せるわけもないと、そう思っていた自分の嫌な部分を。
夜高ミツル:あの時彼女に話して、それで自分は……大げさな言い方かもしれないが、少し救われたのだ。
夜高ミツル:「……それと、何を聞いても俺から突き放すことはしないって約束する」
夜高ミツル:「絶対だ」
プルサティラ:「……うん」
プルサティラ:「それで、話を聞いた後は?」
夜高ミツル:「……あいつの傍にいる。一人にさせない」
プルサティラ:「いつまで」
夜高ミツル:「いつまでも」
夜高ミツル:「真城が俺を必要としなくなるまで」
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「それで、さっくんを幸せにできると思う?」
プルサティラ:「さっくんが生きていくっていうことは」
プルサティラ:「吸血鬼にならずに、生きていくってことは」
プルサティラ:「今まで積み上げた犠牲を無に帰して」
プルサティラ:「どれだけ苦しくてもそれしかないって目標も壊してしまって」
プルサティラ:「やってきた全部」
プルサティラ:「本当に全部を否定して、壊して、粉々にしてしまって」
プルサティラ:「その手には罪と自責の念しか残ってない」
プルサティラ:「……そういう人生、だよ」
夜高ミツル:「……する。この先何年かかっても」
夜高ミツル:「……そうだな。あいつがやってきたことを、全部ダメにする」
夜高ミツル:「でも、本当に楽になりたくて、絶対に何があっても邪魔されたくないなら」
夜高ミツル:「とっくに、吸血鬼になってたはずだ」
夜高ミツル:「……止めてほしいって、どこかで思ってるんじゃないのか、あいつは」
夜高ミツル:「それに、罪だけじゃない」
夜高ミツル:「俺が生きてここに立ってるのがその証拠だ」
夜高ミツル:「俺はあいつに何回も命を助けられた。元々が真城のせいだったにしても、それはなくならない」
夜高ミツル:「……グラジオラス。あいつに感謝してたやつらもいた」
夜高ミツル:「……誰かの命を奪うことも、モンスターにすることも、肯定できない。しちゃいけないけど」
夜高ミツル:「あいつのやってきたことは間違ってても、それでも助かった誰かがいるんだって」
夜高ミツル:「そう、伝える」
プルサティラ:「そうだね」
プルサティラ:「グラジオラスがやったことで、救われた人もいたね」
プルサティラ:「でも」
プルサティラ:「そのグラジオラスを、あなたたちは殺した」
プルサティラ:「同じように、さっくんを殺したい人も、きっといるよ」
夜高ミツル:「……ああ」
プルサティラ:「そういう意味では、グラジオラスとさっくんは何も違わない」
プルサティラ:「なのに、さっくんのことは殺さないの?」
プルサティラ:「さっくんをだけ、許すの?」
夜高ミツル:「……そうだな、奪った命も、助けた命もある」
夜高ミツル:「そういう意味では同じだ」
夜高ミツル:「でも」
夜高ミツル:「真城はまだ、完全に吸血鬼になったわけじゃない」
プルサティラ:「それ、別にさっくんに大切な人を殺された人にとっては関係なくない?」
夜高ミツル:「……ああ、そうだ。関係ない」
夜高ミツル:「それでも、」
夜高ミツル:「……それでも俺は真城を助けたい」
夜高ミツル:真城を殺さないことをゆかりと大亮が許してくれたのは、今までの狩りがあって、彼らが真城を知っていたからで。
夜高ミツル:でも、そうでない人たちにとっては。
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「……知ってると思うけどさ」
プルサティラ:「さっくん、半吸血鬼なんだよ」
プルサティラ:「さっくんのこれからの人生、ずーっとあって、長くてさ」
プルサティラ:「歳もこれ以上とらなくて」
プルサティラ:「ミツルさんは、でも、人間」
プルサティラ:「いつまでもって言うけど、耐えられる?」
プルサティラ:「ミツルさんが年取ってく隣で、ずっと変わらないさっくんがいて」
プルサティラ:「そのためにミツルさん、ずっとさっくんの傍にいられるの?」
夜高ミツル:半吸血鬼が長命なことは、D7で聞いている。
夜高ミツル:自然死の例が確認されていない、そんな途方も無い長命。
夜高ミツル:自分がこれから大人になって、もっと年を取って……その先も。真城は変わらない。
夜高ミツル:「……正直、その時にならないと分からないところもあるけど」
夜高ミツル:「でも、変わらない真城を見れば、今日あんたにした約束とか、これから真城にするだろう約束とか」
夜高ミツル:「今と同じ気持ちで、きっと思い出す」
夜高ミツル:「だから、大丈夫だ」
プルサティラ:「本当に?」
プルサティラ:「本当に、心から、そう思える?」
夜高ミツル:頷いて。
夜高ミツル:「思うよ」
プルサティラ:「さっくんにはさ」
プルサティラ:「……血戒を奪われたさっくんには、生きていく理由がもうなくて」
プルサティラ:「でも、それだけじゃなくて」
プルサティラ:「生きてく理由がないだけじゃなくて、死ぬ理由、死にたい理由は山程あって」
