エピローグ
GM
*伊月鮮己は〈発狂〉しているため、亡者化判定が発生します。
伊月鮮己
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
伊月鮮己
2d6+3 (2D6+3>=7) > 5[4+1]+3 > 8 > 成功
GM
全身から刃を迸らせた女の足元に、全身を裂かれた男が倒れ伏す。
楠瀬新
傷からは溢れ出でた血が床をさらに赤く染め上げていく。
伊月鮮己
この光景を識っている。この感触を憶えている。
楠瀬新
距離を測ることに長け、人の話を聞くのが上手な男だった。
楠瀬新
はじめは警戒していたはずのあなたもこの男に、胸の内を明かしてきたのだ。
伊月鮮己
「いや だったの どうしてもいやで いやで」
伊月鮮己
「でも がまんしなくちゃ いけなかったのに」
伊月鮮己
「あたしは あたしのために ころしたの」
伊月鮮己
「おねえちゃんだから おとうとのためなら、なんでもできたの なんでも、がまんできたの」
伊月鮮己
「あたし はじめから おねえちゃんなんかじゃなかった」
伊月鮮己
「弟のためだからって 理由にしてたの 全部 弟のせいにしてた」
伊月鮮己
「そんなことしなくても、あの子は 救世主様の子供のあの子は あたしみたいな目には合わないって」
伊月鮮己
「愛されてないのはあたしだけで あたしがやってることは 全部意味ないって」
楠瀬新
起き上がることは愚か、投げ出された腕を持ち上げることもできず、
伊月鮮己
「……ごめんなさい ごめんなさいくすのせさん ごめんなさい」
楠瀬新
数度咳き込んで、血溜まりの中に背を丸めて、
伊月鮮己
「っ それ以上喋っちゃだめだよ だめ楠瀬さん」
楠瀬新
「初めてなったろ思うて、あの男殺したんになあ」
伊月鮮己
「やさしくしてもらったのも たすけてもらったのも」
伊月鮮己
「…そんなふうにしてもらう理由 あたしには一個もないのに」
伊月鮮己
「それなのに、最後まで間違えてごめん。ごめんね。」
伊月鮮己
「あたしは、そうしてもらうべきじゃなかったのに。そんな価値なかったのに。…生きる理由がないことにも、気付いてなかったくせに。」
伊月鮮己
「…人を殺したことを、思い出したときにね。」
伊月鮮己
「頭が真っ白になって、あたしの生きる理由はあたしがお姉ちゃんであることだったのに、それも全部自分で壊しちゃってたことに気づいて」
伊月鮮己
「…気づいたら、楠瀬さんが倒れてたの。あたし、また間違えるところだった。」
伊月鮮己
「楠瀬さんが言ってたことが正しかったよ。あたしにできることなんて、元の世界に戻っても1個もない。戻っても、幸せなことなんてない。もう、理由がない。」
伊月鮮己
「今度は、間違わずに選べると、思うの。」
伊月鮮己
「ちがうよ楠瀬さん あたしが、選んだの。」
伊月鮮己
「あたしが勝ったから、あたしが、選ぶの。あたしが正しいと思うことを。」
伊月鮮己
「楠瀬さん、やっぱり悪い人、向いてないよ」
伊月鮮己
「今そんなこと言われても、説得力、一個もないもん」
楠瀬新
あとは目の前の少女に、殺されるだけの命だ。
伊月鮮己
「楠瀬さんは、生きたい。あたしは、もう、理由がない。」
伊月鮮己
「…弟はね、あたしがいなくても大丈夫。それがわかっちゃったから。」
伊月鮮己
「……あたしね、一個も選べなかった。自分の人生のこと、何にも。」
伊月鮮己
教団の犠牲になり続けてきた人生だった。弟への想いは欺瞞だった。心の疵からは血が溢れ、もう、止まらない。
楠瀬新
自分の見知った光景に似ていたはずのそれが、
伊月鮮己
「……最期にひとつくらい、選んでみたいの。自分が今一番大切だって思える人のことを。」
伊月鮮己
「いっぱい間違えて、ごめんなさい。怖がったりして、ごめんなさい。」
伊月鮮己
「あたしに、優しくしてくれて、ありがとう」
伊月鮮己
「あたしの人生で、いちばん、あなたのことが大好きだよ」
伊月鮮己
そう言って、先の戦いで剥がれおちた、自分のかけらを手に取る
楠瀬新
止められる力があったとて、自分に十全に動けるだけの力があったとて、
楠瀬新
少女に応えてやるべき言葉は、いくらでもあるはずなのに。
楠瀬新
気慰みの言葉なら、いくらでも吐けるはずだろう!
楠瀬新
今まさに自分のために死にゆく少女に対して。
楠瀬新
嘘と偽りと誤魔化しで塗り固めてきた自分の言葉では。
伊月鮮己
あたしたちは、きっと似ている。この人は、きっと自分のせいにしたがる。
伊月鮮己
ラッキーだったと笑えば良いのに、もっと巧妙に騙せば良いのに、それをしない。
伊月鮮己
だから、そんな優しい人がもうこれ以上、傷つかないで済むように。
伊月鮮己
ずぶり、と、心臓に向かって既に開いている穴に、かけらを突き立てた。
楠瀬新
ただ這いつくばったままに、少女が自らを害すさまを見ていた。
伊月鮮己
ナイフでは届かなかった鉱石の心臓は、同じ素材の刃でならば、簡単に破壊できたことだろう。
楠瀬新
全身の傷がひどく痛む。今も血を流している。呼吸のたびに肺腑が引き攣れるような心地がする。
伊月鮮己
少女の体と、割れたかけらが、音を立てて転がる。
伊月鮮己
あたたかさは、失われていく。まるで鉱石と同じように。
楠瀬新
楠瀬新が伊月鮮己に触れた瞬間は、数えられるほどしかなかった。
楠瀬新
理由なく触れることに意味はなく、理由なく怯えさせることに益はなく、
楠瀬新
だから、それは何も間違っていなかったはずなのに。
楠瀬新
この結晶で胸を貫いて、あの少女に殉じてやれるだけの強さがない。
伊月鮮己
まだかろうじて少女であるもの。もう間も無く骸になるその塊は。
伊月鮮己
微笑んでいた。まるで、自分がこの世界で最も幸福であるかのように。
伊月鮮己
やがて完全に、生の気配をなくして、ただのかたまりになった。
楠瀬新
ずたずたの皮膚を裂かれながら、心の疵の痛みばかりを感じていた。
楠瀬新
残してきたものへの。自分が壊してしまったものへの。
楠瀬新
自分を生かすために、自ら命を絶ったものへの。
楠瀬新
きっと自分は、この30日を繰り返していく。
楠瀬新
他人に取り入り、打算を積み重ね、利害の一致を見て、最後は一人で益を掻っ攫う。
楠瀬新
見下げ果てたやり方で、人の命を踏み躙って生きる。
楠瀬新
楠瀬新という男が自ら選び、決めて、選びゆくことだ。
楠瀬新
少女の犠牲に生かされた、その責任を背負いながら。
GM
どこにでも起きうる出来事の積み重ねの日々は、
GM
その結実の成れの果てが、今は男の胸に眠っている。
GM
『It Happens All The Time.』