? 1.5話

1.5話

幕間1

真城朔:近場の公園でいいかな。
夜高ミツル:そうしよっか
真城朔:人がいないか一応確認して。
真城朔:では公園で。
夜高ミツル:夜?
真城朔:夜。
夜高ミツル:だよね オッケー
真城朔:あれから一日後でいい?
夜高ミツル:はい!
真城朔:一日後だとミツルくんバイト行った帰りですね。
真城朔:まだバイトやめてないもんな。
夜高ミツル:まだね
真城朔:OK じゃあ11時過ぎの公園。
真城朔:欠け始めた月の見守る下で、
真城朔:真城は木刀をミツルに投げ渡す。
夜高ミツル:受け取って、軽く振ってみる。
夜高ミツル:「結構重いんだな」
真城朔:「えっ」
真城朔:マジ? みたいな顔しよる。
真城朔:真城は武装すらしてませんね。例の革手袋はつけてますが。
夜高ミツル:「……まあお前はそうか」
夜高ミツル:「真城は何も使わないのか?」
真城朔:「必要ないだろ」
真城朔:「お前もまあ、別に木刀じゃなくてもいいんだけど」
真城朔:「リーチ俺と同じじゃ話になんねえだろうし」
真城朔:ぐっぐっ、と軽く屈伸しつつ。
夜高ミツル:「……まぁ、そう、だな」
夜高ミツル:実力差は明らかなんだけど、あからさまにナメられるのはそれはそれで結構悔しい。
真城朔:「俺は教えるのとか分かんねえし、お前はまず言って聞かされる段階にないから」
真城朔:「とりあえず、殴ります」宣言。
夜高ミツル:「お、おう……」
真城朔:「一応それ真剣のつもりで避けてやるよ」木刀を指差して。
真城朔:「あ、あと」
真城朔:「死なせないようには手加減すっけど」
真城朔:「それ以上は保証しねーから」
夜高ミツル:「……それ以上って……いや、そうだな。それでいい」
夜高ミツル:「敵は加減とかしてくれねーもんな。うん」
真城朔:「あー」
真城朔:「後遺症はまあ」
真城朔:「でもなー」
真城朔:「まあ嫌だったら本気で避けろ」
真城朔:軽く言って、半身になります。
真城朔:左の手刀を前に出して。
夜高ミツル:「……こ、来い!」
夜高ミツル:木刀をぐっと握り。
真城朔:ふ、と前に出した手刀が振られて、
真城朔:次の瞬間、振り上げられた右足がミツルの首へとねじ込まれる。
真城朔:革靴の先端が空を切る音。
夜高ミツル:「!?」完全に手刀に気を取られていた所への鋭い蹴り。
夜高ミツル:対応しようと思っても、身体がついていかない。もろに受けてしまう。
夜高ミツル:「ぐ……ぅ」
真城朔:首を狩った爪先を勢いのまま、
真城朔:踏み締めるように地へと落とす。
真城朔:首をへし折る直前で、力を緩める。
夜高ミツル:「……っ!!」
真城朔:足をどける。膝を折って、覗き込み。
真城朔:「……起きてっかー」
夜高ミツル:ゲホゲホと勢いよく咳き込む。
真城朔:淡々とした声。
夜高ミツル:「……な、んとか」
真城朔:「はいはい、じゃあ立って」
真城朔:すっと膝を上げ、指でいざなう。
真城朔:「敵なら追撃来てっからな、これ」
夜高ミツル:「う……だよな……」
夜高ミツル:蹴られた喉は当然今も痛みを発しているが。
夜高ミツル:気合を入れて、なんとか立ち上がる。
真城朔:「実際さあ」
夜高ミツル:「ん?」
真城朔:世間話のように切り出しながら、
真城朔:右の掌底を、ミツルの顎に向けて突き出す。
真城朔:「攻め方とか、戦い方とかは、正直二の次なんだわ」
夜高ミツル:「……っ!?」
夜高ミツル:またも、避けられない。ていうかそれは反則だろ!