プルサティラ:「それを生かしていこうとする」
夜高ミツル:「……ああ」
プルサティラ:「幸せにしようとしていくことの意味って、分かってる?」
プルサティラ:「いつまでも傍にいるって言葉の意味も、ミツルさんはわかってるの?」
夜高ミツル:「真城に、俺の人生をかける」
夜高ミツル:「そういうことだろ」
プルサティラ:「そう」
プルサティラ:「そうしても、報われないかもしれない」
プルサティラ:「どんなに手を尽くしても、救えないかもしれなくて」
夜高ミツル:「……そうだな」
夜高ミツル:「ずっと恨まれるかもしれない。そうされても仕方ないことをする」
プルサティラ:「それなのに」
プルサティラ:「ミツルさんが人生かけるってことは、もう他の人のこと、見てられないよ」
プルサティラ:「好きな人とかも、作れないだろうし」
プルサティラ:「普通の人の人生とか、本当に、全部もう無理で」
プルサティラ:「それでいいの」
プルサティラ:「しかもさっくん本人がそれを望んでるわけでもないんだよ」
プルサティラ:「だって、ミツルさんがさっくんに人生かけなきゃならない理由ってないじゃん」
プルサティラ:「求められてないの」
プルサティラ:「求められてないのに、ミツルさんはそうするって言ってるんだよ」
夜高ミツル:「……ああ、俺の勝手で、余計な世話で」
夜高ミツル:「それでも」
夜高ミツル:「……家族が死んでから何もしたいこともなくて、ただ死んでないだけ、生きるために生きてたような時期に」
夜高ミツル:「生きてんのも悪くねーかも、楽しいかもって、そう思えたのは真城のおかげなんだ」
夜高ミツル:「……別にあいつにそんな気はなかったにしてもさ」
夜高ミツル:「だから、今度は」
夜高ミツル:「あいつに生きてて良かったって、悪くないなって、そう思ってほしいんだよ」
プルサティラ:「……そう思わせられると、思ってる?」
プルサティラ:「ねえ」
プルサティラ:「ミツルさん」
プルサティラ:「さっくんが今、ああなってるの」
プルサティラ:「ご飯も食べられなくて、味もわかんなくて」
プルサティラ:「寒いも暑いもなくて眠る必要もない」
プルサティラ:「聖銀には皮膚を灼かれて」
プルサティラ:「……周囲の人は、おかしくなる」
プルサティラ:「ああなってるのはさ」
プルサティラ:「血戒、手放しても戻らないんだよ」
プルサティラ:「さっくんは”血戒のせいでああなってる”んじゃない」
プルサティラ:「”血戒の影響でああなってしまった”の」
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:少し黙り込んでから、ちらりとフランを見る。
プルサティラ:「……似すぎてきてるって、思わなかった?」
乾咲フラン:「……」顔を顰めている。確かに、親子と言っても碧に近づきすぎている……そう思いながら。
夜高ミツル:「……戻、らない」
夜高ミツル:血戒さえ手放せば、それらは治るのではないかと期待していた。
夜高ミツル:一方で、一度吸血鬼になった人間が元には戻れないように。
夜高ミツル:真城の身体が受けた影響も戻らない、そういう不安も確かにあった。
夜高ミツル:それが、今こうしてプルサティラから戻らないものだと断言されて。
プルサティラ:「半吸血鬼として目覚めてからのさっくんは、成長してたわけじゃない」
プルサティラ:「変化してた。近づいてた」
プルサティラ:「吸血鬼フォゲットミーノットに」
プルサティラ:「だから、血戒を――『フォゲットミーノット』を手放しても」
プルサティラ:「その影響でもたらされた変化が、なくなることはない」
夜高ミツル:「……どうにも、できないのか?」
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「もともと、フォゲットミーノットは魔女になりかけて」
プルサティラ:「真城碧さんまで含めて――その存在そのものの深いところまで、魔法の影響が根を張っている」
プルサティラ:「横から魔法で干渉するのも難しい」
プルサティラ:「誰かが真城碧さんを願い、蘇らせても」
プルサティラ:「彼女の存在は、どこか歪んだ形で蘇って、そして」
プルサティラ:「――その命も、長くは保たない」
プルサティラ:だから殺してきたんだよね。
プルサティラ:真城の頭を撫でて、小さく微笑む。
プルサティラ:「朽ち果てるのを見届けるよりも」
プルサティラ:「自分自身の手で、ね」
プルサティラ:願うことはやめられずとも。
プルサティラ:せめてその責任を。
乾咲フラン:(そうか……)ハイドレンジアの戦いの日、雪に横たわった碧の体を思い出しながら。
夜高ミツル:あの日見た光景。母親を自身の手で殺した真城。
夜高ミツル:望みながら、望んだ人を手に掛けるのは……相手が本物ではないとしても、どれだけ苦しかったことだろうか。
夜高ミツル:「……例えば」掠れる声。
夜高ミツル:「例えば、俺があんたに真城の身体が戻るよう願ったらどうなる……?」
夜高ミツル:魔法での干渉は難しいと言っていた。それでも縋るように尋ねる。
