エピローグ

GM
反対側の王子の影は祝福を受けた剣に打ち砕かれて。
GM
そのまま、亡者は貫かれる。
リュール
確かな手応え。
GM
舞っていた青き蝶たちも、形を失い、光の粒となって。
GM
空へと昇っていく。
リュール
頬を撫ぜる光の粒が網膜に焼き付く。
リュール
愛するあなたと、よく似た光。
GM
亡者のもたらす力の残影は、ひとつひとつ、世界の裏側へと溶けていく。
GM
すべてが夢だったかのように。
ヲトメ
その光の粒を指先で追いかけて。
ヲトメ
「きれいね」
リュール
「……ああ」
リュール
見上げる。
クロノス
「……そうだな」
リュール
「こんなにも、うつくしいものが」
リュール
「この世界にも」
GM
死/真実の山を覆っていた青い胞子と茸も、薄れ消えていく。
リュール
「存在している」
ヲトメ
素直な気持ちを口にする。
これがどんなにものかなしく、むなしい光景であっても。
ヲトメ
どうしようもなくうつくしい。
リュール
どうしようもなくいとおしい。
GM
枯れた大樹のふもとに。
アンブローズ
崩れ落ちたアンブローズがうずくまっている。
クロノス
一歩一歩、地面を踏みしめて、
クロノス
そうしてアンブローズの前までやってくる。
アンブローズ
「………………」
アンブローズ
まだ息をしている。
クロノス
手を伸ばして。
クロノス
顔を上げさせる。
アンブローズ
「………………」
クロノス
「見な」
クロノス
「ちゃんと、見届けな」
アンブローズ
「…………何を?」
クロノス
「アントワーヌを」
アンブローズ
「………………」
クロノス
それが光の粒になり、消えゆくさまを。
アンブローズ
「死に体の末裔風情に、酷な要求をなさる…………」
アンブローズ
枯れた大樹を見上げる。
アンブローズ
昇っていく光たちを。
クロノス
ともに見上げる。
リュール
空を望んでいた男のなれのはて。
ヲトメ
時折その光に遊びながら舞う。
リュール
反対側のあなた。
ヲトメ
「ふふ、星のよう」
アンブローズ
「もうどこにもいませんよ」
アンブローズ
「亡者とは、そういうものです」
ヲトメ
「あら、そうなの?」
ヲトメ
「じゃあ、どこにでもいるってのとかわんないわね」
ヲトメ
反対側ってそういうことでしょ?
アンブローズ
「かないませんね」
ヲトメ
光をすくっては、空にとかす。
クロノス
それを見ている。
リュール
彼女のとまり樹になりうる位置で、見上げている。
ヲトメ
「アンブローズ、これが星よ」
ヲトメ
「見れてよかったわね」
ヲトメ
光の粒をはじいた。
ヲトメ
堕落の国ではけしてみれないもの。
リュール
そして、何よりもきみにふさわしいもの。
リュール
「晴れた夜空に輝いて」
リュール
「それは、それはうつくしいんだ」
リュール
「うん」
リュール
「よく似ている」
リュール
「……同じだな」
リュール
この世界には、どこにもなくて。
リュール
だから、どこにでもある。
リュール
だから、俺たちはこうして巡り会えた。
クロノス
「同じだなあ」
クロノス
それを指でなぞって、掴んでは、手放す。
アンブローズ
ぼんやりとした眼差しで、それらを眺めている。
ヲトメ
ひこうきのりが、ひとりきりの夜空でめざした光。
ヲトメ
ぽつりぽつりと光っているあのともしび。
クロノス
亡者は救世主の疵のなごり。
クロノス
ほんの少しだけ描き足されたつづき。
アンブローズ
「やれやれ……」
アンブローズ
「結局最後まで」
アンブローズ
「僕はあなたたちの敵にすら、なれなかったらしい」
リュール
「いいや」
リュール
「強大な敵であったさ」
リュール
「それでも変わらず、愛しているというだけ」
リュール
そう。
リュール
愛していたんだ。
リュール
愛しているよ。
クロノス
「そうだね」
クロノス
「愛してるよ」
クロノス
「さっきも、今も、変わらず」
ヲトメ
「ええ」
ヲトメ
「だいすきよ」
アンブローズ
「ははは」
アンブローズ
「救世主ってのは、どいつもこいつも勝手にすぎる」
アンブローズ
「だが……」
アンブローズ
「それが、実によろしい」
アンブローズ
「それでいいんだ」
アンブローズ
「あなたたちは……」
GM
どこか力なくそう言った、一瞬の後。
GM
ゴゴゴゴゴゴ……(地鳴り)
GM
大地が……急に揺れ始める!!!!!!!!!!!
