? 2.5話

2.5話

幕間4

GM:喫茶店「Memory」。
GM:繁華街、歩行者天国を見下ろせるビルの二階にある、
GM:清潔感に満ちた内装の店。
GM:「さんくちゅあり」の経営する喫茶店であることを、ミツルは真城から聞いて知っていた。
GM:店員も全員、バイトに至るまで狩人の世界のことを知っている。
GM:予約を取ったときに話を通していたからか、
GM:仕切りによって作られた半個室の座席へと、ウェイトレスはミツルを案内した。
忽亡ゆかり:「夜高くん、こんにちは!」その姿を見て、慌てて立ち上がる
忽亡ゆかり:「私も、私もね、今来たとこ!さ、座って!座って!」
夜高ミツル:「こんにちは。すみません、俺から声かけたのに後になって……」
忽亡ゆかり:「なに言ってんの、遅れてきたわけじゃあるまいし!いいんだよ、いいんだよ!ゆっくり来て!」
夜高ミツル:「ありがとうございます」 ゆかりの対面の椅子に腰を下ろす。
GM:「ご注文はいかがなさいますか?」ゆかりさん、多分ミツルくん来るまで遠慮してるよね。
夜高ミツル:「アイスコーヒーお願いします」
忽亡ゆかり:「じゃあ私も!」メニューを閉じ、その注文に倣う。
GM:「かしこまりました」一礼。
GM:それからほどなくして二人分のアイスコーヒーが運ばれてくる。
夜高ミツル:特段コーヒーが好きというわけではないが、なんとなく年上の女性の前なのでかっこつけてしまうのだ。
GM:長話になるかもしれないことを予測してか、ミネラルウォーターのピッチャーも。
GM:あとは呼び出されでもしない限り、ウェイトレスはこの席には寄り付かないだろう。
GM:――来店者を示す、ベルの音がする。
夜高ミツル:「……ここ、狩りの調達で来たことはあるんですけど、ちゃんとお客として来たのは初めてです」
夜高ミツル:コーヒーにミルクを入れて、ストローでくるくるかき混ぜる。
忽亡ゆかり:「いい所だね。こんな場所があるなんて知らなかった」
夜高ミツル:「コーヒーだけで大丈夫でした? ケーキとか、軽食とか、なんか色々あるみたいですけど」
忽亡ゆかり:「ううん、大丈夫。夜高くんこそ、ちゃんとごはん食べてる?」
夜高ミツル:「真城に教えてもらったんです。さんくちゅありの店だからって」
夜高ミツル:「大丈夫ですよ。さすがに自炊はちょっと減ってきましたけど……」
夜高ミツル:何せ狩りが大変だから……
忽亡ゆかり:「最近、休めてる?」
夜高ミツル:「んー……まあ、俺は夏休みだから結構マシな方ですよ」
夜高ミツル:「忽亡さんこそ、大丈夫ですか?」
忽亡ゆかり:「私は大丈夫。こうやって、夜高くんたちと過ごせる時間があるから」
夜高ミツル:「……まあ、繋がりが繋がりだからしょうがないんですけど。やっぱり顔を合わせるのって狩りの場が多くなっちゃうので……」
夜高ミツル:「たまには、普通に話がしたいなって」
夜高ミツル:「思って……お誘いしたり、しました」
夜高ミツル:なんか恥ずかしくなってきて、またコーヒーをかき混ぜたりしてる。
忽亡ゆかり:「幸せすぎて、どうにかなっちゃいそう」
夜高ミツル:「えっ」
忽亡ゆかり:「恵まれてるな、私。与えてもらってばっかりだ」
夜高ミツル:「そんなことないですって、本当に。俺の方が、最初からずっと助けられてますよ」
夜高ミツル:「……あと、この間、その」
夜高ミツル:「真城の家に行った後の」
夜高ミツル:「なんか……あの、あれ、すみませんでした……」
忽亡ゆかり:「……?あれって?」
夜高ミツル:「あの……泣かせてしまったので……」
夜高ミツル:やや俯いて呟く。
夜高ミツル:結構気にしていた。
忽亡ゆかり:「…………べつに、夜高くんが何かしたってわけじゃ、ないでしょう?」
夜高ミツル:何せ女性との接点がそもそも少ないから……そういう経験があるはずもなく……。
