幕間5
夜高ミツル:1年の秋?くらい?ですかね?真城朔:とかになるかな……!?
真城朔:多分前提として
真城朔:ミツルくんが弁当食ってるとこに真城が話し掛けてて
真城朔:それで自炊してるって話からじゃあ今度なんか作って的なアレするのがまあ 流れ的に自然かなと
真城朔:そういう気持ちです
夜高ミツル:は~~い
真城朔:「おーす」
真城朔:がさごそとスーパーのレジ袋の音を立てながら、真城朔が入ってくる。
夜高ミツル:「ん」
真城朔:「マジで一人暮らしだ」
夜高ミツル:適当に真城を部屋に迎え入れる。
夜高ミツル:古いアパートのワンルーム。
真城朔:無遠慮にアパートの室内を見回している。
真城朔:適当に靴を脱ぎ捨てて、爪先で揃えつつ。
夜高ミツル:「あんま見んなよ」
夜高ミツル:とは言うが、部屋の中は散らかってはいない。というより、単純に物が少ない。
真城朔:「じゃあどこ見てろってんだよ」
真城朔:揚げ足取りのように返しながら、
真城朔:「ほら」
真城朔:と、ビニール袋をミツルに差し出した。
夜高ミツル:「まあ、いや、うーん……」
夜高ミツル:袋を受け取る。
真城朔:「これでなんかできる?」
真城朔:極めて適当に買ってきたと思われる食材が入っている。
真城朔:スタンダードな野菜一揃えと、あと肉。
真城朔:肉の種類がなんかやたら多い。
真城朔:鶏豚牛と合いびき肉と。
夜高ミツル:「まあ、いけるいける。多分」
夜高ミツル:言いながら、上にあるものから出していって。
夜高ミツル:「……いけるっていうか、なんか多くねえ?」
真城朔:普段料理しないのは本当だし、金銭感覚も相当雑らしいというのが、
真城朔:なんとなく察せられるラインナップ。
真城朔:「えー?」
真城朔:生返事をしながら適当に座っている。小首を傾げて。
真城朔:「足りないよりマシじゃね」
夜高ミツル:「……ま、そうか。ありがとな」
真城朔:「いやー」
真城朔:テーブルに適当に頬杖ついてにやにや笑いながら。
真城朔:「あとはこっから作るの眺めさせてもらうからよー」
夜高ミツル:食材を狭い台所に並べる。選択肢が広がってむしろ悩んでいる。
夜高ミツル:「別に見て面白いもんじゃねえぞ……」
真城朔:「他人をこき使うのは楽しい」
真城朔:最悪
夜高ミツル:「この野郎……」
真城朔:「ミツルシェフの働きぶりはどうかな~」
夜高ミツル:「ご期待に添えるようがんばりますよ」
夜高ミツル:作るものを決めたようで、食材を一旦避けてまな板と包丁を出す。
真城朔:ぼーっとその背中を見ていたが、そのうち結局また室内に目をやり始めた。
真城朔:胡座かいてどかっと座って、ぼんやり部屋を見回したり、天井見たり、窓見たり、
真城朔:結局視線は台所に、ミツルの背中に戻ってきたり。
夜高ミツル:一応来客ということで、それなりに片付けてある。
夜高ミツル:部屋の隅には畳まれた布団とか、室内用の物干しスタンドとか。
夜高ミツル:ミツルはそれなりに慣れた手付きでじゃが芋の皮を剥いている。
真城朔:適当に書棚から漫画を引っ張り出していたが、途中で飽きてしまったのか、
真城朔:ひょいっと腰を上げて流し台の方に来る。
夜高ミツル:皮を剥き終えたものから適当な大きさに切っていく。
真城朔:「何作ってんの」
夜高ミツル:「カレー」
真城朔:「定番だ」と、メニューに対しては。
夜高ミツル:「なんだ? 手伝いでもしてくれんの?」
真城朔:「えー」嫌そうではないが軽薄に笑って。
真城朔:「この狭さだと手伝いもクソなくね」
真城朔:「ぶつかって手とか切りそう」
真城朔:適当なことを言いながら、
真城朔:なのでほどほどに距離を取っている。
夜高ミツル:「それもそうだな」言っておきながら、あんまり期待してなかった感じで適当に流し。
夜高ミツル:「肉、どれがいい?」
真城朔:「えっ」
真城朔:「俺が決めんの?」
真城朔:ぱちぱちと瞬く。