プルサティラ:首を振る。
プルサティラ:「できないの」
プルサティラ:「何もかもを覆すことができないのと、同じ」
プルサティラ:「もう、さっくんの存在の深いところまで、影響は及んでしまっているから」
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:その希望も、あえなく否定され。
プルサティラ:「……だから」
プルサティラ:「ミツルさんが望むようなさっくんとの日々だって」
プルサティラ:「どんなに望んでも」
プルサティラ:「今までの日常は、帰ってこないんだよ」
プルサティラ:「希望を挫かれたさっくんは自分を苛み続けて」
プルサティラ:「怖いものだらけの人生」
プルサティラ:「……学校だってもう行かないし、卒業だってできないよね」
プルサティラ:「籍、ないんだもん」
プルサティラ:「理由もないし」
夜高ミツル:「……ああ」
夜高ミツル:それもまた、戻らないものの一つ。
夜高ミツル:「…………今まで通り、ってのは」
夜高ミツル:「こうなった以上は元々期待してない」
夜高ミツル:「狩人になったあの時と同じで、知る前と同じではいられない」
夜高ミツル:「……だから、」
夜高ミツル:「今までの日常なんてのは、いいんだ。今と、これからのことの方が大事だ」
夜高ミツル:「……人をおかしくする体質は、俺がいる時はどうにかしてやれると思う」
プルサティラ:「…………」
夜高ミツル:「俺は真城を……あー、好きになってた?って時も、真城に変になったりしなかったし」
夜高ミツル:「誰かに血をもらう時にそうなってたんなら、俺のをやればそれはなくせる」
プルサティラ:無言でしきりに真城の髪を梳いている。
夜高ミツル:「……真城と俺が違ってしまうことは、もうしょうがなくて」
夜高ミツル:血戒のことがなくても、そもそもが半吸血鬼と人間だ。
夜高ミツル:「だから、違うものは違うんだって、それを受け止めて」
夜高ミツル:「なにかあいつが楽しめるものを……一緒に探していく」
プルサティラ:「……意識しちゃうと逆にみたいなとこ、けっこうあるんじゃないかと思うけど……」
プルサティラ:髪を梳いてやりながらぼそぼそ言っているが。
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「……さっくん、狩り、やめないよ」
プルサティラ:「やめられないよ」
夜高ミツル:「……そうだろうな」
プルサティラ:「それにさ」
プルサティラ:「さっきも言ったけど、ミツルさんにそうしてもらうことだって、別に望んでない」
プルサティラ:「身を捧げさせることに、きっと苦痛すら感じて」
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「要するにさ」
プルサティラ:足を組んだ。
プルサティラ:「めんどくさいよ」
プルサティラ:「さっくん、すごいめんどくさいよ」
夜高ミツル:「……ああ」
夜高ミツル:「そうだな」
プルサティラ:「絶対言うよね」
プルサティラ:「気にしなくていいとか」
夜高ミツル:「言うだろうな……」
プルサティラ:「あんま気使うなとか」
夜高ミツル:「そこまですんなとか」
プルサティラ:「それ真に受けたら、終わりだよ」
プルサティラ:「……っていうか」
プルサティラ:「本当に、さっくん自身はそう思ってるよ」
プルサティラ:「ミツルさんにはミツルさんの人生を、自由に生きてほしいって」
プルサティラ:「自分なんかに縛られてほしくないって」
夜高ミツル:「……そうだな。本当にそう思って、それを言うんだろうな」
プルサティラ:「それで」
プルサティラ:「それでさ」
プルサティラ:「手放されたら、安心して、死ぬんだよ」
夜高ミツル:「…………」
プルサティラ:「ミツルさんがどんなに手を尽くしたって」
プルサティラ:「もしかしたら、さっくんの一番安心できる瞬間って、それかもしれないよ」
夜高ミツル:「……俺は、俺があいつにいてほしいから引き止めるんだ」
夜高ミツル:「縛られるとかじゃない」
夜高ミツル:「……それをちゃんと言うよ。あいつが分かるまで何回でも」
プルサティラ:「……いいの?」
プルサティラ:「絶対よそ見できないと思うんだけど」
夜高ミツル:改めて、考えを巡らせる。簡単に頷いてはいけないことだから。
夜高ミツル:むしろ自分の方こそ、楽になりたがっている真城を生に縛り付けるようなもので。
夜高ミツル:だからきちんと、今までのこととこれからのことを考える。
夜高ミツル:……考えて、でも。やっぱり同じ答えに辿り着く。
夜高ミツル:「……ああ」
夜高ミツル:頷く。
夜高ミツル:「俺はあいつに生きてほしいし」
夜高ミツル:「そのために俺ができることをする」
プルサティラ:「なんで?」
プルサティラ:「なんでそこまでしたがるの」
夜高ミツル:「さっきも言ったろ。あいつに助けられたんだよ。命だけじゃなくてさ」
夜高ミツル:「そもそも、友達なんだから」
夜高ミツル:「死のうとしてるのを見過ごしたくなんかない」