夜高ミツル:「でも、こう……事実は事実として……」
夜高ミツル:「……いえ、気にしすぎだったらすみません。でも謝っておきたかったんです」
忽亡ゆかり:「そうだよ、気にしすぎだよ……あれは私が……そう、全部、私が……」
忽亡ゆかり:「私が……」視線がだんだんと下へと下がっていき
忽亡ゆかり:「ふがいなくてえ……」床を見つめて、ぶつぶつと呟くような声に
夜高ミツル:「あ、いや、そんな……」
夜高ミツル:あわあわ……
忽亡ゆかり:「そう、全部私なんだ……だからみんな、病人を介護するように、こうやって気を使って……」
夜高ミツル:「……気を使われすぎるのも辛い時があるのは、分かります」
夜高ミツル:「俺も、そう思ってた頃があったので」
夜高ミツル:「でも……やっぱりいざ自分の近しい人が落ち込んでると。心配なんです」
夜高ミツル:「何か、できることがあればいいなって」
忽亡ゆかり:「……優しいね、夜高くん……優しい……優しいなあ……」
夜高ミツル:「……もし、その何かが『放っておいてほしい』なら、そうしますし」
忽亡ゆかり:「ほんとは廃人同然の女を気にかける理由なんて、わかってるんだ……だってこんな人間と一緒に居ても何も楽しくなんて……でも自分に何かもっと価値がないかって……だって話がしたいとか、誘ってくれるとか…………」
夜高ミツル:「そうじゃないなら、俺にできることがあればさせてください」
忽亡ゆかり:「こっ……年齢差の……無様な……みじめな…………お荷物が…………………」
忽亡ゆかり:「……女として……いや人として…………でも、だって姉が………………」ぶつぶつと何かまとまらない言葉をつぶやいている
忽亡ゆかり:やがてはっと顔を上げ
忽亡ゆかり:「っ、いえ、違うんです!」
忽亡ゆかり:「夜高くんが、一緒にいてくれることが、幸せで!」
忽亡ゆかり:「それ以上を望む事など、何もないんです!」
夜高ミツル:やや呆然と、まとまりのなくなってきた話を聞いていたが。
夜高ミツル:「そう思ってもらえてるなら、嬉しいですけど……」
忽亡ゆかり:「気遣いでも罵倒でも、なんでもいいんです……この、この時間が、これがあることが……」
夜高ミツル:「何か、えーと……話を聞いてほしいとか、気晴らしに遊びに行きたいとか」
忽亡ゆかり:「遊びヒィ!?」声が跳ね上がる
忽亡ゆかり:「そん、それ、そんなんっ、……」
夜高ミツル:「……あっ、ていっても俺も高校入ってからバイトばっかしてたんで、あんまりそういう場所とか詳しくはないんですけど」
夜高ミツル:「えーっと、なんだろう……買い物……? カラオケ……とか??」
夜高ミツル:ふわ……
忽亡ゆかり:「……あ、」
忽亡ゆかり:「あの…………」
夜高ミツル:「はい!」
忽亡ゆかり:「……私は、その」
夜高ミツル:大人の女性を?何に誘えば?とぐるぐるしていたところに声をかけられて
忽亡ゆかり:「気遣われるのは嬉しくて、でも、やっぱりお荷物はイヤで」
忽亡ゆかり:「なんて、いうのかな」
忽亡ゆかり:「そう、価値。夜高くんにとっての自分の価値を上げたくて」
夜高ミツル:「……価値?」
忽亡ゆかり:「望むことはつまり、その、あー。私と、ね」
忽亡ゆかり:「居る時間がその。夜高くんにとって。有意義な……時間であることで……」
忽亡ゆかり:「夜高くんが嬉しい事が、私にとっての嬉しい事で」
忽亡ゆかり:「……こんな人間に、夜高くんが望んでくれてる事がわからない、けど」
忽亡ゆかり:「夜高くんにとって良い時間の過ごし方がいいなって、そういう……感じの、です」
夜高ミツル:価値、とか。人との関係をそういう観点であんまり考えたことがなかったが。
夜高ミツル:「……えっと、じゃあ」
夜高ミツル:「……料理、教えてもらえませんか」
夜高ミツル:「……とか、そういうことでいいんでしょうか」
忽亡ゆかり:「!」