夜高ミツル:「客だし、買ってきてくれたのお前だし。選ばせてやろうかなって」
真城朔:「えー」
真城朔:「うーん」
真城朔:考え込んでいる。
真城朔:「豚かなあ」
真城朔:「カレーって豚じゃね?」
夜高ミツル:「ん、豚な」
真城朔:「ぶたぶた」
夜高ミツル:「俺はいつもは鶏だな」安いから……
真城朔:「鶏はチキンカレーってカテゴリっぽい感じする」
真城朔:「こう、普通は豚で、チキンカレーはチキンカレーっていうか」
夜高ミツル:「牛もビーフカレーって言うけど、ポークカレーってそういえばそんなに聞かないよな」
真城朔:「そいえばなんでビーフシチューだけ茶色いん?」
真城朔:話が飛んだ。
夜高ミツル:適当な会話を進めている間にも、手はどんどん野菜の下処理を進めていく。
夜高ミツル:「えー? 知らねえ……なんでだろう……」
夜高ミツル:「なんの色なんだ……?」
真城朔:「さあ……」
真城朔:首を傾げている。
夜高ミツル:あんまり縁がなかった食べ物なので、よく分からなくなっている。
真城朔:「慣れてんなー」ミツルの手付きに。
夜高ミツル:「まあ、半年やってりゃそれなりにはな」
夜高ミツル:「真城は自分で作ってみたりしねーの?」
真城朔:「めんどくさくね?」
夜高ミツル:「……否定はしない」
真城朔:「だろー」
真城朔:「だからまあ、もっぱら外でとか、適当になんか買ったりとか」
真城朔:「そんなになるわな」
真城朔:ミツルの手元を見つめながら、ぼんやりと思いを馳せている。
夜高ミツル:「ふーん……」真城の話を聞きながら、少し考え込むようにして。
夜高ミツル:「……なあ、真城って」
真城朔:「なに」
夜高ミツル:「……危ないバイトとかしてんじゃねーよな……?」
真城朔:「はあ?」
夜高ミツル:妙に金回りが良さそうだったり、怪我が多かったり、学校に来なかったり。
真城朔:「危ないバイトって」
真城朔:「どういうのだよ、具体的に」
夜高ミツル:「え? うーん……?」
夜高ミツル:漠然とした『危ないこと』のイメージしかなかったので、具体的にと言われると。
夜高ミツル:「え~……クスリ……? とか……?」
夜高ミツル:ふわ……
真城朔:「シンプルに犯罪のやつだ……」
夜高ミツル:「…………そうだな」
真城朔:「捕まったらミツの名前出すか」
真城朔:にやにや笑う。
夜高ミツル:「道連れにしてんじゃねえよ」
真城朔:「清廉潔白で生きてりゃ平気だろ~」
真城朔:突っ立ってるのにも飽きたのかまた床に腰を下ろしている。
真城朔:手元は見えないだろうが、背中は見える。
夜高ミツル:「ていうか、そもそもマジで捕まるようなことすんなよ~?」
真城朔:「大丈夫大丈夫」
真城朔:「補導で止まるようにはしてあるから」ひらひらと掌を振っている。
夜高ミツル:「補導はされてんのかよ……」
真城朔:「別に悪いことしてなくても警官に話しかけられるくらいはさ」
真城朔:「あるだろ」
真城朔:「ほら、このご時世だし」
夜高ミツル:コンロに火をつけて、鍋に油を引く。
夜高ミツル:「いや……」と言いかけて。
夜高ミツル:「あー、でもまあ、俺もバイト帰りに声かけられたことはあるな。補導まではいってねえけど」
真城朔:「だろ~?」
真城朔:「そんな感じそんな感じ」
夜高ミツル:刻んだ玉ねぎを鍋に放り込み、炒めていく。
夜高ミツル:「……いつも怪我してんのは、そんな感じじゃなくねえか」
真城朔:「ものが焼ける音がする」とか素朴なことを言っていたが、
真城朔:ミツルの言葉に顔をしかめ。
真城朔:「警官みたいなこと言い出した……」
夜高ミツル:「お前なー……」
夜高ミツル:「……まあ、何やってんのか無理に聞いたりしねえけどさ。あんまり無茶なことはするなよ?」
真城朔:「大丈夫大丈夫、引き際はわきまえてるから」
夜高ミツル:「引き際なぁ……」本当に犯罪じゃないよな……?