リュール
「おっと」
クロノス
「うわ」
リュール
クロノスの手を取り、ヲトメへと腕をのべる。
ヲトメ
「なによ」
アンブローズ
「あっ」
ヲトメ
リュールの腕につかまる。
アンブローズ
説明しましょう。
クロノス
「あ?」
アンブローズ
「この山はですねえ」
アンブローズ
「例の青い茸がいたるところに食い込んでいたわけですが」
リュール
「ふむ」
クロノス
「あっ」
アンブローズ
「それがさっき全部消えたので」
クロノス
「ああ~」
リュール
「ああ……」
ヲトメ
「?」
リュール
「なるほど」
アンブローズ
「多分地盤が大変なことになっています」
リュール
「摂理だな」
ヲトメ
「?」
クロノス
「そりゃそうもなろうな」
ヲトメ
そういうことはわからないのでどういうこと?になっています。
GM
(ものすごい勢いで画面が縦や横に揺れている)
リュール
「レディ」
ヲトメをふところに導きます。
ヲトメ
すぽ。ふところにおさまる。
アンブローズ
「まあ……」
アンブローズ
「救世主の皆様ならこれぐらいはなんとかしてくださいますよね?」
リュール
「はは」
GM
今すぐ逃げたほうがよさそうなムードがすごいです。
クロノス
「まぁ……」
クロノス
「リュールがいりゃあな」
リュール
「これくらいはな!」
ヲトメ
「がんばりなさい」
リュール
「ええ、ええ」
リュール
「誠心誠意、努めさせていただきましょう」
アンブローズ
救世主たちとは反対側、大樹のほうに向けて歩く。
アンブローズ
転ぶ。
アンブローズ
「いや揺れすぎ」
リュール
「はは」
リュール
「決まらないな、アンブローズ」
アンブローズ
もういいや……ここに座っちゃお。
アンブローズ
ペタン!
アンブローズ
「それじゃみなさん、お達者で……」
アンブローズ
軽く手を振っている。
リュール
「……ああ」
リュール
「きみにも」
リュール
「さいわいのあらんことを」
ヲトメ
「また会いましょう」
ヲトメ
手を振る。
アンブローズ
次はいつ会えることやら。
クロノス
「ああ」
クロノス
「またな」
クロノス
「愛してるよ」
アンブローズ
「はい、はい」
アンブローズ
「愛してますよ~」
リュール
愛の交錯を見届け、
リュール
マントを翻す。
アンブローズ
「…………」
アンブローズ
あなたたちの背に向けて。
アンブローズ
「世界を救え!」
アンブローズ
叫ぶ。
リュール
「応ともさ!」
クロノス
手を振る。
ヲトメ
ばらの香りでかえす。
リュール
救世主としての権能。
愛する女を討った心の疵でもって、
リュール
今ここに愛を遂げる。
リュール
二人を護りながら、
リュール
星舞う山の天辺から、飛び降りた。
GM
駆け出せば、あなたたちはアンブローズの視界からすぐに見えなくなる距離へ。
GM
崩落する建物。
GM
降り注ぐ瓦礫。
GM
ひび割れる大地。
GM
裁判で疲弊したあなた達の動きを、障害物が阻む。
GM
(特定ポイントを通り過ぎるとさっきまでいた場所が地割れに飲み込まれる演出)
リュール
地割りを蹴って、前へ、前へ。
リュール
崩れ落ちる瓦礫を切り払い。
リュール
それでも間に合わぬぶんは、
クロノス
進む先を照らす。
リュール
光の導きに沿って切り抜ける。
GM
ズドゴゴゴゴゴゴゴ(SE)
GM
しかしそれにも限界が訪れたか、
GM
崩落する足場に巻き込まれ、地下へと落ちてしまう。
リュール
「おっと――」
クロノス
「わ~」
リュール
これはたまらぬとマントを翻し、クロノスと懐のヲトメを庇い。
GM
それ自体は、大した怪我にはならなくとも、早く地上に戻ったほうがいい……
GM
が。
GM