夜高ミツル:「えっと、俺料理するんですけど、マジで適当で」
夜高ミツル:「食えりゃ良いやみたいな……」
忽亡ゆかり:「うん……うんっ、うんっ!」
忽亡ゆかり:「そう、そういうの!そういうっ」
夜高ミツル:「ちゃんとやってみたいなって思ってたんですけど、なかなかきっかけがなくて」
忽亡ゆかり:「うん、うん」
忽亡ゆかり:「わかるよ、料理は体力も気力も使うし、忙しいし新しい事に手を出すのは億劫だし、食材を増やすほど管理は大変で、思ったほど安くもならないしっ」
夜高ミツル:「忽亡さんでも、そう思うんですね」
忽亡ゆかり:「夜高くんは自分のごはんをなんとかしたいの?それとも上手くなりたいってことは……料理が好きなの?誰か振る舞ってあげたい相手がいる?」
夜高ミツル:「うちコンロも一口だからそれも大変で……」
夜高ミツル:「今は……そうですね、自分のをもうちょっとどうにかしたいなって感じですね」
夜高ミツル:「あと……まぁ、真城。たまにうちで飯食わせてたんですけど、信じられないほど食が細くて」
忽亡ゆかり:「うん、うん」
夜高ミツル:「あれは俺の料理への抗議だったのか?って思ったらムカついて……」
夜高ミツル:「……あいつが帰ってきた時、ちょっと見返してやりたいなって思ったり、思わなかったり……」
忽亡ゆかり:「なるほど、目指すは真城くんの胃袋を攻略!」
夜高ミツル:「そう……なりますかね?」なんか改めてそう言われるとなんか 恥ずかしさが
忽亡ゆかり:「それでいいんだよ。自分だけで楽しむよりも、食べてくれる人が、成果を見せてやりたい相手がいる事が、一番のやる気に繋がるんだから!」
夜高ミツル:「……そうですね」
夜高ミツル:「自分が食べるためだけに作るのって、なんか、こう……そんなにですよね」
夜高ミツル:「いや、単純に作るのが好きって人もいっぱいいるんでしょうけど」
夜高ミツル:「俺の場合は、一人暮らしで食費を抑えたかったのがきっかけだったので……」
忽亡ゆかり:「……少なくとも、私は、別に作るのが好きなわけじゃなくて」
忽亡ゆかり:「食べさせる相手に喜んで欲しかったから。それが毎日欠かさず料理を作れた理由だった」
忽亡ゆかり:「……今はそんな相手、いないんだけどね」
夜高ミツル:「……」そうさせてしまったのは。他ならぬ自分たちで。
夜高ミツル:「……料理、教えてください。それで、できたやつを一緒に食べましょう」
夜高ミツル:「忽亡さんが食べてくれて、成果を見てくれて、そしたら俺も一人で料理するより頑張れると思うので」
忽亡ゆかり:「うん……うんっ」
忽亡ゆかり:「夜高くん……。ありがとう……」
夜高ミツル:「教えてもらうのは俺の方ですから、こちらこそありがとうございます」
夜高ミツル:よろしくおねがいします、と軽く頭を下げて。
忽亡ゆかり:「ううん。やっぱり私が、ありがとうなんだよ」
忽亡ゆかり:「私は、この約束事で、明日も生きていこうって気持ちになれる。また明日を迎えたいなって気持ちになれる。朝も夜も、ずっとその日のことを考えて生きていけるぐらいに嬉しい」
忽亡ゆかり:「夜高くんよりも私のほうがたくさんの嬉しいを貰ってる。だから私がありがとうなんだ」
夜高ミツル:「忽亡さんがそう思ってくれるなら、俺はそれが嬉しいです」
夜高ミツル:「それに、俺も。狩りしてる時に『今度忽亡さんと約束があるな』って思って、きっとそれで頑張ったりできるので」
夜高ミツル:「だから、多分お互い様です」
忽亡ゆかり:「はい……。ふつつかものですが、よろしくおねがいします……」
夜高ミツル:「頑張ります。忽亡さんには変なもの食べさせられないので……真城はともかく……」
夜高ミツル:「……あ」
夜高ミツル:「そういえば、場所……とか……」
夜高ミツル:場所、という概念を完全に見落としていた顔。
忽亡ゆかり:「あ……」