夜高ミツル:「できることがあるならしてやりたい」
プルサティラ:「でも」
プルサティラ:「友達のために人生捧げるのって、普通じゃないよ」
プルサティラ:「殺してあげるのは駄目なの?」
プルサティラ:「願いを叶えてあげるのだって、友達のためにできることじゃないの?」
夜高ミツル:「……そうだな。それだってしてやれることの内で、あんたはそれを選んだ」
夜高ミツル:「それが間違ってるとも、今は思わないんだ」
夜高ミツル:「ただ……それじゃあ願いが叶ってその瞬間に終わりだろ」
夜高ミツル:「楽になる……っていうか、苦しみはなくなるけど、その先もそれ以上もない」
夜高ミツル:「そもそも楽になったって感じる自分だってなくなるんだから」
夜高ミツル:「普通とか普通じゃないとかは……もう今更だろ」
夜高ミツル:「その内俺にとってはそれが普通になるだけだ」
プルサティラ:「なくなりたいんだよ」
プルサティラ:「さっくんは」
プルサティラ:「なくなるのが、一番の望みなの」
プルサティラ:「……さっくんにとっても、それが普通だよ」
夜高ミツル:「……ああ」
夜高ミツル:「あいつの一番の望みを蹴って、それでも生きてほしいって、そうさせようとするのは結局は、だから」
夜高ミツル:「俺の我儘だ」
夜高ミツル:「……それは、どう取り繕ってもそうで」
夜高ミツル:真城碧を蘇らせること。その末に自分が殺されること。真城が人生をかけてきた願いを、否定する。
夜高ミツル:それを叶えてやることだってできるはずなのに。
夜高ミツル:「……俺は、あいつにいなくなってほしくない」
プルサティラ:「…………」
夜高ミツル:「我儘を通そうとするんだから、そのためにできることをやるし」
夜高ミツル:「あいつが人生をかけてきたのを邪魔するから、俺も人生をかける」
プルサティラ:「手放さない?」
夜高ミツル:「ああ」
プルサティラ:「絶対に、置いていったりしない?」
夜高ミツル:「約束する」
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「絶対?」
夜高ミツル:「絶対だ」
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「私は、それでも」
プルサティラ:「さっくんは、ここで終わらせてもらうのが、幸せだと思ってる」
プルサティラ:「自分が生まれたという間違いを正すだけの人生を」
プルサティラ:「せめて大切な、望んだ相手に終わらせてもらう」
プルサティラ:「それはやっぱり、救いだと思うから」
夜高ミツル:「……あんたが真城のことを考えてそう言ってるのは、今はちゃんと分かる」
プルサティラ:「ミツルさん」
プルサティラ:「ミツルさんは、その救いを跳ね除ける」
夜高ミツル:「……ああ」
プルサティラ:「本当の救いになるかわからない、そんな道を行く」
プルサティラ:「それを」
プルサティラ:「それに、胸を張れますか?」
プルサティラ:夜高ミツルの幸福『背徳:真城朔』を破壊します。
プルサティラ:「あのとき殺してあげればよかった」
プルサティラ:「せめて、願いを叶えさせてやるべきだった」
プルサティラ:「もうこれ以上相手をしてやれない」
プルサティラ:「手放して、しまいたい」
プルサティラ:「人生って、長くてさ」
プルサティラ:「長い長い人生の中で心変わりを起こしても」
プルサティラ:「手放してしまった願いは、もう叶わない」
プルサティラ:「一度きり」
プルサティラ:「一度きりのチャンスなんだよ」
プルサティラ:「さっくんが幸せになって、それで終われて」
プルサティラ:「ミツルさんたちだって、救ってやれたなって、そう思える」
プルサティラ:「たった、一度きりの……」
夜高ミツル:真城の望む救いを与える、たった一度の機会。
夜高ミツル:それを跳ね除けてこれから先、何年、何十年と。
夜高ミツル:真城と生きていく。
夜高ミツル:「……ずっと一緒にいるって、口で言うのは簡単だから」
夜高ミツル:「本当にそう思ってるけど、それを証明する方法がなくて」
プルサティラ:「…………」
夜高ミツル:「でも、少なくとも、覚悟もなしにこの場に立ったりはしない」
夜高ミツル:「真城のための魔女であるあんたに対して、俺は他の方法をとるって言うんだから」
夜高ミツル:「……それを後悔するくらいなら、最初からこんな話してない」
夜高ミツル:「俺はあいつを死なせない」
夜高ミツル:「あいつがここで死ぬよりも幸せになれる道を探す」
夜高ミツル:「それを選ぶことを、後悔したりしない」
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「……はー」
プルサティラ:ぱたん、と、
プルサティラ:プルサティラは花のベッドに仰向けに寝転ぶ。
プルサティラ:下から見れば白い足だけがぷらぷらと揺れている。
プルサティラ:「……うーん」
プルサティラ:「やだな……」
プルサティラ:「やだけどまあ……仕方ないか……」
夜高ミツル:「……?」
