2.5話
幕間3
夜高ミツル:5年前のこと聞きたいですって連絡して、LINEで話すことでもないからお家に伺った感じですかね乾咲フラン:じゃあフラン邸で
GM:美メイドに迎えられ。
乾咲フラン:じゃあいつものでかい客間よりは狭い応接間的な部屋に。
GM:ミツルを案内した美メイドが、一礼して部屋を退室する。
GM:華美さは抑えられているがそのぶんしっとりとした美の趣が深まった客室。
乾咲フラン:しっとりとした美の趣。
GM:主張が抑えられた感じの。
夜高ミツル:いつもの広い部屋じゃないので多少はマシだけど、やっぱりいつ来ても緊張感がある。
夜高ミツル:まあ聞きに来た内容が内容だけにというのもあり。
夜高ミツル:「時間取ってくれてありがとうございます」
夜高ミツル:「5年前の、こと」
乾咲フラン:コーヒーテーブルにある花瓶の花を弄って整えながら、リラックスした態度で過ごしています。
夜高ミツル:「本当は真城に聞くべきだったとは思うんですけど……」
乾咲フラン:「いや、いいとも。」
乾咲フラン:「……今となっては、だな。」
夜高ミツル:頷く。
夜高ミツル:「……乾咲さんにとっても、あまり話しづらい内容ではないと思いますけど」
夜高ミツル:「聞かせて、もらえると」
夜高ミツル:フランと、真城の母である碧の関係は、ミツルも多少は知っている。
乾咲フラン:「……どこから話そうかな。」花を整える手を離し、ふむと指を組んで。
乾咲フラン:「事の始まりは、マシロ……碧が黒木という男と付き合いだしてからだった。」
夜高ミツル:フランの話を静かに聞いています。
乾咲フラン:「碧は美しかったから、寄ってくる男は居たものだ……でもその男は……」
乾咲フラン:「1年ぐらいかな。仲良くやっていたんだがね……吸血鬼になってしまった。」
夜高ミツル:「……吸血鬼」
乾咲フラン:脳裏に黒木の事を話している時の碧の嬉しそうな顔が過る。
乾咲フラン:(デートに来ていく服とメイクを選んでやったりもしたっけ……)
真城碧:よく笑う女だった。
真城碧:正確に言えば、フランと出会ってから、よく笑う女になった。
真城碧:その彼女が、男のことを語るとき、
真城碧:浮かべていた笑顔は、フランに向けるものとは一線を画した。
真城碧:花のような、笑顔だった。
乾咲フラン:「……そして、碧を襲ったんだ。」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:そうして生まれたのが、真城。
乾咲フラン:「……そして彼女に宿されたのがマシロさ。」
夜高ミツル:「……はい。……その吸血鬼は、討伐されたんですっけ」
夜高ミツル:なんだかもう随分昔のことのような、あのお茶会の日の話を思い出す。
夜高ミツル:あの時だって、もっと話を聞けたはずだ。そんな後悔も。
乾咲フラン:「ああ、今はもう……いない。碧とマシロを置いてね。」
夜高ミツル:「それで、真城は半吸血鬼として生まれて、」
夜高ミツル:「……真城の、母親も」
夜高ミツル:吸血鬼に。
乾咲フラン:「それでも碧は一人でマシロを育てた。うまくいくと私も思っていたよ、5年前のあの日までは」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:あの日。5年前。
夜高ミツル:真城碧が吸血鬼となり。
夜高ミツル:自分の家族が、殺された。
夜高ミツル:「……真城は」
夜高ミツル:「母親がそうなったのは自分のせいだって言ってました」
乾咲フラン:「……そこについては……」口元に手をやって「もっと詳しく聞いておくべきだったと思っている……」
夜高ミツル:「……俺も、そうです」
夜高ミツル:「自分のせいだって、そう言ってたのに」
夜高ミツル:「母親を吸血鬼にしたのは……この間話したジョン・ドゥだってのも言ってて」
夜高ミツル:溜息。本当に、なんで聞いておかなかったんだか。
乾咲フラン:「さて、"その時"の話をしようか……」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「お願い、します」