夜高ミツル:「うちは狭いから無理だし……となると……」
夜高ミツル:「……」
忽亡ゆかり:「どうする?借りられる場所、探してみようか。それとも…………うち、は、近いですけど、さすがにいやだよね……」
夜高ミツル:「い、家……! いや、いやってことは、ないんですけど、なんかこう、問題がありはしないでしょうか!?」
夜高ミツル:「借りられる場所……あ、でも、そういうのってお金かかりますよね……」
忽亡ゆかり:「問題……そうだよね……私なんかの家に夜高くんを連れ込んだら……穢してしまう……」
夜高ミツル:「え!?」
夜高ミツル:「いや、穢、そうではなく……なくて……」
忽亡ゆかり:「うん。わかってる。夜高くんはイヤって言うはずないんだ。優しいから……」
夜高ミツル:「一般的に、女性の部屋に男があがりこむのは、こう……アレ……良くないのでは……?」
夜高ミツル:「姉の部屋とか、勝手に入るとボコボコにされたんですが……」
夜高ミツル:家族で女性を語るな
忽亡ゆかり:「? 私はボコボコにしないよ?」
夜高ミツル:「あ、そ、そうですね、忽亡さんはしないですよね……」
忽亡ゆかり:「むしろ、かなたの部屋に入る方がイヤがられたかな。部屋に入る前にノックして少し時間を置いてから入るようにしてて……」
忽亡ゆかり:「あ?違うな。何の話をしてるんだ」
夜高ミツル:「すみません、話が逸れちゃいましたね……」
忽亡ゆかり:「いや、でも大事なことだよ」
忽亡ゆかり:「夜高くんも急に部屋に入られたらイヤだもんね。私はいいけど、やっぱり最初にノックは必要で……」
夜高ミツル:「えっ」
夜高ミツル:「あの……何の……」話でしょう、と恐る恐る。
忽亡ゆかり:「やっぱり個室も大事だよね。年頃の男子的に。ごめんね、うちはドアには鍵はないんだけど、必ずノックするようにしてるから」
忽亡ゆかり:「あと郵便物とかも見ないし、手紙も覗かないし」
夜高ミツル:「……忽亡さん?」
忽亡ゆかり:「あ、でも寝室は一緒なんだ。大丈夫、ベッドは別々だよ」
夜高ミツル:「忽亡さん、あの」
夜高ミツル:「料理を教えてもらう話……ですよね?」
忽亡ゆかり:「え?」
忽亡ゆかり:「あっ。あっ……」
忽亡ゆかり:「ごっ。あっあの、ごめ、ごめんなさい、違う、違うんです」
忽亡ゆかり:「ごめんなさい……ごめんなさい……嫌いにならないで……」
夜高ミツル:「大丈夫です」
夜高ミツル:「大丈夫」
夜高ミツル:「嫌ったりなんかしません」
忽亡ゆかり:「違う、違うんです」
忽亡ゆかり:「私はそんな、おこがましい」
忽亡ゆかり:「別にいつも、そういう事を考えてるわけではなくて……夜高くんを穢すような……ごめんなさい……」
夜高ミツル:「あ、いえ、そんな、本当に大丈夫です!」
夜高ミツル:「ちょっと、びっくりは……正直、しましたけど」
夜高ミツル:「それで、嫌いになったりとかはしないので……」
忽亡ゆかり:「やっぱり問題なんでしょうか。いえ、わかってます、問題なんです。夜高くんは未成年で、私は成人で、夜高くんは私を信用してそういう事を言ってくれているのに……」
夜高ミツル:また泣かせてしまった……
夜高ミツル:こういう時もっと気の利いたことが言えればいいのに。とは言え急にそうもできないので、大丈夫、と言葉を重ねて。
夜高ミツル:「多分、皆頭の中では結構他人に対して色々、もっといい加減なこと考えてると思うので……」
夜高ミツル:「だから、忽亡さんが特別気にすること、ないと、思います」
忽亡ゆかり:「……自分が、抑えられないんです」
忽亡ゆかり:「昔は違った。もっと俯瞰して物事を見て、冷静に判断できてた」
忽亡ゆかり:「……一番大事な部分が冷静じゃなかったけど、ふふふっ」
忽亡ゆかり:「でも今は……」
忽亡ゆかり:「頭がごちゃごちゃして、考えも全然まとまらないし」