真城朔:「色んな世界があるんだよ、ほら」
真城朔:「こうなんか……よくわかんないけど」
真城朔:「色々ある」
真城朔:「色々」
夜高ミツル:「色々……」
夜高ミツル:飲み込みづらい感じでおうむ返しした。
真城朔:「たまに怪我するくらいのもまあ、ある」
真城朔:「まあほんとにヤバかったらこんなことしてる余裕もないし?」
真城朔:首傾げて、
真城朔:「学校行ってる余裕もないし?」また逆の方向に首を倒す。
夜高ミツル:「学校はもっと来た方がいいと思う」
真城朔:「結構行ってね?」
真城朔:この前一ヶ月くらい休んだけど。
夜高ミツル:「一ヶ月も休んで結構はねえだろ……」
真城朔:「結構休むし、結構行ってる」
夜高ミツル:「来たついでにノートでも見てくか?」
真城朔:「えー」
真城朔:「どうせわかんねえしな……」
真城朔:理解を放棄している。
夜高ミツル:「せめて赤点は回避しろよ……?」
真城朔:「うーん……」
真城朔:「どうやったら回避できると思うよ」
夜高ミツル:「え、勉強以外になんかあるのか?」
真城朔:「…………」
真城朔:「真面目……」ぼそっと
真城朔:やや現実逃避気味に本棚から漫画を引き出している。
夜高ミツル:「お前要領よさそうだし、勉強すればそこそこ点取れるんじゃねえの。知らねーけど」
真城朔:「うーんうーん」
真城朔:「…………」
真城朔:「……まあその時になったら考える」
真城朔:その時とは?
夜高ミツル:「いつだよ」
真城朔:「なんか……考えなきゃなんないなってなった時……」
夜高ミツル:「進級がヤバい時とかか……?」
真城朔:「ああ~」
真城朔:「そうか高校って留年……」
真城朔:今思い当たったというような声を出す。
真城朔:漫画を読みながら。
夜高ミツル:「マジかお前……」
真城朔:「あんま将来のこと考えすぎない主義で……」
夜高ミツル:「留年は目を逸らすには近すぎるぞ……」
真城朔:「まあでもほら」
真城朔:漫画を閉じて、ミツルに目を向けて、
真城朔:「今はメシの方が近いし」
真城朔:へらっと笑う。
夜高ミツル:会話している間に野菜と肉に火が通ったので、今度は水を注いで煮込んでいく。
夜高ミツル:「はいはい……もうちょいかかるからまだ読んでろよ」
真城朔:「まだ近くなかった」
真城朔:十分近いが。
夜高ミツル:「もうちょいだって」
真城朔:「はーい」
夜高ミツル:「登山だったら山頂見えてる」
真城朔:子どもみたいな返事をする。
真城朔:「登山なあ」
真城朔:「遠足以外で行ったことねえな」
夜高ミツル:「俺も。まあそんなもんだよな」
夜高ミツル:煮込んでいる間に、まな板と包丁を洗う。
夜高ミツル:真城にやらせればよかった気がしてきたり、でも色々買ってきてくれたしな……と思ったり。
真城朔:「あ、でも海はある」
真城朔:「あとディズニーもあるし」何故か主張を始める。
夜高ミツル:「え、真城もディズニーとか行くんだな」
夜高ミツル:少し意外で、一瞬手が止まる。
真城朔:「あー」
真城朔:「うん」
真城朔:何故だかぱたっと口を閉ざして。
真城朔:「まあ昔」
夜高ミツル:「……ふーん」
夜高ミツル:ディズニー。昔家族で行ったなとか、少し思い出したりして。
夜高ミツル:思い出して、すぐに思考から追いやる。
真城朔:「今は行かねえよ」
真城朔:やや言い訳がましく口を尖らせる。
夜高ミツル:「はいはい」
真城朔:「めちゃめちゃどうでもよさそうな返事が来た」
夜高ミツル:「女の子とか連れてったらいいんじゃねーの、お前なんかモテてるっぽいし」
真城朔:「ああ~~~~?」
夜高ミツル:「ああ~?ってなんだよ」
夜高ミツル:「どういう感情なんだ……」
真城朔:「お前が意味わからんこと言うから……」
夜高ミツル:「そんなに意味わかんねえか……?」
真城朔:「かなりわからん」