真城朔:鈍い音を立てて、ミツルの顎が打ち上がる。
夜高ミツル:顎から脳を揺らすような衝撃。
真城朔:そのまま距離を詰めて、足を払う。
夜高ミツル:足を刈られてそのまま後ろに倒れ込む。
真城朔:「でも、あったろ?」
真城朔:見下ろしながら、
真城朔:その内心を、見透かしたように。
真城朔:「喋ってる途中に急に来るとかさ、……え、なかった?」
真城朔:首を傾げた。
夜高ミツル:「……いや、喋ってる相手から、いきなり襲いかかられたことは、ねえよ……」
真城朔:「まああいつヘンに真面目だったからな……」
夜高ミツル:追撃が来ないのは立てということなのだろう。フラつきながらも再度立ち上がる。
真城朔:あるんだけどなー、けっこうなー、みたいな顔。
真城朔:その途中で下から腹に蹴りを入れる。
夜高ミツル:「う……っ!」
夜高ミツル:蹴りを入れられて、また倒れ込む。
真城朔:「…………」
夜高ミツル:反射的に腹部を抑え、うずくまる。
真城朔:頭を掻いている。
真城朔:何がしか言いたげに唇を開くが、
真城朔:結局、諦めて口を閉じる。
真城朔:ミツルを見ている。
夜高ミツル:込み上げる嘔吐感をなんとか抑える。
夜高ミツル:激しく咳き込みながら、木刀を杖代わりにして脚に力を入れる。
真城朔:「えらいえらい」
真城朔:言いながら、その木刀を足で払った。
夜高ミツル:支えを失い、今度は前のめりに倒れ込む。
真城朔:「別に痛くすんのが好きなわけじゃねえけどよ」
真城朔:「結局一番覚えるのって痛みなんだよな」
真城朔:腕を組んでミツルを見下ろしながら。
真城朔:「ヤだろ? 痛いの」
夜高ミツル:「……当たり前だろ」
夜高ミツル:地面から真城を見上げる。
真城朔:「じゃ、痛くないようにがんばれ」
真城朔:顔に向けて足を振るが、
真城朔:それは顔面ではなくそのすぐ横を通り抜けた。
真城朔:ミツルの耳を掠める。
夜高ミツル:「……っ!!」
真城朔:「流石に顔はな」
真城朔:「学校でも困るだろうし」
真城朔:顎セーフらしい。
夜高ミツル:「……気遣ってもらえて嬉しいよ」
真城朔:「優しいだろ?」
夜高ミツル:実際困るから助かるけど。
真城朔:足を下ろして、立ち上がるのを待っている。
夜高ミツル:木刀を握り直して、立ち上がる。
夜高ミツル:「あーあ、優しい優しい」
真城朔:「ははは」
真城朔:軽く笑って、また指で誘う。
真城朔:打ち込んでみろということらしい。
夜高ミツル:木刀を正面に構える。
真城朔:合わせて半身になる。
夜高ミツル:両手に握った木刀を振りかぶり、地面を蹴る。
夜高ミツル:肩の辺りを狙って、木刀を振り下ろす。
真城朔:太刀筋を見切って、ぎりぎりで身を反らす。
真城朔:反撃には転じず、次を誘う。
夜高ミツル:木刀の軌道を変化させる……ような器用な真似はできない。
夜高ミツル:力の行き先を失って、たたらを踏み。
夜高ミツル:姿勢を立て直して、再度木刀を構える。次は横から、胴を狙って。
真城朔:跳躍。
真城朔:胴薙ぎの一撃を前に飛び越えて、ミツルの肩に手をつく。
夜高ミツル:「な……っ!」
真城朔:掴んだ肩を支点に倒立、跳び越えて、
真城朔:そのままミツルの背後に着地すると。
夜高ミツル:慌てて振り返る。
真城朔:合わせて振り返り、その鳩尾に肘を入れた。
夜高ミツル:振り向きざまの一撃を、またもまともに受けてしまう。
夜高ミツル:倒れこそしなかったものの、鳩尾を押さえて身体を折る。
夜高ミツル:痛みに一々反応している場合ではないのに。そうは思っても身体はなかなか言うことを聞かない。