忽亡ゆかり:「まわりの人が私をどう思ってるのか、そんな事ばっかり考えて、しかも悪い方にぐるぐるぐるぐる」
忽亡ゆかり:「でも気付いたらまた別の事を考えてたり、嬉しくなったり、イヤなことを思い出したり、全然気分がコントロールできなくて……」
忽亡ゆかり:「自分が醜くて、すごく、ひどい有様な事だけがわかってて……」
夜高ミツル:「……ずっと冷静に生き続けてられる人なんていないですよ」
夜高ミツル:「俺とか、むしろぐるぐる考えてる時間の方が多いです」
夜高ミツル:「ああすれば良かった、あれを言えば良かったとか」
夜高ミツル:「……今日忽亡さんを誘ったのは、そういうのも、話してもらえたら少しは楽になるかなって思って」
夜高ミツル:「自分だけで考えてるとなんか、答えも出ないし、悪い方向にばっかり行くし……」
夜高ミツル:「自分一人で抱えてられないって思ったら、よかったら聞かせてください」
忽亡ゆかり:「ありがとう……ございます……」
夜高ミツル:「今日だけじゃなくて、いつでも。まとまらなくても」
忽亡ゆかり:「私、夜高くんに、えらそうな事ばっかり言って、それが、今になってすごく恥ずかしくて」
忽亡ゆかり:「こんなすがりつくような有様で、何を言っても困らせるばっかりで」
忽亡ゆかり:「いつか本当に……いやになる日が来るんだろう、ってずっと考えてて」
忽亡ゆかり:「夜高くんに優しくされる事を考えたり、夜高くんに捨てられる事を考えたり……そんな事ばっかりで……」
夜高ミツル:静かにゆかりの話を聞く。
忽亡ゆかり:「……夜高くんが、私の生きる理由になってくれる間は、私は生き続けられる」
忽亡ゆかり:「けどそれって、自分の命を人質に、付き合いを強要してるのと同じで……今の自分には、何も魅力もなくて……」
夜高ミツル:「話してもらえること、自体は困ってなくて……俺がもっと気の利いたこと言えたらいいのに、とはいつも思うんですけど」
夜高ミツル:「というか、話してくれる事自体は、むしろ嬉しいですね。余計なお世話だって言われてもしょうがないと思ってたので」
夜高ミツル:「あと、強要されてるとか、そんなことないと思います」
夜高ミツル:「さっきも言いましたけど、やっぱり近しい人には落ち込んでてほしくなくて、何かできることがあればしたくて」
夜高ミツル:「だから、俺が望んでそうしてることですから」
忽亡ゆかり:「……っ」
忽亡ゆかり:「……でも……だからって、押し付け過ぎで……」
忽亡ゆかり:「生きる理由を見つけるまで寄り添ってくれるって言葉が、こんな重い意味になるとは……夜高くんは予想してなかっただろうって」
忽亡ゆかり:「貧乏くじを引かせてしまったんじゃないかって、すごく重いものを背負わせているんじゃないかって、ずっと怖くて……」
夜高ミツル:「……すぐに元気を取り戻すのがすごく難しいのも、俺は知ってますから」
夜高ミツル:「ずっと引きずって、なかなか前を向けなくて、以前の自分みたいにはできなくて」
夜高ミツル:「……そういう時は、誰かに頼って当たり前なんです」
夜高ミツル:「俺は、ずっと誰にも頼らないでいこうって、一人でなんとかしようって思ってたんですけど」
夜高ミツル:「最近になって思い返してみると、やっぱり全然そんなことなくて」
夜高ミツル:「周りにいる人がどれだけ助けてくれたか、今は分かるから」
夜高ミツル:「だから、忽亡さんが俺がいなくても大丈夫って思えるまでは、俺が支えます」
忽亡ゆかり:「…………」
忽亡ゆかり:「……ごめんなさい。ありがとう。必ず立ち直るから」
忽亡ゆかり:「もう少しの間だけ、甘えさせてもらいます……」
夜高ミツル:「……焦らなくて大丈夫ですから」
忽亡ゆかり:「すごいね、夜高くんは」
夜高ミツル:「えっ、そ、うですか?」
忽亡ゆかり:「うん。かっこいい」
夜高ミツル:「か……っ!?」
夜高ミツル:かっこいい!?