少し気がかりなものを見つける。
GM
ここは、あなたたちが一度通り過ぎた場所。
GM
工場に併設された格納庫だ。
GM
そして……
リュール
振り仰ぐ。
GM
そこには、
GM
先程までは茸や胞子に覆い尽くされていたはずの……
GM
飛行機が姿を現している。
リュール
それを知らない。
けれど、理解できる。
GM
救世主アントワーヌが、この堕落の国を訪れたときに乗っていたもの。
GM
もう一度飛ぶことは叶わなかったそれ。
ヲトメ
リュールの胸をたたく。
GM
今だって飛ぶ力はないはずのそれは……
GM
妙に堂々とした佇まいでいる。
ヲトメ
「あの子」
ヲトメ
「やる気よ」
クロノス
「え?」
リュール
「はは」
リュール
「ならば、応えるしかないな!」
リュール
落ち行く瓦礫を蹴り、
クロノス
「なるほどね」
リュール
高く跳ぶ。
リュール
なあに。見慣れぬからくりだけれども。
GM
よくわかんない計器とかレバーが並んでます。
リュール
ようは空を駆る馬であろう?
リュール
であれば、この王子にお任せさ!
クロノス
「エンジンこれじゃね?」
リュール
飛行機の隣に着地し、乗り込む。
リュール
何より、一人じゃない。
ヲトメ
計器の上に降り立つ。
クロノス
レバーを指差す。
リュール
「これを引けばいいんだな?」
クロノス
「多分な!」
ヲトメ
「きっと、飛び方はこの子自身が知ってるわ」
ヲトメ
「やっちゃいなさい、リュール!」
リュール
乙女の声が俺にささやき、光の粒が俺をいざなう。
リュール
だから、
リュール
だから、応えよう。
リュール
俺はリュール。
皆に望まれた王子のリュール。
リュール
きみの望みにも、応えてみせる!
リュール
レバーを引く。力を込めて。
リュール
心の疵に、さいわいへのいのりを乗せて。
GM
F-5A。
GM
ロッキード社開発の偵察飛行機。
GM
アントワーヌの半身。
GM
アントワーヌの夢。
GM
そのアフターバーナーが火を吹いた。
リュール
空へ。
GM
F-5Aは、ゆっくりと速度を上げる。
GM
燃料さえ積まれていなかったはずの飛行機が、ぐんぐんと速度を増して、疾走する。
GM
それがこの物語の最後の嘘。
GM
失われゆく人々の最後の願い。
GM
やがてゆっくりと浮かび上がり──
GM
それは飛び立った。
GM
崩れ行くリヨンの街が、眼下にどんどん小さくなっていく。
GM
飛行機は堕落の国の夜空に舞い上がり。
GM
山が。工場が。街並みが。木々が。
リュール
「――はは」
リュール
「ははははは!」
GM
すべてが消えていく。
ヲトメ
「これが、空を飛ぶってことよ!」
GM
悪い人も、優しい人も。
リュール
「なんだ」
リュール
「いい子じゃあないか!」
GM
すべてが幻のように。
クロノス
「うわ~ すっげ~!」
ヲトメ
「はじめて飛んだにしては上出来よ、いい子ね」
リュール
「光栄の限りだね」
アンブローズ
その有様を、大樹のふもとであのイモムシの末裔も見上げていた。
リュール
「こんなに素晴らしい馬の、初めてを乗られるだなんて!」
アンブローズ
あなたも行きなさい。
アンブローズ
手の甲に乗せていたままの鳥を、空へと放った。
GM
救世主は飛ばなければいけないのだから。
ヲトメ
鳥は、小さく鳴いて。
羽ばたいた。
GM
もはや崩落に巻き込まれる危険のない高度になっても、
ヲトメ
「空がこんなに近い」
GM
F-5Aは上昇を止めない。
リュール
「いいものだな」
リュール
「ああ、素晴らしい」
GM
それどころか。
GM
天井のように堕落の国の夜空を覆う雲が、どんどん近づいてくる。
クロノス
「おお~」
ヲトメ
この上へ?
