4.1話
須藤地獄変
須藤地獄変:D7研究施設襲撃のその日、須藤には都心への単独出張の予定が突然入っていた。須藤地獄変:それは陰謀だったのかもしれないし、本当に不幸な偶然だったのかもしれない。
須藤地獄変:「須藤さん!……須藤さん、今どこですか!?」
須藤地獄変:一人でいる須藤のもとに電話が掛かってくる。……須藤の同僚の声だ。ひどく慌てている。
須藤地獄変:「……はい?」
須藤地獄変:「どうかしました?」
須藤地獄変:「あの、落ち着いてください」
須藤地獄変:スマホ越しに同僚をなだめます。
須藤地獄変:「須藤さん、今、走ってませんよね?」
須藤地獄変:「ええ、問題ありませんが……」
須藤地獄変:「そ、そうですか……じゃあ、これ、須藤さんじゃ、ないんですね?」
須藤地獄変:「???」
須藤地獄変:すぐにURLが送られてくる――インターネットで最も有名な動画サイトだ。
須藤地獄変:URLを叩けばライブ配信に繋がり、大通りを走る男の姿が映し出される。
須藤地獄変:――大通りを走るその男は、全裸であった。
須藤地獄変:渋谷スクランブル交差点を走る全裸の男。悲鳴を上げる群衆。割れる人波。
須藤地獄変:「……………」
須藤地獄変:叫びながら走るその男……その顔は、どう見ても――いや、D7の誰が見ても須藤その人だった。
須藤地獄変:「俺を見ろーーーー!!!俺をーーーーー!!!!!」
須藤地獄変:額に手を添える。
須藤地獄変:須藤の顔をした男が、須藤の声で叫んでいる。
須藤地獄変:その後ろをスーツを着た別の男が追いかけている。
須藤地獄変:「須藤さーーーーーん!!!須藤さーーーーーーーん!!!!どうしたんですかーーーー!!!!」
須藤地獄変:須藤?の後ろを追いかける男は、須藤の名前をひたすら呼びながら追いかけている。
須藤地獄変:帰りましょう!○○に帰りましょう!と須藤の居住区名まで叫びながら、絶妙に追いつかない速度で追いかけている。
須藤地獄変:この男が、フランにあの日毒薬を工面した狩人の男である事を知っている者は――この場にはいない。
須藤地獄変:走る須藤はもちろん須藤ではなく、美麗派の変装によって工面された須藤であるのだが――
須藤地獄変:「……やられた……………」
須藤地獄変:視聴者も、D7の皆ですら……画面の向こうに躍動する須藤という現実(リアル)に真実(リアル)を視えなくされていた。
須藤地獄変:インターネットの向こう側で、人々は縦横無尽に見え隠れする須藤の下半身で揺れる本質(リアル)に悲鳴を上げた。
須藤地獄変:「あの、須藤さん、本当に、これ、須藤さんじゃ、ないんですよね。」
須藤地獄変:尋ねる同僚の声は、酷く震えていた。
須藤地獄変:――……バベルネットの陰謀により、配信は停止されない。
須藤地獄変:消せば消すほどSNSに拡散していくのだ。
須藤地獄変:これから先数年、須藤はフリー素材として第二の生を(勝手に)与えられる事になるが、それは夜高たちには――なんの関係もない事だ。
須藤地獄変:須藤地獄変 おわり