忽亡ゆかり:「強いし、頼れるし」
忽亡ゆかり:「……ホントは、夜高くんに、これ以上強くなって欲しくないけど……」
忽亡ゆかり:「守れる立場で、ありたかったけど……」
夜高ミツル:「……守られてるばっかりじゃ、いられませんから」
忽亡ゆかり:「いていいんだよ」
夜高ミツル:「最初の狩りとか、その後もしばらく……みんなの足を引っ張った分を取り戻したいんです」
忽亡ゆかり:「守られてていいんだ。本当は、君みたいな高校生が、こんな世界に首突っ込む事なんてない」
忽亡ゆかり:「今も青春を使って、未来を潰して、これからの長い人生が豊かにならない事を続けてる」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「……でも、別に俺はやりたいことがあったわけでもない、ので」
忽亡ゆかり:「高校生ぐらいじゃ、そんなこと珍しくもない。だからってこんな場所に来いなんて、大人は言わない」
夜高ミツル:「……高校卒業したら、そのまま就職しようと思ってたし……」
夜高ミツル:「家族が死んでからずっと、何をすればいいか分からなくて」
忽亡ゆかり:「! ……」
夜高ミツル:「だから、5月の事件で思ったんです。生き残った俺がなにかするなら」
夜高ミツル:「ハンターなんじゃないかって……」
夜高ミツル:「……あ、いや、すみません。今日は俺の話しにきたんじゃないのに」
忽亡ゆかり:「……ううん。君の話が聞きたかった」
忽亡ゆかり:「私は君に、そんな危ない事はしてほしくなくて、本当は今すぐにでもやめてほしい」
夜高ミツル:自分も年下のやつがこんなことしてたら同じこと言うと思うので反論しづらい……。
忽亡ゆかり:「他にもきっと、君が死んだら悲しむ人はいる。君は弟だけに全部を捧げてきた私とは違って、そういう、きちんと積み上げた人生があるはず。家族は居なくても、帰り道もあって、生き方もあって、人とも関われる人でしょ?」
夜高ミツル:「……真城にも、結構言われました。色々」
忽亡ゆかり:「それでも? なんで?」
夜高ミツル:「何もなかったことにして普通に過ごすことも、できますけど」
夜高ミツル:「でもそういう普通が簡単に壊されることも、知ってしまったので」
夜高ミツル:「何もできないで、壊されて、奪われて……そうなるのはもう嫌だったんです」
忽亡ゆかり:「………………」
忽亡ゆかり:「じゃあ、君は」
忽亡ゆかり:「どうしたら、ハンターをやめてくれる?」
夜高ミツル:「……考えたこと、なかったです」
夜高ミツル:「ちゃんとしたハンターになること、もっと強くなること、ばっかりで……」
忽亡ゆかり:「何もできないで、壊されて、奪われるのがイヤだ、って言うけど」
忽亡ゆかり:「今の君には外敵が見えて、それに対処する力があって、それに対処できる人間との繋がりがある」
忽亡ゆかり:「なら、それでいいじゃない。自ら危険に突っ込む必要、ある?」
忽亡ゆかり:「来た敵を対処するのは当たり前だ。そんな事はわかる。けど、どこかを……たとえば、この因縁を区切りにしたら、もう、わざわざ自分から飛び込まなくてもいいんじゃない?」
夜高ミツル:「区切り……」
夜高ミツル:「……今は、狩りをやめることは考えられないです。助けてくれた忽亡さんたちの力になりたいのもありますし」
夜高ミツル:「真城も見つけられてないし、その、因縁のこともあって」
夜高ミツル:「……ただ、その先のことを考えてなかったのも、本当なので」
夜高ミツル:「俺にできることがあるならしたいって思うし、でもこんなことずっとは続けていけないのも分かります」
夜高ミツル:「だから……ちょっと、考えさせてもらってもいいですか?
