チラシ 友達探しの手紙 また白い四角
不思議な色の光るウロコ
声を届ける石 これも光る でもバカって言われた なんでだ
また自分の手紙が一通 意外と世界は狭い そういうことかもしれない
☆ ★ ☆
「……なんだ、これは」
「スキルストーン」
「それは見れば分かる」
「……ええと」
唐突に渡されたスキルストーンを指し示して説明を求めるディドに、どう言ったものかとクロニカは腕を組んだ。
この仕草に再びディドの眉が寄るのが見えた。何故。
「これは、身体を動かす技だから、俺よりもディドが使ったほうがいい」
「…………」
「ディドの方が、動くのがうまい。体を張るのが向いている」
違うか、と首を傾げたクロニカに対して、返ってきたのは溜め息が一つだった。
隠す素振りもない。理由もないのだろう。
クロニカがもっともよく見る表情をしていた。
「ディド」
「……なんだ」
「俺は何かおかしいことを言ったか?」
やはり、溜め息。幸せが逃げるとどこかの物語で見たことがあることを思い出した。
指摘したらどうなるだろう。尚の事不機嫌になるのか。それは困るし面倒だなと思って口を噤む。
「…………。俺が身体を張るぶんは、働いてもらう」
「それは、働く。それなりに。少なくとも、金と血をもらったぶんは」
結局嫌な顔をされた。
クロニカはひどく浮世離れした性状の持ち主であり、またまさに感覚で生きるタイプであると言ってもいいくらいだったが、それはそれとして時に至って合理的な考えを見せることがあった。
役割を果たすこと。それが今までクロニカが生きてきた世界での基本だった。
そしてその役割は適性によって振り分けられていた。できることを、できる人がするのが最も効率がいい。向いていることを、向いている人がするのが当然だ。
その考えはそう間違ったものではないと思っているが存外それでは回っていないのが世界だったらしい。中々難解にできている。
郷里では役割さえ果たせばある程度は好きに振る舞えたから、クロニカは動くのも億劫な時分などには専ら本を、物語を読んでいた。
実際の物事について書かれたような本は苦手だった。全く頭に入らなくて読んだ気がしない。
その点物語を読み込むときはその中で何が起きているか、ということを追っていけばいいから楽しかった。展開されていくストーリーに翻弄されるのが好きだった。
自分の想像の外に飛んでいけるような気がした。
役割を果たせなくなったから。
クロニカが郷を出た理由はそれだった。
別に追い出されたとは思っていないので恨む気持ちはない。そうなるのが自然なのだと語り聞かされたのでそうなのだと納得している。
郷を出て良かったとも思う。
役割を果たせなくなったということは、皮肉ながらそれからの解放も同時に意味していた。
自由になれと言われた。そのことを未だ正しく理解はできていない。
でも、これが役目だから、しなければならないから、というだけで動くのとはまた違う歩き方を、存外クロニカは嫌いではなかった。
苦手なこと。不向きなこと。それでも挑戦してみることができる。
心が惹かれるままに動くことができる。
思いの外、悪くないことだった。