夜高ミツル:困惑しつつ様子を伺っている。
プルサティラ:「やだけど……」
プルサティラ:しばしその調子でうだうだとやっていたが。
プルサティラ:よいしょ、と起き上がる。腹筋が弱いので腕で。
プルサティラ:「…………」
夜高ミツル:起きてきた……
プルサティラ:ミツルを見下ろす。
プルサティラ:「……実際のところ」
プルサティラ:「『フォゲットミーノット』はもう、完成してて」
プルサティラ:「まあそれをね、さっくんが持ってたら」
プルサティラ:「そんなの即座に使っちゃうよね」
夜高ミツル:「……そうだな」
夜高ミツル:それが一番の望みなんだから、使わない理由などなく。
プルサティラ:「なので私が取り上げて持ってます」
プルサティラ:白い手のひらを空中にかざす。
プルサティラ:そこから溢れる青い光は、過去のあの映像で見たものと同じ色をしている。
夜高ミツル:「……え?」
夜高ミツル:取り上げるとかできるのか……。
プルサティラ:「私はさっくんのための魔女なので」
プルサティラ:「ちょっとくらいは、結構、効くのです」
プルサティラ:「……ちょっとだけだけどね」
夜高ミツル:「……なるほど」
夜高ミツル:そういうものなのか。魔女の力の理屈は分からない。
プルサティラ:光る手のひらから青い勿忘草の花が溢れて、落ちていく。
プルサティラ:「これをね、さっくんに返さないで、解き放ってしまうのは簡単」
プルサティラ:「簡単なことです」
プルサティラ:「それだけでさっくんの望みは潰えてしまえる」
夜高ミツル:……頷く。
プルサティラ:「でも」
プルサティラ:「この血戒は、育ちすぎた」
プルサティラ:「さっくん本人にも仕組みが分からないまま、後付けで無理矢理強化したわけでね」
プルサティラ:「なんか……こう……私は詳しくないんですけど」
プルサティラ:「ソースも読めないのに引き継いだプログラムをコピペで魔改造しまくったみたいな……」
プルサティラ:「まあそれは……それはいいんですけど」
プルサティラ:「とにかく」
プルサティラ:「育ちすぎたので、解き放ったらなくなって終わり、とはいかないわけです」
夜高ミツル:「……つまり」
夜高ミツル:「どうすればいい」
プルサティラ:「この血戒を解き放ったら」
プルサティラ:「吸血鬼フォゲットミーノットが蘇る」
プルサティラ:「あなたたちは、彼女を倒さなければならない」
夜高ミツル:「……!」
プルサティラ:「さっくんがその手を取ってしまった」
プルサティラ:「殺し切ることのできなかった彼女を、今度こそ」
プルサティラ:「あなたたちの手で、終わらせなければならない」
プルサティラ:プルサティラは狩人たちを見回す。
夜高ミツル:血戒の中にはフォゲットミーノット自身が眠っている。
糸賀大亮:沈黙したまま、その話を聞いている。
乾咲フラン:「…………」
プルサティラ:「たぶん、すごく強いよ」
プルサティラ:「前よりも強いよ」
プルサティラ:「フランさん、知ってるもんね」
プルサティラ:「……あ」
プルサティラ:「もう喋っていいです」
プルサティラ:手のひらの光を収めて。
糸賀大亮:許可された。
糸賀大亮:息をついて、かぶりを振る。
乾咲フラン:「知っている……」溜息と共に。
夜高ミツル:確かに、そうなるのも道理なのだろう。
糸賀大亮:育ち過ぎた血戒、その中に宿る吸血鬼と化した真城の母親〈そのもの〉
プルサティラ:「……それに」
プルサティラ:「その時さっくんがどうするかは、私にもわからないよ」
プルサティラ:「わからないの」
糸賀大亮:「……」
夜高ミツル:「……ああ」
プルサティラ:「本当にまた、ほんとうの意味で、お母さんを殺せてしまうのか」
プルサティラ:「それとも……」
夜高ミツル:真城がフォゲットミーノットの側につく。
夜高ミツル:そんな可能性だってゼロではなく。
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「たいへんだよ」
プルサティラ:「すごく大変でさ」
プルサティラ:「……ねえ、大亮さん、ゆかりさん」
プルサティラ:「本当にいいの?」
プルサティラ:「さっくんは、あなたたちの大切な人を殺したんだよ」
忽亡ゆかり:「……そう、だな……」
糸賀大亮:「よくはない」
忽亡ゆかり:「同じく」
夜高ミツル:「…………」
夜高ミツル:自分の気持ちは伝えた。その後二人がどう思うかまでは、強制できない。
夜高ミツル:静かに二人の答えを聞く。
糸賀大亮:「最初から、よくないことを分かったうえで」
糸賀大亮:「夜高に託すと決めた」
糸賀大亮:少しでも。
糸賀大亮:少しでもいいことがあると信じて。
糸賀大亮:狩人としてここまでやってきた。それは、そもそも正しいからじゃない。
糸賀大亮:「そうするべきだと思った」
糸賀大亮:言って、目を伏せる。
プルサティラ:「……そう」
忽亡ゆかり:「……まあ、私は、真城くんと夜高くんがいいなら、ね」
忽亡ゆかり:本心ではない。それは魔女にももちろん伝わっている。仲間にも恐らくは。