真城朔:足を振り上げて追撃を入れる、寸前でぴたりと止めた。
真城朔:「飽きてきたから訊くけど」
真城朔:「なんか質問とかある?」
夜高ミツル:「……あ? 質問?」
夜高ミツル:痛みにやや青ざめた表情で、真城を見上げる。
真城朔:「質問」
真城朔:止めた脚を軽く引くと、改めてミツルが腹を抱えた上から蹴りを入れて。
夜高ミツル:「ぐ……っ!!」
夜高ミツル:尻もちをつくように、今度こそ倒れ込む。痛みと吐き気で目眩がする。
夜高ミツル:「……質問、とか……」
夜高ミツル:「色々あった気はするけど……」
真城朔:「ハンターのどうこうとか、こうして殴られてて気になることとか」
真城朔:「なんでもいいけどよ」
夜高ミツル:「考える余裕、ねえよ……」
真城朔:「考えろよー」
真城朔:無聊を慰めるように振り上げた爪先を揺らしている。
夜高ミツル:時間をかけて、なんとか立ち上がりながら。
夜高ミツル:「あー……他の人ってどうしてんだ? 皆最初から戦えるってわけじゃないだろ」
真城朔:「えーと、半分初戦で死ぬ」
夜高ミツル:「半……」
真城朔:あっさりと答えながら、爪先をそのままミツルの胸元へと振り上げる。
真城朔:今までよりは緩い一撃。
真城朔:「だからまあ、あれを生き残ったお前は一応」
真城朔:「……いや……」
真城朔:実質生き残ってねえな、って途中で気付いた。
夜高ミツル:「……っ」咄嗟に、腕で胸元を庇う。
真城朔:抉るような一撃。
真城朔:今までと同じように軽く膝から下だけを引いて、同じ場所にもう一撃。
真城朔:「まあでも、運が悪けりゃ死ぬよ、誰でも」
夜高ミツル:腕を通して、殺しきれなかった衝撃が胸元へ届く。間に入った腕が酷く痛む。
夜高ミツル:木刀を握る手に力が入らず、それを取り落とす。
真城朔:足を下ろすと、その木刀を爪先で受け止めて。
真城朔:「狩人になるのに資格とか要らねえし、まあ普通にずぶの素人のまま狩りに出るやつが多い」
真城朔:「そんで、なんもわかんないまま死ぬやつと、運良く生き残るやつがいて」
真城朔:「俺としてはお前に前者になってほしくねえわけ」
真城朔:ほら、とうまくバランスを取りながら、足に載せた木刀をミツルの手元に。
夜高ミツル:「……」力の入らない腕で、なんとか木刀を受け取る。
真城朔:「だからまあ、答えとしては、他の狩人はこういうコトあんましない」
夜高ミツル:「……じゃあ、こうやって真城にご指導いただけてる俺は、運がいい方、か……」
真城朔:「感謝しろよなー」
真城朔:笑って、
真城朔:木刀を載せていた方の足でそのまま、もう一度ミツルの胸元へと蹴りを放つ。
夜高ミツル:こうして喋っている間にも何をしてくるか分からない。のは分かるのだが。
真城朔:「つっても俺も教えんのよく分かんねえし」
夜高ミツル:警戒していることと、それに対応できるかどうかは全く別の問題で。
真城朔:「今度……あれだな。D7かな。あそこ連れてくわ、お前んこと」
夜高ミツル:胸元へ放たれた蹴りを、今度はまともに食らってしまう。骨の軋む音。
真城朔:踵まで入れて、突き放す。
夜高ミツル:蹴り飛ばされ、後ろに倒れ込む。
真城朔:涼しい顔でそれを見ている。当たり前だが。
夜高ミツル:「……あ? D7?」
真城朔:「そういう組織。ヘンなとこだけどさ」
真城朔:「結構寄り合うからな。狩人って。この前の二人もどっか所属してるし」
夜高ミツル:そこかしこが痛む身体をなだめすかして、またなんとか立ち上がる。
真城朔:「フランのおっさんは美麗派だが……」あそこなんなんだ?