真城朔:「っていうか誰連れてきゃいいんだよ」
真城朔:「ろくに話もしてねえ相手を」
真城朔:全く交流がないというわけではないというか、
真城朔:会話をしている様子くらいはあるが、口振りからすればそれも表面的なものなのだろう。
真城朔:あるいは必要に迫られてのものか。
夜高ミツル:「気になる子とか…………?」
真城朔:「まあいるなら誘ってもいいかもしんないけどな」
真城朔:「よそから言われてすることでもなくね」
夜高ミツル:泡だらけの包丁とまな板を水で洗う。
真城朔:「補導に巻き込んでもな……」
真城朔:ぼんやりと適当なことを言っている。
夜高ミツル:「なんで巻き込むのが前提なんだよ」
真城朔:「別に巻き込もうと思ってるわけじゃねえけど」
夜高ミツル:「色々だからか?」
夜高ミツル:壁につけたラックに、包丁とまな板を置いて。
夜高ミツル:鍋の火を止めて、ルーを放り込む。
真城朔:「…………」
真城朔:「……色々だから」
真城朔:乗っかるのが不本意なのか、どこか吐き捨てるように。
夜高ミツル:それ以上は深入りせず、ぐるぐると鍋をかき混ぜてルーを溶かしていく。
真城朔:読み終わった単行本を戻している。
夜高ミツル:タイミングよく、炊飯器が炊きあがりを知らせる音が鳴る。
真城朔:「お」
夜高ミツル:「ちょうど炊けたな」
真城朔:「ここから30分待つとかない?」
夜高ミツル:「ないない」
真城朔:「なかった」
真城朔:炊飯器で違うんだよな、とか座り込んだまま言っている。
夜高ミツル:「カレー以外になんか出せとかあったら待たせるけど……」
真城朔:「その方が面倒だしいーよ」
真城朔:「なんか出せっつったら何出てくんの」
夜高ミツル:「なんかはなんかだよ」
真城朔:「なんか……」
夜高ミツル:そもそも追加する気もないので適当な返事。
夜高ミツル:言っておいて。
夜高ミツル:「お前どんくらい食う?」
真城朔:「けっこう食う」
夜高ミツル:「こんなもんか?」大きめのお皿に、多めにご飯をよそう。
夜高ミツル:「まあ足りなかったらあとで足してくれ」
真城朔:「はいはーい」
真城朔:座ったまま全部任せて殿様してる。
夜高ミツル:「あ、クソ、このくらいやらせりゃ良かった……」
真城朔:「わははは」
真城朔:行儀悪く頬杖ついて笑う。
真城朔:「ミツルシェフは勤勉ですね~」
夜高ミツル:「家でもいつも……」
夜高ミツル:「…………」
真城朔:「んー?」
夜高ミツル:「……いや。カレーこんなもんでいいよな」
真城朔:「オッケーオッケー」
夜高ミツル:家でもよく姉に色々押し付けられてたから、とか。
夜高ミツル:そんな言葉を呑み込んで、食卓にカレーを並べる。
真城朔:何も知らずに運ばれてくるカレーを見ている。
真城朔:「勤勉ってちょっと違ったな」
真城朔:「なんだろこの場合? 勤労?」
夜高ミツル:一度流しに戻って、コップを2つ出して水道水を注ぐ。
夜高ミツル:「なんにしろ別に嬉しくねえからな……」
真城朔:「褒めてんのに」
夜高ミツル:コップと、あとスプーンを持って真城の方に戻ってくる。
夜高ミツル:それぞれを並べて、机を挟んで真城の向かいに座る。
真城朔:「ご苦労さま」にやにやと。
夜高ミツル:ちなみに机は一人暮らしの家によくある足が畳める小さめのこたつ。
夜高ミツル:「はいはい、ありがとうございます……」
真城朔:「いやー見事な働きぶりでございました」
真城朔:「やってる奴は違うな~」
夜高ミツル:「結局全部自分でやってしまった……」
真城朔:「えらいえらい」
夜高ミツル:指示するより自分でやる方が早いから……
真城朔:「食っていい?」
夜高ミツル:「……あ、待ってたのか。どうぞ」
夜高ミツル:食わせるために出してるんだから、別に聞かなくていいのにとか思いつつ。
真城朔:「はーい」
真城朔:「一応家主の許可をというか……」