プルサティラ:ゆかりに目を向ける。
忽亡ゆかり:内面は、もっと、遥かに醜いことを考えていて、それはとても割り切れるようなものではなく。
プルサティラ:「……無理に戦うのって、できないよ」
プルサティラ:「相手は吸血鬼でありながら魔法を使うような、とんでもないやつで」
プルサティラ:「迷いがあれば、見透かされる」
プルサティラ:「それなら降りたほうがずっといい」
忽亡ゆかり:「……戦うこと自体は、別にいい」
忽亡ゆかり:「どっちにしろ、血戒はどうにかせんといかんだろうし。そのときに仲間を見捨てて降りることはしないさ」
プルサティラ:「じゃあ、何が問題?」
忽亡ゆかり:「…………仲間と、真城くんのために動く。それは決まったことで、そこを変えるつもりはなくて……」
忽亡ゆかり:「……だけど、まあ、あれだな……」
プルサティラ:「うん」
忽亡ゆかり:「弟のことについては、やっぱ彼から直接聞きたくてさ。その答え次第では……アレだな、って」握り拳を振る仕草。
プルサティラ:「……そうだね」
プルサティラ:「それは、ゆかりさんに、権利があるよ」
プルサティラ:それからちら、とミツルを見るが、
プルサティラ:すぐにフランへと視線を移して。
夜高ミツル:ゆかりが真城を責めることを止める権利は、自分にはなく。
夜高ミツル:真城を、罪を犯した者を生かすのは、そういうことで。
夜高ミツル:死んで償うという機会を奪った以上は、自分もその責を一緒に負うことしかできない。
プルサティラ:「…………」
プルサティラ:「フランさんは、いいの?」
乾咲フラン:「ああ……また碧の姿をした者を殺さなければならないのかと思うと、陰鬱な気分になるよ。」
プルサティラ:「望めば、そうしなくてもよくなるかもしれないんだよ」
乾咲フラン:「けどね、碧は……私にマシロを託したんだ。」
乾咲フラン:「私は、昔の碧が蘇ってハイおしまいなんて、そんな風に割り切れない。そう思えない。」
乾咲フラン:「マシロを殺して終わり、なんていうのは……マシロを守って、たとえ今のような状況になったとしても……マシロに生きてもらいたいと思った碧を、碧の人生を否定する事になる。」
乾咲フラン:「……数え切れないほどの犠牲者がいても……私は、やはり、愛した人の人生を否定できない。」
乾咲フラン:「そして碧はもう、死んだんだ。」
乾咲フラン:「だから……いい。私はFMNが再び現れても、倒すよ。」
プルサティラ:「……さっくんは、あなたのこと信頼してるけど」
プルサティラ:「そういう気持ちは全然ないよ」
プルサティラ:「全然ない」
プルサティラ:いいの? と首を傾げた。
乾咲フラン:「いいさ。」
乾咲フラン:「私は碧を愛した……それだけなんだ。」
プルサティラ:「……そっか」
乾咲フラン:「マシロに碧の幻を見るなんて、碧に申し訳が立たないよ。」
プルサティラ:「がんばっておさえてくださいね」
乾咲フラン:「反省しています」
プルサティラ:頷く。
糸賀大亮:急に軽くなった……と思っている。
プルサティラ:「……本当に」
プルサティラ:「本当に、いいんだね」
プルサティラ:「それで」
プルサティラ:「そうすることを、あなたたちは選ぶの」
プルサティラ:「大切な人の仇を生かして」
プルサティラ:「愛した人を蘇らせる道も拒んで」
プルサティラ:「消えない罪を背負った、たった一人のために」
プルサティラ:「あなたたちは、吸血鬼フォゲットミーノットに、立ち向かえる?」
乾咲フラン:「ああ。」
糸賀大亮:「ああ」
忽亡ゆかり:「私も。仲間の決断に懸けることにした」
忽亡ゆかり:真城を生かす──それは自分の導き出した結論ではない。どちらかといえば、プルサティラの立ち位置に近い自分とは、反対側の意見だった。
忽亡ゆかり:しかし、それでも乗ることにした。ならば、それは自分の判断なのだ。
忽亡ゆかり:信念を曲げて、人生を懸けて、けれどそれでも、この少年ならば後悔はさせないだろうと期待を込めて、彼の船に乗った。
忽亡ゆかり:どん底から救われた借りは……それなりに返せるだろう。
夜高ミツル:真城を生かし、フォゲットミーノットと戦うこと。
夜高ミツル:理由はそれぞれだが、誰にとっても簡単には受け入れられないはずのことで。
夜高ミツル:「ああ。立ち向かうよ」
夜高ミツル:それでも、仲間たちはそうすると言ってくれている。
夜高ミツル:彼女の言葉を借りれば、決して”楽”ではない道を選んでいる。
夜高ミツル:反対されたって、恨まれたってしょうがないことなのに。
プルサティラ:「……そっか」
プルサティラ:「そう」
プルサティラ:「じゃあ、さっくんにも訊こっか」
プルサティラ:プルサティラがそう言った直後、
プルサティラ:上空から真城の身体が投げ落とされる。
プルサティラ:ミツルめがけて。
夜高ミツル:「……あ?」
夜高ミツル:「あ!?」
乾咲フラン:「!」
夜高ミツル:慌てて、その身体を受け止め……きれず。落ちてきた真城の下敷きになる。
夜高ミツル:位置エネルギーが乗ってる、自分と対して体格の変わらない相手を受け止めるのは……難しい!