忽亡ゆかり:「……ちゃんと、考えてくれる?」
夜高ミツル:頷いて。
夜高ミツル:「……心配してくれて、ありがとうございます」
忽亡ゆかり:「……そっちこそ、だよ」
夜高ミツル:「何か、考えます。俺がいつまでハンターを続けるかの区切りを」
夜高ミツル:「……ちなみに、忽亡さんはあるんですか? 何か、そういうの」
忽亡ゆかり:「私? 私は…………」
忽亡ゆかり:「……先日のかなたの一件以来、そんなこと、考えもしなかったな」
忽亡ゆかり:「弟と平和に余生を生きる計画は考え直しだし。そうだね、まっさらだ」
忽亡ゆかり:「……ほんとを言うと、自暴自棄になってた。寿命で死ぬなんて未来すら考えてなかったよ」
夜高ミツル:「……じゃあ、忽亡さんも考えてみませんか。何か新しい区切りを」
夜高ミツル:「俺もちゃんと考えて、決めたら報告するので」
夜高ミツル:「忽亡さんのも、もしよかったら教えて下さい」
忽亡ゆかり:「いいけど、私の今の拠り所は夜高くんなんだから……」
忽亡ゆかり:「少なくとも、君が続けてる限りは、やめないよ」
夜高ミツル:「どっちかがハンターじゃなくなったって、関わりまでなくなるわけじゃないです」
忽亡ゆかり:「そうは言うがね。こんなしょーもないメンタルの女が、君を置いて日常に戻れるように見えるか?」
夜高ミツル:「や……まぁ、忽亡さんがいてくれる方が心強くはあるんですけど、やっぱりハンターなんかって思っちゃうのは俺も一緒というか……」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「……暫くは、お互いやめられなさそうですね」
忽亡ゆかり:「まあ……こんな状況だしね」
夜高ミツル:「……なんかもう、狩っても狩ってもみたいな感じですよね、今……」
夜高ミツル:すっかり氷の溶けて薄まったアイスコーヒーを口に運ぶ。
忽亡ゆかり:「でも、無理はしないでね」
夜高ミツル:「はい。……忽亡さんも」
忽亡ゆかり:「…………」無言で、その顔を見つめる。
夜高ミツル:「ど、どうかしましたか……?」
忽亡ゆかり:「あ、いや」
忽亡ゆかり:「コーヒー、飲んでるなって」
夜高ミツル:「飲んでますね……?」
夜高ミツル:ミルクを入れた飲み物が氷で薄まると悲しい味になる。
夜高ミツル:なっている。
忽亡ゆかり:「うち、朝はアイスコーヒーな事が多くて」
忽亡ゆかり:「弟も、よくミルクコーヒーを飲んでた。その姿を見てるのが好きだった」
忽亡ゆかり:「夜高くんが飲んでる姿を見てると……なんか心が暖かくなるなって。それだけ」
夜高ミツル:「……弟さんもきっと、忽亡さんがいれてくれるコーヒーが好きだったんですね」
忽亡ゆかり:「うん」
忽亡ゆかり:「……あの日から、一度も淹れてない」
忽亡ゆかり:「ほんのちょっと前の話なのに、もう何年も前の事みたい」
忽亡ゆかり:「料理も、ずっと手つかずだったんだ。作る気になれなくて」
夜高ミツル:「……料理教えてもらう時、よければコーヒーも淹れてください」
夜高ミツル:「コーヒーも、インスタントとか缶のとか、俺が飲むのそんなのばっかりなので」
夜高ミツル:「忽亡さんが淹れるコーヒー、飲んでみたいです」
忽亡ゆかり:「ははっ」
忽亡ゆかり:「私の扱い、慣れてきたね」
夜高ミツル:「扱いとか、そんなんじゃ……」
忽亡ゆかり:「ちゃんと自衛しろよ、少年。こういう厄介なのに絡まれると後が大変だぞー?」
夜高ミツル:「ご、ご忠告痛み入ります……」
夜高ミツル:「……でも、俺は忽亡さんのこと信頼してますから」
忽亡ゆかり:「ダメだよ。そこは相手のためにも、ちゃんとしなきゃ。期待はさせない、ちゃんと逃げられるようにする。トラブルは未然に防ぐ」
忽亡ゆかり:「目の前の人間の本性とか、どんな事考えてるかとか……何も想像できてないわけじゃないんだろ?」
夜高ミツル:「うう……はい……」正論なので耳に痛い。
忽亡ゆかり:「少なくともこいつはダメなやつで」自分を指さして
忽亡ゆかり:「今は君のほうがしっかりした大人なんだから」
夜高ミツル:「俺のほうが大人ってことは、ないと思いますけど……」
夜高ミツル:「でも、はい……気をつけます」
忽亡ゆかり:「ん。よし」
夜高ミツル:「……すみません、忽亡さんからそういうこと言わせてしまって」