真城朔:「まあ、ええと」手のひらを合わせ。
真城朔:「いただきまーす」
夜高ミツル:「変なところはちゃんとしてるんだな……」許可が云々に対して。
夜高ミツル:それから、真城に少し遅れて手を合わせて
夜高ミツル:「……いただきます」
真城朔:「育ちの良さを見せつけてしまったな」
真城朔:不良の言う言葉ではない。
真城朔:スプーンでカレーを頬張る。
真城朔:むぐむぐと噛んでいる。
夜高ミツル:「ああ…………?」首を捻る。
夜高ミツル:カレーを口に運んでいく。味はまあ、普通だ。
夜高ミツル:ルーを使っているので、そういう味がする。
真城朔:「…………」
真城朔:「カレーの味がする」
夜高ミツル:「カレーだからな……」
真城朔:「カレーの……カレーの味がする」
夜高ミツル:どう作っても無難な味だからこそ選んだ、という所もある。人に振る舞う料理を作るのは初めてなので。
夜高ミツル:「カレー以外の味がしたら怖くねえ?」
真城朔:ちなみに豚は平たい薄切り肉。別にカレーを想定していないので。
真城朔:「まあカレールー入れてカレー以外の味してたらな」
真城朔:「なんかヤバいこと起きてるよな」
夜高ミツル:「ちゃんとカレーの味でよかったな」
真城朔:「良かった良かった」
真城朔:「……けっこう久しぶりだし、カレー」
夜高ミツル:「自炊だと楽だから結構作るけどなー。まあ外だとそんなわざわざ食わねえか……?」
真城朔:「定番すぎるからなあ」
真城朔:もぐもぐ。
夜高ミツル:あんまり外食とかしないから、感覚が分かってない。
真城朔:「コンビニとかで買うもんでもなし」
真城朔:「逆にカレー以外とかだと何作んの」
夜高ミツル:「あー……炒飯とか、あと適当に肉と野菜を炒めたり……?」
真城朔:「めちゃめちゃ炒めてる」
夜高ミツル:「楽なんだよ……切って炒めるだけのやつが……」
真城朔:「まあ手間とかかけてらんないよな」
真城朔:「それすら面倒だし、俺」
真城朔:水道水飲みながら。
夜高ミツル:「もうちょっと色々作れると楽しい気はすんだけどなー……」
真城朔:「試さねえの?」
夜高ミツル:「色々試すと……金が……」
真城朔:「あー……」
夜高ミツル:「あと流し狭いし、コンロも一口だし……」
真城朔:「世知辛いなー」
真城朔:「それ系の専門とか大学とか行けば?」
夜高ミツル:「節約でやってる自炊に金かけはじめたら本末転倒だからな」
夜高ミツル:「あー…………」
夜高ミツル:「いや、どうかな……」
真城朔:「そこまでやる気はない?」
夜高ミツル:「ていうか、進学自体あんま考えてないっつーか……」
夜高ミツル:「まだちゃんと決めたわけじゃないけど」
真城朔:「あー」
真城朔:「そこもやっぱ先立つものか……」むぐむぐ
夜高ミツル:実際のところ、本気で進学を考えればやりようはあるんだけど。
夜高ミツル:遺産もあるし、あとは奨学金を目指すとか、親戚も必要なら援助をすると言ってくれている。
夜高ミツル:だから、単純に。
夜高ミツル:無いのは先立つものではなく、目指したい将来の方で。
真城朔:もくもくとカレーを平らげている。
夜高ミツル:「……ま、そうだな」
真城朔:「万事ついて回るなー」
夜高ミツル:とはいえ、金の方も実際問題ではあるので、否定はしない。
真城朔:世知辛い世知辛いとか言いながら、最後のひとすくいを口に含む。
真城朔:唇からスプーンを引き出してもぐもぐと咀嚼している。
夜高ミツル:「……真城は? 大学とかは行くのか?」
真城朔:「行くと思うか?」
夜高ミツル:「一応聞いとく流れかなって」
真城朔:「なんだその配慮は」
真城朔:へらっと笑いながら空の皿をミツルに差し出す。
夜高ミツル:「おかわりくらい自分でやれ!」
真城朔:「えー」
真城朔:しぶしぶ腰を上げている。
真城朔:よそいよそい。