真城朔:落ちてきた真城はまだ眠っている。
真城朔:ミツルを下敷きに、憎らしいほど静かに安らかに。
夜高ミツル:上半身を起こしつつ。
夜高ミツル:「……真城」
夜高ミツル:恐る恐る、その名を呼ぶ。
プルサティラ:プルサティラは上から覗き込んでます。
夜高ミツル:「……おい、真城」肩を揺する。
真城朔:まだ温もりがある。
真城朔:微かに残った人間性を示す、体温の暖かさが。
夜高ミツル:胸の淡い光もない。
夜高ミツル:本物の真城。
真城朔:「…………ん」
夜高ミツル:「起きろよ……って」
夜高ミツル:目を覚ましそうな様子に、揺するのを止め。
真城朔:揺すられてむずがるように首をすくめて、
真城朔:やがてぼうっと瞼を上げる。
真城朔:瞳を瞬いて。
夜高ミツル:目が合う。
夜高ミツル:真城の身体を支えたままの、至近距離。
真城朔:「……ああ」
真城朔:ふにゃりと笑う。
真城朔:「ミツか……」
夜高ミツル:「…………あー」
夜高ミツル:「…………おはよう?」
真城朔:「おは」
真城朔:「…………」
真城朔:「…………」
真城朔:長い沈黙。
夜高ミツル:気の抜けた様子に、緊張感が削がれ。
夜高ミツル:そんな間の抜けた挨拶を。
乾咲フラン:二人のプライベートな雰囲気に、目を逸してやる優しさがフランにはあった。
糸賀大亮:俺は趨勢を見守っていますが……
真城朔:「っ――」
真城朔:血相を変えてがばりと起き上がって、
真城朔:「違、……っ」
真城朔:「彩花!!」
真城朔:顔をあげる。
夜高ミツル:何が違うんだ?
真城朔:真城は顔をあげて、それを見て、
真城朔:彼女とも目が合う。
真城朔:「…………」
プルサティラ:見下ろしている。
プルサティラ:「プルサティラでーす」ひらひらと掌を振って、笑った。
真城朔:立ち尽くしている。
夜高ミツル:真城が起きたので、自分も立ち上がる。
夜高ミツル:「……何も、聞かされてないのか?」 彩花と呼んだことから、そうなのだろうと。
プルサティラ:「うん」
プルサティラ:真城の代わりにプルサティラが答える。
夜高ミツル:「そうか……」プルサティラの答えに少し俯いて。
プルサティラ:「あのねえ、さっくん」
プルサティラ:「良い知らせと悪い知らせがあってね」
プルサティラ:「めんどくさいから聞かずに悪い知らせから先に教えちゃうね」
プルサティラ:「さっくんのやってきたことは、もうみんなにバレちゃってます」
忽亡ゆかり:「…………」
真城朔:「――は」
糸賀大亮:「……」
真城朔:振り返る。狩人たちを。
真城朔:一歩、身を退いた。
夜高ミツル:「……真城」
夜高ミツル:「大丈夫だ」
夜高ミツル:その腕を掴んで。
夜高ミツル:「大丈夫、だから」
真城朔:振りほどく。
真城朔:今度はミツルからことさらに距離を取って、
真城朔:「……じゃあ、良い知らせは、あれか」
夜高ミツル:逃すまいと、その距離を詰める。
真城朔:「今度こそ、殺してくれ――」
真城朔:「…………」
真城朔:「あ!?」
真城朔:不意に何かに気付いたように言葉を切ると、自らの手元に視線を落とす。
夜高ミツル:「殺さない」
夜高ミツル:「俺達はお前を殺さない」
夜高ミツル:「そう決めたんだ」
真城朔:「いや、そんなのは」
真城朔:「それどころじゃ」
真城朔:「っ」
糸賀大亮:あ、血戒。
真城朔:「彩花!?」
真城朔:天を仰ぐ。
プルサティラ:「持ってますよー」
プルサティラ:青い光を放つ手をひらひらと。
夜高ミツル:「……血戒は、彼女が持ってる」
プルサティラ:「それでね、もう完成させちゃったんだ」
プルサティラ:「さっくんが寝てる間ね、一ヶ月くらいね、いっぱい私はがんばりまして」
プルサティラ:「だから、いつでもお母さん、蘇らせられるわけですね」
真城朔:「………………」
真城朔:ぱくぱくと口を開いている。
夜高ミツル:そう、蘇らせられる。
夜高ミツル:……それを止めるのだ。俺は。
プルサティラ:「でもね」
プルサティラ:「そこのミツルさんたちは、それを阻止したいみたいでね」
夜高ミツル:「……ああ」
真城朔:「は」
夜高ミツル:「真城が今までやってきたこと、願うこと」
夜高ミツル:「……それを全部知って」
夜高ミツル:「知っていて」
夜高ミツル:「それでも、止める」
夜高ミツル:真城をまっすぐに見て、そう告げる。
真城朔:「…………」
真城朔:「何、言って……」
真城朔:ミツルからまた一歩下がる。
プルサティラ:その隣にプルサティラが下降してきて。
プルサティラ:「私は、さっくんの願いを叶えてあげたいと思ってるよ」
プルサティラ:「そうじゃないと完成とかさせないしね」