夜高ミツル:「もっと、しっかりするように、します」
忽亡ゆかり:「ううん。不甲斐ないのは私だから」
忽亡ゆかり:「いつか、ちゃんとするけど、まともになるけど、少なくとも今はまだだめだ」
忽亡ゆかり:「君は17歳で、男の子で、可愛い顔をしてて、ふわっとした頭をしてて、私を頼ってくれて、からかうと少し恥ずかしがってくれて、でも私のことを嫌いにならないでくれて……」
忽亡ゆかり:「……ちょうど、私の中の、ぽっかりと穴が空いてる場所に、少し近すぎる」
夜高ミツル:「……」
忽亡ゆかり:「けど、その場所を埋めようとして君を求めるのは、不誠実でダメな事なんだ」
夜高ミツル:「……俺にできることがあるなら、なんでもしたいって思ってたんですけど」
夜高ミツル:「やりすぎにならないように、気をつけます」
忽亡ゆかり:「……自分を、大切に」
忽亡ゆかり:「信頼なんて言葉は簡単に使わないで欲しい」
忽亡ゆかり:「むしろ逆だ。私が魔女に唆されそうになったら、その時は君が全力で止めてくれ。他ならぬ君自身のために」
夜高ミツル:「……やっぱり忽亡さんの方がしっかりしてて、大人ですよ」
忽亡ゆかり:「…………そんな事ないよ」
忽亡ゆかり:「自分のものにしたいって気持ちを、幸せになって欲しいって気持ちが、ほんのちょっとだけ上回ってるだけだ」
夜高ミツル:「……幸せ」
夜高ミツル:「……あの、料理教えてもらうの、やっぱりどこか場所借りますか。……単純に! 広い方がいいと思うので」
夜高ミツル:「それで、もしいつか。忽亡さんが俺を家に上げてもいいって思えたら、その時にお邪魔させてください」
夜高ミツル:幸せになってほしいと面と向かって言われるのがなんだか気恥ずかしいような、現実味がないような、そんな気がして。
夜高ミツル:すっかり逸れてしまったところに話を戻す。
忽亡ゆかり:「……うん。そうしよう」
忽亡ゆかり:「今はまだ来ちゃダメ。少なくとも、私が元気になるまでは」
忽亡ゆかり:「……弱ってるときは、たぶん逆のこと言うけど、心を鬼にして無視して欲しい」
夜高ミツル:「……はい」
忽亡ゆかり:「みっともないところを見せたね。治ったと思ってもすぐ沈む。これからもまだ少し面倒かけるよ」
夜高ミツル:「……大丈夫です。よければ、また話聞かせてください」
忽亡ゆかり:「うん。そうだね、おかげで、ちょっと良くなったと思う。こんなに気分が軽くなったのは……あれ以来、初めてだ」
夜高ミツル:「今日はコーヒーだけでしたし。次は何か食べにまたここ来ませんか?」
夜高ミツル:「力になれてるなら、よかったです」
忽亡ゆかり:「うん。最高だ」
忽亡ゆかり:氷の溶けた手つかずのコーヒーを、ブラックのまま飲む。
忽亡ゆかり:「食欲が出てきた。帰ったら料理を作るぞ」
夜高ミツル:「……こんな風に誰かと落ち着いて話すこと、俺もあんまり最近なかったので楽しかったです」
夜高ミツル:一番会話の多かった相手は、今はいない。
夜高ミツル:「何作るんですか?」
忽亡ゆかり:「得意料理はハンバーグ。よそじゃ食えないオリジナルのやつだ」
夜高ミツル:「ハンバーグかー、いいですね」
忽亡ゆかり:「今日は久しぶりに、肉をこねるぞ。他の誰でもない、自分に食わせるために」
忽亡ゆかり:「頑張る!前向きに生きる!」
夜高ミツル:頷く。そう言ってもらえてよかったと、心から思う。
夜高ミツル:「次……料理か、ここに来るのか、どっちが先かわかんないですけど。それも含めてどうするか、また相談しましょう」
夜高ミツル:「……それ以外でも。もし何か誰かに聞いてほしいこととかできたら、いつでも連絡してください」
忽亡ゆかり:「おっけー、おっけー。次のデート、楽しみにしてるよ」
夜高ミツル:「デ……!!?」
夜高ミツル:デート。デート???
忽亡ゆかり:「どした?」
夜高ミツル:「いや、いえ、なんでも……ないです!」
夜高ミツル:これがデートだとしたら人生初デートだな、とか、そんなことを思っていた。
夜高ミツル:アイスコーヒーの残りを一気に飲み干す。
忽亡ゆかり:「連絡、待ってるよ」
夜高ミツル:「……はい!」
忽亡ゆかり:「夜高くんも、何かあったら頼ってね」
夜高ミツル:「……はい。頼りにしてます」