夜高ミツル:「なんでもかんでもやらせようとすんじゃねえよ……」
夜高ミツル:ため息をつきつつ、自分の方もカレーを平らげる。
真城朔:「流れに乗ればイケるかなって……」
真城朔:前の半分くらいをよそって戻ってくる。
真城朔:「まあ俺また来るし」腰を下ろしながら。
夜高ミツル:入れ替わりで、自分もおかわりをよそいに。
夜高ミツル:「来ても何もねえけどな」
真城朔:「食べ物持ってくりゃメシができると学んだ」
夜高ミツル:ゲームとかないし、漫画も古いのばっかりだし。
夜高ミツル:「嫌な学習だな……」
夜高ミツル:「まあ手間は大して変わんねえからいいけど……」
真城朔:「他人が自分のためにメシ作ってるのを何もせずに眺めるのもいい気分だと学んだ」
夜高ミツル:「嫌な学習だな!!」
夜高ミツル:二回目
真城朔:「はははは」
真城朔:「いいじゃん、流石に予定は確認するし」
真城朔:「俺も空振りヤだし」
夜高ミツル:「……いいけどさ」
真城朔:「いえーい」
真城朔:勝利宣言か?
真城朔:カレーを食べながらへらへら笑っている。
夜高ミツル:よそいにって言った後戻ってきてなかったけど実は戻っています。
真城朔:あるある。
真城朔:スッ……と戻っている。
夜高ミツル:「……次は、何買ってくるか先に教えてくれ」
夜高ミツル:「消費期限短いやつとか、家にあるのと被ったら面倒だし」
真城朔:「何買えばいいん」今訊くことではない。
夜高ミツル:「今聞かれても……」
夜高ミツル:「真城が食いたいやつでいいんじゃねえの」
真城朔:「ビーフストロガノフとか……」
夜高ミツル:「作れると思うか?」
夜高ミツル:「ていうか何が必要か分かって買ってこれるのか?」
真城朔:「実際のところどんな料理かもよく分かってない」
真城朔:「あれ何?」
夜高ミツル:「分かんねえから作れないんだよ」
真城朔:「難しいなー」
夜高ミツル:「思いつきで変なもん買ってきたり作らせようとしたりすんなよ?」
真城朔:「はははは」
真城朔:やや不安になる笑い声。
夜高ミツル:「フリじゃねえからな……?」
夜高ミツル:「フリじゃないぞ」
夜高ミツル:念押し
真城朔:「はっはっは」
真城朔:おかわりのぶんも食べ終わって、掌を合わせる。
真城朔:「ごちそうさまでした」
夜高ミツル:「お粗末さま」
真城朔:「久しぶりにメシ食ったって感じする」
夜高ミツル:こちらも少し遅れて食べ終わり、ごちそうさまをして。
真城朔:その様子を見ている。
夜高ミツル:「そりゃ良かったな」
真城朔:「なんかだんだん面倒になってくるんだよな、メシ食うの」
真城朔:「一人だとまあいいかってなるし」
夜高ミツル:皿を持って立ち上がり……一瞬悩んで、真城の分の食器もまとめて流しに持っていく。
夜高ミツル:「えー、腹減らねえ?」
真城朔:図々しく任せている。
夜高ミツル:立ち上がってしまったから、もうついでだしいいか……という諦め。
真城朔:「我慢できないくらいになったら食うけどさ」
真城朔:「まあ適当なもんでいいかって感じにはなるし」
真城朔:「ミツはならねえの」
夜高ミツル:「食わないとバイトが無理だ……」
夜高ミツル:「無理だった……」
真城朔:「深刻だ……」
真城朔:「まあ必要に応じて食ってればいいんじゃねえの」
夜高ミツル:「必要に応じてって、あんまり飯に対して言ってんの聞いたことないな……」
真城朔:「そうかな~」
夜高ミツル:こいつの食事への感覚が心配になってきた……。
真城朔:「でもそれで倒れたりとかしてないし……」
夜高ミツル:「……まぁ、こんなもんでよければまた作るから来いよ」
夜高ミツル:「倒れたりって発想が出てくるのがやべえよ」
真城朔:「やったー」
真城朔:「またミツをこき使える」
夜高ミツル:「こき使うな」
夜高ミツル:いやでも結局作るのは俺だからそうなってしまうのか?