夜高ミツル:ちょっと背筋を正しつつ。
乾咲フラン:「強力な吸血鬼が出たという知らせ受けて、現地で私が見たのが……FMNになった碧の姿だった。」
乾咲フラン:「彼女はマシロを腕に抱いたまま、人も狩人も、何もかもを壊していった。」
夜高ミツル:「……」その中に、自分の家族もいた。
乾咲フラン:「私はその戦いに参加した。」
乾咲フラン:優しい彼女にこれ以上の凶行をさせるわけにはいかないという思い。朔を助けなければという思い。もう救う手立てがないのなら、最後は自分の手で終わらせたいという欲があった。
乾咲フラン:その事はミツルには言わなかった。
乾咲フラン:「……彼女は、腕に抱いたマシロを庇いながら戦っていたのさ。」
乾咲フラン:「マシロごと狙った狩人は尽く"めちゃくちゃ"にされた。」
夜高ミツル:「そう、だったんですね……」
夜高ミツル:愛する相手を狩るということ。その辛さを推し量ることはできても……本当に理解することはできない。
乾咲フラン:「そしてある一軒家にFMNが入った……」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:それは、もしかして。
乾咲フラン:「……私が見たのは、あの日……グラジオラスを狩った日と同じ目の色をしたマシロだった。」
乾咲フラン:「返り血をべったりと浴びて……」
乾咲フラン:幻想的とも言える光景だった――
夜高ミツル:引きずられて思い出す。血塗れの、真城朔の姿。
夜高ミツル:「……俺も、あの日真城を見ました」
夜高ミツル:「5月のあの時まで、ずっと、夢のことだと思ってましたけど」
夜高ミツル:「……その一軒家が、うちだったんですね」
乾咲フラン:「……数奇な運命だな、まったく……」
夜高ミツル:運命。どうせならもっといい意味で言われたかったものだが。
夜高ミツル:「……ずっと、不思議だったんです。なんで家族の中で俺だけ生き残ったのかって」
夜高ミツル:「真城が、助けてくれたんですよね」
夜高ミツル:真城がそうしようとしたかはともかく。真城がFMNを狩り、結果として自分は生き延びている。
乾咲フラン:「そうだね……」偶然かもしれない、と否定する理由はない。
乾咲フラン:「…………それと、FMNが事切れる前に、マシロに手を伸ばし……その手をマシロが取るのを私は見た。」
乾咲フラン:「あの時確かに、マシロの手が青く……輝いたんだ。」
夜高ミツル:「? それは……」
乾咲フラン:「……FMNは並の吸血鬼には無い力を行使していたんだ。」
乾咲フラン:「……血戒。彼女の持っていた血戒を、マシロが受け継いだのかもしれない。」
夜高ミツル:「血戒……いつも使ってるやつとは別のですか?」
夜高ミツル:真城がよく使っていた血の槍を思い出す。
乾咲フラン:「そうだね、血の技は他の吸血鬼も使える……」
乾咲フラン:「例えば、魔女になりそうな相手が解る事とか……」ハイドレンジアやグラジオラスの事を思い返しながら。
夜高ミツル:「分かるって言ってたの、それでだったんですか」
乾咲フラン:「そういう力もあるのかもしれない。 ……あとは、あのこの間皆で行ったあの部屋。」
乾咲フラン:「時の止まったあの部屋だ……」
夜高ミツル:「……はい」
夜高ミツル:5年前のあの日に時を止めたままの部屋。
夜高ミツル:「……あ」
夜高ミツル:そういえば、と。
夜高ミツル:「5月の、グラジオラスの時に俺に使ったやつ」
夜高ミツル:「あれとか?」
夜高ミツル:あの時。真城の胸から溢れた、白い花びら。
乾咲フラン:「わからない、そうかもしれない……としか言いようがない」
夜高ミツル:「……前に真城の聞いた時は、血戒だ、としか言われなかったんですけど」
乾咲フラン:「聞いておけばよかったな……私にはもっと、時間があったはずなのに。」
乾咲フラン:「……ずっと、碧の事に触れるのを、私は躊躇っていたのかもしれない……」
夜高ミツル:「……」