夜高ミツル:「あ? 美麗派?」
真城朔:「あそこなんかおかしいんだよな」
真城朔:首を捻ってる。
夜高ミツル:「……まぁ、乾咲さんも変わった人だったしな」
真城朔:「そういうヘンなのが集まってると思うと良い」
夜高ミツル:「…………乾咲さんみたいなのがいっぱい……」
夜高ミツル:想像力の限界を越えた。
夜高ミツル:「……お前は?」
真城朔:「俺は別にどこも入ってねえよ。ツテはあるけどよ」
真城朔:「実際無所属のやつも少なくねえよ」
真城朔:「結構なんつーか……勝手に狩りやってるやつら、ってだけだし。狩人って」
夜高ミツル:「なるほどなー……」
真城朔:「で、まあ」
真城朔:思い出したようにミツルの首を狙って回し蹴りを放ちながら。
真城朔:「D7ってのは結構、なんつーか……養成プログラム? みてえなの持ってて」
夜高ミツル:「……!!」油断していたつもりはないが、やはり咄嗟に避けるということはなかなかできない。
真城朔:「割と学生使うの好きな組織だから、お前んこともまあ連れて行きやすいかなって」
夜高ミツル:首への一撃。これが蹴りではなく刃物だったなら。
真城朔:さほど重い一撃ではないが、急所にはよく響く。
真城朔:「クラブもなー、悪くないんだけどカタいからなーあそこ」
真城朔:蹴りを放った張本人は何事もなく話し続けている。
真城朔:「D7の方がプログラムだけ受けてサヨナラしやすい」
夜高ミツル:首を押さえて、蹲る。
真城朔:「別にお前がそうしたいんならそのまま入ってもいいけど」
真城朔:「なんだっけ……エージェント? とか、結構人手欲しがってんだよな、あそこ」
真城朔:蹲ったミツルの肩を靴でつついて促す。
夜高ミツル:冷や汗を浮かべながら、またなんとか立ち上がる。
夜高ミツル:首、腹、胸。真城の攻撃は的確に急所を狙ってきている。痛む身体が、悲鳴を上げる。
真城朔:「基本的なことはそこでまあまあ教われるし、武器も色々試せると思うし」
真城朔:「あそこで武器貰うのはあんまり勧めねえが……」
真城朔:なんかヘンなんだよな、とか首を捻っている。
夜高ミツル:「……まぁ、その辺は後で考えるよ……」
夜高ミツル:フラフラと木刀を構えながら。
真城朔:「まあまずは攻めるより生き残る方だよな」
夜高ミツル:やられっぱなしはおもしろくない。なんとか一撃くらいは、とは思うものの。
真城朔:「それ最初に言おうとして忘れたんだよな」
真城朔:うっかりしたー、
真城朔:とかこぼしながら、すっと身を低くして。
真城朔:「まあでも、攻撃する時って隙できるから」
真城朔:「そういう意味でも今攻めるのも無駄じゃねえよ」
真城朔:「俺が殴れる」
夜高ミツル:「……」
真城朔:来ないのか? って瞳で問う。
夜高ミツル:木刀を握り直し、痛みに霞む視界で真城を捉える。
真城朔:身を低く構えたまま、ミツルを待っている。
夜高ミツル:地面を蹴り、腹を狙って木刀を前に突き出す。
真城朔:突き出された木刀の背を掴み、軌道を逸らす。
夜高ミツル:単純な攻撃。痛みで動きも鈍っている。
夜高ミツル:真城の手を振り払おうと、木刀を引く。
真城朔:存外あっさりと手を離す。
夜高ミツル:「な……っ」
夜高ミツル:思いっきり引こうとした反動で、後ろにたたらを踏む。
真城朔:たたらを踏む間に距離を詰めると、
真城朔:大内刈りに近い要領でミツルの体勢を崩す。
真城朔:背中から思い切り公園の地面に叩きつける。
夜高ミツル:「ぐ……っ!」
夜高ミツル:背中から叩きつけられ、息が詰まる。
真城朔:その胸ぐらを掴んで引き上げると、
真城朔:腕をとって軽々と背負い込み。
真城朔:「受け身くらいもなー」
真城朔:「覚えたほうがいいよな、絶対」
真城朔:だのなんだのと呟きながら、勢いよく背負い投げを決めた。
夜高ミツル:振りほどこうと暴れはするものの、真城に力で勝てるはずもなく。
夜高ミツル:そのまま思い切り地面に叩きつけられる。
真城朔:「俺どうやって覚えたっけな……」
真城朔:遠い目をしている。
夜高ミツル:蹴りとは違う、全身への痛み。地面とはこんなに硬いものなのかと、実感する。
夜高ミツル:もはや立ち上がる力もない。
夜高ミツル:それでも立たなければと、そう思っても。
夜高ミツル:全身の痛みから逃れるように、意識が遠のいていく。
夜高ミツル:為す術もなく、ミツルは意識を手放した。

真城朔:「……ツ」
真城朔:「……ミツ」
真城朔:「ミツ!」