真城朔:「食材買ってくるのは俺だし?」
真城朔:へにゃへにゃ笑っている。
夜高ミツル:「別に買ってこなくてもいいぞ?」
夜高ミツル:そしたら俺が優位に立てるし……
真城朔:「それじゃあ大義名分なくなるだろ」
真城朔:腰を上げて、靴下の履き口を引っ張っている。
夜高ミツル:「……普通に遊びに来ればいいだろ」
真城朔:普通に、という言葉にきょとんと目を丸くした。
夜高ミツル:この部屋に親戚と業者以外をあげたのは初めてのことで。
夜高ミツル:まあ、結構、楽しかったり。している。
夜高ミツル:それをわざわざ言ったりはしないが。
真城朔:「まあじゃあそうなったらそれはその時で」
真城朔:「そんな感じで?」
夜高ミツル:「行けたら行くみたいな返事だな」
真城朔:「来たら来たなって思ってくれ」
真城朔:玄関口に向かいながら。
夜高ミツル:「そうするよ」
夜高ミツル:「本当に飯だけ食って帰んのな」
真城朔:「えー」
夜高ミツル:一応見送りに、自分も玄関の方へ。
真城朔:「他になんかする?」
真城朔:「何する?」
夜高ミツル:といっても狭い部屋なので、数歩の差ではあるが。
夜高ミツル:「……いや……何もねえな……」
夜高ミツル:娯楽がない部屋。
真城朔:「だろ」軽く笑う。
真城朔:「持ってきたやつ、別に好きに使っていいから」
真城朔:「そこはまーお気遣いなく」
夜高ミツル:「じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」
夜高ミツル:「ありがとな」
真城朔:「感謝したまえ」薄い胸を張る。
真城朔:「カレー美味かったしな」
真城朔:「だから、まあ、普通にまた来るよ」
真城朔:「そんで作らせる」
夜高ミツル:「……ん」
真城朔:「ビーフストロガノフの作り方調べとけよ~」
夜高ミツル:「は~?」
真城朔:ドアノブに手をかけながら。
夜高ミツル:「自分でもよくわかってねえもん作らせようとすんなよ」
夜高ミツル:「……まぁなんか調べとくわ。うちでも作れそうなもん」
夜高ミツル:「じゃあまあ、気をつけて帰れよ」
真城朔:「そりゃ楽しみだ」
真城朔:「はいはーい」
真城朔:「補導されないようにしまーす」
夜高ミツル:「本当に気をつけろよ……」
真城朔:「はははは」
真城朔:ひらりと掌を振って、アパートから出ていく。
夜高ミツル:見送って。
真城朔:あっけなく扉が閉められる。
夜高ミツル:真城が帰ると、途端に部屋の中が静かに感じる。
夜高ミツル:一人暮らしなら当たり前の、いつも通りの静けさ。
GM:少し乱された本棚と、座っていた座布団と、食べ終わった食器と。
GM:あとは過剰に持ち込まれた食材。その程度だ。残されたものは。
夜高ミツル:……それが、今はいつもより寂しく感じる。
夜高ミツル:というよりも、常に感じていた寂しさに気づいてしまった、というのが正解なのかもしれない。
夜高ミツル:家族を喪い、世話をしてくれた親戚の家を出て。高校には通っているものの、友人もロクにいない。
夜高ミツル:数少ない友人といえば真城くらいのものだが、あいつは学校をサボりがちと来ている。
夜高ミツル:自分の部屋で、友達と何気ない会話をして過ごすのなんて、いつ以来のことだったろう。
夜高ミツル:……また来るとは言ったものの、あの気まぐれだ。次はいつになることやら。
夜高ミツル:結局あいつは何も手伝わなかったけど。まあ、楽しかったことには変わりないので。
夜高ミツル:……なんだかんだ、次を楽しみに思う自分がいることに気づいていた。