夜高ミツル:「俺も、あんまり色々聞けなかったですから」
乾咲フラン:「っと、すまないな。暗くなってしまった。」
夜高ミツル:「あ、いえ」
夜高ミツル:「話題が話題、というか……」
夜高ミツル:「俺がお願いして聞かせてもらってるんですし」
乾咲フラン:「すまないね。」
乾咲フラン:「FMNの後は……マシロに家で暮らさないかと誘ったが、家に帰ると断られてしまってね。」
夜高ミツル:「……それから、ずっとあの部屋で」
乾咲フラン:「……どんな気持ちで居たのか……家には入れてもらえなかったからな、押し入っておけばよかったよ。」
夜高ミツル:思い返すのは、あの時手にとったクッションの感覚。
夜高ミツル:使い込まれた、ずっとあの部屋で過ごしていた証。
夜高ミツル:「……押し入ろうとしても絶対入れてくれなさそうですけどね」
乾咲フラン:「碧に似て頑固なところがあるからね。」
GM:真城を産んだ頃の碧も、しばらくはフランの屋敷に世話になっていたが、
GM:やがてその屋敷を出て行った。
夜高ミツル:「特訓つけてもらってたから、結構うちには来てたんですけど」
夜高ミツル:「遅くなったから泊まるかって言っても、帰るって言われることの方が多くて……」
乾咲フラン:「マシロ……」
乾咲フラン:「ずっと、碧の事を……碧がああなった事を、気にしていたんだろうな。」
夜高ミツル:思い出すのは、魔女によって叶えられた真城の願い。
夜高ミツル:「……そうですね」
夜高ミツル:そして、真城と別れて再会したあの日。もう大切な人を殺すのは嫌だと言っていたこと。
乾咲フラン:「……私に引け目を感じているような言動もあった。それもやはり、碧を、FMNを手にかけたことをずっと抱えて……私が碧を愛していた事も知っていたんだろうな。」
夜高ミツル:「真城……」
夜高ミツル:「俺にも、自分のせいだって、だから友達じゃいられないって言ってきたことあって」
夜高ミツル:「そうやって……色んなことを、自分のせいだって思ってたんですかね」
夜高ミツル:確かめる相手はいない。憶測でしか語ることができない。
夜高ミツル:ミツルの目には真城はフランに気安く接しているように見えたが、それでもやはりフランが言うように負い目があったのだろうか。
乾咲フラン:「……見つけたら、言ってやらないとな。何も気にしないでいいって。」
夜高ミツル:「……そうですね」
夜高ミツル:気にするなと、既にそう伝えたことがある。真城がいなくなった日のこと。
夜高ミツル:あの時は引け目を感じていたのは自分の方だった。だから聞くべきことが聞けず、言うべきことが言えなかった。
夜高ミツル:「……見つけないと」
乾咲フラン:「ああ、そうだな」
夜高ミツル:頷いて。
夜高ミツル:「色々話してくれて、ありがとうございます」
乾咲フラン:「いいさ。私たちの仲だ。」
夜高ミツル:「……はは、そうですね」
夜高ミツル:今日はじめて、小さく笑う。
夜高ミツル:ミツルはまだ狩人になって数ヶ月だが、その間に何度も共に戦った仲間。
夜高ミツル:不思議な所も多い人だが、頼れる人だと思っている。
夜高ミツル:「そろそろ帰りますね。お邪魔しました」
夜高ミツル:「……多分、またすぐに狩りで会うことになると思いますけど」
乾咲フラン:「ああ、また会おう。」
乾咲フラン:「帰り道は気をつけて、何か困ったことがあったらすぐに連絡したまえ……」
乾咲フラン:----------ここからない話-----------------
乾咲フラン:「このあと忽亡くんがくるんだ」
乾咲フラン:「メイドのみんなとお菓子を作ろう会をやるということで」
乾咲フラン:「忽亡クンの心身の安定を図ろうと……」
乾咲フラン:「ミツルくんはこの後時間あるよね?」
乾咲フラン:「参加してね」
夜高ミツル:なんだか得も言われぬ圧を感じて、頷く。
乾咲フラン:「いや~よかったよかった忽亡クンもよろこぶよ」
乾咲フラン:「ワハハハ……ワハハハハ……」
乾咲フラン:----------ない話ここまで-----------------