夜高ミツル:「……お前が死ぬのが前提の願いを、俺は叶えさせられない」
夜高ミツル:「俺はお前に生きててほしいから」
真城朔:「…………」
プルサティラ:「……さっくん」
プルサティラ:「どうする?」
真城朔:真城はプルサティラを振り返る。
夜高ミツル:「真城」
真城朔:ちらりとミツルを窺ってから、
真城朔:呼び掛けられて、ひくりと肩を震わせる。
真城朔:視線が落ちる。
夜高ミツル:「……お前が、どれだけその願いにかけてきたのかも知ってる」
夜高ミツル:「それでも止めるんだから……俺のこと恨んだっていい」
真城朔:「彩花」
真城朔:遮るように、名を呼んだ。
プルサティラ:「……ん」
夜高ミツル:「俺は」遮られてもなお続けて。
夜高ミツル:「お前を殺して終わりになんかしたくない」
真城朔:「……やる」
夜高ミツル:「真城!」
プルサティラ:「じゃあ、ミツルさん」
プルサティラ:遮るように前に出る。
プルサティラ:「ここから先は試練だよ」
夜高ミツル:「……」プルサティラを見返す。
夜高ミツル:「……試練?」
プルサティラ:「ちゃんと破ってね」
プルサティラ:「何をするにも、弱いんじゃそれだけで話にならないし」
プルサティラ:「私を打ち破れるくらいの強さがないと、フォゲットミーノットにも勝てない」
真城朔:その後ろで僅かに肩を震わせる。
夜高ミツル:「……ああ」
夜高ミツル:「そうだ」
夜高ミツル:「そうだな」
夜高ミツル:頷く。
夜高ミツル:魔法を操る吸血鬼。
夜高ミツル:簡単に破れるはずのない相手。
夜高ミツル:それに、立ち向かうというのなら。
プルサティラ:「……この先の人生だって、ずっとそう」
プルサティラ:「だから」
プルサティラ:「私を打ち破って」
プルサティラ:「その時にまた、誓ってください」
プルサティラ:「絶対に置いていったりしない」
プルサティラ:「後悔したりしないってことを」
夜高ミツル:「……分かった」
夜高ミツル:「ああ」
夜高ミツル:「そうするよ」
プルサティラ:「…………」
夜高ミツル:真城のために魔女になり、最後に狩人の前に立ちふさがるのも真城のためで──本当に、真城のための魔女だ。
夜高ミツル:改めて、そう思う。
プルサティラ:「――その手をいつか放すなら」
プルサティラ:「なるべく早くあるべきで」
プルサティラ:「だから、ここが分水嶺」
プルサティラ:「一度きりの機会を潰すんだから」
プルサティラ:「ちゃんと最後まで、かっこよくあってね」
夜高ミツル:「……さんざんかっこ悪いところ見せたからな」
プルサティラ:「ほんとに!」
プルサティラ:にっこりと笑う。
夜高ミツル:「はは……」力なく笑い。
夜高ミツル:「もう、大丈夫だ」
夜高ミツル:「ちゃんとやるよ」
夜高ミツル:「俺がやりたいことを。そのためにやるべきことを」
真城朔:「…………」
真城朔:訝しげにその会話のさまを見ている。
プルサティラ:「あ、さっくんさっくん」
プルサティラ:真城を手招きすると、なにやら小さく耳打ちしている。
プルサティラ:ちらちらと大亮に視線を向けながら、
糸賀大亮:「……?」
真城朔:「…………は?」
真城朔:途中で思わずといった様子に声を漏らして、真城はプルサティラを見返す。
プルサティラ:プルサティラはふにゃっと笑って掌を合わせて、
プルサティラ:「こればっかりはね、譲れないのでね」
プルサティラ:「そこのとこどうかよろしくおねがいします」
糸賀大亮:…………
糸賀大亮:いやな予感と言ってはなんだが、いやな予感がする。
真城朔:「……いや、それ何」
プルサティラ:「口答えすると返してあげないよ~」
真城朔:「……………………」
プルサティラ:よしっ、とプルサティラは頷くと、
プルサティラ:またふわりと高く浮く。
プルサティラ:ぱちんと指を鳴らすと、
プルサティラ:紫の花弁とともに、
『かなたの級友』有本しおん:「わっ」
『元カノの』高尾すみれ:「えっ!?」
プルサティラ:フォロワーの二人が現れる。
プルサティラ:彼女らの手にはまた拳銃とハンマーがありますね。
忽亡ゆかり:「うおう!?」
夜高ミツル:急だ。
糸賀大亮:独特の気まずさ。
『元カノの』高尾すみれ:「…………」
糸賀大亮:首を竦める。
『元カノの』高尾すみれ:思わず目を逸らす。
プルサティラ:「……よし」
プルサティラ:「よしよし」
プルサティラ:「それじゃ」
プルサティラ:「それじゃあね」
プルサティラ:「ぱぱっとやってしまいましょう!」
プルサティラ:プルサティラは花のように笑って、
プルサティラ:最後の戦いの開幕を、
プルサティラ:彼女の命を刈り取る戦いの開幕を、事もなげに宣言した。