夜高ミツル:「…………ん」
夜高ミツル:目が覚める。遅れて、全身を襲う激しい痛みに顔を歪め。
真城朔:それでも身体を受け止めるのは、地面とは違う柔らかさだ。
夜高ミツル:「……あ?」
夜高ミツル:やっと、ここが先程の公園ではないことに気がつく。
真城朔:見慣れた自室。
真城朔:身体の至るところに処置がされている。打ち身に湿布、擦り傷に絆創膏。
真城朔:救急箱が布団の傍らに置かれて、
真城朔:その救急箱を探したのだろう。押し入れが開かれていた。
真城朔:「いやービビった。死んだかと思った」
真城朔:「人間ってこんなあっさり死ぬっけ? って」
夜高ミツル:あちこちに施された処置を見て、息をつく。
真城朔:「いや死ぬけど……」
真城朔:真城はミツルの布団の隣で胡座をかいて座り込んでいる。
夜高ミツル:「……そうだな……」
夜高ミツル:それから救急箱と、開かれたままの押し入れに気がついて。
夜高ミツル:「……お、お前! 押入れ開けたのか!」
真城朔:「え?」
真城朔:目を瞬く。
真城朔:なんか悪いのか、って顔。
夜高ミツル:起き上がろうとして、痛みに邪魔をされ。それでもなんとか身体を起こし。
夜高ミツル:「あ……」
真城朔:「???」
真城朔:ミツルを見ている。
夜高ミツル:「いや、大丈夫だ。何でもない。あー……悪い」
真城朔:「……なんか悪かったのか?」
真城朔:押し入れを振り返る。
夜高ミツル:まるで、押入れに見られたら都合の悪いものでもあるかのような。
夜高ミツル:「いや、ねえよ! なんもねえから気にすんな!」
夜高ミツル:押し入れにあるのは、冬物の布団であるとか、掃除機だとか。
夜高ミツル:それらの片隅に、未開封のダンボール。
真城朔:「……ミツさ」
夜高ミツル:「……な、なんだよ」
真城朔:「マジで嘘、クッソ下手だよな……」
夜高ミツル:「……べっつに、嘘なんか……」
夜高ミツル:目を逸しながら。
真城朔:「そのいかにも不都合ありますーって態度でなんもねえは無理あるだろ」
夜高ミツル:「……」
真城朔:「別にいいけど、もうちょっとうまくやったほうがいいぜ」
真城朔:「それもよ」
夜高ミツル:「……うまく、なぁ……」
夜高ミツル:ため息をつく。
真城朔:「ハッタリかますのとかさ、大事だろ」
真城朔:「ただでさえ弱いんだから」
真城朔:余計なことを言う。
夜高ミツル:「……分かってるから、あんまり弱い弱い言うなよ……」
夜高ミツル:ただでさえ、全身の痛みが自分を責め立ててきているというのに。
真城朔:「言われたくなかったら強くなれよ」
真城朔:「死にたくねえだろ」
夜高ミツル:「……おう」
真城朔:はー、と息を吐きながら背を伸ばして。
真城朔:「風呂入ってくる」
真城朔:「明日起きれるか微妙だろ、それだと」
真城朔:泊まっていくらしい。
夜高ミツル:「ん? ああ、タオルその辺にあるから」
夜高ミツル:「……そうだな。つか学校行けんのかな……」
真城朔:「てきとーにつかうー」
真城朔:宣言通り適当に取っていった。
真城朔:「一日ぐらい休んでもいいと思うけどな」
真城朔:「そうなったら俺もお前鍛えられっし」
夜高ミツル:布団に倒れ込む。
夜高ミツル:「……それじゃあ一日で済まないだろ」
真城朔:「済むようになれよな、早く」
真城朔:「……じゃないと困るだろ」
真城朔:言い残して、風呂場へと消える。
夜高ミツル:「そうだな……」
夜高ミツル:目を閉じる。
夜高ミツル:あれだけの攻撃を受けて自分が今生きているのは、あれが真城との特訓だったからだ。
夜高ミツル:対峙していたのが真城ではなくグラジオラスのような吸血鬼だったなら、間違いなく死んでいた。
夜高ミツル:強大な力を前にした時、人間の命はあまりにもあっさりと失われる。
夜高ミツル:……自分の家族のように。
夜高ミツル:目を開き、開けっ放しの押入れを見遣る。未開封のダンボールに入っている家族の遺品を思う。
夜高ミツル:……今もまだ、箱の中身とは向き合えずにいる。
夜高ミツル:どの面を下げて家族の遺品と対面すればいいのか。その一因を作ったという真城と過ごしながら。
夜高ミツル:それでも……それでも、もう身近な誰かが自分から離れていくのは嫌だったんだ。
夜高ミツル:罪悪感から逃れるように、目を閉じる。
夜高ミツル:処置を受けたからといって、全身を襲う痛みがなくなったわけではない。
夜高ミツル:もう休みたいと悲鳴を上げる身体に逆らわず、意識を手放した。