GM
そう。
リュール
もちろん、そうだろう!
GM
衝撃とともに、F-5Aは雲に突入する。
GM
何も見えない時間が、数十秒続いて。
GM
再び、視界が開ける。
GM
“きらきら、コウモリ!”
GM
雲の彼方には。
GM
満点の星が輝いている。
ヲトメ
「よかったわね、アントワーヌ」
ヲトメ
計器をなでてやる。
GM
多くのものが命を落とし。
GM
多くのものが失われる。
GM
幻のように。
GM
それでも。
GM
残り続けるものはある。
リュール
無数のきらめきが瞳を刺す。
クロノス
空をなぞる。
リュール
こうして間近で見るそれは、
リュール
燃え尽きる命によく似ている。
クロノス
憧れたそれは手を伸ばしても遠く。
クロノス
でも、それでいい。
ヲトメ
こうして間近に本物を見ていても。
ヲトメ
あの大樹のふもとで見た、命の終わりのきらめきと同じだとおもう。
ヲトメ
「見えなくても、ちゃんとあるじゃないの」
リュール
「……ああ」
リュール
「ずっと、ここにあったんだな」
リュール
ずっと。
リュール
ここにいてくれたんだな。
クロノス
「うん」
クロノス
「雲の反対側に」
クロノス
「ちゃんとある」
リュール
触れてはならなかった星を想う。
リュール
求めてしまった愛を想う。
リュール
どこにもなくて、どこにでもあるそれらが。
リュール
今こうして、俺たちのまわりにまたたいている。
リュール
――アントワーヌ。
リュール
お前が望んだものは、ここにあるよ。
GM
──やがて。
GM
F-5Aは、ゆっくりと高度を落とす。
GM
再び、雲中へと潜り。
GM
ゆっくりと降下し──
GM
最終的に。
GM
堕落の国の大地に──
GM
堕落の国の砂漠に、落ちていく。
GM
衝撃とともに、F-5Aは不格好に着地した。
リュール
クロノスとヲトメをふところに、衝撃に耐える。
GM
機体は大きく破損する。
GM
救世主たちの疵の力を燃料に飛んでいた飛行機は、もう何をどう弄っても再び動くことはなくなった。
リュール
その馬の背から降り、振り仰ぐ。
GM
遥か遠くに、リヨンのあったあの山が見えるだろう。
ヲトメ
ふところから出でて、そのしかばねをなでてやる。
リュール
「すばらしい乗り心地だった」
クロノス
「随分遠いところまで来たな」
リュール
労るように馬に声をくれてから、クロノスの言葉にあの山を仰ぐ。
ヲトメ
山の方を見て、最後の光のたちのぼるを見る。
リュール
星の光を見上げている。
リュール
「うん」
ヲトメ
「あれがぜんぶ星になるのね」
リュール
「きれいだ」
クロノス
光に手をかざす。
リュール
砂漠の風にマントを靡かせながら、つぶやく。
リュール
「星の子どもたち」
リュール
「彼らにもまた、さいわいのあらんことを」
ヲトメ
祈りをひとふり。
願いをひとしずく。
ヲトメ
この世界がそれでもうつくしいのは。
ヲトメ
愛があるからね。
GM
──こうして。
GM
死の粉の山での冒険は、幕を閉じる。
GM
GM
「まあ、あなたはそういうふうには感じてらっしゃらないかもしれないけれど、でもいずれサナギになって――だっていつかなるんですからね――それからチョウチョになったら、たぶんきみょうな気分になると思うんですけど。思いません?」
GM
──アリス
GM
「ちっとも」 ──イモムシ
GM
Dead or AliCe
GM
『死の粉の山』
GM
おわり